2話
ペイパー「図書館はインサイドに一つだけしかないんだ。色んな記録が残っているし、この世界の中心部と言ってもいいね」
ヴィー「それにしてもあまり住人とは出会わないな。割と歩いたし、ひとりやふたりと出会ってもおかしくないと思っていたが……。まあひと目につかないにこしたことはないけどな」
ペイパー「皆、基本は家でじっとしているしね。活動的な住人はそんなに多くないよ」
テオ「そうなんだ。不思議だけど、見ていて新鮮だからちょっと残念だなあ。いろんな人とお話してみたいのに」
ペイパー「あ。そうだ、一つだけ大事なことを伝え忘れてた。インサイドにはルールがあるんだ」
テオ「ルール?」
ペイパー「そう、インサイドの住人の頭に関するルールだよ。……コレを見て?」
ヴィー「……それは鏡か?」
ペイパー「そう、この世界の鏡には僕たちの顔は映らないんだ」
グローリア「……ッ?! それ見せて……!!!」
アル「グローリア、そんなに興奮してどうしたんだい?」
グローリア「この鏡……私達の顔も見えない代わりに、別世界が見えるわ……!」
テオ「わぁほんとだ! 色がついてる……この世界って……」
ペイパー「僕たちがアウトサイドと呼んでいる世界、つまり君たちが帰りたがってる世界だね。どういう仕組みかは謎だけど、そのせいもあって僕たちは自分の頭が一体何なのか分かってないんだ。もっと詳しく言うと何がついているのか分かっちゃいけない。それがルールだよ」
テオ「あれ……でも僕たしか……」
グローリア「テオがペイパーの頭のことを言ったのは言葉を理解する前だったわね」
アル「危ないところだったわけだ。もし分かってしまったらどうなるんだい?」
ペイパー「インサイドでもアウトサイドでもないところに消えてしまうと聞いてる」
テオ「そんな大事なことどうして早く言わなかったの?!」
ペイパー「いやあ、暗黙の了解って感じだからついね」
テオ「ついって……教えてくれなきゃ僕絶対言っちゃうよ! 消えちゃってからじゃ遅いんだからね……!」
ペイパー「うん、ごめんね。自分に対してはあんまりそういうの意識してなかったから……これからは気をつけるよ」
テオ「約束だよ……?」
ペイパー「……さ、ついた。ここが『ブレイン』だよ」
アル「ブレインか、いい名前だね」
ペイパー「さっきもいったとおり、インサイドの唯一の図書館だから調べ物や研究をするにはもってこいの場所なんだ」
グローリア「そんな説明はどうでもいいわ、さっさと案内して。あなたのお友達とやらはどこにいるの?」
ペイパ―「せっかちだなあ、彼は一番奥の……」
キャット「こんにちはペイパー。ランタンなら相変わらず地下に篭もってるわよ」
テオ「わっ黒ね(こ)……むぐ!!」※遮られる
キャット「なんですって? 何なのこの人達」
アル「ペイパー、彼女には僕たちの言葉がわからないはずだ。この通信機を渡してくれないかい? 」
ペイパー「わかった。やあキャット、早速で悪いんだけどこれをつけてみて?」
キャット「何よコレ? それより、さっきも言ったけどコイツらなんなのよ?」
アル「ヴィルアム」
ヴィー「(小声で)はぁ……わかったよ。(少しカッコつけて)や、やあお嬢さんはじめまして、急に押しかけてしまって申し訳ない。君ってとっても可愛いね!! その毛並みすごく素敵だなあ~?」
キャット「は? ブレインに何のよう? わかってるの? ここは神聖なインサイドの中心……ってえ、……カッコいい」
ヴィー「え?」
キャット「あ、えっと……私はキャット、あなたは?」
ヴィー「あー……ヴィルアムだ、よろしくなキャット」
キャット「好き……」
ヴィー「えぇ?(少し引きながら)」
アル「おやおやこれは、喜ばしいことだね。ヴィーに可愛らしい黒猫の彼女が出来た」
グローリア「ヴィーは喜んでいないようだけど。まあテオのヘマを遮ってくれてよかったわね」
アル「流石だ、ヴィー」
ヴィー「そりゃどーも」
テオ「ぷは! う……ごめん。やっぱりびっくりしちゃって……」
ペイパー「見慣れない姿だろうからね。仕方ないよ」
キャット「あら? ……うそ、よく見たらあなた、まさかアウトサイドの……?!」
ペイパー「キャット落ち着いて。君の力も借りたいと思って来たんだ。訳は後で話す。今は何も言わずに匿ってくれないかな?」
キャット「わ、わかったわ。ついてきて」
