131話 人の温かさ
そんなリアに再び試練が訪れる。リアの体にこれまでで最も激しい感情が降りかかってきた。
それは彼女自身に収まらなかった。
それは彼女と国家との戦闘に巻き込まれた一般人の怒りや悲しみの感情。それは彼女の理不尽さの前に屈した魔物や魔族、戦争した国の騎士たちの憤りの感情。それはキルスの町に収まらず全世界に住む人々からの恐怖の感情。
死者の感情に収まらず生者の感情までもがリアを包み込む。その中にひときわ大きな感情があった。
それは2人の大悪魔の怒りの感情。その発生源が分かるほど大きな感情だ。
そのうちの一柱、サリスから送られてくる感情は、自分を殺したことへのただひたすらに強い怒りだった。怒りに身を任せて異なる次元からでも襲い掛かってきそうなほど強い怒りの感情が感じられた。
それに比べて少し見劣りする、こちらも怒りの感情。発生源はカルストだ。その感情は怒りと憎悪、妬みなどあらゆる悪感情を合わせたのではないかと思うほど複雑に絡み合った感情だった。それは感情としては激しいものではないが、常にふつふつと沸き上がりいつか暴走してしまう。そんな感情に思えた。
人間の感情に換算すると、激怒した人間10億人分にも上る感情のはけ口とされたリア。しかしこの程度では屈しない。そうでないとここまで自分が何をしようと支えてくれて、励ましてくれた。そしていつも味方でいてくれた両親に顔向けできない。
そう思うだけでその程度の感情は吹き飛ばせる。そんな感情に支配なんてされるものか。
そんなリアに対してそれらの感情はすぐに引いて行った。それと同時に今度は全く別の感情が沸き上がってきた。
それは、何の感情なのだろう。それさえも分からない。しかし悪い感情ではないのは分かる。それに、他人の感情が混じっていないのもなんとなくわかる。これはいつだろう?記憶もないほど幼かったころの感情だろうか。とにかく温かさに包まれたような感覚。それは次第に光を放ち、理のいた闇を切り裂いていく。そしてリアは目を覚ました。
「大丈夫?リア。」
最初に聞こえたのはそんな言葉だった。まだ明るさに慣れておらずまぶしい。しかしこの声は聞き間違えるはずがない。近くにあと3人ほど気配を感じるが、まずは彼女に返答をするべきだろう。
「大丈夫だよ、ママ!」
久々にママというのも気恥ずかしいが、こういうときぐらい言ってもいいだろう。
それを聞いたリリスも安心したように泣き出した。後ろから感じる気配のうち一人はアランだろう。なぜここにリリスとアランがいるのか、そんなことは気にならなかった。3人で抱き合って涙を流した。
リアが目を覚ましたのはそうだが、眠っているリアを心配していたようだ。特にリリスは大切な一人娘としてリアを過保護とも思えるほどに育ててきたのでこれ以上ないほどに心配で最近は家事もまともにできていなかったらしい。3人の時間を10分ほど過ごし、リアの目も慣れてきたので状況の確認をすることになった。




