215話 神器・ミョルニル
オルが攻撃し続けて2時間が経過した。相当大量の武器を仕込んでいたらしく、ここまでで200個以上の武器を使用し、そのすべてが何もしない私によって壊された。正直この程度の武器では傷つけることができないことはオルもわかっているのだろう。しかし、意地になっているのか攻撃をやめるそぶりを見せない。そろそろ立っているだけでも疲れてきたのでスキル{賭博}の[創造]で椅子を創り出し、座ってゆっくりしていた。
それからさらに1時間が経過し破壊した武器は300を超えただろうか。突然体が吹き飛ばされた。驚いてオルの方を見ると、その手には輝きを放つハンマーが握られていた。鑑定によると攻撃力は通常の武器の10倍以上であり、厄介なスキルも所持していた。
神器・ミョルニル
ATK1000000
DEF0
スキル{不壊}{防御無視}{技能妨害}
スキルの性能がとんでもない。{不壊}はその名の通り、破壊不可の効果を付与するスキル。{防御無視}は攻撃した対象のVITを0であるものとして攻撃をするスキル。この武器の攻撃力からしても、このスキルと合わせて一撃必殺だろう。最後に{技能妨害}このスキルはこれを装備して戦闘していれば装備者以外の半径1㎞にいる者のスキルや魔法の効果をすべて無効化するスキルだ。攻撃を軽減するスキルや不死のスキル、生き返るスキル、それらと同じような効果を持つ魔法などどんなものを持っていても無意味なのである。装備者に対する攻撃魔法なども無効化されるため、装備者に物理戦闘で勝たなければならない。ただし、この装備を装備するには、STRが10000以上、AGIが100以上求められるので装備さえできればほとんど敵なしなのである。神器というだけあって【創造神】によってつくられた武器らしい。この世界のどこかにあと6つ、つまり合計で7つ存在しているらしい。
そんな神器の攻撃で私が死ななかったのはHPが無限にあるからであって、今の攻撃でかなりのダメージを受けている。出血などはないが、実際かなり痛い。今にも泣きだすぃそうなくらいには痛い。
しかし、それ以上に怒りがわいてきた。こんなチート武器で無抵抗な自分を攻撃してきたオルへの怒り、オルが諦めないことに対して切り札などないと考えていた自分への怒り。その両方だ。
「いい武器を持ってるじゃない。かなり痛かったわ。でも、その程度の武器じゃ私を倒すのには足りないわよ。そうねぇ、神器を7つすべて集めてやっと戦いになるくらいじゃないかしら?神器を創り出した【創造神】と私は同格の存在なんだからね。」
「強がってんじゃねぇよ魔王。実際今にも死にそうなんだろ。足取りもフラフラじゃねぇか。次でとどめを刺してやるよ。」
確かに私は今フラフラだ。しかしそれは攻撃の余韻で歩く感覚がつかめないだけのこと。意識ははっきりしているし、次の攻撃をかわせるくらいの余裕はある。
「あなたって他人の鑑定はできるのかしら?」
「あ?そんなもんできるわけねぇだろうがよ。普通に考えてわからねぇのか?鑑定なんてスキルがねぇやつがどうやって使うんだよ。」
そういってきた。鑑定さえ使えればHPが無限にあるのを見て諦めてくれると思ったんだけどな。使えないなら魔力回路をつなげて魔法を送ってみるか。
アンチデューンたちにつなげた時と同じようにつなげてっと。攻撃はもちろんかわしながら。私が何かし始めたと同時に襲い掛かってきた。相変わらず気性の荒い奴だ。
(きこえますね、オル。今からあなたに鑑定の魔法を教えます。それで目の前のものを鑑定なさい。)
魔法通話の際に少し声をいじって天啓的な感じで伝えた。すると明らかにオルの動きが止まって、
「テメェ何かしやがったか?」
分かりやすいほどに動揺しながら尋ねてきた。
「いいえ何もしていませんが。」
「そうかよ、まぁいい。これで俺も鑑定ができるみたいだな。テメェがさせたかったらしい鑑定をしてやるよ。」
そういうと、オルは魔法の詠唱を始め、鑑定の魔法を発動させた。すると、何が何だかわからないといったような表情になり、
「おい、なんだこの鑑定魔法でたらめじゃねぇか。確かにステータスとスキルは表示されたけどよ、HPとMPのところによくわからねぇ記号がありやがる。」
「その程度も読めないのですね。教えてあげましょう。その記号は無限を指すもの。つまり、私の魔力は尽きることがなく、HPも尽きないので生命を維持するのに必要な器官さえ残っていれば死ぬことはありません。いい加減あきらめて殺されなさい。」
「そんな口車に乗るかよ。どうせこの変な記号を見せてそう言いくるめるつもりだったんだろうが。そうはいかねえぜ!」
そういいながら再び殴り掛かってきた。割と一般的に使われてる記号なんだけどな。
不意打ちにも近い攻撃をかわし、どうするかを考える。防御は意味がないのでかわすか攻撃かしかないのだが、どちらも難しい。攻撃しようにも近づくことができないしかわし続けるのにも限度がある。しかもミョルニルは普通のハンマーに比べて柄が短いので接近戦を得意としている。スキルや魔法を封じてリーチが短いため、接近戦においても通常のハンマーの弱点がない。ハンマー使いとの一騎打ちなら接近して武器を封じてしまうのが一般的だが、そうもいかない。それができない以上接近して一発で仕留めてしまわなければならない。しかし、今の私は武器を装備していない。魔王上の中だと安心しきってなにも装備しないまま戦いを始めてしまった。つまり、私が今使うことができるのは素手のみ。しかも相手のAGIから見てアンチデューンに何か武器を取りに行かせても先にやられてしまう。外への通話もできないので誰かに取ってこさせることもできない。今ここにいる者の中で武器を装備しているのはオルだけだ。
かなり絶体絶命な状況なのは間違いない。オルが力尽きるのを待つか素手でオルを倒す。このどちらかが必要なのだが、オルはウォートロールだ。ウォートロールという種族は好戦的な種族でなおかつ戦うことに特化した種族でもある。戦うこと自体がエネルギー補給になるという意味不明な能力を持っており、戦っている限り力尽きることがない。つまり、素手で倒す以外に方法がないのだ。周囲に飛び散った武器の破片はすべて粉々になっているのでダメージを与えるには不十分にもほどがある。原型をなしているのはそれぞれの武器の柄くらいだ。
幸い私のSTRは23000ある。これだけの力があればこいつくらいなら素手で倒せるだろう。




