Night Walk
読んで下さろうとして、ありがとうございます。
この話は賞に出そうとしたモノですが、手違いで応募できずにいた話を
短編小説として投稿しました。
高校生である僕は、本来なら22:00にバイトが終わる。
しかし、深夜バイトの人が急に休んだ代わりを務められる人が居なかった。
それに加え、通常よりも店が忙しくて人手不足の状態である。
仕方なく代わりを務めたのが18歳の誕生日を昨日迎えたボクだ。
いつもなら電車で帰れるのだが、
最終電車に乗り遅れたボクは歩いて帰ることにした。
ボクは初めて深夜の町を歩いた。
そして、夜の街を歩いていて一つの発見があった。
店には明かりが灯っていて未だに営業しているところ。
既に店が終わっていて暗闇に紛れるところ。
営業は終わっているが薄い光で照らされているところ。
こんなのは学校で習わないし、
日が出ている内には知ることのできない事。
昼間の道も夕方の道もボクは知っている。
帰り道は同じなのだから時間が異なっても大きな差はない。
そう、ボクは思っていた。
しかし、ボクは今日はじめて知った。
そんなロジックは深き夜の魔法には無意味である。
何もないし誰も居ない。
街灯がポツポツと道を照らす世界で今、ボクは生きている。
その日、ボクは深夜の町に大きく魅かれた。
日が出ている世界とは異なる。
もう一つの世界をボクは見つけた。
そして、ボクは地図を作る事に決めたんだ。
やっと、本題に入れるよ。
これを聞いている君はどうだか知らないけど、
ボクはここまで来るのに眠気というモンスターと幾度も勇敢に戦ったんだ。
なかなかに大変な戦いだったよ。
そうだ、言い忘れていることが有ったんだ。
君は真夜中と昼で最も異なる点は何だと思う?
ボクはこれを考えるに『人間』が重要だと思うんだ。
さあ、続きの物語を話そうか。
ボクはあの日から、深夜になると家をこっそりと抜け出していた。
もちろん、両親には秘密にしていたよ。
18歳だとしても高校生が一人だけで夜の街を歩くなんて問題だから。
だから、両親が寝静まる24時頃を待ってから自室の窓から外へと出る。
夜の街には色々な秘密が隠れていたんだ。
例えば、地図を創り始めて間もない頃、ボクが何の目的もなく彷徨っていた。
地図を創るのにあたって、何をすれば良いのか分からなかったから。
真夜中の街を歩いて道の先に何が在るのかを探っていたんだ。
そうしたら、空に浮かぶ煙を見つけた。
月を覆い隠すような白煙を生み出し続ける大きなバベルの塔。
小さな家々の中に大きく立っているそれは異様な存在感がある。
買ったばかりの地図をカバンから取り出してメモを録った。
バベルの塔へ着く前に、フェンスが行き先を遮る。
そして、そこには先客がいた。
黒いコートを着ていて表情を読めない。
その人は塔を見上げて呆然と立っている。
ボクは何も言わずに立ち去ろうとしたが、後ろから声を掛けられた。
「そこの君、何をしに来たんだい?」
ボクは声を掛けてきた方を向く。
声色から分かることは30~40代くらいの男だということだけ。
こんな夜中に一人でいるような人間には誰でも警戒心を抱くと思う。
「この塔が見えたから、見学しに来ただけです」
黒服の男は街灯に姿を現した。
そいつは渋い顔をしているが何処か優しい雰囲気を放つ人に見えた。
「君は工場とかが好きなのかい?」
「それとも、別の理由で塔を見て回っているのかな」
「ボクは自分だけの地図を創ろうとしているんです」
「その調査をしていたら塔を見つけたので見学に」
「なるほど、君は面白そうなことをやっているんだね」
「ぜひ、君が創っている地図を見せて欲しいな」
男は笑顔で近づいてくると、
ボクの目の前で止まり手を差し出してきた。
しかし、ボクは警戒を解かずにいた。
「あんまり警戒しないでくれ」
「俺は怪しいモノじゃないからさ」
「ただ、君が創っている地図について興味が有るだけなんだ」
「地図を創り始めたばかりで」
