表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

素直クール幼馴染短編集

素直クールな幼馴染がなにか隠している気がする。

作者: 梅酒司

いままで投稿した素直クール幼馴染短編をシリーズとしてまとめてあります。

上の方にリンクがあるのでそちらからどうぞ。

※6月8日 誤字修正と加筆しました。内容に大きな変化はありません。

 晴天の澄んだ空のような鮮やかな青色に染まった髪を(なび)かせた、少女がいる。

 セミロングの髪、俺が昔から好きな女の子。

 彼女の姿が水面の向こう側に見える。


宗司(そうじ)……」


 声が薄っすらと聞こえる。

 だが、俺は海の中で息ができない。


 ()()()()()


 苦しい。この時間早く終われと願い続ける。


 そして俺は彼女の名前を呼ぼうとした。

「――綾乃(あやの)


 ……

 …………

 ………………


 目を覚ます。


 今日も同じ夢を見た。ここ数か月同じ夢を毎日見る。

 また今日も口元に違和感を感じる。

 口はヨダレに(まみ)れていた。


「おはよう、宗司」

「……ああ、おはよう」


 ベッドで目を覚ました俺は目の前にいる幼馴染に挨拶をする。


 この夢を見て起きると必ず彼女がいる。

 だから俺はいつも安心できる。

 いつもの光景であり俺の日常を感じれる。


 幼馴染の綾乃とは家が隣同士だ。

 しかも、お互いの部屋の窓を開ければ行き来できる。

 昔からお互いの部屋を行き来していた。

 だから、窓に鍵をかけないのが暗黙の了解。

 こうして朝一番に綾乃が俺の部屋に侵入してきても不思議ではない。


「漫画借りるから」

「ああ」


 今日の綾乃はレースがあしらわれた白色のカットソーを身にまとっている。

 俺に挨拶をして本棚にある漫画を手に取る。

 そして、ベッドに腰を下ろして読み始めるのだった。

 俺は汚れた口元を拭いながら、その様子を見ていた。


 学校がない休日はいつもこんな感じだ。

 平日の場合、制服姿の綾乃が俺を起こしてくれる。

 変化があるとすればそれぐらい。


 だが最近、俺には不安なことがある。

 それは幼馴染である綾乃が俺になにか隠しごとがあるのではないかということだ。


 正確に言えば隠しごとでない。

 綾乃は嘘をつかない。質問をすればすべて答えてくれる。


「綾乃」

「なに?」

「お前の好きな人は?」

「宗司」

「今日の下着の色は?」

「水色」

「俺にいま一番してほしいことは?」

「結婚」

「それはちゃんと自立してから」

「わかった」


 こんな風に。


 付け加えて、綾乃は嘘や冗談が嫌いだ。

 なので、いま言ったことは全て本心である。

 子供のころからこんな感じなので俺も慣れ(バグっ)てしまった。


 隠しごとがあるかと聞けば「ない」と答えるだろう。

 それは何故か。

 答えは簡単だ。 こちらが聞かなかったから。

 なので隠しごとではなく、綾乃が俺に黙ってなにかをしているというのが正しい。

 故意で黙っているというよりも、綾乃にとっては言うことのほどではない些細なことという認識だろう。


 なんでそんなことを思ったのか。

 それは長い付き合いからくる()

 それとあの夢が俺の脳裏に強くこびりついてしまっているからだ。


「なあ、綾乃」

「なに?」

「俺に黙ってることってあるか?」

「あるよ」

「……例えば?」

「昨日上級生に告白されたこと、今日の朝ご飯手を抜いて一品おかずを減らしたこと、宗司が朝一必ず私の胸を見てることに気づいていること、宗司のCDラック左から三番目のケースにはエッチなDVDが隠されて――」

