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仮想の水 - Waterland of Inworld  作者: uota
第1章 誘い
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第35話 留守

 ノーキョさんのお店はガチョウやアヒルが放し飼いになっている。お店に入ろうとすると、グワグワいいながら後をついてくる。出迎えのつもりなのか、それとも番犬ならぬ番鳥なのか。横をみると生みたてのタマゴがころがっていた。これはアヒルの卵なのだろうか。ひとつ拾ってみるとほのかな温もりが手に伝わる。

 アヒルには名前がついているらしく、小屋にはガーコとガースの新居と書いてある。もしかするとツガイなのかもしれない。ということはこの卵には命が宿ってるということだ。小さな命もこの島の住人、大切にしないと。2羽に挨拶の気持ちを込めて、そっともとの場所に戻した。


「ノーキョさん、います?」


  何の返事もなく、音もしない。机を見ると15時まで、小島に渡るとの書置きが置いてある。用がある方は、裏の信号煙でお知らせくださいと書いてあった。信号煙というのはスロウさんがつくったもので、何かの連絡があるときに、火をつけて煙を出すもの。回転する蓋で煙の間隔が選べるようになっているので、煙の色と量でいくつかの連絡が読み取れるようになっている。昔でいうところの狼煙といわけだ。これは手先の器用なスロウさんならではの作品だと思った。島一番の発明家としても誰もが認める人で、なんでも作れてしまうスロウさんが羨ましい。


 15時までにまだ2時間もある。こんな、時間に店をあけるのもめずらしい。急用でも入ったのだろうか。店の中を眺めるとこの前にもらったインキが濃い、普通、淡いの3種類の瓶に入れられ棚に並んでいる。気泡が入った手作りの瓶も味わいがあっていい。これも新しい商品ということになったのだろう。島便りに使っているインキとわかれば、お土産に持ち帰る人もいるかもしれない。


 もう一度置き手紙を見ると赤い矢印と双眼鏡の絵が書いてあった。もしやと思い壁に掛かっている双眼鏡を持って外に出た。矢印の向いていた西の海のほうを眺めるとそれは西側の小島のひとつを指していてた。双眼鏡を覗いて見るとノーキョさんの姿が見えた。なにをしているのだろう。ネモネさんとスロウさんもいる。そうか、あそこで温泉が出たのに違いない。ネモネさんもあんなところまで探していたとはご苦労なことだ。見た感じでは、温泉もずいぶんそれらしい形になっているように見える。もう何日も掘っていたのかもしれない。カバくんもすっかりピンクになっている。あれはきっといい水なのだろう。小島に渡るか、3人が戻るのを待つかを考えていると、ナミナさんが、旅行鞄を持って歩いて来た。


「こんにちは、ナミナさん。お出かけですか? 」


「ええ、カーニバルに呼ばれているんで」


「あ、トラピさんと同じところですね」


「そうです。彼はもう現地に入ってます。私のほうはご覧の通りのゆっくりでー……クナ、センカ、静かにしててねー」


「あはは、元気いいお子さんだ。お兄ちゃんがクナくんでお姉さんがセンカちゃん?」


「この子たち双子なんですね。もう、いたずらで、いたずらで」


「でも、楽器のほうは上手に演奏できる。たいしたものだ」


「小さい頃から旅回りでいっしょに演奏してたので、知らず知らずのうちに覚えちゃいましたね。と言っても、太鼓と簡単な笛ですけど。あ、この子たち私の子供じゃないですよ。ある人から旅で遠くに行くので預かってくれと頼まれて」


「そうなんですか。でも、3人の演奏はとても楽しくていいですよ。聞いてるだけで身体が踊り出してしまう」


「音楽は楽しく……あ! クナ、だめだめ。そんなことしたらセンカが困るじゃない。静かにしないといっしょに行けないよ」


 まだ、小さい二人の子供は元気がいい。なかなかじっとしていられないようだ。親子じゃない3人が面倒を見ているのには事情もあるのだろう。あまり詮索しないほうがいいかもしれない。


「オルターさんは、ここで何を?」


「ノーキョさんを訪ねて来たんですけど、ちょうど小島のほうで温泉堀りをしているようで」


「あ、今日にでも入れるようになるって言われてた温泉ですね。温泉入ってから出発の計画だったんですけど。ちょっと間に合わなかった」


「今日と言ってました?」


「建物はそのうちにとは言われてましたけど、お湯にはいるだけなら今日からでもって」


「また、張り切って掘ったもんだな、ノーキョさんも」


「私が入りたいってわがままを言ったからかもしれません。悪いことしちゃったな……あ、オルターさん、私、飛行船の時間があるので、これでー」島に向かってくる飛行船の機影を見つけたようだ。


「ああ、お引き止めしてごめんなさい。気をつけて。トラピさんにもよろしくお伝えください」


「わかりましたー。ハトポステル出すように言っておきますね」


「ノートのことわかったら、連絡くださいって伝えてください」


「ノート? 」


「そう言えばわかると思うので。わからなかったらいいです」


「はーい。じゃあ、オルターさん、行ってきまーす」


「いってらっしゃい。クナちゃん、センカちゃんも気をつけて」


「はーい、おじいちゃん、ばいばーい」


 3人を見送って、あらためて小島のほうを見ると、座って休憩しているように見えた。もう、石を敷き詰めるだけということのようだ。あの様子だと海との境目がないような温泉になるのかもしれない。海とつながった温泉なんてこの島ならではの楽しみだ。みんながメーンランドから戻って来る頃にはいい水のきれいな温泉が完成しているだろう。


 この日は、結局3人が戻ってくるまでガーコとガースを相手にノーキョさんのを待つことにした。島の時間は使いきれないほどたっぷりある。


 みんなが戻ってくると、温泉の湯船が完成したので、翌日はみんなで試し湯をしようということで話がまとまった。手伝いで来たはずだったのだけど、若い人の勢いにはとても追いつけない。

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