アル「これは素晴らしいね、記憶はないけれどこんなに大きくて美しい図書館を見たのは初めてだとはっきり言えるよ」
テオ「ピカピカ光ってる……綺麗だね……」
キャット「綺麗ね……綺麗な色の瞳……」
ヴィー「あ、はは……気に入ってもらえて嬉しいよ。君の黄色の目も素敵だね」
キャット「あなたのような犬に毛並みや目の色を褒めてもらえただなんて光栄だわ!」
グローリア「まだやってるわよ、あの二匹」
ペイパー「キャットは惚れやすいところがあるだけだから、少ししたら落ち着くと思うよ。さて、それじゃあちょっと下がっててね。……よい、しょ!(ギギギとあくイメージ。少し重め)」
テオ「床下に階段が……凄い……これって隠し部屋?」
ペイパー「ここのことは僕とキャットと君たちしか知らない。だから内緒にしててね」
アル「どうしてこんなわかりにくい奥の部屋の地下にいるんだい?話をするのも一苦労だね」
キャット「ランタンは人と接触することを最小限にしてるの。だからその苦労もたまになら気にならないってわけ」
グローリア「どちらにせよそのランタンって奴が有益な情報を持っていなかったら無駄足よ」
ペイパー「はは、手厳しいな。でも期待してもらっていいと思うよ。彼はここでの生活が長いんだ。……ランタン! すまないけど少し話せないかい?」
ランタン「ああ構わないとも。ペイパーの頼みならばね」
テオ「(小声)やっぱり頭がランタンだ。インサイドの住人は頭がそのまま名前になってるんだね……」
アル「(小声)名前を呼ぶことでお互いに気づく様子はないね。そもそも自分の名前はどのように理解しているんだろうか。やはりまだ謎は深まるばかりだね」
キャット「ランタン久しぶりね。元気だった?」
ランタン「キャットもきてくれたのか、それに珍しいお客さんまで。なるほど、ついにこの装置を使用する時が来たというわけだ。では、少し時間をもらえるかな?」
ヴィー「アル、あのおっさんがイジってる装置なんだか分かるか?」
アル「勿論だとも、素晴らしいね……僕の通信機がただのガラクタになってしまった。みんな、耳から外しておいたほうがいい。鼓膜がおかしくなってしまうよ?」
テオ「え?」
ランタン「さあ、これでいい。ようこそ、私はランタン。薄暗く埃っぽい場所で申し訳ないがゆっくりしていってくれ、紅茶をいれよう」
ペイパー「ランタン、君いつの間にこんなものを作ってたの?! アルが作った通信機がなくても彼らに言葉が通じるなんてすごいじゃないか!」
ランタン「褒められることではないよ。奇跡用の装置なんてあまりにも現実味なくて、話を聞いてもらえない事が多いからね。……そこのお嬢さんはストレートでよいかな?」
グローリア「お構いなく。早速だけどあなた、私達が何者か分かってるわよね?」
ランタン「無論だ。生きている間に君たちのような存在に出会えるとは、心底驚いているよ」
キャット「全然驚いてるようには見えないけど。そういうとこは相変わらずね」
ランタン「気に触ってしまったのなら謝罪しよう。一人で過ごすことが多いとどうしても人との接し方を忘れてしまってね。……それで、一体私になんの用かな」
グローリア「単刀直入に聞くわ。アウトサイドの者がアウトサイドに帰る方法を教えなさい」
ランタン「……ほう? それはつまりインサイドの者がアウトサイドへ行く方法は知っているということだね。私の研究を他人に教えてはならないと重々言ったはずだが」
ペイパー「(舌をぺろっとだすイメージ)ごめんよ、ランタン」
ランタン「まあいいだろう。彼らは知っておくべきことだからね」
テオ「ランタンさんは知っているんですか? 僕たちが帰る方法……」
ランタン「知っているとも」
テオ「そうですよね……んっ?! えっ、知ってるんですか?!」
ランタン「そういったはずだが」
グローリア「教えなさい! 今すぐに!!」※少し声を荒げて胸ぐらを掴む
キャット「ちょ、ちょっと!! ランタンを離して!」
ヴィー「おいおいグローリア落ち着けって!」
ランタン「おお、奇跡に胸ぐらを掴まれるとはいい経験だ」
キャット「ランタンもバカなこといってないで抵抗しなさいよ!」
ランタン「教えてもいいが、一つ条件がある」
グローリア「(イラッとした様子)条件……?」
ランタン「そう。……私の頭が何か、教えてくれないか」
テオ「え……?」
ペイパー「(少し声を低めに)……君って人は」
ランタン「私の頭が何かを知りたいんだ。その代わりに君たちが帰る方法を教えてあげよう」
