その花、堕落させる毒花につき
レディリリスの続編
エルフ、魔族、人族、様々な種が共存を果たした国・ハイエロ王国
数百年ほど前は人間以外を認めていなかった国だが、ある時魔王により国は落とされ、新ハイエロ王国として建て直された
そこは皆が共存できるような環境となり、今では外から来る者が増加する傾向となっている
「それでぇー、リリス様はなんて言ってたんですかー?」
「断罪ごっこに参加するので各々根回しは頼みましたよ、だそうです」
黒い燕尾服に身を包んだ中性な顔立ちのリリス配下の悪魔・ルルはメイド服に身を包んだ同じ配下のサキュバス・マヌエラから今回の作戦を聞いた
「母上、私はそろそろ限界なのですが…」
「僕も同じく限界です…」
「あらあら、貴方達二人が根をあげるなんて今回の子は相当骨がある子なのね」
クスクスと少女のように笑っているこの国の王妃のリリスは冷たい印象を受ける長男と次男の頭を撫でていた
二人は特に嫌がらず、寧ろそれを促すかのように手に擦り寄った
「お兄様、"愛しの聖女様"が会いにきてくださってますよ」
「頑張れ兄上!俺は隠れてるから!」
「お母様、私達はセリーヌ様の所へ行ってまいります」
長男と次男が嫌がる中、人懐っこい顔の三男が良い笑顔で死んだ顔をした二人を送り出し、母親によく似た可愛らしい妹達はリリス配下のサキュバス・セリーヌの元へ向かった
子供達がいなくなったあと、リリスはある方向に視線を向けると呆れた声を出した
「陛下、そんなに面白がってますと子供達に嫌われてしまいますよ」
「クックック…いや、我が子ながら苦労するなと思ってな」
呆れ顔のリリスの前に物陰から出てきた魔王は肩を震わせながらリリスの隣に座った
「それで、今回は誰狙いで近づいてきたのだ?」
「今回はギルバートが本命のハーレム狙いだそうです」
事前に影達に調べさせた情報を魔王に伝えると、魔王は少し考えた後マリアを呼び出した
「コーデリア嬢はどう動いてる?」
「周りの令嬢を完全に手駒にして証拠を集めております」
「流石リーファ様の娘ですわ…マリア、ステラ嬢には危険は及んでいませんよね?」
リリスの言葉にマリアが笑顔で「セリーヌの精鋭隊が付いてますから」と答えると、魔王とリリスは苦笑いした
「御機嫌ようステラ様、今よろしいかしら?」
「御機嫌ようコーデリア様…はい、あの…ご用件は?」
少し色素の抜けた金髪に緑の瞳、同年代にしては抜群のプロポーションを持つエルフの王の娘のコーデリアは緑のドレスを纏い、同い年で少し幼い印象を持ち、深海のように濃青色の髪にコバルトブルーの瞳、海のような青いドレスの人魚族の王の娘のステラとテラスで話をしていた
「聖女についてのことなのだけれど、何か知っているかしら?」
「友人に聞いた程度なら…私達の婚約者以外の婚約者持ちの見目麗しい殿方とも仲良くしていると…それから彼等は婚約破棄も考えているそうです」
コーデリア達は自国の王の娘であるため、魔王の息子達と将来を共にするのは決定事項であった
周りからすれば政略結婚だが、自分達はお互い好きな相手と結婚できる為、特に結婚に関して文句はなかった
勿論そこに至るまでリリスがお互いの為にと裏で何かやっていたのは皆周知の事実だが、それでも全員感謝していた
「ギルバート様達は私達を捨てるようなことはないと思いますが、もしものことがないよう情報交換をと思いまして」
「そうですね…コーデリア様もご存知だと思いますが、魅了持ちなのは確かだと思います…私の勘違いなら良いのですが、魅了の術式が少し変でして」
「それは聖女という方が異世界からの者だからですよ」
「「セリーヌ様!?」」
二人が驚いて横を向くとそこには優しく慈愛に満ちた微笑みを浮かべるリリス配下のサキュバス・セリーヌが立っていた
二人が急いで挨拶しようと腰を上げる前にセリーヌは二人に待ったをかけて影に持って来させた椅子に座った
「リリス様から聖女の化けの皮をパーティーで剥がすので楽しみにしておくようとのことよ」
「リリス様から…あの、前から思っていたのですが、どうして私達は王妃様であるリリス様のことを王妃様と呼んではいけないのですか?」
恐る恐るとステラが尋ねると、コーデリアも疑問に思っていたのか同じようにセリーヌに視線を向けていた
「魔族は他の種族と異なり身内同士の繋がりが強い傾向にあるわ…魔王様を除いて上位の者達も関係なく名前で呼ばれるのは当たり前、貴方達はリリス様にとって娘になるのだから不思議ではないでしょう?」
