3話
※長い螺旋階段を登っている
テオ「(疲れて息絶え絶えに)ねえ……ほんとにこんなところに魔女がいるの……?」
アル「これにはそう書かれているね」
テオ「え、何その本。そんなの持ってたっけ……?」
ヴィー「この世界の歴史が記された本だ。ブレインにあったのを拝借してきた」
ペイパー「許可を取ってないから拝借っていうか窃盗だけどね」
グローリア「細かい事言うんじゃないわよペイパー。それよりどうしてあなたまで付いてきてるの?」
ペイパー「君たちはインサイドの事なんにも知らないでしょ? 僕も居たほうがいいかな、と思ってね」
グローリア「随分と暇なのね」
ペイパー「実際、ムーンの塔がどこにあるか教えてあげたのは僕だったと思うけど」
アル「そのとおりだね。彼が居なかったらこの塔を探すところからスタートだった。これからも頼りにしているよ」
グローリア「邪魔だけはしないで」
ペイパー「(にこにこと)邪魔なんてするわけないでしょ?」
グローリア「……(少し睨みつける)」
テオ「それにしても、ムーンの塔って本当に大きいんだね……。住人たちが住んでる塔も高いなって思ってたけど、比べ物にならないよ」
ヴィー「そうだな、インサイドで一番最初に建てられた塔らしいぜ」
ペイパー「そう、そして僕たちインサイドの住人が最も近づかない塔だよ。この塔を訪れた人は二度と降りてこられないって噂だから」
テオ「(ヒュッと青ざめる感じ/口は引きつりながら笑顔)えっ?」
アル「とても気になるね。人食いの魔女なのだろうか?」
ヴィー「人食いって犬も食うのかな」
アル「さあ、どうだろう」
テオ「ひひひ人食い…?! 皆知ってたの?! 知ってて会いに行ってるの?! ペイパーもなにか言ってやってよ!」
ペイパー「いやあ、一人じゃ流石に来たくなかったから皆についてきてほんとによかったなあ」
テオ「駄目だ……!!! まともなひとが居ない!!!」
グローリア「うるさいわよ。闇雲に住人に話しかけても時間の無駄でしょ? いっそこの世界が生まれた頃を知ってる奴から、話を聞き出したほうが手っ取り早いじゃない」
テオ「そ、そうかも知れないけど……」
ヴィー「お前の骨は俺が責任持ってしゃぶってやるから安心しろよ?」
テオ「ひどすぎるよヴィー……はぁ、どうしてこんなことに……」
アル「ふふ、ヴィルアム、あまりテオをいじめてはいけないよ。テオ、この世界での『消える』という現象はこの塔以外の場所でも僕たちは見たはずだ」
テオ「あ……もしかしてランタンと同じように『消えた』ってこと?」
アル「さあ、でも同じキーワードがある以上、調べるしかないだろう? ランタンと再会出来る方法を知っているかもしれないしね」
テオ「(嬉しそうに気付いて)……! そっか! じゃあとにかくその魔女に会って話を聞かなきゃ……!」
グローリア「ほんと単純……」
ヴィー「ついた、ここが最上階だな。壁が全部ステンドグラスで囲まれてて、目がチカチカするぜ」
アル「これは魔女くらい軽く出てきそうな雰囲気だね」
テオ「ううう……やっぱりちょっと怖い……ねえ、今は誰も居ないみたいだよ……? 外にでかけてるんじゃない……?」
ペイパー「それは無いと思うよ。ムーンの塔に住んでる魔女はこの塔から出られないんだ」
グローリア「チッ……まどろっこしいわね」
テオ「あ、ちょっと! グローリア!」
グローリア「話があるわ、出てきなさい!! 私はグローリア・シャール! アウトサイドの人間よ!」
テオ「ああっまた!!」
アル「おや、言ってしまったね」
ペイパー「あんまり素性を知られるのはよくないよって伝えたはずなんだけどなぁ」
ヴィー「うちのチームは爆弾2つも抱えてんのかよ」
テオ「え? ふたつ? 僕?」
アル「そうだよ」※同時
ヴィー「そうだろ」※同時
ペイパー「そうだね」※同時
テオ「そんな揃えて言わなくても…… (光が差し込む)わっなに……! ステンドグラスから……光が!」
ヴィー「……ん? 光が差し込んだところになにか……」
アル「現れたね……」
グローリア「ムーンの塔の魔女……」
ムーン「どうやら私は奇跡の存在を神格化していたようだ。お前のような小娘がアウトサイドの人間だと……? ふっ、笑えぬ冗談だ」
テオ「ね、ねえ……あの人頭が……」
ヴィー「ないな。頭がない。そんなこともあり得るんだな」
アル「ふむ、食われる心配はなさそうだね」
