235話 考えの浅い領主
「私はすべてにおいて高いステータスを所持しています。防御ももちろん高いのであなたの攻撃は効きませんが、効いたとしても私のHPは無限にあるので尽きることがありません。さて、私の勝利条件はあなたを戦闘不能にすることです。このままあなたが攻撃を続けてくれればあなたはスタミナ切れで戦闘不能になりますよね?さぁ、どうぞ攻撃を続けてください!」
私がそう言ったのに対し、領主は笑みを浮かべ、
「その程度で勝てると思っているのかね。貴様は、私を殺すことができない。しかし、私が攻撃をしなければ戦闘不能にすることもできないのだろう。それだけの力があればうっかり殺してしまうかもしれんからなぁ。私は魔法で水と出し、服に仕込んだ皮袋に仕込んだ食糧で数十日生きることは出来る。貴様は食料がないから餓死するだろう。私の勝ちだ。諦めて投降するがいい。」
なんとも的外れなことを言ってきた。まぁ、この後、絶望の顔を拝めるだろうし、それを楽しませてもらおう。
「私は食事も睡眠も不要です。それに対してあなたは睡眠が必要ですよね。仮に私が食事を用意できず餓死するにしても先にあなたが眠ってしまうだけですよね。眠ること自体が戦闘不能な状態なのでその時点で私の勝ちですよ。それに私は別に力の制御を誤って敵を殺すなんてことはしませんし。」
それを聞いた領主は睡眠を完全に忘れていたのか青ざめ、投降すると言い出した。けれど、それだとあまりにつまらないので少し脅すことにした。コツコツとわざとらしく足音を立てながら近づき、魔法を発動させる。それもあえて魔力を押し出して体外で魔法を完成させる。領主はそれなりに腕の立つ魔法使いなので魔法を発動させようといること自体には気が付いているだろう。ここでトラウマを植え付けてしまえばこの後の交渉がスムーズに進むだろう。
「【昏睡】」
私は魔法を発動させ領主を昏睡状態にした。この状態は術者が解除しない限り眠り続ける。解除するアイテムなどもあるので冒険者たちは常に持ち歩くのが常識だ。しかし、眠っているのだから本人では使用できない。なので領主は誰かに回復させてもらうか、私が魔法を解除しない限り目覚めない。
といっても、通常の魔法使いたちでは、1分持続させるだけでもきついだろう。この魔法は1秒ごとに規定量の魔力を消費するからだ。まぁ、私からすればそんなことは全く関係がないのだが。
領主も眠らせたのでモンスターに襲われないうちにギルドに戻ることにする。スキル{集団転移}なら他の人を連れていても正確に飛べるから本当に便利だ。
「スキル{集団転移}」
私は魔法を発動させ、リーンとルイが待つ、部屋の前まで転移した。そして事情を説明し、リーンに掛けた変装の魔法を解除すると、3人で部屋に入った。そして【昏睡】を解除する。
すこしして目覚めた領主と話を付けて、事前に用意していたリストの18人全員をその者が望めば魔王領へ引き渡すという条約を結ばせた。
領主の反応は意外にも淡白だったが、事件の真相が明るみに出るのは避けたいのだろう。それについてはかなり念押しされた。受付嬢もきちんと回復させて、仕事に戻らせた。彼女とはいつでも連絡がとれる状態にし、領主からのパワハラに対する対策も忘れない。
それから、ルイを魔王城へ送り届け、魔王領に連れていく18人の家を訪ねて回ることになった。2日かけてそれぞれの家族を連れていき、戻るということを繰り返した。幸い、全員が了承したので魔王上に住んでいた者たちには先に実際に住まう予定の地に行ってもらい、住居を決めてもらった。かなりの件数たってはいるが、実際に住み始めるのは彼らが初めてだ。
彼らの家族には1週間後に迎えに来るので荷物をまとめておくよう伝えた。中には2週間後を希望した人も居たのでその人たちは別で迎えに行かなければならない。
そんな風に保護していた20人のうち、19人についての事はようやく終わった。
それから3日後、配下たちについても少しずつこなせるようになったころ、私は、保護していたうちの最後の一人、リーンさんと玉座の間で話をしていた。




