176話 【消失世界】と[神の試練]
【消失世界】そこは侵入することを前提としてつくられた世界。【基軸世界】の【創造神】が生み出した世界であり、同一の【創造神】によってつくられたすべての世界にこの世界につながる入り口が隠されている。時には迷い込むもの、時には興味本位で侵入するもの、時には【消失世界】につながっていると知っていて侵入するもの。様々な世界から多くの者が侵入する。住人もいるが、それを別の世界から来たものが知ることはない。彼らは〈影世界〉と呼ばれる空間に降り、侵入してきた者たちを娯楽として鑑賞しているらしい。
ここに入った者には試練が与えられる。それは長い時を経ていればいるほど強大なものになり、試練に打ち勝つことができれば試練に見合った強大な力を得ることができる。
そして今、一人の少女が【消失世界】に侵入した。しかし彼女は【基軸世界】の【創造神】が作り出した世界の入り口ではなく、『世界の狭間』と呼ばれるすべての世界をつなげている【創造神】のみが入ることを許された空間から侵入してきた。
この世界にはかつて『神』が侵入してきたことがある。【創造神】よりも下位の存在であるが、他の生物たちからすれば想像もつかないような絶大な力を持っている。
その『神』に与えられた試練はあまりにも強大なもので1年以上もの間神は戦い続けていたらしい。その結果、『神』は試練に打ち勝ったのだ。しかし『神』は1年以上にも及ぶ試練によって力を使い果たし衰弱し、そのまま力を得ることなく死んでしまった。
【消失世界】の住人の間でこの出来事は[神の試練]と呼ばれ語り継がれることとなった。
そしてそれから長い時を経て再びこの世界に『神』それも【創造神】が現れた。〈影世界〉ではこのことはすぐに知れ渡り、試練が始まる前にほぼすべての住人が観戦体制に入った。前回の[神の試練]は実に500年前の出来事である。500年に1度しかないかもしれないチャンスを逃すわけにはいかないだろう。
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ここが【消失世界】?
周囲には何もなくただ暗闇、いや無が続いている。なぜかわからないけれど、これは暗闇ではなく何もないという事が分かる。【消失世界】とは何も無い「無」の世界ということなのだろうか。
下手に動いて何もできなくなったり、無に取り込まれたりしてはかなわないのでただその場に立ち尽くしていた。
すると1分ほどで、何か小さな光が大量に現れ、私の前で一つになっていく。それは人型のようだが、何なのかがわからない。しばらく見ていると少しづつ集まっていき、やがて私の身長よりも高くなった。そして光が出てこなくなると、少しずつ目の前の存在から光が失われていき、形だけが残り始めた。霧散したはずの光は周囲の照明として私に光を与えてくれた。そして目の前にいる存在を注視する。しばらくはそれが何なのかわからなかったが、それが何なのか分かった途端、私の心には怒り、絶望、悲しみ、罪悪感・・・そのほかにも多くの悪の感情が沸き上がり、抑えることができなくなるほどだった。そこからは感情に支配され振り回されていたので記憶がない。しかし、暴走する直前、一つの魔法を創り出し、発動させることでそこで何があったのか、事後ではあるが知ることができた。
「想像記録魔法【フィルム】」
その言葉を唱えると私の意識は闇の中へと沈んでいった。