177話 何が起こった?
全てが終わったと思われる空間内に取り残されていた私は少しづつ何があったのか思い出してきていた。私はこれまで一度も経験したことがなかった感情に飲まれるということを経験したのだ。
この世界は意地の悪い世界のようだ。おそらくその人物のトラウマになっている者、もしくはその人物が失ったと感じているものを再現してそれと戦わせるのだ。そして私の記憶では目の前にとある人物があらわれてきてそれで感情に飲まれてしまったのだ。通常の状態なら落ち着いて対処できるのだろうが、この世界では自身の内面が大きく反映されてしまうようだ。いうなれば心の世界とも言い換えることができるだろう。
私の目の前に現れた人物。彼に恨みがあったわけでもない。しかし、彼がトリガーとなってとある存在への恨み、怒りなどさまざまな感情が湧き続けているのだ。
私の前に現れた人物。それは勇者ブレイズだった。
彼を、操られていたとはいえ手にかけてしまったことで私の【創造神】への怒りが抑えられないほどになったのだ。最近は他にもいろいろあって落ち着いていたが、感情のコントロールが効かないこの世界では暴走してしまった。とりあえず【フィルム】の効果で記録されている記録を確認しよう。
この魔法はスキル使用時のようにディスプレイを表示し、そこに映像を好きなように映し出すこともできる優れものだ。
しかし、この魔法は何の役にも立っていなかった。初めの方はまだ私が移っていたのだが、戦いが始まった途端私の姿が消えた。高速移動しているのかと思いスローモーションにするが消えているのだ。まるで地面に飲み込まれるかのような消え方をしていた。そして、私が消えて5分ほどの間、偽ブレイズは私の姿を探していたが、唐突にその姿が消えたかと思うとそこには私が経っていた。どこにいたのかはわからないが、状況的に{ドレインタッチ}の効果にしか見えない。何かしらの効果で誰からも見えないほど小さくなって相手に近づき低体ごと吸収したというのが自然だが、それだと2つの疑問が浮かぶ。
1つ目は小さくなる魔法など作れるのかということだ。この世界では地球と同じように物体が変質してもそれを構成する物質が一切変わっていないなら重量が変わることがない。質量保存の法則のようなものだ。しかし、無理に体を小さくすると重量は変わらないので動くことができなくなるはずである。仮にそれができたとしてももう一つの疑問の説明がつかない。
それはなぜ【基軸世界】ではないこの場所で他の世界で獲得したスキルの使用ができるのかということだ。今使ってみようと試してみたが使うことは出来なかった。なぜあの時は使うことができたのか?何が何なのかわからない。{時空間転移}は解放されているのでこの世界はクリアということだろうが、いったい何なのかわからない。しかし、これ以上ここにいて厄介なことに巻き込まれてしまうよりは早く出ていった方がいいだろうからとりあえず脱出しよう。
「スキル{時空間転移}」
いったい何が起こったのかもわからない【消失世界】をあとにしたのだった。