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仮想の水 - Waterland of Inworld  作者: uota
第2章  彷徨
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第2章 第4話 イルカの歓迎

 慣れない船旅と準備の疲れもあって、翌日は朝食のベルの音に起こされるまでぐっすりと寝てしまった。船は朝食時間にはもうエンジンが全開で回っていた。頬をなでる風は朝日のすがすがしい匂いに満ちて、水面は朝日を溶かしてつくった絵の具を流し込んだように黄金色にきらきらと輝いている。


 船上で迎える朝は気持ちが大らかになり、とても楽しい一日になりそうな気分にさせてくれる。


 昨夜思ったことと逆に、朝の海は世界をひとつにつないでくれているというイメージが強くなる。朝と夜では海もまったく違った表情を見せてくれるからおもしろい。


「ほら、今そこにイルカが見えたわよ!」乗客の一人の奥さんがうれしそうに声をあげた。


それを聞いて、うさぎの少女も部屋から飛び出してきた。


 みんなで船のまわりをジャンプするイルカにさわろうとするけどなかなか思うようにいかない。


 船長に船を少し止めてもらおうと提案するとみんなから歓声があがった。


 操舵室の船長に相談に行くと、「鮫じゃないのか? 食われないように気をつけたほうがいいぞ」とそっけなく言われた。こんなところで止めてくれなんて言うこと自体に無理があったのかもしれない。


 船長のご機嫌を伺うように「ここはサメがたくさんいるのか……」と独り言のように言ってみる。


「うじゃうじゃいる。入れ食いだな」という答えが返ってきた。


「入れ食いって……」思わずその光景を想像してしまった。


 船長がどこまで本気で言っているのかわからなかったけど、その口ぶりから少なくとも冗談ではないようだった。


「俺の親父は猟師をやってて、たまたま出くわしたサメの野郎にまんまと飲み込まれた」


「まさか、ミドリ鮫に?」


「そのときいっしょにいた人の話だと、海面が一瞬緑色になったって言うから、俺はミドリ鮫に違いないと思ってるけどな。もともと俺がウォーターランドの海域に入ったのは、親父を食ったそのサメを自分の目で確かめたかったからだ」


「そのときにミドリ鮫を見た?」


「いや、そうやすやすと見つかるようなやつじゃないからな。でもな、ここを定期航路として何度も航海をしている間に一度だけ小さいやつにお目にかかった。なんだか、人食いと思えないようなきれいな鮫で、こいつらが本当に親父を飲み込んだのだろうかって、見たときは信じられなかったな。なにかの間違いじゃないかと。半透明のやたらきれいな緑色の鮫だった。


「船長はそれで鮫がきらいなわけだ」


「まあな、真偽のほどはわからないが、見たという人がいるんじゃ、それを信じるほかないからな」


「俺の船乗り人生はもともとサメを探す航海に始まった。それがいつのまにか島の不思議な航路に魅せられちまって、やっとの思いでその島にたどり着いてみれば、これがまたお人よしの集まりだったというわけだ。わははは」


 エンジンが、静かになり船がイルカの群れの中にゆっくりと止まった。船長は目を凝らして海面を見たあとに「鮫はいないようだな」と独り言のようにつぶやいた。


「あの島は俺を呼んでいたと思ったな。それで、定期船のコースを変えて爺さんのいるウォーターランドにも立ち寄ることにしたってわけだ」


「じゃあ、ミドリ鮫様様だ」


「たしかに。親父がサメに飲み込まれていなければ、爺さんと出会うこともなかったな。不思議な巡り会わせだ」


「俺はいつかミドリ鮫のやつを見つけて、親父の中途半端な思い出にも決着をつけたいと思ってる」


「それは、鮫を捕まえるということ?」


「そうとも言えないな。やつに正面から向かい合ったときに何かけじめがつくような気がする。おそらく以前見たような小物じゃなくて、でかいやつがいるんじゃないかと思ってる。海面を緑色に染めて人を飲み込むほどのな」


デッキのほうから「今、頭にさわったよ!」という声が聞こえた。イルカが集まっているのかもしれない。


「というわけだから、イルカにばかりに気を取られないで鮫にも気をつけたほうがいい」


船長は、葉巻に火をつけてシートに座った。


船のまわりでは、私たちを歓迎してくれているようにイルカがどんどん集まっている。かれらのうちのどれかがウォーターランドにも遊びに来てくれているのかもしれない。イルカも鮫も同じ海で繋がる友達としていつまでも仲良くしたいものだ。

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