「すいません、それ以上は勘弁して」


 聞けば答えてくれる。

 だが、それが必ずしも俺の求めている情報とは限らない。

 今のように、藪をつついて蛇を出す状態になりかねないのだ。

 普通の蛇ならまだしも場合によっては八岐大蛇が出てくることだってある。


 ……だが、気になることはあるわけで。


「なあ、今言っていた告白って」

「三年の先輩。サッカー部の人だって」


 まるで事務報告をするように俺に教えてくれる。

 綾乃にとって告白をされることは、そう珍しいことではない。


 整った顔立ち、表情は豊かではないがそれが彼女の爽涼な雰囲気をより引き立てている。

 それに女性特有の膨らみもしっかりとある。

 平均よりあるだろう。


 綾乃はモテる。


 幼い頃から綾乃以上に可愛い子はいないと俺は常々思っていた。

 俺がテレビに出てくるアイドルに興味を持たなかったのも、綾乃のほうが可愛いとも思っていたからだろう。

 ただそれは幼馴染故の色眼鏡、そう考えていた。

 だが、それが色眼鏡ではないと知ったのは中学に上がってからだった。


 中学になってから、綾乃が告白をされたという話を聞くことが多かった。

 本人に直接聞いたわけではない。

 その多くは友人経由だ。

 だがそれも俺が聞かなかっただけで、綾乃が故意に隠していたとかではない。


 その証拠に綾乃本人から告白された時はなんて答えてるかと聞いたことがある。


「私には彼氏兼婚約者兼生涯を共にする伴侶がいるので」

 と、答えているらしい。

 そしてそれはたぶんいまも同じ返答をしているのだろう。


「あれだけきっぱり言ってるのになんで告白してくる人がいるんだ」

 だから、今日もこんな愚痴が出てくるのだ。

 綾乃は読んでいた漫画から目を外すことはなかった。

 本気で嫌がっているというより、家を出たら雨が降っていたぐらいの嫌悪感にしか思っていないのだろう。


「それは、たぶん冗談だと思われているんじゃないか」

 だから、俺もいつもと同じ解答を述べるのだ。

「なぜだ、宗司は私の彼氏であり婚約者であり生涯を共にする伴侶だろ」

「綾乃は間違ってないぞ、間違ってないんだが……」

 綾乃がいつもクールで冗談ひとつ言わない真面目な女子なのは知ってる。

 たぶんそれはいままで告白してきた連中も、それに周りの人も。

 だが、その言葉(返答)を真面目に言ってくる人がこの世にいるとは思わないのが普通なんだよ。


「理解に苦しむ」

 ただ一言そう言うと話は終わりということなのか、綾乃はそれ以上なにも言わず漫画を読み進めていた。


 俺は綾乃の彼氏というより幼馴染の腐れ縁としか思われていないらしい。

 親しい友人は俺達の関係を知っているが、学校内の全員が知っているわけではない。

 俺から言いふらすようなことはしないし、綾乃も自分のことをあまり話さないので情報としては一部の人しか知らないのだろう。


「それで、なぜ?」

 綾乃がぽつりとつぶやいた。


「なにがだ?」

「私が宗司に黙っていること聞いてきたのは」

「ああ、その話か」


 この際本人に相談するのがいいか……。


「最近、綾乃が俺になにか隠しごとしてるんじゃないかと思ってな」

「私が宗司に隠しごとなんてするはずないだろ」

「いや、それはわかってる」

 わかっているんだ。

 読んでいた漫画を閉じ、俺のことをまっすぐと見つめてくる。

 疑いとか、そういった類の目ではない。

 単純に俺がなぜそう言ったのかを知りたい。

 そういった目だ。


「なんというか()的なやつ」

「そうか」

 他の人なら、こんな曖昧な回答をすれば怒られるだろう。

 だが、なんとなくわかる間柄(幼馴染)だからこそ勘やふとした気づきを無視しない。

