ゆうげを朝に飲んでしまった。
僕は目覚めてメガネを頼りに朝から軋む床をひた歩く。
トイレに寄り道してから濡らしてもいない手でインスタント味噌汁をコンスタントに探った。
『あさげはもうなかったか』
味噌汁を飲むからこそ、頭が冴えるというのに。
これではプラスチックが擦れる音だけで目覚めてしまいそうだ。
僕は仕方なくオレンジ色のゆうげを手に取った。
紙をちぎって中身をコップに落とし込む。
お湯を注いでガタついた椅子に座る。
コップを置くよりも先に肘をついてダランと夢想。
いや、寝てはいけないのだった。慌ててひとすすり。
『――おお、冴える』
味噌汁というのは不思議なモノ。一口で世界が変わる。
瞬きを一回二回、三回繰り返す。顔を上げると赤い光が斜め上に差し込んだ。
『あれ?』
気がつくと夕日。時計を見ると本当に夕方。
仕事も忘れて、寝てしまったのか?
僕は会社に電話を慌てて差し込む。
『すみません、無断で休んでしまいました』
繋がる音に相手より先に割り込む。
『寝ぼけてるんじゃないのか? お前居たぞ』
『えっ?』
『じゃあな』
ツー。切れていく音、冷えていく焦り。
ひどく疲れていただけだった。
これもゆうげを朝に飲んでしまったからに違いない。
そう判断した僕はあさげをスーパーで買ってきた。
外は本当に夕方で、帰ってくる頃には星一つ。
この気だるさもあさげを飲んでいないからだろう。
プロ野球選手がロボットダンスじみた動きを繰り返すように、僕も同じ日々を摂取しないと繰り返せない。
さっさと、あさげを入れて椅子につく。
午後七時の時計を見ながらコップに口をつける。
午前七時の時計を見ていたら、味噌汁を飲み終わっていた。
味噌は長い時間をかけて作られますが、長い時間腐らずに使える調味料でもあります。戦国時代では兜の中に乾かした丸味噌を溶かして、啜ったとか。
ところで、溶け出た長い時間はどこに消えているんでしょうか。