106話 悪魔カルスト
そして翌日、旅に必要な最低限の荷物をまとめたリアは昼頃に宿屋を出発し、キルスの町を出た。ニケ村までは人間のころのリアで丸1日くらいかかっていたので今ならばもう少し早く着くだろう。しかし、どちらにせよ到着は明日なのでどこか野宿できそうなところがないか注意しながら走り始めた。
走り始めてから1時間ほどが経過し、今の位置を確認したいのでリアは一度止まった。鑑定魔法を応用し現在位置を割り出す。するとすでに道のりの3分の1ほどの位置にいる事が分かった。リアの想定では現時点で全体の8分の1ほど進んでればいいと思っていたので驚いた。それもそのはず。以前のリアと比べるとAGIが2倍以上になっているので進む距離も以前の倍以上なのだ。
リアは今日中に到着することも出きそうだったが、とりあえずあと1時間走ることにした。単純計算で全体の道のりの3分の2を進むことになるはずである。
そう考え、再び走り始める。
そしてさらに1時間が経過した。想定通りの地点に来たので今日はこの付近で野宿をすることにする。近くに何か身を潜められそうなところがないか探してみたところ森と平野以外に何もなかった。
辺りが少しずつ暗くなってきてこれ以上探すのが面倒になったリアは魔法で洞穴を作ることにした。森の入り口の近くに場所を決め、森に背を向けるような形で
「【マテリアルクリエイト】」
冒険者になる前から使用していた懐かしい魔法を発動させる。スキル{創造神}を持っていた間はそちらで事足りたし、最近もスキル{賭博}の創造の方しか使っていなかったのでかなり久しぶりに使う魔法である。
その魔法で目の前に硬い鉱石でできた洞穴を作り出す。森とは反対側に入口があるのでモンスターが近づいてきて気が付かないこともないだろう。
それに就寝前に入口にも同じ鉱石を設置すればいいだけなのだ。
そして明日は早い時間に出発するために早めの夕食を取り、すぐに眠りについたのだった。
なんだか体につつかれているような感覚を覚え目を覚ます。
空は明るみを帯びているのでそろそろ起きる時間ではあったのだが自分を起こしたものが何者なのかを確かめる。それに昨晩作った洞穴が消えている理由も気になる。
視線を右に移すとそこには紺色の肌のおどろおどろしい姿をした悪魔がいた。見たところアークデーモンのようだが、その中でも限りなく上位の存在のようだ。
「おい、ガキ。大丈夫か?強い魔力を感じて空を飛ん来たらここでお前さんが倒れてたから起こしたんだが。」
「倒れてたって、ここに洞窟はありませんでしたか?その中で寝ていたのですが……」
「んなもんなかったぞお前の思い違いじゃねぇのか?」
「うーん…………」
しばらく考え込んだリアは5分ほどしてようやく答えにたどり着いた。
【マテリアルクリエイト】で作り出した物質は3時間で消滅してしまう。つまりあの洞窟も作ってから3時間で消えてしまったのだ。
「待たせてしまってすみません思い出しました。」
「おう、そうか。で、お前さんはその年齢で何でそんなにも強大な魔力を持っているんだ?とても人間とは思えないほどの魔力を感じるんだが。」
「少し待ってくださいね。」
そういうとリアは悪魔に聞こえないほどの小声で
「スキル{魔王}」
と唱える。それと同時に悪魔がひれ伏す。
「申し訳ありません。あなた様が新たな魔王様だとは知らなかったもので。どんな償いでも致します。処分を申し付けください。」
萎縮しきっているのでリアは優しく声をかける。
「いいですよ。処分の代わりに一つだけ命令をします。先ほどと同じように接してください。私は配下ともフレンドリーな関係でいたいので。」
「分かりました。では、魔王様は何でこんなところで眠ってたんだ?」
「実家に帰ろうとしていて野宿してました。」
「そうか。今の魔王様は人間と魔族どっちにつくんだ?」
「中立を目指します。人間も魔族も共存できる世界を作り上げて見せます!」
「なるほど。」
「ところであなたの名前は?」
「これは失礼しました。私アークデーモンのカルストといいます。失礼ながら魔王様のお名前は?」
カルストがそう質問してきた。口調が戻っているが突っ込まないことにする。
「私はリアです。『魔王』でありながら『勇者』でもある最強の存在。真の『魔王』リアです。」
「まさか種族『魔王』になられたということですか?悪魔族の中でもごく一部にのみ伝わっていたあの伝説の種族に」
「はい。私は種族『魔王』の存在です。」
「あなた様の配下は現在どれだけいるのですか?」
「一人もいませんよ。あなたを幹部の1人目として迎えたいのですがよろしいですか?」
「よろしいのですか!是非にも加えさせていただきます。」
「それではあなたは今日から魔王城に住みなさい。私も時々は顔を出すので何かあったら連絡してください。魔法であなたの脳と私の脳の魔力回路をつなげたのでその回路に思念を乗せた魔力を流せば私にメッセージを送れます。」
「かしこまりました。それでは失礼いたします。」
カルストはそういうと嬉しそうに去っていった。そんなカルストを見送ったリアはニケ村へ向かって歩き出したのだった。




