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仮想の水 - Waterland of Inworld  作者: uota
第1章 誘い
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第36話 並ばない頁 * +

 楽しみにしていた温泉は思ったよりも早くできた。明日には試せると聞いて年甲斐もなくうれしくなってしまった。ネモネさんのカバくんもこれで少し休めるというものだろう。おいしい水にどんな効用があるのかはわからないけれど、このところちょっと気になっている物忘れなどにも効果があるといいとか、すっかり寂しくなっている頭の毛が生えてくるようなことがあるかもしれないとか、ありそうもないことをいろいろと想像してみたりする。神頼みみたいな効用ばかり思いついて自分でもなんだかおかしくなってしまう。それでも、そんなことをあれこれ思う時間がまた楽しい。ノートの主もこの島の水の効用について何か気づいていたのだろうか。もし、それを知っていたのなら、こちらがまだ気づいてないだけでどこかに書き残してあるかもしれない。



 そんなことを考えていたときに、船長の言っていたノートの印刷のことを思い出した。そろそろはじめようかと思い立ち、引き出しからノートの束を取り出してみる。ページさえもふられてないままにばらばらに重ねられた状態で封筒に入れられているので、はじめてみた人は頁の順番に並んでいるものと思い込み読み始めるかもしれない。

 実際には、私が推測で並べただけで、その順番が正しいという保障はどこにもない。何日目というような記述があるものはそれを頼りに読み進めることもできるけれど、ここに残ってない頁や記述の抜けも多いから日付の入ってないものをどう並べて読むかでわかる話もわからなくなる。読む側がつくった順番によってどうにでも解釈できてしまう可能性すらある。

 それを思うと消えかかった文字をなんとか読んで、見やすくするために印刷することはできたとしても、推測だけで頁をふることはむずかしいかもしれない。仮に製本したとしても、今のノートと同じように時間軸は判然としないままになってしまう。頁のない紙の束は本とは言えないだろう。

 頁と時間の流れは似たものかもしれない。季節の記述があるところは、その季節を想像しながら読むことが多いけど、それが何年目の話なのかもわからない。結局、ばらばらになったノートは夢と同じように記憶の断片でしかないのだろう。だからこそ、このノートが島民を引きつけてやまないとも言えるのだ。


***** ノート *****


 天まで届く真っ白な入道雲。夜の月もいつになく白く大きく輝く。


 夏が苦もなく過ごせているのは、リアヌシティに比べて湿度が低いおかげです。その分、日に当たっている時間を気にすることもなくなるので、いつもこの時期にはひどく日焼けしてしまいます。木陰で過ごせばこんなことにはならないのですが、風を楽しみたくて海辺で昼寝などをしてしまいますと、1日にして長い休みの後の子供のように真っ黒になってしまいます。空気が澄んでいることも日焼けをひどくしている理由のひとつだと思います。日の当たらない事務所で校正作業をしていたころを考えると、今は別人のようにたくましくなっていると思います。リアヌシティに戻っても誰だかわかってもらえないかもしれません。


 海辺にいて気付いたことがあるのでそれを書いておきます。それは、満月の周期が普通より長いと感じるのと、海の干満の差がメーンランドよりもはるかに大きいということです。とくに島に来たばかりのときの最初の満月のときが島が水没しそうなほどに水位が高かったことを考えると、あの赤かった月の色との関係もなにかあるように思えます。あの日はいつも以上にたくさんの魚影も見られたような記憶があります。満月の日に産卵をする動物もいると聞いたことがあるのでその関係かもしれませんが。"きまぐれ”が現れたのもちょうど満月の時期だったように思えるのです。


 まだ、はっきりと確信は持てないでいますが、ジギ婆さんが言っていた、時間がゆるりと動く謎に少しずつではありますが近づいているような気はします。残念ながら、ひとつひとつのおかしなできごとはまったく理解できないことばかりですが。



***** ノート *****


 この頁は何年目の夏に書かれたものなのだろう。月の周期が遅いというのは果たしてどのぐらい遅かったのか。もしかすると、彼の単なる思い込みで2週間ごとに満月になると考えていたのかもしれない。そうじゃないとあまりにも道理が合わないというものだろう。それとも、星空のこともしばしば書かれていることを考えると、天文に詳しくて1日程度の遅れを正確に観測して把握していたのだろうか。


 こういう風な内容の曖昧さがあることも含めて、順番のわからないノートを印刷にして本にするというのはなかなかむずかしい話になりそうだ。普段この島で生活をしていると時間を気にしないでいられることをありがたく感じていたし、ゆったりした暮らしはこの島の良さだろうけど、このノートのように時間の順番がわからなくなってしまうとさすがに困ってしまうかもしれない。まるで老人ボケのようなものだ。もしも本当に島から時間が消えてしまうようなことになると相当やっかいなことになる。


***** ノート *****

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