5話
※記憶
ダニエラ「今日も仕事なの……? ここ最近ずっとよ……! テオと私のこと愛してないの……?! わ、わかってるわ、私達のために頑張ってくれてることは……!でも、でも……!」
ダニエラ「もう限界!!! やめて、謝らないで!!! こんなもの……ッ(写真を破る)……もう耐えられない! この子は私一人で育てるわ! 出ていって!!!! あなたの顔なんてもう二度と見たくもないわ!!!」
ダニエラ「ごめんね、テオドール。急に身体壊しちゃって……大丈夫よ……すぐに良くなって、また私達の家で一緒に暮らしましょう……?」
ダニエラ「(夢)フィル……フィル……どうか……どうか私を……許して……」
ヴィー「なにをぼぉっと突っ立ってんだ? テオドール。そんなことをしていたら俺がすぐに捕まえちゃうぜ?」
ペイパー「テオ、急いで!!!」
※記憶
ルシアン「ようこそ、私はルシアン。薄暗く埃っぽい場所で申し訳ないがゆっくりしていってくれ、紅茶をいれよう。それで……手紙をくれたのは君かな?」
ルシアン「なるほど、母親が夢でうなされながらその名前を呼ぶんだね? 君はその名前を知らないのかい? ふむ……忘れた記憶、か……」
ルシアン「(ため息)私が力になろう。だが、忘れてはならないよ……君の目的を。これを見失ってしまうと二度と元の世界には戻れなくなる。記憶の世界に閉じ込められてしまうからね」
ルシアン「必ず……必ず見つけるんだ……テオドール、君の……」
※大きな光
ヴィー「ぎゃあっ!!!」
アル「ヴィルアム!!!!」
グローリア「しまった、テオから溢れてるあの光は……!!! くそ……くそくそくそ……!!!あんなに大きな記憶を隠していただと……?! あれさえ吸収していれば私達はアウトサイドに行けたはず……、……ッ!」
コレ「君たちはどこにもいけない。その記憶は元の持ち主のところへ返してもらうよ……?」
アル「ああ……抜けていく……折角集めた僕が……」
ヴィー「ああ、おしまいか。もう少し楽しめるかと思ったのになぁ」
グローリア「やめろ……!!! やめろやめろやめろぉ……!!! これは私のものだ……!私の記憶だ……!!!返せ……返せ返せ返せぇえ!!!」
テオ「グローリア……アルヴァ……ヴィルアム……!」※だんだん声を大きく
ペイパー「あ、ちょっと!」
テオ「グローリア! アルヴァ! ヴィルアム! 僕、君たちのこと大好きだよ! 一緒に居て、楽しかったよ!! 君たちがどんなに嘘をついていても、僕を騙していても! 君たちは僕の仲間だって思ってるよ……!」
ヴィー「……はは、最後までとんだお人好しだぜ」
アル「そうだね、少し羨ましいくらいだな」
グローリア「私は……あなたのそういうところ、嫌いよ……テオドール」※少し微笑むように
テオ「コレクター……グローリアたちは……」
コレ「元に戻した。彼らが吸収した住人の記憶もね。禁忌を犯そうとした罰として、しばらくは好き勝手出来ないようにしたから安心して? それよりだいぶ思い出したみたいだね」
ペイパー「そうなのか?」
テオ「うん……僕の母さん、多分病気になってしまったんだ……それで入院してて……誰かの名前を呼んでた……ええっとなんだっけ……」
コレ「ルシアンが作った装置はアウトサイドとインサイドを接続するものだった。君はあるものを探すために、それを使って一人でこの世界にやってきたんだ」
ペイパー「ってことはもしかすると、その名前を探してるのかもね」
テオ「僕、もう少しで思い出せる気がする。でもその前に……行きたいところがあるんだ。ついてきてくれないかな」
ムーン「そうか、グローリアたちを止めたか」
テオ「うん、僕のことが落ち着いたら、会いにいく約束だったでしょう、ムーンさん」
ムーン「見知らぬものもいるようだが、もう名を知る必要もあるまい」
コレクター「まあまあそう言わずに。僕はコレクターだよ」
ペイパー「じゃあ僕も名乗ったほうがいいのかな」
ムーン「お前は頭を見れば察しがつく」
テオ「ちょ、ちょっと! そんなこと言ったら……」
ムーン「頭を知って消えてしまう、か? 安心しろ、名を言ったくらいで理解できるようなものではない。それにコイツは私と同様、少々厄介だからな」
テオ「厄介……?」
ペイパー「やだなぁ、厄介だなんて。変わり者、って言ってもらいたいな」
テオ「あの、前から気になっていたんだけど、君のその変わり者っていうのはどういう意味?」
