第8話 幸せの余韻
「本当に幸せすぎる…。」
私はソファに座りつつ、胸にはサイン入りの本を抱き目を閉じて幸せの余韻に耽っていた。
「良かったねぇ…。」
恍惚とした表情の私に若干引きつつ、余韻に浸る私の邪魔をしない様にパソコンで作業をし始めた彼。
「今まで神様をあちこちに連れ回し、神様の目の前で神様自身の作品について熱弁し、その上家にまで強引に案内させた自分を恥じたい。」
「まぁ、自分の処女作から最新作まで語られたのは恥ずかしかったけど嬉しかったし、色んな所に行けたのは俺も楽しかったから気にしないで。」
「……あの、神様。」
「その呼び方辞めよう?前と同じに戻そう?なんか新興宗教の教祖様になった感じがするから。」
パソコンから顔をあげると、苦笑した顔で私に言った。
「神様の命令なら仕方が無いな…。春樹くん。」
「なんだい、小春さん。」
「春樹くんは私の事、どう思ってるの?」
ずっと聞きたかったことを勇気を出して聞いてみた。友達から始まったあの夜以降、「好き」と言ってくれなくなった。距離が近くなったことで彼が私の事を嫌いになったのでは無いかと不安になった。距離が近くなると相手の嫌なところがよく見えるようになると聞くし。
私自身は私は彼の事が好きだ。元ストーカーとはいえ、もう彼の事を怖いとは思わないし、一緒にいると楽しくて落ち着く。
「好きだよ。変わらず、いや小春さんと話すようになってますます好きになった。」
改めて好きな人からその様に言われると、本当に恥ずかしい。
「でもね、君が知るように俺は君を束縛してしまう。君が異性と一緒にいるだけで嫉妬で気が狂いそうになるんだ。もしかすると君を殺してしまうかもしれない……そんな俺には君を好きになる資格なんてないんだよ。」
彼はそう言うと俯いてしまった。しかし、私は嫌われた訳ではない事にホッとし、またより一層好きになったと言われて幸せで胸がいっぱいだった。
「私も春樹くんの事好きだよ?始めは怖かったけど、友達として色々遊んだりして貴方の事を知ってとても優しい人だと分かったし、それだけでも好きになるには充分だったのに、その上貴方が大好きな作家さんだったなんて…そんな人に好きになって貰って本当に嬉しかったんだから。………良かったらお付き合いして下さい!」
私が思い切って自分の想いを伝えると、彼は嬉しさと不安が混ぜこぜになったような複雑な表情をしていた。
「……俺なんかで本当にいいの?後悔しない?俺と付き合ったら俺は君の男友達に嫉妬するよ?そうすると俺は自分でも何をしでかすか分からないよ?」
「大丈夫じゃないかな。私、異性の友達いないし。」
「…頻繁に会ってる男がいるじゃないか。」
「…?春樹くんのこと?」
「俺なわけないだろ……。ほら、あの夜の時に会っていた奴だよ。へべれけに酔った君がじゃれていた相手だ。あの男、たまに近くで見かけるけど、奥さんがいるようだよ?」
「あぁ、知ってる。奥さんとは親友だし。」
「小春さん、そういうドロドロしたの辞めた方がいいよ。」
真剣な顔で言われてしまったが、そういうのでは決してない。でも説明したところでなかなか信じて貰えない気がする。
「んー、そしたら会ってみる?ちょっと奥さんに電話掛けてみるから。」
そう言って、戸惑っている彼を横目にゆりへ連絡を入れてみる。新しい彼氏を紹介すると言ったら、一刻も早く連れてきなさいと言われた。傍では兄が、『悪阻しんどいんだから辞めとけって!』とか言っていたが、完全スルーされていた。どんまい、お兄ちゃん。
「よし!じゃあ行くよー。」
「え、俺、今から修羅場に巻き込まれるの?」
「違うってば。行ったら分かるよ。」
そう言って私は強引に春樹をバスで10分ほど先の兄夫婦の家へ連れていくのだった。
その後、無事に誤解は解け、めでたく私と春樹はお付き合いする事になった。
しかし、付き合った翌週にプロポーズされスピード結婚する事になったり、結婚後も私の職場に男性がいるという事実に嫉妬し、執筆どころでは無くなり出版社を巻き込む大騒動が起こったり、産まれたばかりの息子に嫉妬したり…という出来事もあったのだが…その話はまた今度。
まぁ、色々あったけど……私は幸せである。
最後は2時投稿です!