238話 ハンゾウ
「村の人たちの避難準備は出来た?」
家に帰り、アランに状況を尋ねる。
「あぁ。なんとか言いくるめて全員いつでも避難できる状態だ。」
「ありがとう。それじゃあ、明日の朝に全員この家の前に集まるよう言ってもらってもいい?そうしてくれれば全員一気に転移させれるから。あと、避難先はここと全く同じ地形、同じ建物の配置の村を準備してるから終わるまでそこで暮らしてて。物資で必要なものがあれば常駐してる私の配下に言ってもらえればすぐに準備するから。」
「分かった。それじゃあ、俺はみんなに声をかけてくるよ。」
そう言ってアランはリリスを連れて家から出ていった。一人取り残されていても特にすることがないのでまだまだすることが山積みの魔王城に転移した。
戻ってすぐに一人の蜥蜴人を呼びつけた。リーン達が目覚めた時に部屋の入り口を守らせていたあの蜥蜴人だ。
「魔王様、わたくしに何か御用でしょうか?」
「少しね。あなたの分身の一体を狩りたいんだけど大丈夫かしら?」
「もちろんでございます。分身に何をさせればよろしいのですか?」
「今から私と一緒にとあるところに行ってもらって、しばらくそこで、そこに住む人たちの要望を私に伝えてほしいの。情報を渡してもらえればそれでいいから。」
「例の魔法通話でお伝えすればよろしいのですね。かしこまりました。それではこいつを連れて行ってください。」
そう言いながら分身のスキルを発動させた。そういえばこいつは何て名前なんだろう聞いてなかったし、聞いてみようか。
「そう言えばあなたの名前は?」
「私の名はハンゾウと申します。」
忍者みたいだとは思っていたけれど、名前まで忍者っぽいとは。
「それじゃあ、ハンゾウ、直ぐに戻るからここで少し待って居てちょうだい。」
「承知いたしました。」
ハンゾウのその返事を聞き、私は{集団転移}を使用し、ハンゾウの分身体を連れて転移した。
【リアの世界】に創り出したニケ村。この村の名前はもちろんニケ村だ。ここはあくまでも私の故郷を再現しただけの村。それでも、私にとって大切な場所になるのは間違いない。
「それじゃあ、この村にしばらく住んで明日転移してくる住人達の護衛と、可能な限りの要望をかなえてあげてちょうだい。」
ハンゾウの分身は頷く。そしてもう一つしなければならないことがある。この世界は【基軸世界】とは時の流れが違う。そのため、この村の中のみ、【基軸世界】と時の流れを同じにする。スキル{豊穣の貢ぎ}でこの村にのみ特殊な結界を発生させ、この結界内では時の流れが【基軸世界】と同じになるように設定する。こういう時に自分で作り出した世界というのは勝手がいいのでとても便利だ。
「私は戻るわね。後のことはお願い。」
分身にそう言い残すと私は再び転移し、魔王城へと戻った。
「おかえりなさいませ。」
ハンゾウの本体が出迎えてくれる。
「ただいま。それじゃあ、もう一つのあなたへの用事に入るわね。まず聞きたいのだけれど、あなたの今の所属部隊は誰の部隊になっているのかしら?」
配下の魔族たちは全員四天王の下に作られた部隊に組み込まれている。そのどこにいるのかを尋ねる。
「私は幻中将シャナ様の直属部隊幻部隊の直轄部隊である諜報部隊に属しています。私は分身による諜報活動が得意なのでそこに割り当てられています。」
「なるほど。少し待ってちょうだいね。」
私はすぐさま魔法通話でシャナに声をかける。
(シャナ、今少しいいかしら?)
(リア様!?いかがなさいましたか?)
(あなたのところの諜報部隊にいるハンゾウって子を私の直属にしたいのだけれどいいかしら?)
(ハンゾウをですか?それでしたら問題ございません。しかし、本当に彼でよろしいのですか?ほかにも優秀な人材はたくさんおりますが・・・)
(ハンゾウがいいんです。それじゃあ、今この時からハンゾウは諜報部隊ではなく、私の直属の配下です。そちらでも伝達をお願いね。)
(かしこまりました。)
通話を終え、改めてハンゾウに向き直ると、ハンゾウもさらに姿勢を正す。
「ハンゾウ、あなたは今この時より諜報部隊の一員ではなくなり、私直属の配下となります。」




