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意地悪な神様

作者: 玄野 燁

今日は、新年を迎えたばかり。これから初詣に行く。


中村隼、小学2年生は、神社では、目を瞑り、手を合わせて、お願いを心の中で唱えるとママから教わっていた。


それを同じクラスの和馬君に伝えると、和馬君は、「神様なんていないよ」と言っていたけど隼は神様を信じていた。


初詣は、毎年、地方で最も有名な大きい神社でやっている。この時期になると神社の周りには色々な屋台が並んでいて、寒いのにも関わらず、まるで夏祭りに来たような気分になる。


「どうか、パパとママが仲直りして、パパに会えますように」


隼は心の中でそう願い、母親と共に神社を後にした。


隼と母親の美津子は母子家庭を3年続けている。


隼は、神様を信じていた。だから、3年間ずっと願い続けているこのお願いも神様はいつか叶えてくれると思っていた。


でも隼は、それを言ってしまえば、ママは困ることを知っていたから、願い事を聞かれても秘密だと言って、誤魔化していた。




あれから、2ヶ月後、隼が春休みの宿題をしていた時、部屋の窓から、パパが乗っていたワゴン車が家の駐車場に停まろうとしていたのが見えた。


「パパーーーー」


急いでパパの元へ駆け寄る。


「久しぶりだなーー隼」


「あら、あなた、おかえりなさい」


ママもパパに会いに、外に出てきた。


パパは隼の頬にヒゲを押し当てグリグリ動かした。


「痛いよパパ〜〜」


やっと願いが叶った。神様にずっと願い続けていた成果が出たのだ。やっぱり神様はいるんだと隼は思った。


あれから、隼は、パパと一緒に、近所を散歩して、帰って家で温かい鍋をつついた。


パパとママは楽しそうに、おしゃべりをしている。


隼は、パパとママが楽しく話をしているところを初めて見たような気がした。

実際には、忘れていたと言った方が正しいであろう。


隼は、パパと一緒に久しぶりにお風呂に入り、久しぶりにパパの布団に入った。


眠る手前、隼は聞いた。


「パパ、これからもずっと一緒だよね」


パパは悲しげな顔をしていた。

何か言いたげだったパパはしばらくして口を開いた。


「パパはな、隼ともう会えないんだ」


「え?」


隼の表情が固まった。


「この前、毎年行っていた神社にお願いしたら、一度だけ会わせてやるとお告げが来たんだ。だから、もう会うことはできない。でも、それは隼も同じ気持ちだったから叶ったことなんだ…………もう会えないけど、パパは隼を愛してる」


隼は、なにか言おうとしたが、激しい睡魔が隼を襲った。




隼の目が覚めるとパパはいなかった。外は朝というにはかなり明るい。隼は、昼寝をしてしまっていたようだ。今日起こったパパとのこれまでが、全て夢だと分かった隼に、とてつもない喪失感が襲う。

ママが、隼の元へやってきた。


「どうして、パパはずっと戻ってこないの?」


小学生ながら、なんとなく察していた隼の、今まで抑圧してきた言葉だった。

するとママの後ろには見知らぬ男が居た。


「隼……この人が新しいパパよ」


「新しいパパなんていらない!」


隼はそう言い、走って家を出た。

夢の中でパパが言っていた「もう会えない」の意味がやっと分かった。パパはきっと分かっていたんだ。どこかで知ったんだ。ママと新しいパパのことを。


走り続けて、気がつくと家からだいぶ離れた公園に来ていた。

そこで、和馬君が、一人で砂の家を作っていた。


「あ、隼くん。神様はやっぱりいなかっただろ?」


「なんで神様の話を?」


「俺、毎年、ママに会いたいって願っていて、3年同じ願い事をしていたら、去年の今頃に会ったんだよ。でも夢だったんだ。あれから神様は信じてない。きっと隼くんも同じことを神様に願っていたんだろ?」


「うん、そうだよ。それで夢の中でパパに会うことができた」


「へぇ、すごいなぁ」



隼は少し考えた後、言った。



「もしかしたら、神様の力かもしれないね。きっと、このままだと二度と会えないところを、神様が会わせてくれたんだと思う」


「なるほどなぁ、意地悪な神様もいたもんだな」




隼はそのまま家に帰り、ママに一言謝り、その後、ママと新しいパパと一緒に温かい鍋をつついた。


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