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2021.4.24.九州大学文藝部・三題噺執筆会

「雷雨」「投げる」「櫛」 A

作者: 坊主

 美容室の中にいる時から気づいてはいたが、いざ外に出てみると覚悟していたよりも激しく雨が降っていた。スマホで天気予報を見ると二時間雷雨が続くことが分かった。家を出る前に天気予報を確認しておくべきだったと少し後悔した。ただ、財布の中のお札は先ほど使い切ったし、スマホは防水、着ている服はぼろ布一歩手前のジャージと濡れて困るものは何一つ身につけていない。何より雨で痛むことが気になるような長い髪は先ほど捨てた。そう考えると雨に降られて歩くのも風情があると思えた。

 雨にうたれながらあの人のことを考える。私に髪を切るきっかけをくれたあの人だ。その人は私よりも一つ年上で、部活の先輩だった。そのスポーツの初心者だった私にとても親切に基礎から教えてくれた。一緒にいてとても楽しく、私はすぐにその先輩のことが大好きになった。あの人のことを思い出すと、吐息を感じられるほど顔を近づけたときのことや畳の上で体を重ねたときの記憶がよみがえる。

 しかし、今はただ慕っていただけのあの時とは違う。私が丸一年かけて積み重ねた思いを無碍にした先輩を見返してやりたい、一矢報いたいという思いに満ちている。断髪は先輩へ憧れるだけの自分との決別の証だ。先輩が誕生日にくれた櫛など投げ捨ててやる。先輩が引退するまでもう時間がないのだ。それまでにこの思いをぶつけてやろう。

 昨日はこの一年かけて身に着けた必殺の大外刈りがまったく通じなかった。明日こそは先輩から教わった寝技でへこましてやろう。

 私の闘志に呼応するように雷鳴が轟いた。

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