第6話 元ストーカーさんとのお出かけ
近所に住む唯一の友人ゆりは最近妊娠し、悪阻が酷く構ってくれなくなったので、休みの日にはよく春樹を呼び出し遊びに行くことが多かった。始めは緊張していた彼も今ではそれが抜け、私の事も「伏見さん」から「小春さん」と呼んでくれるようになった。まぁ、そう呼ぶよう命令したのは私だけど。
彼と友人になり、色々話してみると意外と話のウマがあった。歳は5歳上らしい。
彼は読書家らしく、あらゆるジャンルの小説に精通していた。遊びに行く時も、古本屋に立ち寄ったり、お互い好きな本を薦め合ったり、語り合ったり。本についてここまで語り合える友達がいなかった私は彼と話すのがとても楽しかった。
特に私の大好きな作家の処女作から最新作、過去に小さな出版社から出た雑誌に乗ったマイナーな作品まで全ての作品を読んでいる事には驚いた。彼自身はファンでは無いと言うが、私自身は隠れファンだと思ってる。同士を見つけてとても嬉しかったので、会う度にその作家さんの話を熱弁していた。
よく遊びに行くような間柄になった私達ではあるが、付き合っている訳じゃない。彼もあの一件以降、私のことを『好き』と言ってくれない。最近ではその事を思うと何故だか胸が苦しくなる。
この日も春樹を呼び出し、新しく出来たハーブティー専門店へ一緒にやってきた。ちなみに春樹を呼び出して断られた事は一度も無い。
「ねぇ、春樹くん。」
「なんだい?小春さん。」
「私、春樹くんの家、行ったことない。」
「…部屋、荒れてるんだよ。」
「毎回そう言って断るよね?」
「だって真実ですから。」
春樹は呼び出して断る事は無いが、家には絶対連れて行ってくれなかった。毎回なんだかんだはぐらかされてしまう。一度尾行しようかとも思ったが、すぐバレてしまい家に連れ戻されるのだ。でも、今日はもう少し攻めてみる。好奇心には抗えないのだ。
「連れて行ってくれないと、春樹くんのこと嫌いになる。」
「…。」
彼は渋い顔をしながらティーカップの水面を眺めている。あと少しな気がする。
「私は友達だと思ってたのに…春樹くんは違うんだね…。」
「…分かったよ。降参だ。…はぁ…自分をストーカーしていた男の家に行きたいなんて…何が起きても知らないからね…?」
「春樹くんは何だかんだ優しいから大丈夫だよ!」
「その信頼がなんか重い…。」
そう言って彼は溜息をつく。そんな彼を私は満面の笑みで見つめるのだった。
次は0時投稿…あと少しで終わります!