試験への道筋
そうして自己紹介も終えたところで、ちょうど受付の順番が回って来た。書類やらの積み重ねられた長机に、制服を来た人が男女が2人、並んで座っている。
「受付をお願いします」
「おう。んじゃ受験票出して、名前書いてってくれー」
青柳が声をかけると、水色の髪をした男子の……先輩かな、その人に8つの枠が並んだ紙を手渡された。って、受験票か。確か、鞄に……あったあった。
「受験票はまとめてこちらにお願いします」
「あ、じゃあ私が受け取るよ」
黒髪を肩先で切り揃えた女子の先輩が指示すると、如月が俺達に声を掛けて受験票を受け取って集め始めてくれた。よろしくと言って渡してから、名前の記入を待つ。
「て、お前竜一か! やっぱ来たんだな!」
「凍牙さん! 確か……半年振りくらいですよね」
「陛下の生誕会以来だよな。いやぁ、また強くなったっぽいな」
「いや……凍牙さんに比べたらまだまだ未熟です」
なんか、男子の先輩と竜一が凄く仲良く話している。へ、陛下って……国王のことだよな? 5大貴族とやらの竜一はともかく、この人も大貴族ってことなのか?
「氷銅凍牙。上級貴族氷銅家の嫡男であり、生徒会長東雲空斗と並ぶ実力者とも名高い。学生最強とまで言い伝えられる人物だ」
「……詳しいな」
名前の記入を終えた青柳が、紙を渡しながら淡々と常識を語るように説明した。て、そんなに俺は説明して欲しそうだった?
「この学園に入学するにあたり、貴族階級や地的情報など基本的な知識を揃えただけに過ぎない。天雷は知らなかったのか?」
「うぐ……わ、悪かったな! 貴族とかと無縁の田舎者なんだよ」
「別に咎めているわけではない。俺も貴族とは基本的に無縁の身の上だ。知らないものはこれから知っていけばいいだろう」
自分の名前を書き込んで、飛鳥に渡しながら答える。意外と理解があるというか、てっきり知ってるのが当然とか言われるかと思った。無縁ってことは青柳も田舎出身なのか。
「でも信君くらいの知識量は無理だって! どうせ、難しい本から娯楽書まで読み漁ってるんでしょ?」
「言い方に語弊があるが、俺自身は読書も知識を得ることも嫌いではないな。得手不得手があるのだから、他人に対して同程度を求めるつもりもない」
「ほ、本当! じゃあ入学したら課題とか全部やってもらおうかなー?」
「それは自分でやれ」
青柳の真隣から口を挟んできた風見。不満そうに口を尖らせてるけど、こっちもこっちで親しそうというか。
「えっと……仲良いのか? 2人とも」
「もっちろん! 信君とは将来を契りあったーー」
「幼少期に接点があっただけだ。こんなところで再会するとは思わなかったが」
「もう、冗談だってば」
冗談にしては気持ちが入ってたような。いやまあ、演技だろうけど、青柳に一切その気はなさそう。
といってもな、今の言い方からして、小さい頃に会って以来なんだろ? 覚えてる時点で相当な気もするんだけど。
「そんな鉄仮面じゃ友達出来ないだろうし……天雷君、信君とよろしくしてあげてね」
「あ、ああ。俺の方こそ。改めてよろしくな、青柳、風見も」
「こちらこそだ、天雷」
「えー、せっかくだから名前で呼び合おうよー」
いや、なんか風見の方がぐいぐい来るな。ニヤニヤしてるけど保護者気分なのか、ここまで表情1つ変えていない青柳が嘆息を漏らす。名前呼び、拘りはないけども。
「……悪い、迷惑かけるな。晴輝」
「あ、いや苗字で呼ばれることはあまりないから、そっちの方がしっくり来るから。俺も信でいいか?」
「ああ、俺もそちらの方が慣れている」
ニヤニヤと見つめる風見の前で改めて挨拶を交わしたところで、
「凍牙、焔くんがいるってことは5番かな?」
「あー……そっちでいいんじゃねぇか? 他の奴らも粒揃いっぽいし」
女子の先輩が受験票片手にその、氷銅先輩に話しかけていた。……なんだか不穏な雰囲気。強いグループに混ぜられるとか?
