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where the wild things are:VR  作者: 葦名 伊織
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Orderly chaos world

『おつかれー』

「おつかれ」

 ロボット、学ランの女子、獣人、タコ。様々な姿をした友達が仕事を終えて合流した俺を迎えてくれた。

 ここは極彩色のネオン輝く近未来都市。といっても『仮想』のだけれど。

 最近の俺の趣味はVRチャットだ。VRゴーグルを装着して仮想現実へ飛び込み、もう一人の自分である上裸の渋いオッサンになって、もう一つの世界を楽しんでいる。最近はVR上で話し友達も出来た。休日や残業がなかった日などに適当にログインして仕事の愚痴を言い合ったりしている。

 その中に一人だけ現実(リアル)の知り合いで、同じ会社の後藤という同期がいる。後藤とは本当に偶然VR内で出会った。部署が違うため話したこともなかったが、話をしている内に同僚だと判明してすぐに仲良くなった。ちなみにリアルの後藤は男性で、VR上のアバターは学ランの可愛らしい女の子だ。



 ある金曜日の夜の事だった。その日は後藤と二人だけで酒を飲みながらダラダラVRで話していた時、アイツが思い出したように言った。

「そういやこの前面白いワールドに行ったんだ」

『ワールド』とは企業や個人が公開している仮想世界。今や無数のワールドがネット上に存在する。

「ホント人のワールド探検すんの好きだねぇ」

 後藤はVRワールドを適当に検索して探検するのを趣味としている。誰でも来れるように開放しているワールドに飛び込む訳だ。特に個人が作ったものがクセが強くて面白いと言っていた。言葉も通じない外国人のワールドも多いのによくやるなと思う。

「この前言ってた『stupid.vs.meatball』ってワールドか? 」

「それも良かったけどまた別のやつ。まぁ取り合えず見てくれよ」

 URLが送られて来る。動画配信サイトの後藤のチャンネルだ。

 後藤はワールド探検動画を実況付きで配信サイトにアップしている。残念な事にチャンネル登録者は俺と、あらゆるチャンネルを登録している変な奴、どこかの物好きの三人しかしない。

「ビックリ系の動画だったら怒るからな」

「違うって」

 笑いながら言う後藤を尻目に、俺は動画視聴ボタンを押した。


『はいどうもーガトーでーす』

 お決まりの挨拶と共に動画が始まる。『ガトー』は動画チャンネルでの後藤の仮名だ。

 動画に映っているワールドは精巧な建物や、雑な造りのポリゴンの森などが入り乱れる混沌とした世界だった。あらゆるものが乱雑に配置されている様に見える。まるで世界を無理矢理一か所に凝縮したみたいだ。

『スゴイ世界観ですね。まさにカオス! 』

 ワールド内を感想付きで探検していく。他のユーザーと会うこともなく、そのワールドには後藤しかいないようだった。

『あえて一部オブジェクトの3Dモデルの造りを荒くしている様に感じます。これはかなりこだわりの強いワールドですよ』

 ワクワクしているのが伝わってくる口調。その世界観を楽しみながら歩いている様子がしばらく続く。そして建物から森へ移ろうとした時、先の方に人影が見えた。

『おっと、僕の他にも誰かいました! 』

 動画を盛り上げるチャンスと踏んだのかすぐに走って向かっていく。

『あのー! すみませ・・・』

 その3Dモデルがはっきりと見える位置まで来て、後藤の足と言葉が止まった。

 そこには真っ黒な砂嵐で構成された人型の3Dモデルが立っていた。明らかに異様なアバターだ。表情はおろか前後どちらを向いているのかも分からない。

 後藤も少し引いているようだが、ソイツに意を決して話しかける。

『あ、あのー。日本の方ですか? 』

『・・・』

 ソイツは応えない。もう一度話しかける。

『あの、聞こえてま―――』


『待っていました。アナタは、選ばれたヒトです。このワールドを、隅々まで、知覚し、理解して下さい』

 後藤の言葉を遮って、ソイツは機械音声特有の断続的で間延びした口調で話し始めた。


 突然の音声に俺はビクっと身体が反応してしまう。後藤も驚いたのか息を飲むような音が聞こえた。

『あっ・・・もしかして日本の方ですか? 』

『よく、見て下さい。森、建物、空、地面、全てをです』

 黒い砂嵐は一方的に話すだけで、会話しようとする気が一切見られない。

『そうすれば、この世界に、来られるでしょう。アナタは―――』

 俺はそこで動画を止めた。


「なんか気味悪い奴だな」

「ははは。でもガチでロールプレイしてる人だぜ。そのワールドも個人サーバーだしな。適当に作ってるようで緻密な計算を感じるんだ。気合の入り方がスゲーよ。お前も行ってみ」

「俺には、取り合えず3Dモデルを作って適当に配置してるようにしか見えなかったけどな」

 テキストチャット欄にメッセージが届く。


『e38192e381b8e381aa』


「そのワールド名で検索すれば出て来るからさ」

 俺は試しに検索してみるが、ヒット数ゼロだった。

「出ないぞ? 」

「え? おかしいな、俺は今でも入れるぞ」

 今度はそのワールドで変なポーズを取る三人称視点の写真が送られてくる。VRチャットでは視点移動も自由なのだ。

「そのワールド、今はお前だけに開放してんじゃねぇの? 」

「まさか」

 俺は何度か検索を試みたが、やはりヒットすることはなかった。

「やっぱりヒットしないわ。限定公開になってるのは確かだな」

「うーん。今は入った事がある人だけに開放してるのかも」

 ワールドの設定は基本非公開で製作者だけが確認できるので、これ以上調べようがなかった。

「俺はそろそろ落ちるわ。今日忙しかったから眠い」

「了解。俺はもう少しあのワールド探検して、動画のネタ探す」



 ―――この時にもっと強く止めておくべきだったのかもしれない。




「気に入ってるな。気持ち悪くなかったか? あのワールド」

「いや、見れば見るほど上手い配置なってる・・・ように見えるんだよな。芸術とかに疎いから言語化できないけど、何か意味を感じる気がするんだよ」

 考え込むように後藤が言った。

「この土日使ってもっと深堀りしてみるよ。あの砂嵐の人もクセ強くて面白いし、また何かあったら教える」

「ほどほどにな。じゃあ、おつかれ」


 土曜日曜と夜にVRチャットにログインしたが、二日とも後藤は別のワールドにいる表示が出ていた。えらく気に入ってるのか、動画がバズるネタでも見つけたのか、とにかく休日中の後藤はあのワールドに入り浸っていたようだ。

この作品を読んでいただきありがとうございました。

あと一話で完結します。


後藤が行ったワールドはいったい???


後編も読んでいただけたら嬉しいです。

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