テオ「そんな事言ってる場合じゃないよ! グローリアが……!」
グローリア「元から笑わせるつもりもないし冗談でもないわ。この世界で最初に作られた塔に住んでる魔女なら、私達が帰る方法くらいわかるわよね」
ムーン「帰る? 戯けたことを……。仮にそうだとして、お前に教えると思うか? この私にそのような態度……許されると思うな……」
グローリア「……っ」
テオ「ま、待って……!」
グローリア「……テオ」
ムーン「……お前は」
テオ「僕の仲間が失礼なことを言ってしまってごめんなさい! 彼女はただ元の世界に帰りたくて必死なだけなんです……! だからってやっちゃいけないこともあると思うけど……」
ムーン「その通りだ。故にここで制裁を下す」
テオ「そ、そうなんですけど! 一度だけ、一度だけ! チャンスをもらえませんか……? 僕、知りたいんです! どうして友達が消えてしまったのか……どうして僕がここにいるのか……。自分が何者なのか……!」
ムーン「(じっとテオを見つめている)…………」
ヴィー「(呆れたように)こりゃ、死んだな」
アル「(いつもと変わらない感じ)そうかもしれないね」
ペイパー「(様子を伺っている)…………」
ムーン「……名は」
テオ「へっ」
ムーン「お前の名だ」
テオ「て、テオドール・アンドレドです」
ムーン「テオドール・アンドレド……そうか、良く分かった」
テオ「あ……あの……」
ムーン「自分が何者なのかを知りたいと言ったな」
テオ「は、はい……」
ムーン「……私の元を訪れる者は皆そう言う。だがアウトサイドの人間であるお前までそれを聞くのか……」
テオ「え……?」
ムーン「そこに固まっているふたりと一匹もこちらに来るといい。……私ももう疲れてしまった」
グローリア「(不服そうに)……」
アル「話が聞けるというのに眉間にシワが寄っているね、グローリア」
グローリア「別に」
ヴィー「テオに助けられたのがそんなに気に食わないのか?」
グローリア「(ムッとして睨む)……」
ヴィー「あ~はいはい、悪かったよ……」
ペイパー「テオはすごいね。閉じきった魔女の心さえも開かせてしまうなんて。当然のことだけど、扉はこじ開けるんじゃなくてまずはノックしないとね?」
グローリア「喧嘩を売ってるの?」
ペイパー「まさか!」
テオ「もうやめなってば! 魔女さんが困ってるよ……!」
ムーン「……奇跡と住人がここまで親密にしているのを私はみたことがない。お前は本当にこの者たちと共にアウトサイドへ行くつもりなのだな、小娘」
グローリア「当然よ、そのためにここまで来たの。でもコイツと行動してるのもそのため。そうじゃなきゃとっくに捨ててるわよ」
ペイパー「あは、ひどいなあ」
ムーン「やはり人間とはわからぬものだな……。お前の名も聞かせてもらおう」
アル「名乗り遅れてしまったね。僕はアルヴァ・ブェニック。そして彼はヴィルアムだ」
ヴィー「よろしく」
ムーン「グローリア・シャール、アルヴァ・ブェニックにヴィルアム……なるほど上手く名がつけられているな」
グローリア「名前なんてそんなに重要かしら」
ムーン「重要だ。頭同様、自身を表すものだからな」
アル「では君の名前も教えてもらえるかい?」
ムーン「なに?」
アル「僕たちは顔も名も教えた。だが君はそのどちらも教えてはくれない。それでは不公平過ぎるだろう?」
ヴィー「アルのそういうところ、ヒヤヒヤするけど俺は大好きだぜ」
ムーン「……ムーンだ」
グローリア「塔に自分の名前をつけてるなんて悪趣味ね」
ムーン「はあ……。まあいい、お前らと話すと決めたのは私だ」
テオ「ムーンさん。この塔を訪れた人が二度と降りてこられないっていう噂は嘘なんですよね? なにかの間違いじゃ……」
ムーン「いや、事実だ。この塔に来たものは私が消した。彼らがそれを望んでいたからな」
テオ「望んでいた……」
アル「ということはつまり、頭を教えてあげたんだね」
ムーン「……そうだ。インサイドの住人の中にはこの世界から脱却したいと考えるものが現れる。その者たちは、自身の頭を知るために魔女の元へ訪れるのだ。『自分が何者か知りたい』と」
テオ「住人が消えるあの瞬間を何度も……。ムーンさんは頼まれてやっていただけなのに……そんなの……つらすぎるよ……」
ムーン「おまえたちもみたことがあるのか」
グローリア「ええ、あるわ」