 それが綾乃の共通認識だった。


「俺に黙ってる……というか、報告する必要のないこととか……そういうことはないか?」

「難しいことを言うな」

「俺だって変なことを言ってるのはわかってるんだ」


「うむ、そうだな……」

 綾乃はそのすらっとした細い指で口元に寄せる。

 相変わらず綺麗な指をしてるよな。

 と、そんなどうでもいいことを考えてしまう。


「お前に黙ってやっていることか……いろいろあるんだが」

 全部が全部お互いに言うわけじゃない。

 いろいろあって当然だ。


「たとえば……、お前の部屋にあったエロ本を少々──」

「やっぱりお前か! 最近見当たらないと思ったんだ!」

 ここ数年の神隠しの正体が思わぬタイミングで判明した。

「自分の彼氏がどんなことに興味があるか知りたいのは当然だろ」

「……おい待て。その言い方は」


 嫌な予感。

 だが、踏み込むなら今しかない。


「……読んだか?」

「ああ。 それに全部、私の部屋に保管してあるぞ」


 予感のさらに上だった。


「だが、さすがに増えすぎて物置に入らなくなってきたのでそろそろ整理してくれると助かる」

「彼女の部屋でエロ本を整理するって拷問かなにかか」

 勘弁してくれ。

 そして、それを当然のように言わないでくれ。


「あとはそうだな」

 再び、すらっとした細い指が動く。


「お前のクローゼットに隠れたこともあった」

「もちろん、それは子供の頃だよな……?」

 お互いの部屋を行き来できるのをいいことに、子供の頃は相手の部屋に隠れて脅かすことをよくやっていた。

 さすがに綾乃を異性として意識してからはやらなくなったが……。

 それをこいつは……まさか。


「二ヵ月前だ」

「なにしてくれてるんですかね! あなたは!」

 直近だった。


「昔はよくしてただろ。それを久々にやろうと思ってな」

「待て……俺脅かされた覚えないんだけど」


 そんなことをされたら覚えてるはずだ。

 しかも、二ヵ月前だったらさすがに忘れないだろう。


「最初は脅かそうと思って隠れてたんだが、宗司が私の名前をぼそぼそと言っている現場に遭遇してしまってな」

「おい」

 待て。

 それって。


「いや、宗司も男だとは思ってたが私をおか――」

「ストップ!!」

 俺は咄嗟に綾乃の口を手で塞ぐ。


 待て……、待て……、待て……っ!!


 綾乃の顔を直視できない。

 恥ずかしいを通り越して。

 一種の罪悪感。


 だが、口を塞いでいた手をすべすべとした細い手に退けられてしまう。

「そう恥ずかしがることないじゃない、人間として当たり前のことだろ」

 フォローが逆に心の突き刺さる。

 しかも、それが綾乃の嘘偽りない気持ちなのが余計に。


「それに言ってくれれば私はいつでも心の準備はできている」

「……そういうのはちゃんと段階を踏むので」

 綾乃の顔を見れずに答える。


「やらないと言わない辺りが素直だな。宗司のそういうところ好きだよ」

「……」


 顔に余計な熱を加えてくるな。

 綾乃の顔が直視できないじゃないか。


「……ぁ」

「なんだ? 宗司」

「……口元汚れてたぞ」

 俺は話を紛らわす。


 さっき、口を押えたときに少しだけ違う感触がしたのだ。

 よく見れば薄らと白い跡が残っている。

 たぶん汚れか何かだろう。


「ほらこれ使え」

 ベッドの下に常備しているウェットティッシュを手渡す。

「ああ、すまない宗司のヨダレを拭き忘れてた」

 シュッと。

 箱から一枚取り出す音が聞こえる。

「ありがとう。さすが宗司気が利く」




 ……。





 いまなんて?




