217話 使える魔法
一度状況を整理しよう。
オルの攻撃は単調なものがほとんどですごくかわしやすい。しかし、私も反撃したいのだが、通常の攻撃が効かないとなると新しく魔法もしくはスキルを開発するしかない。スキル開発に必要なスキル{スキル開発}も無効化されているので作ることができるのは魔法だ。しかし、魔法を創ることができても魔力で発動させるものはオルのスキルですべて無効化されしまう。
そうなるとHPのようなほかのエネルギーを使用する魔法になるのだが、これは発動できるはずだ。現に何も消費せずに発動している鑑定の魔法が通常通り作動している。つまり今の私がしなければならないのは、オルの攻撃をすべてよけながら魔力以外の何かをエネルギー源とする魔法を開発し、それを使ってオルを倒さなければならない。
そもそも魔力以外のもので魔法を創ったことがないのでどうすればいいのかがわからない。魔法と同じように練り上げていけばいいのかもしれないが、HPは魔力と違って認識できない物質らしいし、他に何か失いながら戦うって言ったら体の一部とかになりそう。体の一部を贄にした攻撃魔法。確か何かの文献で読んだことがあるはず。キルスの町にあった図書館の中でも貴族や王族しか入ることの許されない書物庫に勇者だからという理由で入れてもらいそこの文献を読んだことがある。確かそこにはどんな手段でもいいのでそれぞれの魔法ごとに定められた魔法陣を形成し、その魔法陣の上で決められた詠唱をすることで魔法が発動できるとかだったと思う。詠唱の内容はどの魔法も同じらしいけど、魔法陣の形は魔法によって違う。何かあった時に仕えるかもしれないと思って一つだけ形を覚えていた。詠唱はもちろん覚えている。ではどうやって魔法陣を形成するのか。それが問題である。
どれだけ回避してもオルは攻撃し続けてくる。そうしていれば私がいつか倒れると思っているのだろう。そんな状況で魔法陣を書くなんてできるのだろうか。そもそもどうやって描けばいいのだろうか。今いるのは魔王城玉座の間、足元は白色の大理石のようにつるつるした床があり、入り口から玉座に向かって赤いカーペットが敷いてある。血で書こうにも普通の床ではつるつるしているため血が流れて書くことができないし、カーペットは赤いので血の色が移らない。他の種族になれば何かできるのかもしれないけれど、それもスキル{ドレインタッチ}の効果なので変身することもできない。
何か欠けるものはないだろうか。床の石は傷がつきやすいので定期的に磨かれているらしい。傷がつきやすいのなら何か武器で傷をつければいいのではないだろうか。幸い周囲にはさっきまでオルが使っていた武器の破片が大量に飛び散っている。これである程度の形を作りながら回避しよう。カーペットの下にまで描くのは大変だからカーペットの右半分か左半分でで完結させてしまいたい。今は右の方にいるのでこちらで完結させてしまおう。近くに砕けた剣のかけらがあったのでそれを右足の靴の底にさりげなく埋め込む。その間にもオルがミョルニルを振り回しながら迫ってくるので回避を続ける。しかし私の右足は地面から離れず、まるでけがをしているかのようだった。それを見たオルが、いやな笑みを浮かべながら迫ってくる。それに対して私はバレていなさそうで安心していた。右足を引きずるのは魔法陣を描くため。バレないように魔法陣を完成させ詠唱をしてしまいたい。この魔法陣は比較的構造が簡単だが、その効果はかなりのバグ性能だ。その分使用の代償も大きいのだが、今は仕方がないだろう。逆に言えばこれを使えれば必ず勝てる。
円の中に星印を描くだけの凄くシンプルな魔法陣だ。さっき一本のまっすぐな線を引いたので後はここを起点に星を書き、そのすべての点を通るように円を描けば完成だ。多少のずれは許されるが、同じ点を通るところなど、失敗できないところも多々ある。
私は、攻撃に当たらないように気を付けながら魔法陣の形成を始めた。