ペイパー「僕の頭って紙でしょ?」
テオ「……!! えっ、なんで……! 知ってるの……? 分かってるのになんで……」
ペイパー「だよねぇ、紙だよね。僕は自分の頭を理解してるんだ、教えてもらったからね」
テオ「教えてもらった? 一体誰に……?」
ペイパー「ランタンだよ。僕と彼は誰よりも先にこの世界にいて、うんざりしてたんだ。だから友人の彼に頭を教えてもらって、消えようとしたんだけど」
テオ「消えなかった……。それで僕達にあってもあの感じだったんだね」
ペイパー「そ。ランタンはそれもあって、更に研究に没頭するようになった。彼がああなったのは僕のせいでもあるってわけ」
キャット「ペイパーのせいじゃないわよ。ランタンはもともとああいう人。というかどうして私まで……」
ペイパー「ごめんよ、キャット。無理を言って……」
キャット「……いいわよ。ペイパーとは昔なじみだし、あの日のこと、少し後悔しているから。ランタンが元の世界に戻れたなら、喜ぶべきだわ……」
テオ「ムーンさん、僕たちあなたを助けに来たんだ」
ムーン「……心優しきアウトサイドの子よ、感謝する。だが、顔がない以上はどうすることもできぬだろう……?」
テオ「それは……」
コレ「顔がない? 何を言ってるの? あるじゃない、ちゃんと」
ムーン「え?」
キャット「顔……ないようにみえるわよ……?」
コレ「無いように見えるだけであるんだよ。君、アウトサイドに戻りたいの?」
ムーン「ええ……戻りたい」
コレ「ふうん。まあ均衡も乱れてるし、そろそろ教えてもいっか。君はニュウだよ」
テオ「にゅう?」
コレ「彼女の記憶はひとりじゃないんだ。ここにいるのはニュームーン。新月だからなにもないようにみえただけだよ。ニュウ、クレセント、ギブス、フル。4人の名前を言わなきゃ消えない」
ペイパー「……そういうことか……」
ムーン「ああ、そうか……私の中にはそんなに……4人で1人だったのだな。(考え込むように)…………」
コレ「どうしたの? 帰らないの?」
ムーン「……ここに留まることはできるか?」
テオ「え? 思い出したんでしょう? 折角願いが叶うのに……」
ムーン「思い出したからこそ、ここにいたいのだ。よいか? コレクター」
コレ「なるほどね、いいよ。そのほうがアウトサイドの君にとってもいいだろうね」
ムーン「最後まで無理を言ってすまない。でもこれが、私の望みなのだ。しばらく、私達だけにしてもらえないだろうか」
テオ「そっか、うん、わかったよ。僕は君の望みを叶えにきたんだ。元気でね……ムーンさん」
ムーン「ありがとう、テオドール……お前も」
※塔の下
キャット「ねえ、間違った名前だと消えない……ってことはペイパーも……」
コレ「うん、君、紙じゃないよ」
テオ「もしかしてコレクターはペイパーが何なのか知ってるの?!」
ペイパー「そうか……そうだったんだ……。ねえ、コレクター。僕のことを教えて」
キャット「私も止めないわ……ペイパーの苦しみは分かってるつもりよ」
テオ「…………(寂しいけれど止めることは出来ないという気持ち)」
コレ「悪いけど、それはテオドールの役目なんだ」
テオ「え? 僕……?」
コレ「まだ気が付かないの? 君が探していたものは、彼だよ」
ペイパー「テオが探していたものが、僕……?」
テオ「どういうこと……?」
コレ「そのままの意味。テオはこの記憶を探してアウトサイドからインサイドにやってきたんだ」
テオ「じゃあ……僕がもし記憶を抜かれていなかったら……」
ペイパー「君の目的はすぐに達成してたってことだね……」
コレ「さぁ、君ならもう思い出せるはずだよ。これが一体なんなのか」
ペイパー「……教えて、テオ。僕は、誰なの」
テオ「……君は……」
コレ「さ、ペイパーの顔を良く見て……君は知ってるはずだ、彼のことを」
テオ「君の顔は……側面がビリビリに破れてる紙だよ……」
キャット「でも、紙じゃ、ないのよね……?」
コレ「そう、紙じゃない。ちゃんと見てご覧? 彼の顔に何が描かれているのか」
テオ「少し……触れてもいい……? ペイパー」
ペイパー「いいよ」
テオ「……この手触り……ただの紙じゃない……これは……んんっ」
キャット「なに、どうしたの?! 大丈夫……?」
テオ「まただ……あの不思議な感じ。身体の中があったかくなったような……。違う……これは……!」※シャツを脱ぐ
