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みっちゃんの愛は重い  作者: 白川れもん
プロローグ
2/3

冬実~NLルート①~

遅くなりました。まずは女の子から。

 え? なんて??


「あの、みっちゃん? 恋人って?」


「恋人は恋人だよ。付き合っている同士を呼ぶんだよね?」


 いや「それは、そうだけど……」そうじゃないだろう。


「僕、この機会を逃しちゃいけないと思うんだ。やっと二人っきりになれたのに、別々の家で生活するなんて、堪えられないよ」


 悲しそうに歪む表情。

 演技か? 本心か? 真剣過ぎてわからない。

 だが、これは本心だとしたら、大事だ。突然、恐怖を感じた。


「みっちゃん、落ち着いてよ、今までだって離れて生活してたよね?」


 すると、今度は苦痛に歪める。


「それは、邪魔者がいたからだろう? 君の母親……僕の姉さんだよ」


「邪魔者? お母さんが?」


「そうだよ。僕たちの関係に気づいていたんだ。もう何年も釘を刺されているよ。『冬実はいくつも年下で、貴方の姪なんだから。それに、そういう目で見ないで』ってね」


 何年も前から?

 そういえば、お母さんはよく「光哉と二人きりになってはダメよ」「お家も行ったらダメ」などと言い聞かされていた。


 でも、最近は落ち着いてたんだよね。


「でも、お母さん言ってたよ『光哉もやっと理解した』って」


 そう、安心していた。

 恋人がいるみたいだからって。


「ふふふ」


 みっちゃんは笑い始めた。怪しく口角を上げ、物凄く、楽しそうに。そして言った「演技だよ」と。


 あ、これやっぱり演技だったんだ、と小さく安堵していると、みっちゃんは続けた。


「恋人なんていないよ、僕は。恋人がいるように見せたんだ。素直で単細胞な姉さんは、それをスッカリ信じ込んだ。僕の演技とも知らずにね!!」


 あれ? もしかして、と、また胸が騒ぐ。


「僕はずっと君だけを愛してきたんだ。他の恋人なんているわけないよ」



 あれ? これ、演技って、そっち?

 みっちゃんの高揚した、熱を孕んだ瞳に、変な汗が全身から吹き出る。怖い。



「あの、みっちゃん?」


「僕は好きなんだ。冬実ちゃん、確かもう十六歳は過ぎているよね、今のうちに婚姻届出そうか? こんなこともあろうかと、とっくに僕の籍は抜いてあるんだ」


 恐ろしいことに、先程まで興奮していたはずのみっちゃんは、静かに、穏やかに、私の知っている、いつものみっちゃんで、そう告げた。


 怖くなり、後退る。

 そして、首を少しずつ横に振る。みっちゃん、怖い、と。


「あれ? うふふ、どうしたの? ちょっと早まり過ぎたかな? そんなに怯えないで……怯えた顔も可愛いけど、姉さん達が帰ってくるかもしれないし、時間が無いんだよ」


「で、でもっ」


 こんなみっちゃん、知らない。



「……わかったよ。じゃあ、もう少し考えようか。それじゃあ、一回、僕の家に行こうか。姉さんが盗聴器とかカメラ仕掛けてるかもしれないし」


「え?」


 そんなことをするお母さんじゃない、と見上げる。

 すると、それに気づいたのか、みっちゃんは「そうか、養子だし、僕だけか」と笑う。



 え? そんなことするの?

 みっちゃんがわからなさすぎて、部屋に行く術を考える。

 とにかく、ヤバい。逃げなければ。


 このままじゃ、みっちゃんと結婚することになる。

 嫌いじゃないけど、今のみっちゃんはおかしい。


「わ、私、部屋に行かなきゃ」


「じゃあ僕も行くね。荷物だよね? 一緒に運ぼうか」


 ニコニコと、昔と変わらない笑顔のみっちゃん。

 でも、これも演技なのでは? と思うと、どうしようもなく逃げたくなる。

 何かされる気がしてならない。


「いいよ、私、その……」


 騙すのが下手だ、咄嗟に言葉が出てこない。


「……一応、言っておくけど、僕達は叔父と姪の関係なんだ。警察とかに連絡しても、だーれも来ないからね? だってそうでしょ? 赤の他人の恋人なら痴話喧嘩とかあるかもしれないけど、僕達は親戚なんだから」


 さーっと顔から血の気が引くのがわかる。

 怖い、怖い。

 もう、どうしたら良いか、わからない。


「落ち着こう? ほら、温かいココア作ってあげるから、ね? ふふ、大丈夫だよ、冬実の嫌がることはしないよ」


 呼び捨てになっていることに、恐怖しかない。

 どうしたらいいのか。

 意地でもお母さん達についていけば良かった。


 みっちゃんは楽しそうに、鼻唄しながら、ココアを作っている。

 料理を食べ終えた時間に戻りたい。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとう」


 カップに口をつける。程よい甘さと、温かさ。ほっとする。


「……僕、今日はとりあえず帰ろうかな」


「え、ほ、本当?」


 何が起こったのかわからないが、みっちゃんは私に笑顔でそう言った。

 今日、帰ってくれたらこちらのものだ。

 お母さんに連絡して帰ってきてもらって、後は友達の家とか……。

 考えているうちに、なんだか無償に眠くなってきた。

 なんだろう、寝ちゃダメなのに、寝たい。


「ふふ、帰ろうかな、もちろん、冬実も一緒にね」


 優しそうに笑うみっちゃんと、頭を撫でられている感覚。手からカップを優しく取ってくれるみっちゃんと、不気味に弧を描く、口元。


 意識を失う前、最後に見たのは、そんなみっちゃんだった。




「ごめんね、どうしても僕の家に来て欲しいんだ」



 その声は、冬実には届かなかった。


はい、ご覧の通り、みっちゃんやべえやつです。こんなことになるとは。

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