187話 格の違い
私の首と眉間目掛けてそれぞれ攻撃しようとしている大剣と槍、普通の魔族だったらこれだけで死んでしまうだろう。確かに彼らは強い。連携も取れていて個々の強さも大したものだ。しかし、彼らは知らない。この世界には絶対に手の届かない存在がいるということを。それをここで初めて思い知らされることになるのだ。
キィィィィィィィィィィィィィン
金属同士がぶつかった音がしたかと思うと今度はカタカタという音が聞こえてきた。何も知らない人がこの光景を見たら困惑するだろう。一方的に囲まれ、首には剣、眉間には槍を当てられているのに、余裕の表情を、逆に当てている側が顔を青ざめさせているのだから。
さっきからカタカタなっているのは私に傷をつけることができない武器たちを持つ手が震えているからだろう。彼らの攻撃は私に通らず、弾かれてしまったのだ。背後から魔法も発動させていたようだが、それも弾かれて消えてしまう。
それに追い討ちをかけるように笑顔で
「わかりましたか?あなた方では私に傷をつけることもできません。諸事情により私もあなた方を傷つけることはできませんが、お分かりと思いますがあなた方が私に勝つことなどできません。早く誰か1人村長を呼びに行ってください。」
そういうと、アレウが目線で指示をし、先ほど幻覚の魔法と新生魔法を使用した神官らしい魔法使いが村の方へ走っていった。村長が来るまでの間、少し聞きたいこと聞くことにした。
「私は10年ほど前にこの村に来ているのですが、それから全くきていなかったので少しお聞きしたいのですが、現在はどなたが村長なのでしょうか?」
「負けた身だ。何なりと聞くがいい。今の村長はアラン殿だ。5年前からあのお方が村長をされている。俺でも勝てぬ夫婦だよあのお二方は。今はこの村にいないらしいが1人娘がいるらしく、自分たちよりも強いとおっしゃられていたがどうなのだろうな。」
「私はその娘を知っていますが間違いなくあの2人よりも強いですよ。なんなら2人がかりでも歯が立たないほどに。」
後でその娘が私だったことを知った時の反応を見てみたかったのであえて自分だとは言わなかった。
「そうなのか。まだまだ世界は広いのだな。10年前からこの村で警備責任者になってから強くなったつもりだったがアンタみたいに格の違う存在がいるって思い知らされたよ。」
「そうですか。それでは今はアランが村長でこの村を収めているのですね。しかし、もう少し上の年齢の方もいらっしゃったでしょうに。」
「それが、アラン殿が村長になるきっかけになったのが流行病なのだ。5年前にこの村で流行った流行病に侵されて老人連中がみんな亡くなっちまったのさ。あの病は体が強ければ風邪程度で済むのだが体の弱い年寄りは悪化しやすくなっちまうんだ。それでその後残された村人の年長者で話し合ってアラン殿が村長になったんだ。」
「そうなんですね。私はここの情報さえ集められなかったので助けになれませんでした。申し訳ありません。」
「そういうのは俺じゃなくて村長に言ったらどうだ。ほら、きたみたいだ。」
そう言ってアレウが指差した先にはさっき走って行った神官と少し髪に白髪が混じり、顔のシワが増えた父親の姿があった。