「人に見せられるようなモノなんてありません」
「もう、夜も遅いですし家に帰ります」
「そうか」
「見ることが出来なくて、とても残念だ」
「また、会うことが出来たときには見せてくれると嬉しいな」
「はい」
「その時は是非」
「これは俺からのせんべつだ」
「色々な事に役立つと思うから受け取ってくれ」
男はカバンから古いカメラを取り出すとボクの懐に放り投げて来た。
ボクは思わずそれを受け取ってしまう。
「このカメラは撮ると写真が出てくる仕組みになっているんだ」
「地図の資料集めには有る方が良いんじゃないか」
結局のところボクは彼のカメラを貰ってしまった。
彼は断る間もなく姿を消してしまったからね。
それに、彼の言う通りカメラは資料を集めるのに役立ちそうに思えたから。
次の日、ボクの家から一番近くの駅に行った。
自転車を近くに停めてから駅の周辺を見渡せる場所へと登る。
ボクはそこで淡い光に照らされるゴーストタウンを見た。
誰もいない静かな町は、とても広い世界にボクは見える。
ゴーストタウンはボクに他にも面白いモノを見せてくれた。
光の灯らないビル群が自分を閉じ込めようとしている壁のように見える。
ボクはゴーストタウンを徘徊する。
色々な場所を見て回って静かな夜の駅の事を少しは理解できたように思う。
そこは、開放的であり閉鎖的という矛盾が存在する空間だった。
ああ、とても疲れた。
ボクは人に物語を聞かせるのが下手なんだ。
どうして、こんな契約をしてしまったんだろうか。
叶うなら昨日のボクに説教したいよ。
仕方ないから続きを話そう。
でないと、深青の真夜中が明けてしまう。
ボクは朝の日差しに眼を覚まされた。
昨日、撮影した写真を物色してみる。
適当に拾い上げた写真には女の子が映っていた。
それは、わずかな光が照らしている道路を上から撮ったモノだ。
暗くてよく見えないが、白くて透き通るような肌に真っ黒な長髪。
その子の輪郭はハッキリとしないが、雰囲気からして綺麗な人だと思われる。
写真に映り込んだ女の子に、ボクは少しだけ興味を魅かれた
一月が経った頃の話だ。
ボクは街の色々な景色を見た。
多くの資料が集まってきて、他の街に足を延ばしてみようと思い立つ。
その日の夜、ボクは隣の大きな町へ遠出した。
そこはボクが見た何処よりも輝いていて眩しい。
昼や夕方の景色に匹敵するほどの明るさだ。
そんな通りを幾人もが闊歩している。
誰もが酒に酔い、街に酔い、真夜中という空間に酔っている。
そんな紅色の街灯と甘い香りが満ちた街をボクは見た。
妖しく漂う街並みを被写体に収めていると、
一月前の写真に映り込んでいた美少女を目の端に捉えた。
ボクは撮影を中断して彼女を追いかける。
しかし、人ごみのせいで彼女の姿を見失ってしまった。
仕方なく街の端を歩いていると肩がぶつかってしまった。
ボクは会釈をして3人グループから立ち去ろうとするが後ろから怒鳴られる。
「お前、謝れよ!」
「立ち去ろうとか、いい度胸してるじゃん」
「ちょっと、裏路地に行こうか」
ボクは胸ぐらを掴まれて逃げられない。
ボクは周りの人に助けを求めようとするが誰も歩みを止めない。
不良の集団に無理やり路地裏に連れ込まれる。
そこは表と違って暗闇に満ちていた。
彼らはボクが逃げれないように取り囲む。
そして、殴りかかってきた。
その拳はボクの顔に向かって来るが届くことは無かった。
そこにいた全員が一瞬で意識を失った。
ボクも意識が薄れるが何とか持ちこたえる。
そして、彼女が目の前に現れた。
その整った顔には表情が無い。
彼女は紅の瞳でボクを一瞥すると通り抜けた。
ボクは助けてくれた彼女の姿を追う。
暗い道を幾度も通り過ぎ、消えてしまいそうな後ろ姿を探す。
ボクは扉の前で一息ついてからゆっくりと開けた。
扉を開けるとコーヒーの香りが漂ってきた。
店内は落ち着いた感じの雰囲気がある。
店に入ると老人がカウンターの席に水を置いた。
その隣には先ほどの女の子が座っている。
ボクはそこへと座った。