魔族と異なりエルフ達はそこまで仲間意識の強い種族ではない一方、人魚達は同種にしかそのようなことを強く持たない為あまり慣れないことであった
勿論人魚やエルフも伴侶となるものは大切にする傾向はあるが、やはり魔族の仲間意識にはあまり慣れないようだった
パーティ当日、建国日として国民全員が浮かれていた
貴族と言われている者達は礼服に身を包み、本日の主役である王族や成人を迎える自身の子供達に心震わせた
「リリス様、聖女様がドレスの変更を要請しております」
「あら、また我儘を仰るのね…ギルに変更させないよう口説いてくるよう言っておいてくれるかしら?」
「母上、何気に鬼畜ですよね…」
支度途中のリリスの元にマリアが聖女のことを報告し、リリスは直ぐに笑顔で困ったなどと言いながら丸っと長男のギルバートに押し付けた
三男であるミカエルはリリス似の顔でニコニコしながら兄の嫌がる顔を浮かべた
「皆様、本日のパーティを始める前に明らかにしなければならないことがあります」
ギルバートの言葉に皆がざわついていた
勿論ギルバート達はこうなることは想定内だった
「まず、我が国の聖女であるセイラが学園において私の婚約者であるコーデリア嬢と弟の婚約者であるステラ嬢、そしてリース嬢にイジメを受けていたと報告があります…三人共前に出よ」
ギルバートの言葉にコーデリア、ステラ、リースの三人が前に出た
コーデリアは今回濃い色のギルバートと対になるよういつもより淡い若草色のドレスを纏っていた
一方ステラは濃青色のドレスを着ており、次男のアルフレッドとお揃いにしていた
リースは濃い紫のドレスに美しい金髪を真っ赤なルビーの髪留めで纏めていた
「ギルバート様、具体的に私達はいつどこで聖女様に何をしたかお教え願います」
「分かった…セイラ、教えてあげるのだ」
「(きた!)わ、私が一人の時いつも三人のどなたかが必ず私に下賎な者やギルバート様達に近づくなと…私、怖くて…」
はらはらと涙を流すセイラに一部の者達が神聖なものを見ているかのようにウットリとしていた
「そ、それに…2日前にはリース様に階段から突き落とされました」
セイラの言葉に全員が驚いていたかのように見えたが、一部事情を知っている者達は肩を震わせて笑いを堪えていた
(ヤバイ…あのこ面白すぎ)
ルルは美青年に変化し参加していたが、バレないように端の方で肩を震わせていた
そしてリースもまた呆れていた
「あら、私は貴方にずっとお会いしておりませんでしたが…どなたかとお間違いになったのではなくて?」
リースがクスッと笑うとセイラはビクッと大袈裟に飛び跳ね、ギルバートの後ろに隠れた
(まったく、側近達は何をしてきたのかしら?どう考えてもその子が悪いのに)
リースが呆れているとコーデリアが一歩前に出て反論し始めた
「何か勘違いをなさっているようですが、私は"婚約者のいる者に不用意に近づくのは品位を疑われますわよ"と仰いましたし、"身分の低い者から話しかけるのはマナー違反でしてよ"とも注意致しました…ステラ様も同じようなことを仰っていただけです」
「はい、私もコーデリア様と同じことを注意致しました…ですが、分かっていただけず、いつも"アルフレッド様に相手にされないから"などと訳のわからないことを仰っておりました…」
「私はそもそもセイラ様と接点がほとんどありません…友人であるギルバート様達とお話しすることは多々ありました…その後何故かセイラ様がやって来て私を一方的に責めるのです…私、セイラ様に名前すら名乗っていませんのに…」
リースが不思議そうに言うと周りの者達はセイラに視線を向けた
セイラはマズイと思ったのか咄嗟に「嘘よ!」と声を荒げた
すると突然国王がやってくるという知らせが届き、会場中の者達が扉は視線を向けた
「なんと神々しい…流石魔王と呼ばれるだけある」
多くの者が魔王にひれ伏し、女性達はウットリと熱い視線を送った
自分を側妃に…魔王様の子を…などと思いにふけっていた
それはセイラも同じようなことを思っていた
(ギルも素敵だけど魔王様も素敵…魔王の妻になれば私は王妃…)
「皆、楽にして良い…ギルバート、アルフレッド、何を騒いでいる…事によっては今後のことに影響があるぞ」
「ギルとアルは悪くないんです!私がコーデリア様達にイジメられていると話して…それで二人は私のためにこのようなことをしたんです(声も素敵!)」
セイラが魔王に近づこうとするとセリーヌが前に立ち塞がった
