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仮想の水 - Waterland of Inworld  作者: uota
第2章  彷徨
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第18話 来客

 ホテルに戻って居候らしく掃除の手伝いをしているうちにお昼になった。食事を終えて休憩をしていると、新しい客人が訪ねてきた。どうやらマリーさんの古い友達らしい。ナーシュさんとも面識があったようでナーシュさんの思い出話に花が咲いている。マリーさんにいっしょに話しましょうと呼ばれてヨットの販売をしているというタークさんを紹介される。今は、単独でブレイク海をセーリングしている途中で、マリーさんと会うためだけに寄港したのだそうだそうだ。


 航海途中でここに立ち寄る人も多いという。部屋から南青海の美しい海を眺めながら、航海の疲れを癒しつつ次の計画を考えるにはこれほど環境の揃ったところもないだろう。港には有名なヨット工房もあるらしいので、利用する人が多かったというのもわかる。今はホテルとしての事業を営んでいるわけではないから、古くからの知り合いが昔を懐かしみ立ち寄るということのようだ。


「途中、ダルビー船長の船を見かけましたよ。頑丈そうで、働き者のあの船でしたね。今も変わらずなんですね。長いのにたいしたもんです。昔の船は作りがしっかりしているから、ダルビー船長のあの船に対する愛情は半端じゃないですし、手入れさえしっかりしていればいつまでも壊れることもないということでしょうね。」


「譲り受けた人との思い出も詰まってるからっていつも言ってますよ」


「そうですよね。当時はダルビー船長も大変だったから、あの船は戦友みたいなものなのかな」


 ダルビー船長の船の話でひとしきり盛り上がると、マリーさんがセーリングのことに話を変えた。


「タークさん、今回はずいぶん時間がかかりましたね」とねぎらうように言った。


「いやあ、今回ばかりはまいりました。セーリングの途中でラダーが壊れてしまって、一週間ほど誰もいない海で漂流生活ですよ」


「一週間も? それは大変だったわね」


「ところが、そのおかげでいいことがありましてね。たまたま流れ着いた島が手付かずの自然がそのまま残っている地上の楽園のようなところで」


「あら、それは不幸中の幸いだったわね」


「ほんとに、幸いのほうが多かったかもしれないです。助けてもらった島の人に羅針盤までみてもらって。何日かお世話になってしまってたんですけど、それはもうきれいな島でしたよ。みなさん、最近火事があって大変だったと言われてましたけど」


「火事……」マリーさんがこちらを見た。


「それ、なんという島でした?」


「島の名前はわからないですけど、いい温泉なんかも教えてもらって。楽しくなるお湯や元気になるお湯や、めずらしい温泉がいろいろありましたね。お土産に特性の灯台キャンドルまでもらってしまって。おかげでこうして元気にここまで帰って来られました。あの島の人たちのお陰です。」


「そうでしたか」 マリーさんと目をあわせた。


「どこだかご存知ですか? あそこの周辺はどうも羅針盤が効かないようで、場所さえよくわからないんですよ」


「 タークさん、ここにいらっしゃるオルターさんはそこの島の方よ」


「え! そうなんですか?」


「たぶんそうだと思います」ちょっと曖昧な答え方をしてしまったけど、おそらくウォーターランドだろう。


 もう少しはっきりさせたかった「だれかと話をされました?」と聞いてみた。


「名前は聞かなかったですが、キノコを集めてた子と、ピンクのカバといっしょのネモニさんと言ったかな? それと灯台を貸してくれたミリルさん。すっかり食事や宿までお世話になってしまいました。島の名物のキノコや牡蠣のおいしかったことといったらなかったですよ」


 まちがいなくウォーターランドだ。なんだか自分の住む島の住人がほめられると自分のことのようにうれしい。


「失礼ですが、オルターさんは、あそこで何を?」


「申し遅れました。ちょっと本屋の真似事をしてまして」


「あ、たぶん、そこに伺いましたよ。キノコの子に教えてもらって。そこのミリルさんに灯台の宿まで用意していただきました。親切な方ですね」


「あはは、それはよかった。灯台の宿は最高ですからね」


「本屋さんのほうでも、あんまり風が心地よくて昼寝している人もいました」


「あそこは、別名うたた寝屋とも言われていますから。ははは」


「うたた寝屋っていい響きだな。イメージにぴったりだ。また、行きたいなあ……といっても場所がわからないし」と言ってタークさんは一人笑った。


「船長は場所をよく知ってますよ。聞いてみるといいかもしれません」


 ウォーターランドを訪ねてきた人をみんなでがんばって迎えている様子が目に浮かぶようだ。不在中の島をみんなで守ってくれている話を聞けてほんとによかった。こちらもみんなにいいお土産話ができるようがんばらないといけない。


「これ、オルターさんたちが作られている島の新聞なのよ」マリーさんがタークさんに島便りを見せた。


「あ、温泉のことが書いてありますね。これはいい。定期刊行されているんですか? 僕もこれほしいな」


「港で配布してますからいつでももらえますよ」


「誰でももらえるんですか。それはいいことを聞いた。でも、あの島のことはあまり知られたくない気もしますね」


「そうですか?」


「いや、なんというか、誰でも行けるようになるとどうなるのかなと……でも、独り占めというのはよくないかな」


「メーンランドの人はいろいろ大変そうだから、ああいう生活もあることをご紹介したいと思っているんですけどね」


「わかります、わかります。そうですよね、隠すようなことではないですもんね」 タークさんは自分に言い聞かせるように言った。


 タークさんの話を聞いて、ウォーターランドは誰でもが行けないから、いいところがたくさん残っているということにあらためて思い至った。一人でも多くの人のためになる島であってほしいと思う気持ちはあるものの、たくさんの人が押し寄せるようになるのもちょっと違う気がする。たくさんの人に幸せを感じてもらうために、たくさんの人に島のことを伝えることがいいことなのかどうか。幸せを共有するために開かれた島であることは間違いではないはずだけれど。最近は飛行船も来るようになっているし、メーンランドに来てみるとウォーターランドの将来についていろいろ考えてしまう。船長はそのあたりのバランスをうまく取ろうとしているのだろう。


「それにしても、あそこは人がいい。やはり環境が人をつくるんでしょうね。豊かな自然が一番ってことですね」


「ほんとうは人がいないほうが自然にはいいのかしら……」マリーさんがぽつりと言った。


 タークさんが「いやいや、人も自然ですよ。ヨットに乗っていればよくわかります。人のできることなんて自然に学ぶことぐらいですから」と明るい声で言った。


 タークさんは、今夜はホテルに宿泊するということだったので、遅くまで南青海や南黄海のいろいろな景勝地の話を聞かせてもらった。美しい景観に心を奪われない人はいない。それが人と自然がひとつであるという意味なのかもしれない。

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