181話 分身
スライムになれば脳がないはずだから脳の処理限界自体がなくて鑑定の常時発動もできそう。問題はスライムになると他の種族になるのとは異なり、ステータスに変化が出る。スライムが最弱だからではなく、体の構造上仕方がないのだがAGIが極端に下がってしまう。スライムが移動するには地面を這うか、跳ねるかのどちらかしかないのでどちらにしても素早い移動はできない。
魔法で最大まで強化してもせいぜい今の強化していない状態のAGI程度にしかならない。十分早いのだがこれでは時間がかかり過ぎてしまう。およそ100mを10秒で走るくらいの速度なのでおよそ1ヶ月と半月ってところか。流石にそんなにも長い期間ほとんど何もない空間を走り続けるのはきつい。空間転移を使って移動して鑑定を繰り返すこともできるが、{時空間転移}には1日の使用回数に制限がかかっていてそれこそ時間がかかってしまう。
スライムの体で他の生物に擬態することもできるが、それをすると脳も再現してしまうため脳の処理限界ができてしまう。それでは意味がないだろう。
どうにかスライムの体のまま早く移動することはできないものか。
そういえば日本のゲームに人型のスライムが出てきたりしたような気がする。あれは半透明だったし、肉体はスライムのままで脳もないだろう。とにかく一度スライムにならなければいけない。粘体スキル{喰}が他のスキルと統合されてできた鬼淫粘体スキル{ドレインタッチ}なら同じこともできるだろう。
「スキル{ドレインタッチ}」
スライムになりたいと願いながらスキルを発動させると急に視界が低くなった。どうやらうまくいったようだ。あとはこの体を維持したまま、全体的に伸ばして人型にしていく。時間をかけて粘土をこねて形を作って行くような感じで自分の体を作って行く。
そして少し不恰好だが、人型になることができた。これなら移動も早くなるだろう。早速少し歩いてみよう。
そう意気込んで右足を前に出そうとしたまでは良かったのだ。足が異常なほどに重く感じる。普通に歩くことも困難なほどに重く、ゆっくり歩くことしかできない。何をやってもAGIは変わらないってことだろうか。
これでは振り出しに戻ってしまった。何か乗り物的な何かを用意してそれで進むのが一番効率的だろうか?
何か使えそうなスキルはないかな?
念の為何か使えるものがないかスキル欄を確認する。
すると、見覚えのないスキルがあった。
スキル{分身}自身の分身体を作り出すことができる。この分身体は本体の命令のみ聞き、その能力の8割を使用することができる。魔法はこれまで使用したことのあるものならばすべて使用可能。スキルを解除すると分身体は消滅する。一度に作れる分身は1体まで。
分身のスキルか。スライムは自身を分裂させて仲間を増やすって聞いたことあるしそれが普通なのか。
でもこれならいけるかもしれない。
「スキル{分身}」
そう唱えると目の前にもう1匹スライムが現れた。これが私の分身体なんだろう。
早速命令を下すことにした。声を発することができず念話も使えないので一度人間に擬態し、
「今の私と同じ姿に擬態して」
するとあっという間に全く同じ姿に擬態した。それを確認した私は次の命令を下す。
「その姿のまま、【フィジカルストレングス】と【ソニックムーブ】を自分に常時発動するようにして。」
命令を聞き終えるとすぐに詠唱を始め、魔法を発動させた。流石に無詠唱での発動はできないみたいだ。
「次の命令。私がスライムの体になって、跳ねたら私を抱えて向こうに向かって走り続けて。私が体を伸ばすまで止まらないこと。地面に降りた状態でまた跳ねたらまた同じ方向に走ること。」
分身が「分かった」と言わんばかりに頷いたので、私は先に魔法を発動させる。
「【ソニックムーブ】【フィジカルストレングス】」
私も分身体に使わせた魔法をさらに分身体にかける。これらの魔法は使用者が異なれば重ねがけをすることができる。【フィジカルストレングス】は身体能力を1.5倍、【ソニックムーブ】はAGIを20倍にするのでそれらが2回ずつかかっているので通常の900倍の速さになっている。元のAGIの値は私の0.8倍なので1秒で約8メートル進む。これを900倍なので1秒で7.2km進める!これなら40000kmもすぐだ。鑑定の範囲は広いのでどうとでもなるだろう。1時間半でこの広大な空間を一周できるとなれば楽だろう。ストップの意思疎通の仕方も伝えたし早速スライムになって鑑定魔法の調整をすることにしよう。