「な、何か問題でもあるんですか?」
「ほら試験ってバトルロイヤルだろ? そん中で戦い方とか実力を見たいわけなんだけど、ほぼ数人で全滅させたことがあったらしくてな」
「ある意味強い人とグループを組む能力も重要ではあるんだけど、試験方法を崩壊させてしまうような実力が偏っていそうなグループは別枠の試験方法に回すことになっているんです」
少し狼狽したような如月の問いに、先輩2人が続けて説明してくれた。強すぎる人が混ざってるせいで、他の人達を採点出来ないって話なのか。
いいのか悪いのか……そもそも自分の実力が周りとどのくらいなのか分からないし。
「どんな試験になるんですか?」
「それは行ってからのお楽しみだな! まあ、実力を測るのは同じだから気にすんなよ!」
なんだか意味ありげに、企むような笑みを見せる。言葉と裏腹にめちゃくちゃ不安を煽ってくるんだが。
「場所は闘技場を出て左。森の方に行けば迎えがいるだろうから、これ持っていって見せるようにな」
そう言って氷銅先輩は 5 とだけ書かれた紙を正面にいた竜一に渡した。
「では、受付はこれで終わりです。皆さん、試験頑張ってくださいね!」
「また後でな!」
先輩2人にそう送り出されて、俺達は列から外れて闘技場の入り口の方へ。さっきまでいた円形の会場の外周の通路を抜けて、でかい出入り口から出る。
行きは転移で来たから知らなかったけど、闘技場ってこんな見た目してたんだな。赤いレンガ調の馬鹿でかい円形の建物。高さの時点で俺の何倍あるのか。
「……はぁ〜。いやぁ、人多かったねー。息が詰まるかと思ったよ!」
「そんな風には見えなかったけど」
闘技場から出るなり、風見が深呼吸と一緒に言い放ったので、思わず口に出す。息が詰まるっていうか、ぐいぐい流れを作っていたよな。どう考えても小心者とは真逆だと思う。
「酷いなぁ! 僕は風属性だから風通しの良い方が調子が良いんだよ! ね、舞花」
「わ、私? 確かに風がある方が気持ちいいけど、属性は関係ないような……」
「ほらね!」
「いや、ほらねじゃなくて、如月の言ってたこと聞いてた?」
密集しているところより気分良いのは否定しないけども。竜一がいるからか、周りの視線が凄かったのもあるし。
「それで、森の方だった……よな?」
「そうだな」
竜一が訝しげに呟いたのも無理ない。闘技場を出て左。確かに森って言ってたけど、あんなに無造作に立ち並んでいて、木以外見えないのはどうなんだ。
迎えも、見当たらないし。
「ちょっと待ってみる……?」
「その方が安全だよな」
不安げな如月に同意。流石に野垂れ死ぬとかはないだろうけど、迷って試験に間に合わなかったとかは絶対避けたいしな。その方が無難だろう。と思っていたら何故が風見が含み笑いをし始めた。どうかした?
「ふふん、仕方ないなぁ。この僕が一肌脱いであげよう」
堂々と控えめな胸を張って、得意気に言い放つ。
「天雷君、何か余計なことを考えなかった?」
「……気のせいだろ」
さ、察しが良すぎだろ。他意はないって。
「ま、いっか。じゃあ、改めて【シルフコンセル】」
目を閉じた風見がそう唱えた途端、急に風が押し寄せて来た。柔らかくも心地よい風が風見に一度巻きついて、今度は四方八方に放出されていく。
「これって……探知魔法か?」
竜一が確かめるように呟いた。集中してるのか風見の返答はないが、代わりに如月が口を開く。
「うん。でも探知魔法って普通より難易度が高いはずだよ。この年で使えるなんて風見さん凄いね……」
えっと確か、探知魔法って風属性が得意なんだっけ。理由は忘れたけど。そうして十数秒もしない内に、風見がフッと笑みを浮かべる。
「あ、見つけた!」
「ホントか!? 早いな!」
「へへへっ、褒め称えてくれて構わないよ」
その言葉がなければな。
「それで風見。どこに行けば良い」
「むー……このまま真っ直ぐ森を突っ切ったら2人くらいいたから、そこでいいと思うよ」
真正面から信に斬り捨てられて、口を尖らせつつも風見は答えた。本当に探知魔法って人数とかまで分かるんだな……。便利過ぎる。
「ありがとうな、茜!」
「うんうん、こんなに速くて正確なんて凄いと思う!」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう。みんなも素直に褒めればいいのにね、飛鳥」
「え、う、うん……か、風見さんありがとう……」
竜一に如月、それから飛鳥の言葉に機嫌を良くする風見。意外と……ちょろい方か? まあ、風見のお陰で時間を無駄にしなくて済んだわけだしな。
「助かった。ありがとう」
「ああ、流石だな。案内についてもよろしく頼む」
「いいとも! じゃあ、僕に着いて来るといい!」
俺に続いて嘆息混じりに信が告げると、風見は声を弾ませて、先頭を切って森へと進み始めた。それに続いてと……ふと気になって後ろを見ると暁夜と、あの……水沢もちゃんとついて来ていた。
会話に一切加わらないから、一瞬どこか行ったかと思った。