グローリア「いいわよ、教えてあげる。あんたの頭は……」
キャット「(大きな声で)辞めて!!!!! 何を考えてるの?! そんなことだめに決まってるじゃない!! (冗談よね?と微笑むような感じで)ねぇ……ここのルールを忘れたの?」
ランタン「忘れてなどいないさ。我々インサイドの住人は自分の頭が何かを理解してはならない。理解した瞬間にどこでもない空間に消える」
ヴィー「それを分かってて、知ることを望むのか」
ランタン「君なら同感してくれるのではないかな? 小さな発明家の少年よ」
アル「ふむ、確かに気にはなるだろうね。どこでもない空間とはなんなのか。自分は何者なのか」
ランタン「そのとおり。私は今までこの図書館にこもって狂ったように研究を重ねてきた。だが最もわからないのは自分のことだと気付いたのだ。なぜ、私はここにいるのか。なぜ、私の頭を理解してはならないのか」
テオ「(不安そうに)でも消えちゃうんですよ? それがどういうことかもわからないのに」
ランタン「そう、それを知るためには自身で体験するしかないのだよ。私はこの世界に未練もない。何故か、大切ななにかを失っている気がしてならない。インサイドもアウトサイドも調べ尽くした。ならばどこかへ行って探すしか無いだろう?」
キャット「そんな……」
ランタン「さぁ、教えてくれ。私は何者なんだ?」
グローリア「約束は守りなさいよね」
ランタン「ああ」
グローリア「あんたは……」
ペイパー「ランタン」
ランタン「ん? なんだいペイパー」
ペイパー「違うよランタン。君の頭だ」
ランタン「私の……頭?」
ペイパー「そう。灯火を納める、透明で角型の手下げランプ。それが君の首にくっついてる」
テオ「ペイパー、どうして君が……」
ペイパー「(優しげに)ほら、僕って、変わり者だから」
ランタン「あ……ああ……ランタン……そうか……だから私は……」
ヴィ「おい、様子が変だぞ」
アル「みんな、離れて。巻き込まれるよ」
ランタン「ああ……あああ……すまない、すまない……」
キャット「(怯えた様子、泣きそうな感じ)……ラン、タン……?」
ランタン「すまない……すまないね……、メア(リー)」※途中で切れる(リーまで発音)
テオ「……え、あれ……?」
キャット「ランタン……? ランタンッ……?! どこ……?!」
グローリア「消えた……」
アル「音もなかったね。瞬きした次の瞬間にはまるで存在しなかったようだ」
テオ「行っちゃったの……? どこでもない空間に……」
ペイパー「それはランタンだけがわかることだろうね」
グローリア「(余計なことをしてくれたな、という気持ち。ただ怒りを表しすぎないように)……どうして」
ペイパー「(すこし明るめに)こんな後味の悪いこと、女の子には可哀想かな、と思ってね」
グローリア「…………(少し睨む)」
ペイパー「さ、ランタンは約束は守る男だよ。君たちが帰る方法は必ず残されているはずだ」
グローリア「ないじゃない!!!」※ペイパーにつめよる
ペイパー「あれぇ、おかしいなあ」※顔を反らしながらテへという感じ
テオ「うーん、この大きな本棚にあるかと思ったんだけど……」
アル「見つけたのはあの装置の小型版だけだね。どうやら持っているだけで効果があるようだよ」
ヴィー「この部屋は隅から隅まで調べたぞ、俺たち騙されたんじゃないのか」
キャット「ランタンはそんなひとじゃない!!!」※泣きそうに
テオ「キャット……」
キャット「ヴィー、いくらあなたでも許せないわ! 彼は、不器用で真面目で、でも人一倍優しい人なの……! (絞り出すように)騙すだなんて……そんな、ひどいこと……っ」
ヴィー「えーと……、すまなかったよキャット」
キャット「(泣きそうになるのをこらえながら、息を震わせて呼吸をする)」
テオ「……(言いにくそうに)でも……わからないままだね、僕たちが帰る方法」
ペイパー「それはどうだろう」
アル「ペイパー、君はなにか思い当たることがあるのかい?」
ペイパー「ランタンは多くは語らない奴だった。今日君たちと話しているのを聞いて驚いたくらいだよ。僕はそれが少し不思議だった」
ヴィー「あー……つまり?」
グローリア「彼との会話の中にヒントがあったっていうの?」
ペイパー「あくまでも僕の予想だけどね。ま、彼の考えることだから今すぐ答えがでるものでもないさ。一旦この部屋をでよう」