ムーン「頭を知ったときのあの感情は、自身が消えゆくことの恐怖や、この世界から解き放たれる喜びではない。あれは……明らかに記憶だ」
ペイパー「記憶……。失われた……記憶……?」
テオ「ランタンが言っていた何かを失っている気がするっていうのは、記憶だったの……?」
ムーン「そして恐らくだが、その記憶と住人の頭はリンクしている。頭を理解するとそれに関連した記憶を思い出し消えるのだ。いままで……何十、何百もの住人を消してきた、私が知ったことだ」
グローリア「話は分かったわ。でも私が聞きたかったことはそこじゃない。知りたいのは、私が、アウトサイドに帰る方法よ」
ムーン「? 今、話したばかりだが」
グローリア「違うわ! グローリア・シャールが戻る方法よ! 今聞いたのはここの住人がインサイドでもアウトサイドでもないところに消える方法と理由でしょ?!」
ムーン「元の場所に戻りたいのならば、この方法しかない」
グローリア「(今まで聞いたことのない怒号)違う!!!!!」
アル「グローリア、そろそろ辞めたほうがいい」
グローリア「(息を切らして)はぁ……っ……はぁ……」
ムーン「……小娘、まさか、禁忌のことを言っているのか?」
テオ「禁忌……?」
グローリア「(声を低く)もういいわ。あなたの力なんて借りなくても私は必ずアウトサイドに戻ってやる……」※グローリアが塔を降りる
アル「グローリア! ……困ったね。ヴィー、グローリアを追いかけよう」
ヴィー「ああ、わかった」
アル「すまないが僕たちは先に塔を降りるよ。ペイパーとテオはゆっくりでいい。下で合流しよう」
テオ「う、うん……」
※アルとヴィーも降りる
ムーン「…………」
テオ「あの、ごめんなさい、ムーンさん。グローリアはアウトサイドに帰りたい気持ちが大きくて……」
ムーン「いや、あれはそうではないな」
テオ「え?」
ムーン「テオドール・アンドレド。アウトサイドの子よ。確実なことではないが、グローリアは危険を犯そうとしているやもしれん。少し様子をみていてはくれないか。お前はテオの傍にいてやれ、いいな」
ペイパー「ああ、わかった」
テオ「グローリアが危険を……?」
ムーン「……(ため息)はぁ……少し、喋りすぎたか。あの小娘、変な気を起こさないといいが……」
テオ「あの、ムーンさん、もしかして体調が優れないんですか? あの時も疲れてしまったって……」
ムーン「……ふっ、優しい友人よ。お前だけに話そう。私は魔女と呼ばれているが、実際はそこの住人と変わらない。インサイドに存在している時間が長く、この塔からも出られないために、自然と噂がたち、私は魔女となったのだ」
ペイパー「ってことは君も……」
ムーン「私も私自身のことを知らぬ。本当は……私もこの塔に訪れる者と同じように消えてしまいたいと願っている」
テオ「……あなたも、なんですね」
ムーン「ああ……。なぁ、テオドール。お前の手で私を消してはくれないか」
テオ「え……」
ムーン「私は十分彼らを救ったはずだ。……私も救われたい。開放されたいのだ……」
テオ「で、でも……ごめんなさいムーンさん。僕、あなたの頭が分からなくて……」
ムーン「わからないだと……?」
ペイパー「首から上に何もついていないんだよ。これじゃあ、君の記憶を教えてあげられない」
ムーン「そうか……この魔女という呪縛からは逃れる事は出来ないか。悪いことをしたな、アウトサイドの子よ」
テオ「あの、僕が帰る方法を見つけたら、必ずあなたのことも助けに来ます!」
ムーン「ふふ、そうか。期待しているよ。さぁもう行きなさい」
テオ「はい……」
グローリア「ごめんなさい。私、頭に血がのぼってしまって」
アル「気にすることはないよ、グローリア。僕たちが帰るために君が率先して話を進めてくれるのは有難いよ。ねぇ、テオ」
テオ「う、うん。でも、危ないことはやめてね。僕、君が傷付くのは嫌だよ」
グローリア「……ええ、わかったわ」
ヴィー「まあ情報は増えたが、イマイチ核心には届かねえな。結局俺たちはどうすりゃいいんだ」
アル「インサイドの住人は何らかの記憶を無くしていて、それを思い出すことでこの世界から消える。仮にここが『そういう世界』だとしたら、僕たちも何かを無くしてるってことになるのかもしれないね」
テオ「じゃあそれが分かれば僕たちは元の世界に戻れる…?」
ペイパー「けど、記憶を取り戻した住人が結局どこへ行くのかは分からず終いだし、第一、君たちにはちゃんと顔がある。これは振り出しに戻ったかもしれないね」