「何を召し上がりますか?」
老人がタオルを手渡してくる。
困ったボクは彼女の方に顔を向けた。
「彼女と同じモノを貰えますか」
ボクは美少女に話をかけた。
「さっきは助けてくれて、ありがとうございます」
彼女は本に目を落したまま答える。
「助けた覚えなんてない」
彼女の声は鈴を鳴らしたように透き通っている。
「それでも、ありがとうございます」
凛とした顔立ちの彼女はボクの方を向く。
「あなたは何者?」
ボクは彼女の行った意味が分からずに困惑した。
「ボクは只の学生ですけど」
「 、 、 、 」
「よければ、名前を教えてくれませんか?」
彼女はボクを睨みつける。
「嫌だ」
ボクはマスターが入れたコーヒーを飲み干すとカバンを取った。
「慌ただしくて、すみません」
「失礼します」
ボクは家へと早々に帰る。
布団に体を埋めると彼女のことが頭に浮かんだ。
心臓が脈打つ音が異様に大きく聞こえる。
なんだか落ち着かない。
マジで疲れたよ。
もう朝が近いんだよ。
家に帰りたいんだけど。
ボクは彼女と出会ってから何週間も過ぎた。
最初こそ冷たかったが、今では少しだけ言葉を返してくれる。
それに、本名は分からないままだけど、あだ名で呼び合うまでになった。
彼女は愛読書の登場人物から借用して『怪人』と名乗っている。
ボクは彼女に『魔法使い』と呼ばれていた。
普段の道を歩いても面白くないと思い。
適当な角を曲がってみた。
ボクは学校から帰る途中で図書館を見つけた。
普段とは異なる道を使っているが、
こんな場所に図書館が在ったなんて知らなかった。
ボクは好奇心が湧いたから入ってみる。
本を見て回るが、他言語で読むことが出来ない。
何か面白いものはないかと探索していると人に出会った。
彼は本を熱心に読んでいる。
しかし、ボクに気が付いて声を掛けて来た。
「君はここで何をしてるんだい?」
ボクは不味い事をしたのかと焦った。
「ボクは地図を創るための資料を探しに図書館へ来ました」
「入館禁止でしたらボクは直ぐに出ていきます」
完全に口から出まかせを言ってしまった。
しかし、彼は首を振った。
「ごめんね」
「少し怖がらせてしまったかな」
「この場所へ私以外の人が来たことに驚いてしまっただけなんだ」
男はニコリと笑って話を続けた。
「君は地図を創っているの?」
「どんなモノなのか見せてくれない」
ボクはカバンから地図を取り出して近くの机に広げた。
彼は地図を見て驚いた顔をする。
「ああ、そうだ」
「私の名前を教えていなかったね」
「いや、やっぱり教えるのはやめよう」
「代わりにボクのことを『魔術師』と呼んでくれ」
「君は驚くかもしれないが職業も魔術師だ」
「正確には陰陽師かな」
自分を魔術師と名乗る男は笑顔を崩さない。
ボクは疑いの目を向けるが彼の笑顔を見て何も言えなくなった。
「それよりもだ」
「君の作っている地図は深夜の街を描いたモノ?」
ボクは当てられたことに驚いたが頷いた。
「そうですね」
「未だに完成はしていませんが」
彼はその地図を愛おしそうに見ている。
地図に触れようとした瞬間、青い光が彼を襲った。
ボクは目の前で起きた事に頭の整理が付かない。
「大丈夫ですか?」
「ああ」
「驚きましたが平気です」
ボクは疑問を魔術師にぶつけた。
「何が起きたんですか?」
彼は服を軽く叩いてから起き上がる。
「そうですね」
「何から話せば良いのか」
「さっきも言ったけど、私は陰陽師を営んでいる」
「これは冗談では無いよ」
「様子を観察していたが君は普通の人間のようだね」
「君は陰陽師の仕事を知っているかな?」
ボクは彼の正面に座った。
「妖怪退治とか占いとかをしていた人達のことだろ」
彼は机に肘を立てて頬を支える。
「大体は正解だ」
「そして、それは今の世の中にもいる」
「私の様にね」
「君達には見えないだろうが、化け物はいるんだよ」
「昼は太陽を避けて何処かに身を潜め」
「真夜中に行動する」