グローリア「でてどうするのよ、他にアウトサイドについて詳しいお友達でもいるわけ?」
ペイパー「いや、まずはランタンの墓を作ろうと思う」
キャット「……ッ!!!(息を大きく飲む)」※走ってでていく
テオ「キャット待って……!! 僕追いかけてくる……!! あ、ペイパー……」
ペイパー「ん?」
テオ「僕も、手伝うよ……」
ペイパー「(優しげに)うん、ありがとう」
※墓を作りながら
テオ「あの、……ごめんね」
ペイパー「なにが?」
テオ「その、グローリアたちのこと。アウトサイドに帰りたい気持ちが大きいんだと思う。だから、ペイパーとキャットの大切な友達のこと……」
ペイパー「普通のことだと思うよ。むしろ僕に付き合って土を掘ってるテオのほうがお人好しすぎる。キャットも家に帰してくれたしね」
テオ「ううん。結局キャットを慰めることも出来なかったし、グローリアたちをお墓作りに誘ったけど断られちゃうし……ダメダメなんだ、僕。よくそれで怒られて……」
ペイパー「彼らにかい?」
テオ「え? あ、いや……そう、じゃない……(独り言)あれ、誰にだっけ」
ペイパー「……よし、完成だ。ありがとう、テオ。助かったよ。僕一人だと時間がかかっただろうからね。墓を作られるなんてランタンが喜ぶとは思えないけど、少なくとも、これでキャットは前を向くしかない」
テオ「そうだね……。(別れ惜しいが意を決したように)それじゃ……」
ペイパー「(ここから真剣に/声を低め)テオ」
テオ「んっ…なに?」
ペイパー「ランタンは自分の姿を映すために、鏡であるアウトサイドを調べていたのかもしれない。……全ては頭を、いや……自分を知るために」
テオ「自分を……」
ペイパー「彼は『大切ななにかを失っている』と言っていた。そしてそれを、『思い出した』ようにもみえた」
テオ「それって……」
ペイパー「わからないけど、もしかするとそれが、君が帰ることに繋がっているのかもしれない」
テオ「ありがとう、ペイパー! グローリアたちにも伝え……」
ペイパー「いや、これは君の中だけにとどめておいて欲しい。(ここからいつもの感じに戻る、少し笑って)……確証は無いし、彼らに今伝えると危険を犯してしまうかもしれないからね」
テオ「そっか、そうだよね。わかった!」
ペイパー「じゃあ僕がグローリアたちを呼んでくるから、テオはこのシャベルやバケツを片付けておいて! 次の目的地も決まった頃だろうしね」
テオ「うん、任せて!」
テオ「よいしょっと、これで全部かな。……自分を知る……失ったものを、思い出す……。どういう意味なんだろう」
コレ「教えてあげる」
テオ「わっ……、い、いつの間に後ろに……!」
コレ「助けてあげる。テオドール」
テオ「僕の名前……どうして……き、君は誰……? (独り言)真っ黒のフードにマント……顔もよく見えないな……」
コレ「気をつけて」
テオ「気をつける……? もしかしてコレクター……? 僕たちを襲うって」
コレ「違う」
テオ「え? 違う? でも……」
コレ「ついてきて」※テオを引っ張って歩く
テオ「まま、待って! 僕だけじゃいけないよ、仲間がいるんだ!」
コレ「早く、テオドール」
テオ「お願い、話を聞いて……!」
コレ「こっち。こっち」
テオ「ぐッ……力が……強い……ッ、誰か……ッ」
グローリア「やっと墓を作り終えたのねテオ」
テオ「うひゃあ!!!!」
ヴィー「ははは! なんだよその驚き方!」
ペイパー「探したよ……片付けは終わったみたいだけど、どうしてこんなところにいるの?」
テオ「だだだってこの子が……、あれ」
アル「誰かと話してたのかい? 僕たちには何も見えなかったけれど」
テオ「いない……」
ヴィー「立ちながら寝ぼけてたのか? 気ぃ抜きすぎだぞ?」
テオ「いやあ~、あはは……そういえば話し合いに参加できなくてごめんね。次の目的地は決まった?」
グローリア「あんたは参加してもしなくても一緒だから問題ないわよ」
テオ「うっ、ひどい!」
アル「インサイドの住人に敵意がないことがわかったから、もう少し接触して情報を集めようかと思っているんだ。勿論、相手は選ぶけれどね」
ヴィー「今回のことがあったからな。住人の存在自体に俺たちの帰る方法が関わっている可能性を考えたわけだ。流石アルだな」
テオ「なるほど……! それで次の目的地っていうのは……?」
グローリア「魔女が住む塔よ」