グローリア「そうでもないわ。ランタンが消えた時、少し考えていたことがあったの」
ヴィー「そうなのか? 俺達も初耳だけど」
グローリア「自信がなかったの。でもムーンの話を聞いて恐らく間違いないと思うわ」
テオ「なになに? 教えて!」
グローリア「私たちにはそもそもアウトサイドにいた時の記憶が無いわ。私たちが探さなきゃいけないものはそれだと思う。そして、それはこのインサイドの住人が持ってるのよ」
ヴィー「どういうことだ?」
グローリア「ランタンが消えた時に思い出したの。私の住んでた街の道路にはランタンが灯されてたことをね。住人が私たちの記憶を持っていて、彼らが消えるとそれが私たちに戻ってくるのよ! 」
アル「なるほど、確かにそれは試してみる価値がありそうだね」
ヴィー「あの長い階段をのぼったのも無駄じゃなかったな!」
テオ「でも待って? 試すって言うのはつまり、住人たちを消していくってこと?」
グローリア「住人たちはこの世界に嫌気をさしてるって言ってたじゃない。ここからもおさらばできる上に、私たちの記憶が戻れば一石二鳥でしょ。それに元は私たちのものなんだから返してもらわないと」
ペイパー「確証もないだろう? その住人が君たちの記憶を持ってるとも限らないのに?」
グローリア「ペイパー。ここまで力になってくれたし、あなたのことは消さないであげるけど、邪魔をするならついてこないで」
テオ「……僕……あんまりそういうの好きじゃないな……」
ヴィー「そうか? 明確にやるべきことが分かったわけだし俺はやる気がすげー出てきたぜ?」
アル「やっと真相に近づいてきたからね」
グローリア「テオ、あなたは大切な仲間よ。私のことを助けてくれた恩人。だから必ず全員でアウトサイドに帰るの。一緒に頑張りましょう?」
テオ「う、うん……」
アル「とにかく今は少し休もうか。ヴィーにも無理をさせてしまったしね」
ヴィー「アルを乗せて階段をのぼるくらいなんてことないさ」
アル「ふふ、頼もしいね。だけどこれからも沢山歩くことになりそうだから、きちんと休むことも大切だ」
ペイパー「じゃあ僕は散歩をしてくるよ。……少し空気を吸いたいんだ」
テオ「あ、ぼ、僕トイレ……」
グローリア「さっさと済ましてきたら? 休憩が終わったら早速動き出すわよ」
テオ「住人を消したら……僕たちの記憶が戻る……。そうだとしても……僕は……」
コレ「テオドール」
テオ「……っ! また急に……! だから、君は何者なの?!」
コレ「僕は君。君は僕」
テオ「え?」
コレ「君の味方」
テオ「僕の、味方? 悪いけどフードで顔も見せない君の事なんて信用できないよ……!」
コレ「テオドール、どうしてここに来た」
テオ「僕がここに来た理由なんて知らないよ……! 勝手に連れてこられたんだ!」
コレ「違う。違う。君は君でここにきた」
テオ「僕でここに……僕の意思でってこと……?」
コレ「奇跡は作られる。君が作った」
テオ「なに……? どういう意味……?」
コレ「思い出して……思い出して……君がここに来た理由。……君が1人で来た理由」
テオ「1人で……来た……、僕が……?」
コレ「テオドール、思い出して」
テオ「またそれ……だから僕には……」
コレ「思い出して。思い出して」
テオ「ち、ちょっと……やめて、近づいてこないで……!」
※記憶
ダニエラ「出ていって!!!! あなたの顔なんてもう二度と見たくもないわ!!!」
ダニエラ「……これからは私と二人で生きていくのよ……大丈夫、安心してね」
ダニエラ「(病気)ゴホッゴホッ……ふふ、そんな顔をしないで……すぐに元気になるから」
ダニエラ「(夢)フィル……フィル……どうか……どうか私を……」
テオ「ううっ……! 頭が……!」※強い頭痛
コレ「テオドール、大丈夫?」
テオ「これは……記憶……? 君のフードの中の空洞を覗いたら……何かが僕の頭に流れ込んできた…… 」
コレ「そうだ、だからテオドール、もう一度覗いてみるんだ」
テオ「あの女の人は一体誰……もしかして……僕の記憶……?」
コレ「頑張って、テオドール……思い出して」
テオ「ぐっ……! なにか……なにかが邪魔をしてる……っ、頭が、割れそうだ……」
コレ「限界か……また来るよ、テオドール」
テオ「はぁッ……! はあ……! ……あの子は一体……」