キャット「ちょ、ちょっといきなりレディの前でシャツを脱がないでよ……!」
テオ「ごめんキャット、でも……服の中に何か……、っあ、これ……」
ペイパー「それは……なんだい?」
テオ「……お守りだ……。気づかなかった、僕ずっと首からこれを下げてたんだ……。このお守りがじわって熱くなってる……」
コレ「あけてみるといいよ」
キャット「お守りって、あけちゃっていいの?」
コレ「構わないさ。というかテオドールはもう、一度開けてるからね」
テオ「……写真だ。僕と……その右に記憶の中に出てきた女の人。……あれ、僕の左側にもうひとり……」
ペイパー「……? テオ? どうしたの?」
テオ「……ペイパー……君だよ……」
ペイパー「ん?」
テオ「僕の隣に立ってるもうひとりの人、写真が真ん中で破られててわからないんだ……でも、きっと……ううん、絶対……君だよね?」
ペイパー「え?」
テオ「みて、これ……僕と、僕の母さんのダニエラだよ……」写真を見せる
ペイパー「ダニ……エラ……」
テオ「僕が探してたのは、君の名前……君の、記憶の持ち主……。フィル……フィリップ・アンドレドだ。……君が、……あなたがもう半分を持ってるんだよね……? ……ねえ、……父さん」
ペイパー「……そうか……僕の頭は……半分に破られた写真だったんだ……」
キャット「思い出したの?!」
ペイパー「ああ、全部思い出したよ。僕を探してくれていたんだね、ダニエラのために」
テオ「うん、そうみたい」
ペイパー「ありがとう。君は自慢の息子だよ、テオドール」
テオ「(ちょっと照れて)なんだか記憶が戻ったペイパー、ペイパーじゃないみたい」
コレ「フォトグラフだからペイパーではないね」
テオ「あ、う、そうなんだけど、そうじゃなくて……」
ペイパー「僕こそ戸惑ってるんだよ。友達だと思ってたら息子だなんて」
テオ「それは僕だって……!」
コレ「ほら、続きはアウトサイドに帰ってからやってよ。僕も忙しいんだからね」
ペイパー「そっか、ついにインサイドともお別れか……長かったな……」
キャット「ペイパー……、あ、フォト……なのかしら……」
ペイパー「ペイパーでいいよ、君に呼んでもらうならそのほうが嬉しい」
キャット「……願いが叶ってよかったわね。これで私も肩の荷が下りたって感じよ!」
ペイパー「ありがとう、キャット……いままで、ほんとうに」
キャット「……こちらこそよ……。ランタンもペイパーもアウトサイドに帰っちゃって、私がインサイドに留まる理由もないわ。私、あなたとランタンのことは、……意外と、好きだったみたいだから」
ペイパー「うん、ありがとう。僕もだよ」
コレ「つまり君もアウトサイドに帰りたいの? この際、帰りたいやつはみーんな帰そうと思ってるからあとで教えてあげるよ」
キャット「もう最低! 雰囲気台無し! そんなんじゃモテないわよ!!!」
コレ「なんで僕が怒られてるんだ……」
ペイパー「じゃあキャットのこと頼むよ、コレクター」
コレ「任せておいて、僕を誰だと思ってるの?」
テオ「あ、それから……グローリアとアルヴァとヴィルアムのことも」
コレ「はぁ、これだからお人好しは……わかったよ。でも彼らは完全になることは絶対に出来ない。未完成のままだからね?」
テオ「うん。僕、皆のことやっぱり嫌いにはなれないんだ。未完成でわからないことが多いほうが楽しいじゃない?“何故”は成長や正解への近道だってどこかの天才さんが言ってたから」
コレ「そういうのは秩序の門番の前ではあまり言わないでもらいたいんだけど、ま、聞かなかったことにするよ。じゃ、それぞれ戻すからね」
テオ「ありがとう、コレクター。……戻ったら会いに行くね、父さん」
ペイパー「待ってるよ、テオドール」
ルシアン「おい、おーい……だめだな、全く目を覚まさない」
アルヴィム「ワンッワンッ!」
テオ「う、ん……?」
ルシアン「おお……! ああよかった……見つけられたんだな? フィルを!!!」
テオ「ルシアンさん……」
ルシアン「ん? 私の顔になにかついているかい?」
テオ「いえ……ちょっと懐かしい感じがしただけです」
ルシアン「丸一日眠りから覚めなかったからね……。正直、私はまた人を殺めてしまったのかと思っていたよ……」
テオ「……人を……? あれ、あそこに置いてあるのって……」
