232話 目覚める四天王と進化する獣人
魔王城に帰還した私たちはすぐにアレウ率いる獣人たちの部屋を用意し、進化のための魔力を流し込み、進化を促した。幹部たちより先に彼らが目覚めるだろう。彼らは進化すると、超越存在[獣人]となるだろう。超越存在[獣人]は身体能力が魔族の上位種に匹敵するほどで、もちろん寿命という概念はない。そしてどのような環境でも適応して生きていくためのスキルを全員が獲得するらしい。なんでも周囲の気温や湿度によって肉体の特性を獣に近いものにしたり、爬虫類に近いものにしたりできるらしい。
それから四天王が目覚めるまでの1週間はとても大変だった。配下たちの方で上がった問題や相談がすべて私のもとに集まり、そのすべての対応をしたり、獣人たちの進化が成功した後に、魔王の庇護下に入る条約を結ばせたりと大変だった。超越存在に進化させたものは皆私の目の届く範囲で管理しなければならない。それが、世界のパワーバランスを崩壊させることへのせめてもの償いだ。
進化した人たちと、保護していた人全員に何者かによってここにいる全員の訃報が流されていることを伝えた。それから全員に魔王領で暮らさないか提案した。現在魔王の領土は旧魔王領からだんだん拡大しており、滅んだ国の跡地などを領土として拡大している。その領土に住まわせるという提案だ。
「もちろん強制する気はないですが、キルスに戻ったら命を狙われる危険性があることだけは覚えておいてください。家族と一緒に暮らしたいというのであれば私が掛け合って連れてきます。噂ではキルスを収める領主様が冒険者ギルドのギルドマスターもされているそうなので直々に話に行ってきます。」
それから一人一人に聞いて回った。全員の答えは同じだった。妻子や夫がキルスにいるというものたちは家族と共に、そうでないものは単身で一部の者は友人と同じ町で暮らしたいとのことだった。魔王領に引き込まなければならないのはここにいる20人のうちの10人の人の家族合計18人だ。友人を連れてきたいといった人たちが上げた名前は有名な高ランク冒険者たちだったので引き抜きは無理だろうと却下した。
もっと連れてきたいという人も多かったが、あまり多くは連れてこれないと判断し、妻子、夫限定とした。こればっかりは仕方がない。
話がまとまり、領主兼ギルマスに話を付けに行かなければならないのだが、少し大変そうなので、幹部が目覚めるのを待ってから行くことにする。話を付けに行く際に連れて行くのは、私、変装させたリーンそして幹部の中から一人がちょうどいいだろう。見た目的にもつれていくとしたらハーフデーモンのルイだろうか。他の3人とは違って、一人だけ完全な人間の姿をしているし。
民の引き渡しに関することも準備を進め、アレウたちの進化も済ませ、ようやく四天王たちが眠りについて7日目の朝を迎えた。昼頃には目覚めるだろう。ステータスやスキルの確認は後回しにするとして、今の状況と、警備などの体制についてさっさと伝えて、話を付けに行くことにしよう。アポは取ってないけど、元Sランク冒険者兼元勇者兼魔王が来たとなればぞんざいな扱いは出来ないだろう。領主もかつてSランク冒険者で、今も鍛錬を積んでおり、その実力は衰えるどころか増していっていると噂されるほどである。
昼になり、四天王たちが皆目覚めた。それぞれ種族と危険なスキルがないかの確認だけしておいた。私に危険を及ぼすようなスキルはなかったので一安心だ。彼らに施したのは超越存在への進化だったのだが、少し異なる結果が出たものもいた。力中将オグレスはオーガから超越存在[鬼]へ。幻中将シャナは妖狐から超越存在[狐人]へ。技中将ルイはハーフデーモンから超越存在[混血魔族]へ。そして魔中将エレンは精霊から精神生命体[元素精霊]へと進化していた。エレン以外は超越存在へ進化し、エレンだけは精神生命体に進化したようだ。ルイも大幅に変わっているような気がするが、今はどうでもいいだろう。アンチデューンやカインが起きるまでにある程度の事は終わらせておきたい。リーンには事前に伝えていたので、出発する準備は整えてもらっていた。ルイは少し慌てながらも準備を済ませ、私の魔法で全員の姿を消し、キルスの町付近へ転移した。もちろんルイには鑑定阻害の魔法がかけられており、よほどの実力者じゃない限り魔族だとは気づけないだろう。私はもともと人間の姿かたちをしているので問題はない。リーンに関してはどれだけ隠してもバレる可能性があるので、認識を阻害する魔法を創り、それで他人には違う顔に見えるようにしておいた。ついでに声も変換される優れものだ。
冒険者ギルドについて顔を見合わせ、私が頷くと2人もそれに続いて頷きそのまま中に入った。今日は領主がここにいるらしいので確実に会えないことはないはずである。
まずはカウンターを見渡す。リーンに聞いていたから知ってはいたけれど、私の事を知っている受付嬢はおらず、冒険者もほとんど引退したか、死んだ、もしくはほかの町に行ってしまってほとんどの人が名前しか知らない。ギルド全体の事を取り扱うカウンターに行き、声をかける。
「すみません。元Sランク冒険者のものなのですが、少し用事がありまして。ギルドマスターに合わせていただけないでしょうか?」
「本日はそのようなご予定は入っておりませんが、一応確認させていただきます。お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「諸事情によりギルドマスターにしか名乗ることができません。かつてのSランク冒険者が来たとだけ伝えてどうするか聞いてきていただいてもいいですか?」
「かしこまりました。それでは少々お待ちください。」
受付嬢はそう言い残すと裏へと入っていった。
数分して戻ってきた受付嬢は衝撃の言葉を発した。