「陛下に不用意に近づかれてはなりません…陛下にはリリス様がいらっしゃいますので」
「(私は王妃になるのよ、下僕なら下僕らしく下がってなさいよ)リリス様は本当にいらっしゃるのですか?私は一度も見たことありませんし、式典にも出ないなんて王妃としてどうなんですか?」
ハッと笑ったセイラの頬をパシンと怒りを露わにしたセリーヌが思い切り叩いた
その勢いでセイラは倒れたが、涙目で魔王に甘い声を出して助けを求めた
「貴様!リリス様の名を貴様如きが許可なく呼ぶだけでなく、侮辱するとはとんだ身の程知らずめ…リリス様から許可があれば今すぐ貴様を切り刻んで魔物達の餌にしてやるところだぞ」
「セリーヌ、落ち着け…セイラといったか」
「は、はい!私、陛下の為なら王妃様の代わりに責務も果たしますし、陛下を癒して差し上げ「少し黙ってろ、不愉快だ」…え?」
魔王が氷のように冷たい視線を向けると、セイラはビクリした後恐怖で震えた
会場にいる者達も魔王から発せられるオーラにやられ、顔色の悪い者が続出した
エルフの王はその様子を面白そうにニヤニヤしながら見ていた
(怒らせたな…レディリリスも人が悪いな…まぁ、大方魔王が暇潰しに提案したんだろうがな、今回は魔王の自業自得だな)
「陛下、その様に殺気を放ちますと皆が怯えますよ」
鶴の一声と言えるリースの言葉に魔王は従い、マリアにセイラを拘束するよう命じた
リースはセリーヌに近付き、にっこりと微笑むとセリーヌは恍惚とした表情でリースを見つめた
そしてリースは魔王の隣、つまり陛下の隣にある王妃の席についた
「あ、アンタ…なんで…そこは私の席よ!」
「あら、馬鹿なことを仰っておりますね…私は数百年前から陛下の隣にいるのですよ…私は王妃なのですから」
微笑んだリースに全員が驚愕していた
一方、ルル、セリーヌ、マリアはクスクスと笑っていた
「リリス、そろそろその姿を解いてはどうだ?その姿も可憐で美しいが、私は元の姿が良い」
魔王の言葉にリリスが元の姿に戻ると背は伸び、美しい金髪に抜群のプロポーションを持つ美女へと変わった
会場は「あれが王妃様…」「なんとお美しい」などと賞賛の声があがった
「私は陛下の命により次世代の見極めの為リースと名乗って学園に通っておりました…悲しい結果になりましたが、何人か跡を継ぐには無能とされる者もいます」
リリスがマリアにその名を呼ばせると、殆どがセイラの取り巻き達だった
「ご子息達は家同士の政略結婚を蔑ろにし、感情のまま破棄するつもりでした…よって、その家の者達は直ちに対処するように…今後またしでかすようなことがあれば取り潰した後に平民へとなっていただきます」
リリスの言葉に該当する家はすぐさま息子を勘当、そして婚約者はその弟にすることを言った
リリスは婚約者のことはその家で話し合い、婚約者であった令嬢達は破棄したとしてもそれは破棄扱いではなく、白紙という形であることをリリスは伝えた
その言葉に令嬢達も安堵と同時に感謝の念をリリスに向けた
「影達の調査と息子達の調査により、聖女と名乗った悪女の自作自演が全て分かった…証拠もあるためそこの女は極刑…担当はセリーヌだ」
「畏まりました」
「どうして!?イベントは全てこなしたのに!リリスなんていなかったし、コーデリア達が私を虐めないから断罪イベントが成功しなかった!アンタ達のせいよ!!」
喚き散らすセイラに取り巻き達も絶句していた
リリスは魔術でセイラから声を奪うとセリーヌに連れて行くよう微笑んだ
「マリア、ルシフェル様に後でセイラのさっきの言葉の真意を聞き出して」
「畏まりました…セリーヌの拷問はその後になさいますか?」
リリスが拷問の合間にやるよう命じると、マリアはルシフェルのもとに向かった
「結局、彼女は何者だったんですか?」
「ルシフェル様によりますと、こことは異なる世界でこの世界が乙女ゲームなるものだと」
「乙女ゲーム?それ何なのぉー?」
「ギルバート様達の誰かがヒロインと呼ばれる者と結ばれる物語だそうです…因みに、コーデリア嬢達は当て馬とされる悪役令嬢という役割だそうです」
「呆れるな…現実と空想を区別できんとは…それに、当て馬から察するに婚約者同士の仲も悪いとかいうのであろう?」
魔王の言葉にマリアが頷くと、ルルは笑い出した
今回の騒動は全くの偶然であったが、異世界から来た少女を使って暇潰しをすることは事前に配下の者達には通達してあった
聖女という無意味な肩書きを付けて適当に泳がせていた時、偶々リリスが気がついたのであった