ルシアン「……アレかい? あれは私の想い出深いものでね……。昔、私の不注意で火が移って、恋人のメアリーを帰らぬ人にしてしまったんだ。その罪悪感を忘れるために研究に没頭して、こんな装置まで作ってしまったんだが……君の姿をみているとふと思い出してね」
テオ「思い出して……辛くはないんですか……?」
ルシアン「辛いとも。だが最も辛いことは彼女のことを忘れてしまうことだと気付いたのだ。なぜ、私がここにいるのか。それをアレは思い出させてくれる」
テオ「(少し嬉しそうに)そうですか」
アルヴィム「ワンワンッ!ワンッ!」
ルシアン「これアルヴィム、おとなしくしないか」
テオ「アルヴィム……?」
ルシアン「この犬の名前だ。もともと野良でね、そのへんの道に落ちているものを食べていたから仕方なくラボにいれてやったんだよ」
テオ「そっか、……よかったね、アルヴィム」
アルヴィム「ワンッ!」
テオ「それじゃあ、僕は行きます」
ルシアン「ああ、そうだろうね。君には行くべきところがある」
テオ「はい。ありがとうございました。ルシアンさん、アルヴィム」
ルシアン「また遊びにくるといい。私はいつでも待っているよ」
※インターホン※ドアがあく
テオ「……フィリップ・アンドレドさん、急にごめんなさい! あの、わからないかもしれないけど、僕の名前は……」
フィル「テオドール」
テオ「あ……うん」
フィル「おいで」
テオ「……よくわかったね、僕がテオドールだって……」
フィル「最近夢で見た気がするんだよ。君みたいな見た目の男の子が僕を探してた。ただの都合のいい夢だったのかもしれないけど、でも実際こうしてテオが来たから、あながち間違ってなかったのかな」
テオ「うん、僕も父さんを探してたんだ。だからきっと間違いじゃないよ」
フィル「(微笑む)ところでこんなところまで何しに来たんだ? ダニエラはどうした?」
テオ「母さんは今病気なんだ。……眠りながら父さんの名前を呼んでる。会ってあげてほしいんだ」
フィル「…………テオ、来てくれたことは嬉しいけど……僕は」
テオ「僕は……!」
フィル「(少し驚く)……!」
テオ「僕は……父さんと母さんの間になにがあったかなんて……そんなの知らないよ。でも僕は父さんと母さんのことが好きだから、だから……」
フィル「だから……?」
テオ「う……父さんは、どう思う……?」
フィル「……ふっ(少し笑う)」
テオ「父さん……?」
フィル「不思議だな。なんだかこのやりとり、初めてじゃない気がするんだよ」
テオ「……(少し笑う)、うん、僕も」
フィル「(少し笑う)……テオはテオが思うようにしたらいい。僕も、テオが好きだからね」
テオ「ふふ、……うん!」
フィル「ダニエラ? ダニー?」
ダニエラ「なあにフィル、どうしたの?」
フィル「タイなんだけど、どっちの色がいいかな?」
ダニエラ「んー……私はどっちでも好きだけど……そうねえ、こういうときは……テオー?」
テオ「呼んだー?」
ダニエラ「パパのタイ、どっちの色がいいと思う?」
テオ「僕はイエローがいいな」
フィル「ほらやっぱり、テオに聞くと絶対黄色がいいっていうんだよ」
テオ「だって僕、黄色が好きなんだもん」
ダニエラ「黄色っていうより金色の髪が好きなんでしょう? 前に家に連れてきた彼女もそうだったし~?」
テオ「ちょ! ちょっと母さん!!!」
フィル「なんだって? 僕はなんにも聞いてないよ?!」
ダニエラ「グレータちゃんだっけ? お友達だったのよね~? ちょっと大人っぽい子で、テオなんてすぐに尻にひかれるわよ~? うふふ」
フィル「テオ……なんで僕にはなんにも教えてくれないんだよ……!彼女がいるなんて、今初めて知ったよ!」
テオ「もうう、父さんいつもそうやって言うから! ほら仕事に遅れるよ……! 早く早く……!!」
フィル「帰ったら話聞かせてよ?!」
ダニエラ「(笑いながら)全く……フィルったらあんな人だったかしら……。テオは今日もルシアンさんのところにいくの?」
テオ「うん! ラボにこもりっぱなしだから何か差し入れ持っていこうと思って!」
ダニエラ「じゃあ昨日クッキーを焼いたからそれ持っていってあげたら?」
テオ「うんそうする! 犬や猫にもあげられるかな? アルヴィムの他に黒猫が増えたらしいんだよね! ルシアンってば絶対動物好きだよ!」
ダニエラ「ふふ、そうね。あ、 研究の邪魔はしないようにね?」
テオ「わかってるよ! ありがとう、母さん! 行ってきます……!」
終