「……なあ、いま俺のヨダレって言ってなかったか?」

「うむ、そうだが」

 当然のことのように言われる。


 綾乃を見る。

 ウェットティッシュで口元を拭いている。

 なにもおかしな様子はない。


 先ほどの発言以外は。


「なんでお前の口に俺のヨダレが付くんだ?」

 今日はまだキスをしてないはずだぞ。


「寝ているときにいつもしてるぞ」

「誰が」

「宗司が」

「誰と」

「私と」







「……は?」





「あ、そうかこれも言ってないことだな」

 買い忘れたものを思い出したような、まるでそんな言い方。


「宗司を起こすときキスをしてるんだ。 君はなかなか起きないだろ?」

「なんで俺が起きないのが関係するんだよ」


「最初はただ触れるぐらいのキスをしてたんだ」

 さも当然のように言ってるがそれも初耳だからな。

「しかし、ある日どうしても舌を入れたくなってな」


 この子はなにを言っているんだ。


 だが、俺のそんな感情を知ってか知らずか――

 いや、あの顔。 わかっていて話を進めているな。

「舌を入れてちょっと経つとな、宗司が目を覚ますんだ!」

 それはまるでなにかを発見した子供のように。

「これはいいと思ってな、宗司を起こすときはいつもこれだ」

 細い指が俺の唇に触れる。

「名案だろう?」


「なぁ……それって俺、呼吸困難になってないか?」


 頭を冷静にし答える。

 ああ、そうか。

 だから溺れる夢なんてものを見ていたのか。


「そうか……、なら今度からは別の手段を考えないとか」

「なんでそんな寂しそうなんだよ」


 綾乃の表情は変わっていないが、言葉尻からまるで世界の終わりのような感情がにじみ出ていた。


「困るじゃないか。 宗司とのキスが一回分減ってしまう」


「起こしてからするのじゃいけないのか?」

「起きてからやってもいいのか」


 一転、世界は幸福に包まれていた。

 なんともわかりやすい世界をお持ちなのだろう。

 だが、そのわかりやすさが可愛らしい。


「いや、俺もしたいし」

 だから、こんなやり取りに慣れ(バグっ)てしまった俺もこんなことを平気で言ってしまえる。


「なら、いまもしていいということだな」

 と、同時に綾乃は俺を押し倒し唇を押し付けてくる。

「んぁっ……、ちゅじゅっ……、はあ……、ちゅるっ」

 そのキスはしっかりと舌が伸ばされていた。


 ………………

 …………

 ……


 翌日以降俺は夢の中で溺れることはなくなった。


「おはよう。宗司」

「ああ、おは──」

「んっ……、ちゅ、じゅっ……、ちゅるっ、はぁ……、はぁあ……」

「……んっ、朝の挨拶ぐらいさせてくれよ」

「その時間が惜しいんだ、ちゅじゅ……、ちゅる、はぁ……」


 晴天の澄んだ空のような鮮やかな青色に染まった髪を(なび)かせた少女。

 セミロングの髪、俺が昔から……今後ずっと好きな女の子。

 彼女の姿が目の前に見える。

宗司(そうじ)……、んっ、すきぃ……、ちゅ……」


 声が間近に聞こえる。

 俺は綾乃の口に塞がれ息ができない。

 だが俺に苦しいとかの感情はなく、ただただこの時間が永遠に続けばいいと願い続ける。


 あの日以降、俺は再び、

 ()()()()()

 だがそれは辛い夢の中ではなく、綾乃とのキスに溺れることだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] デロ甘…… 何か最近こんな感じに甘々なの見たなぁ、これシリーズ化されてるのかー、と思ったら同じ作者だった……!
[一言] あぁ、それで冒頭の溺れる夢なんですね。 なんて羨ましい。 でもこんなにストレートに愛を伝える女性を相手にすると、引いてしまうのが男性のサガなんですが、一歩も引かずに撃退する主人公に好感が…
[良い点] 綾乃が素直クールの体現者のような挙動で滅茶苦茶可愛いです…!最初の夢とヨダレの話が、「舌を入れてちょっと経つと宗司が目を覚ますんだ!」という発見につながっているのが素晴らしい。あと彼氏のエ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