「彼らは数種類いるが、人間に危害を加えるのは1~2種類の怪物だ」
「その中でも特に危険なのが『バンパイア』」
「君も映画などで見たことがあるだろ」
「私は化け物どもを狩っている」
「それで、ここからが君に関係することだ」
ボクはいつの間にか特殊な魔法を発動させていたらしい。
その魔法は魔術師でない人間にしか扱えないと彼は言っていた。
重要なのは真夜中の特異点とそれを正確に結ぶ地図。
それよりも、ボクは彼女に関係することで何か胸騒ぎを感じた。
そのため、ボクは喫茶店の前に立っている。
喫茶店に入ると彼女はいつものように、カウンター席で本を読んでいた。
ボクは呼吸を整えながら彼女の隣に座る。
「どうかしたんですか?」
彼女は目線だけをボクに向ける。
「いや、君に早く会いたくて」
ボクは頭が回らない状態で適当に答える。
「これで頭を冷やしたらどうですか?」
彼女は机に置いてあるグラスを取ると、ボクの顔に水をかけた。
ボクは何が起こったのか理解できずにキョトンとする。
しかし、とりあえず誤っておいた。
少女はボクを睨んでから何かを囁いた。
声が小さすぎて聞こえない。
「少し、散歩でもしませんか?」
ボクは夜の街を自称『怪人』と一緒に真夜中の街を散歩している。
昨日まで予想もしていなかった事が今日は二度も起きている。
「魔法使いさんは私に聞きたいことがあるんじゃないんですか?」
ボクは高鳴っていた胸の鼓動が直ぐに静まってしまった。
「ああ、そうかもしれない」
「もしかして、君はバンパイアなの?」
彼女は薄笑いを浮かべる。
「そう」
「私は吸血鬼」
ボクは自分自身の耳を疑った。
「魔法使い」
「何で私が吸血鬼だと分かったの?」
「陰陽師に聞いた?」
「ボクが陰陽師かもしれないよ」
「貴方はただの人間」
「陰陽師は見ればすぐに判るの」
ボクは心中の底から疑問と何かが込み上げてくる。
「君がバンパイアなら」
「なぜ、ボクの前に現れたんだい?」
「私は貴方の前になんて現れていません」
「あなたが勝手に私の後を着いて来ました」
「それと、私の質問に答えてください」
「ボクはバンパイアと聞いて、なぜか君を連想したんだ」
「それで、不安になって」
彼女は立ち止まると急にボクを突き飛ばした。
その瞬間、天空から鉄の矢が無数に降り注いだ。
彼女とボクは危機一髪で回避した。
そして、彼女は屋根の上に影を浮かべる者を睨んだ。
「まさか、君がバンパイアと繋がっていたとはね」
「とても驚いたよ」
月の明かりに照らされて魔術師が姿を現した。
「それよりも、如何して君はバンパイアの存在が感知できるんだい?」
魔術師は怪訝そうな顔でボクの答えを待った。
しかし、ボクも答えを持ち合わせてないため黙るしかない。
「、 、 、」
それに痺れを切らして彼女に目線を向けた。
しかし、彼女は魔術師へと睨み返して答えた。
「さあ、戦う前に教えてくれないかい」
その瞬間、陰陽師は一本の剣によって背中を貫かれた。
彼も驚いた顔をしている。
「戦いは既に始まっている」
彼女は陰陽師に追い打ちをかけるべく、彼の方に飛躍して心臓へと切りつけた。
しかし、陰陽師が煙りのように揺らめいて、彼女の体を黒い塊が拘束した。
入れ替わるようにして、ボクの足元から魔術師が現れた。
ボクは抵抗できずに意識を失ってしまった。
気が付くとボクは近くの公園にいた。
「やっと、気づいてくれたか」
「それで先ほどの続きを聴こうか」
ボクは魔術師に彼女との出会いからを全て話した。
それは単に、ボクが抱えているモヤモヤを解消したかったからだ。
魔術師はボクの話にヒントを得たように微笑む。
そして、ボクのカバンからカメラを取り出して驚く。
ボクは何を驚いているのかを魔術師に訊いた。
「君の持つカメラは魔法道具だ」
「それも、伝説級のモノだ」
「映し出す全てのモノの真実を暴く」
魔術師はカメラを持ち上げて嬉しそうに笑う。
「これを使用していたからバンパイアを目視できていたと考えるべきだな」
「本当は殺そうとは思っていなかった」
