初転生!初召喚!
夏のカラッとした日差しの中、上を見上げると、白いワンピースが目についた。眩しくてよく見えないが、細身の少女のようだ。その少女は、10階ほどの高さのオフィスビルの屋上にいた。
屋上には柵があったが、ビル自体かなり古いようなので、壊れないかハラハラする。
……ん?……柵の手前⁉︎
少女は、明らかに柵の前に立っている。気のせいか、こちらを見下ろしているようにも見える。
「おい!待てよ!」
叫んだ俺は、オフィスの階段を一気に駆け上がった。生ぬるい風が、顔を叩きつける。鉄で出来ている階段は、足をつくたびに、カッカッカッと鳴り響く。
バッと屋上のドアを開けると、眩しい光が目を刺した。
そこにあの少女は……いた。後ろを向いているので、顔は見えない。
俺が近づくと、待っていたかのように、少女は柵から手を離した。小さな体が前に傾く。
……………………⁉︎
俺は、必死でその手を掴んだ。鈍い音がして、俺の体も前に倒れていく。そこには、あるはずの柵が無かった。いや、正確にはあったのだが、それはもはや、もう柵の原形がわからないほど、ボロボロに崩れていた。支えるものが無くなった俺の体は、そのまま落下した。
……あ……俺……死ぬのか……
思った時には、もう地面はすぐ近くにあった。最期に見たのは、雲ひとつない真っ青な空だった。
何かが、俺の頬を叩く。
「……き…………さい」
(……ん?何か聞こえる……)
「……おき……ださい……」
(誰だよ……もう少し寝させてくれよ……)
「起きてください!」
うっすらと目を開けると、天井が見えた。木でできているのか、木目が目立つ。
「お目覚めですね。」
耳元で声が聞こえる。ゆっくりと体を起こすと、そこは、見覚えのない家だった。日本では、あまり見ないような木造の家だ。
あたりを見渡しても、人は誰もいない。だだその代わり、小さな妖精のような生き物が浮いていた。そして、その生物は口を開いた。
「ようこそ、私たちの世界へ!私は、リーナと言います。」
訳が分からず、ただ俺は呆然としていた。
「月瀬 綾斗 さんですよね?」
「そうですけど……まず、状況の説明を……」
「あ、そうでしたね。綾斗さんは異世界って知ってますか?」
「なんとなくは知ってるよ。死んだあとに違う世界に行くってやつだろ。」
そこまで言って、ふと思い出した。
「そういえば、俺、ビルから落ちて……」
リーナと名乗る妖精は、小さな羽でふわりと俺の目の前まで飛んで来た。
「そうです。あなたはビルの屋上から落ちて死にました。そして、この世界に転生した訳です。」
そんなことを言われても、はいそうですかなんて納得できるはずがない。
「じゃあ、もとの世界には戻れないのか?」
俺は、少し不安になった。まだ、やりたいことが山ほどある。
「基本的には、この世界で第二の人生を送ってもらうことになります。ただ、戻る方法がないわけではないので、それは後で説明します。」
「それで、俺はまず何をすればいいんだ?」
「そうですね……、では早速、召喚をしてもらいましょう!」
「召喚って、ゲームのガチャみたいなものか?」
俺は、自由な時間のほとんどはゲームに費やしてきたので、ガチャでモンスターが召喚されるところを想像した。
「ガチャとは少し違います。モンスターを仲間にできるというところは変わりませんが、今回の召喚はランダムではなく、召喚する本人の能力によってモンスターが変わります。才能がある人は、強いモンスターを仲間にすることができますよ。」
そう言ったリーナが床に手をかざすと、そこに魔法陣が現れた。
「さあ、綾斗さん!魔法陣に手を触れてください!」
リーナは、目を輝かせてこちらを見ている。
「やるしかないか……」
俺は思い切って、魔法陣に手を触れた。
すると、魔法陣強く光輝き、あたりを包んだ。
光が消えたあと、ゆっくりと目を開けてみると、そこには、緑色の透き通った液体があった。
「なんだこれ?失敗?」
「これは……まさか……」
リーナが液体に近づくと、それには目があり、ぬるっと動いて、こちらを向いた。
「綾斗さん……これはスライム……最低ランクです……」
「なに!最低ランク⁉︎」
自分には、いろいろな面で、才能がないことくらい分かっていた。それが、異世界にまで及ぶなんて。少し期待していた俺は肩を落とした。
「最初から、子供のドラゴンを召喚できる人もいるのに、スライムって………、初めて見ました……」
「うっさいわ!」
完全に俺のことを馬鹿にしている。
「才能があると思って連れてきたのに、私の勘違いだったようですね。」
「じゃあ、お前が俺を殺したって訳か?」
「殺したって、人聞きが悪いですね。落ちそうになった時、手を掴んだのはあなたの意思ですよ。私はただ、屋上に立っていただけです。」
リーナは終始、ニヤニヤしている。
「やっぱり、あれはお前だったのか……」
「はい!天気が良く暑かったので、少し風に当たろうと思った次第です。」
絶対嘘だ。リーナは最初から、俺を殺して、転生させるためだけにあそこに立っていたらしい。
「才能が無いのはわかりました。ただ、だからと言って、私には、もとの世界に帰す力はありません。しばらくは、この世界で生活していただきます。いつか帰ることができるという保証はありませんが。」
まったく……、変な奴に絡まれたな……
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