122話 【死霊生成】
カインを救う最終手段、それを使うのは躊躇われる。それを使ってしまうということは、人間としてのカインは死んでしまうことになるからである。
そう、カインを救う最終手段とは、カインを人外の存在にしてしまうことだ。
今の時点で2つ候補がある。
1つ目はアンデッドにする。肉体はすでに死んでいるしアンデッドにするのは容易ではある。それに人間に近しい姿形にすることも可能である。これは死んだ肉体をそのまま利用する方法である。もちろんデメリットもあり、欲求がなくなるのでよほどのことがない限り満たされることがない。
2つ目はリアが使用した魔族に転生する魔法をカインにも使用するということ。つまり、この世界の魔王を2体にしてしまおうというものだ。しかし、これにもデメリットはあり、魔王になるということはリアとほぼ同格になるということ。何かのきっかけで暴走されてしまうと危険であり、そもそも転生する際に今の肉体の状況で成功するかわからない。その代わり成功すれば人間として普通に暮らすこともできる。
どちらの方が良いのか。リアは限られた時間で選択を迫られる。
鑑定魔法で見てみたところ魂が霧散するまであと5分ほどしかなさそうだった。もう迷う暇はない。ここで選ぶべきはよりデメリットの少ない方だろう。
そう考えたリアはすぐに魔法を発動させる。死霊召喚魔法を応用して死体をアンデッドへと作り変える。そんな魔法を1分ほどで作り出したリアはすぐさまその魔法を発動させる。
失敗する可能性など考えている暇はない。時間は限られているのだ。すぐに詠唱を終わらせると
「【死霊生成】」
そう唱えて魔法を発動させた。
カインの体から紫色の光が溢れしばらく輝きを放つと、ゆっくりと弱まり消えていく。光が完全に消えると同時にカインの体が動き出す。
しかしそれはリアも予想していないものだった。
外見は生前と変わらないが、怪我が完治している。相当な重症で人間の肉体ならば致命傷である傷が全てなくなっていた。
そして魔力量がとてつもなく増えている。元々ほとんど魔力を持たなかったのでこれは驚きである。
そして何よりも驚きなのが、アンデッドキングを作り出したはずなのに、それよりも2段階上位の存在、最強のアンデッドである、アンデッドゴッドになっていたのだ。
リアが状況判断を終えるとカインが話し始めた。
「ここは?俺はあのグリフォンに殺されたはずじゃ。」
「ここは教会よ。リアが蘇生させてくれたの。」
リーンがそう言ったが実際は違うので訂正を入れることにする。
「それなんですが、蘇生をするには魂が肉体を離れるのに間に合いそうになくて、最終手段にはなってしまったんですがカインさんをアンデッドにしました。ただ最上位種なのでこの街や他の人間社会の中でも気づかれずに生きていけると思いますよ。」
「アンデッドか・・・・・・。それでも生き返らせてくれたこと、感謝する、リア!」
「勝手なことしてくれるわね。まぁ、カインたちが死んだ理由がわからないと対処できないから感謝しなければいけないんでしょうけど。それは一旦置いといて、カインは何であんな大したモンスターのいないところで死んだのかしら?」
「グリフォンです。突如上空からグリフォンが現れ俺以外の防御力の低い3人はそれで殺されました。その後、何とか退けられないかと戦ったのですが相手になりませんでした。」
「事情はわかったわ。これからの身の振り方はあなた自身で決めなさい。リアの元に着くもよし、このままこの町で冒険者として暮らしてもいいわ。」
リーンがそういうと、カインはパーティメンバーがいないことを疑問に思ったようで
「それは分かりましたが、他の3人は?」
「それは私から説明します。まず生物の体を構成する要素として必須になるのが魂です。この魂がなければ蘇生をしても肉体が綺麗になるだけで意味がありません。私がきた時点でお三方の魂はすでに霧散していました。カインさんだけはかろうじて間に合ったので生き返らせました。」
リアがそういうと、カインは号泣し始めた。アンデッドなので感情も人間の頃よりは起伏が小さいはずだがやはりパーティメンバーの死はそれほど彼にとって重いものだったのだろう。それからリーンが慰めながら10分ほど泣き続けた。そして涙が止まったところでリアが話し始める。
「カインさん、よければ私のところへ来ませんか?カインさんには今の時点でグリフォンを倒せる程度の力は十分にあります。しかし、それを十分に扱えなければ意味がありません。」
ここで話を一旦区切る。この後話すことは国家規模の重大な機密情報だ。この国の貴族ですら知らない情報だ。
「私は、2年ほど前、魔王を倒しました。しかしそれは私にとっては目的を達成するための通過点でしかない。それから私は魔王になる魔法を開発し、人間時代の強さを引き継いだまま進化したのです。私の配下はまだ1人しかいませんが加わってくれないでしょうか?」