「しかし、『真夜中の地図』も『真実の瞳』も君には大きすぎる力だ」
「君は力を制御しきれないだろう」
彼の顔が今までで最も不気味に感じられる笑顔だった。
「だから、君を殺してボクのモノにさせてもらうよ」
ナイフがボクに振り下ろされる。
そこに彼女が体当たりして止めてくれた。
魔術師は地面に這いつくばりながら痛みに悶えている。
「俺に怪我を負わせやがって!」
「バンパイアと一緒に殺す」
男は拳銃を取り出すとボクの方に向けて引き金を引く。
拳銃に撃たれたボクは本当なら地面に倒れているはずだが、
ボクは何処にも痛みを感じない。
目を開けると彼女が倒れていた。
ボクは近寄ろうとするが真っ赤な手に制止された。
彼女は目の前にいる男を見据えると陰陽師に突進する。
彼女の爪が陰陽師の体へ突き刺さるように見えたが、
残像が霧散するように空を切る。
彼女は何度も切りつけるが同じように避けられる。
陰陽師は合間に銃弾を打ち込む。
バンパイアは全ての弾を受け止めながら攻撃している。
ボクは地面に落ちているカメラを拾ってから男を撮った。
写真には彼女と黒い影が映し出される。
そこから導き出せる答えは一つしかない。
所かまわずにカメラで撮影する。
その写真の中に男の姿が映し出されていた。
ボクはそいつに向かって走り出し、殴りかかる。
彼女の前にいた男は灰の様に崩れていく。
そして、ボクは魔術師にナイフを振り下ろした。
吸血鬼は体中から出血している。
彼女の姿はボロボロで何処か弱々しい。
もしかしたら、このままだと死んでしまうのかもしれない。
ボクは倒れている彼女を抱き上げると力強く抱きしめる。
「魔法使いさん」
「私と契約を結んでください」
「今は病院に行かないと!」
彼女は頬を少しだけ緩ませた。
「私は数分後には死ぬ」
「何をしても手遅れ」
「私の願いを一つだけ聞いてくれる」
ボクは涙を流しながら頷いた。
「私の眷属になって下さい」
「貴方には業を背負わせてしまうけれど」
ボクは何も考えずに返事をする。
「何をすればいい?」
「私と契約してください」
彼女の手を握りしめて答える。
「分かった」
ボクは指の先を少しだけ切って血を流す。
そこへ彼女の紅く染まった手を重ねた。
「私への要求は何ですか?」
ボクが彼女に言いたいことは一つしかなかった。
「生きてくれ!」
彼女は驚いた顔をするが直ぐに真剣な眼差しに戻る。
「私は貴方の言葉に命をもって叶えます」
ボクが彼女の言葉に続ける。
「ボクは君の血統の全てを背負うよ」
二人が合わせる指に真っ赤なリボンが結ばれていく。
いつの間にか赤いリボンは消えており、指には鎖のような跡がついていた。
その後、彼女はボクの方に牙を突き立てる。
これでボクも人間でなくバンパイアになってしまう。
眷属の儀式が終わると彼女は高熱を出した。
公園のベンチで寝かせているが、とても苦しそうだ。
水を買って戻る頃には彼女も意識を取り戻していた。
「私は君に嘘をついてしまった」
「眷属を作るには私を消滅させないといけない」
「つまり、私はこの世からいなくなる」
ボクは衝撃的な事を彼女の口から聞いてしまった。
「あなたには色々なモノを貰った」
「貴方の全てを奪ってしまった私の言葉など聞きたくもないだろう」
「それでも、これだけは言わせて」
「私は貴方の事が最初から嫌いだった」
「人間のくせに私なんかに話しかけてきて」
「私に声を掛けたことを後悔して生きて」
彼女の体が少しずつ消えていく。
この世に存在しては為らなかったように一粒も残さずに。
ボクは全てを語ったよ。
太陽が昇ってきてしまう前に君に取り立てないとな。
ボクと君は契約を交わしたんだから。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
私は深夜バイトをしていて、深夜の街の魅力を知りました。
今回の話は、それを前面に出して書いたつもりです。
もし良かったら、感想を聞かせてください。