第4話 ストーカーさんとのご対面
居酒屋を出た私達は、自宅のマンションの方へ向かう。兄はどうやら自宅近くまで送ってくれるようだ。
しかし、マンションが視界に入る辺りに来た所で、いつもの視線を感じるようになった。鈍い兄はそれには全く気が付かない。
「おい、お前ベロベロだけど大丈夫か?俺ももう終電だし行くぞ?」
「えー、もう行っちゃうのー?さーびーしーいー!」
「この呑んだくれ!何言ってんだ!顔にキスしてくるんじゃない!鬱陶しい!!」
私はワザとどこかにいるであろうストーカーさんを煽ってみることにした。兄は本気で鬱陶しそうにしていたが、遠くから見たらイチャついてるようにしか見えないだろう。ここまでしたら彼も何かしらアプローチを掛けてくれるかもしれない。いつも顔を見せてくれない彼に会えるかもしれない。
しばらく兄にウザ絡みしていた私だったが、兄は腕時計を見ると少し慌てた様子で、
「本気で終電ヤバいからもう行くぞ!今年もありがとな!」
と言って、私を振り切り走り去って行った。
「…ったく、レディーの扱いがなってない奴だなぁ。」
私はボヤきながらマンションのエントランスの扉を通り抜けようとした所で、腕を捕まれ、強引にマンション傍の裏路地に連れ込まれてしまった。もちろん周りには誰一人いない。兄とマンションへ向かう途中も誰もいなかったし、時間はもう深夜0時をまわっている。そんな時刻に出歩く人もほぼいないだろう。
「ねえ、最近よくあの男と一緒にいるよね?彼氏なの…?俺は、こんなにも君が好きなのに…君があの男と付き合うくらいなら俺は…」
そう言って彼はナイフを私に突きつけてくる。彼に会いたくてワザと煽ったのは私とはいえ、やり過ぎてしまった。酒に酔っていたとはいえ、ワザと煽るような事をするなんて、本当に馬鹿だった。
いつも贈り物に綺麗な字で書かれたメッセージカードを添えてくれたストーカーさん。
「字はその人の心を表すのよ?」昔亡くなった祖母が言っていたのを思い出し、ストーカーさんが実は優しい人であることを祈りながら、どうにか恐怖心を抑え、笑顔を作る。
「ようやく会えたわね!初めまして…で良いのかしら?こんばんは、ストーカーさん?」
思いも寄らぬ言葉に怪訝な顔をする彼。
「え、今の状況分かってる…?」
親切にもそう言葉をかけてくれるストーカーさん。どうやらツッコミ気質のようだ。今の状況…?十分分かってますとも!腰抜かして動けません。
「ねぇ、こんな所で立ち話もなんだし、私の家にいきましょう?部屋番号も知ってるでしょ?ちょっと腰抜かしちゃって動けないのよ。」
私の言葉に驚いたのか、彼がつい手の拘束を緩めると私はそのまま地面に崩れ落ちる。彼は慌ててナイフを地面に捨て、私の身体を支えてくれた。
「ごめんなさい。」
「いや、こちらこそ…って、……じ、自分はなんてことを…!!」
私が支えてくれた事に対するお礼を言うと、彼は正気に戻ったのか自分がした事に対して青ざめている。
「謝罪は要らないから早く連れて行って?支えてくれたらどうにか…」
歩けると思う、そう言い終える前に彼は私を背中に背負い、傍に落ちていたカバンを拾うと私の家へ向かった。彼の背中は冷たかった。
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