そこで魔王は魅了持ちを逆手に取り、次世代の者達にわざと近づかせた
結果、側近全員は無能という烙印を押されてしまった
息子二人は無能を働かせる前で良かったと安堵していたと同時に呆れていた
このくらいの術も跳ね返さないのかと、これにより魔王もその家の者がその程度だということも認識したので該当した家はかなりの痛手を負った
「それにしてもー、この数十年大人しかったのに、今度はギルバート様達が狙われるとはねー」
「馬鹿な女達だ…リリス以外隣は務まらないというのに…ふむ、これを機に隠居でもするか?」
「「父上!?」」
「陛下、私はまだ皆の前で毅然とした態度でいらっしゃる陛下を隣で見ていたいです」
リリスが微笑んでそっと魔王の手に乗せると、魔王は「そうか、リリスが言うなら」と微笑して二人の世界に入った
「母上って狙ってやってる感ありますよね…」
「知らないの?お母様ってリーファ様とどちらが長く王位にいるか賭けをなさってるのよ…真実は王妃ならお互い会いに行きやすいからみたいだけど」
「私達もお母様直伝の堕とし方教わってるし、セリーヌ様やマリア様にも色々教わってるよ…そこら辺の家庭教師よりよっぽどためになる」
魔王とリリスを除いたミカエル、ルル、マリアに妹達はリリスのことや自分達の習い事を話していた
ミカエルは英才教育を受けた妹達がいつか嫁ぎ先の国を潰しそうだと密かに思った
「「次は私達も混ぜてくださいお兄様」」
母によく似た姫達は三人の兄に向かって笑顔で言い放った
(((もう勘弁してくれ)))
三人の兄達がそう思っているとは露知らずに
魔王(陛下)
子供が生まれるまで何度も様々な女性に求婚されるが全てリリスに撃退されていた
ここしばらくないなーと思っていたら息子が狙われ、これはチャンスとばかりに暇潰しに利用した
しかし案外簡単に証拠が見つかって、断罪ごっこもつまらないしリリスは侮辱されるしで今回は失敗したと思った
乙女ゲームでは隠しキャラだった
リリス
リースという令嬢になり学園に潜入して楽しんでいた
息子とは友人という枠だったが、セイラに邪魔者扱いされた
正体をバラした後の息子達の顔が面白かった為、またいつかやってみようかなと思っている
エルフの国のリーファとは今後も行き来できるよう賭けと称して約束をした
乙女ゲームでは名前も出てなく、実在しない人物
ギルバート、アルフレッド、ミカエル
リリスと魔王の息子で、ミカエル以外は魔王似の顔である
根本的な性格は魔王だが、ミカエルはリリスの性格が少し入っていて二人より計算高い
乙女ゲームの攻略対象であった
妹達
リリス似の可愛らしい姫
リリスやリリス配下のセリーヌ達の英才教育により兄達よりタチが悪い性格
しかし、愛情深い所は母親譲りなので身内には優しい
今回仲間外れにされた為、兄達を笑顔で脅して参加する権限をもぎ取った
乙女ゲームにはモブで出た
セリーヌ、マリア、マヌエラ、ルル
リリス配下の悪魔とサキュバス
セリーヌ精鋭隊は調教済の下僕達で、敵に回すと最終的にセリーヌ行きとなり、下僕道へ突き進む
特に拷問と情報収集が得意な四人は魔王とリリスに重宝される
リリスを崇拝している為、リリス絡みになると特に敏感
ゲームにはモブで名前もないメイドとして出た
セイラ
異世界から来た女子高生
聖女という肩書きを貰って泳がされていたが、最後まで気がつかなかった
乙女ゲームによく似たこの世界を乙女ゲームの中だと勘違いした
最後はセリーヌに拷問され、全種族の雄達の性欲処理道具として死ぬことも許されず一生使われることになった
コーデリア、ステラ
ギルバートとアルフレッドの婚約者
エルフと人魚の姫で婚約者とは相思相愛
性格はお互い正反対だが、姉妹のように仲は良い
母親から婚約に至るまでのリリスのことを聞いていた為、尊敬している
乙女ゲームでは悪役令嬢
ルシフェル
吸血族の王
リリスとは個人的に仲が良く、何度か手を貸している
目を見ると相手のことを意のままに操れるので、自白剤代わりに呼ばれる
今回はいつものようにいらなくなったら餌に貰えると思っていたらセイラが貰えずしょんぼりした
乙女ゲームでは出てこない
側近
ギルバート達の側近候補だった青年達
見目麗しい優秀な人材だと言われていたが、あっさりセイラに魅了されポンコツになった
家にも捨てられ行く当てもなかったが後にルルが独断でサキュバス達の餌場に連れて行った
その後の生死は不明
乙女ゲームの攻略対象