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魔術師の始祖  作者: ハル
3/3

疑惑

「……んっ、ふぁっ……!」

「…………(モミモミ)」

「あっ! そ、そこはっ!? ひゃっ、ん!」

「…………(モミモミモミ)」

「ら、らめですっ! な、なつめさまぁっ! ど、どうかお許しを……! はあんっ!」

「…………ん」


 棗は少女――――レアの胸を揉みしだいていた両手を名残惜しげに手放した。もう何度か入念に時間を掛けて堪能しているが、まったく飽きる気配がない。マシュマロのような指が沈み込む柔らかさとハリ。女の胸の持つ魔の魅力には、さしもの棗も震え戦く気持ちであった。今はまだ服の上、下着の上からの接触であるものの、日に日に本丸へ直接乗り込むことの欲求が増してきている。しかし、あまり強引にはしたくない棗としては、そこらへんの匙加減は嬉れし恥ずかしな悩みの種であった。なにせこのレアという少女、棗が一言命じれば、顔を真っ赤にしながらすぐ様全裸になってもおかしくないくらい従順な女なのだ。


「ご、ご満足頂けましたか、棗様?」

「ああ。もう大満足だ」


 荒くなった息を整えつつ尋ねてくるレアに、棗は満面の笑みで答えた。すると、レアは頬を軽く朱色に染めつつ、嬉しそうに微笑んだ。都合の良い女ここに極まれり、そんな感じであった。

 聞いた話しによると、レアは今年で十七歳。偶然にも、棗とは同じ年であった。


「……棗ばっかりズルくないかな?」


 不意に、棗とレアの様子を興味深げに観察していたナツメが呟く。


「あん?」

「だから! 私と棗は対等なはずでしょ? つまりね? 私にもレアちゃんの胸を揉む権利はあると思う訳」

「……女の胸、揉みたいのか?」

「……正直、揉みまくりたいかな」


 ナツメは、真剣な目で、あまりにも頭の悪そうな発言をする。自分がセクハラをされた時は、あれ程拒否感を見せたくせに、それを他人に強要しようとは質の悪い女である。

 だが、確かにナツメの言うことは一理あった。棗とナツメの間に上下関係はない。同じ魔法師としてレアの家に住まわせて貰っている以上、他の利益を受け取る権利はあった。


「まぁ、俺はいいけどな」


 棗がそう言うと、ナツメは目を輝かせてレアを見つめる。

 レアは欲望丸出しの同姓に、少し引き気味ながら、


「……ナッちゃんがしたいなら、別に……」


 頷いた。

 そこには、同姓故の気安さなんかがあったのだろう。棗に触れられることに比べれば、ナツメに触れられる恥ずかしさや抵抗感なんて、まったく気にならない程度だ。

 だが、今回ばかりは甘かった。


「き、きゃあああああっ!」


 同意を得られると、ナツメは直ぐさまレアの胸目掛けて飛びついた。

 そして、同姓故の遠慮のなさで、棗がやっていた事が子供の遊びに見えるような蹂躙の限りを尽くしたのであった……。











「セクハラ女」

「君に言われたくないよ。それに、私のはコミュニケーションだもの」

「あんなコミュニケーションがあってたまるか! あれは性犯罪者のそれだったぞ……」


 レアは、俯せでお尻を突き出す様な体勢で、床に倒れ伏していた。時折身体がピクリと痙攣するから、少なくとも天に召されていた……なんて事はないだろう。


「……それにしても、もうこの世界に来てから一週間か。早いね」


 レアの呻きをBGMに、ナツメが感慨深げに言う。


「確かに、な」


 一週間。長いようで、あっという間に過ぎてしまった。その中で、いろいろな変化があった。その最たる例が、今棗達が過ごしている家である。

「改めていい家住んでるよね、レアちゃん」


 ナツメが部屋を見渡す。

 街の少し外れ。しかし、大通りからはアクセスの良い場所にドン! と居を構え、内装から何やら高級感を感じる。家具は年代を感じさせる品の良いアンティーク調。足下への気配りも忘れていないようで、絨毯までフカフカだ。おまけに棗とナツメに、それぞれ十分な広さの個室を与える充実ぶりである。


「もしかしたらどこぞの令嬢なのかもな。街の様子を見る限り、貴族なんて普通にいそうだ」


 街を見て回った感想としては、中世ヨーロッパのそれに近い。棗は中世ヨーロッパに住んでいたことも、ましてや生きていた事すらないが、学校の授業やテレビやネットで得た情報と比べると、やはりそれに一番違いのだろうと思った。時折、身形のいい従者を引き連れた者を見かけることがあった。もしかすると、あれが貴族とやらなのかもしれない。


「あとは、『魔法師』の存在かな」


 ナツメがその単語を口にした。

 魔法師。それは、この世界における、棗とナツメの職業……という事になっている。


「魔法師なんて職業がある分、やっぱ魔法は一般的みたいだよな」

「私も外に出かけた時に、魔力の流れを度々感じたかな。あれはきっと、日常生活のために用いているんだと思う」


 火をおこす、風を舞わせる、水を操る。基本的にはその程度のものだろう。


「俺もレアの下着を拝借しようとして、洗濯に魔術使ってるの見た」

「……何やってるのかな、君は……」

「男なら、誰だってそうする」

「しない! 人には理性ってものがあるんだよ」

「……レアの胸を揉みし抱いて悦に浸ってたお前にだけは言われたくないな」

「お前じゃない、ナツメだってば! ……それに、あれはコミュニケーションだから」


 そんな風に軽口を叩き合っていると、ようやくレアが起き上がった。


「お二人で盛り上がっているみたいですが、何のお話ですか?」

「別に大した事じゃない。レアも魔法使えるんだなって思っただけさ」


 棗が言うと、レアは不思議そうに首を傾げる。


「……? それは、はい。この世界に魔法のまったく使えない方なんて、数える程しかいないと伺っていますし。もちろん、棗様方には遠く及びませんが」


 やはり、魔術自体は一般的に普及している技術であるらしい。魔法師の定義や、その実力についてもレアに尋ねてみたい所だが、さすがにそれをすると疑われてしまうだろう。残念だが、それはまた別口で調べるのがよさそうであった。


「……あ、あの?」


 少し思案に浸っていると、レアがこちらを上目遣いで伺っているのに気付く。


「どうした?」

「はい、その……そろそろ生活には慣れましたでしょうか?」

「ええ、レアちゃんのおかげでばっちりよ!」


 棗より先に、ナツメが答える。

 レアは、安堵するようにホッと息をついた。


「それは大変良かったです。そ、そこで、例のお願いの件なのですが……」


 棗は、レアの言いたいことを察した。

 彼女は己が使命をそろそろ果たせと言っているのだ。

 言い方を変えると、乳揉みの対価を払えと言っている。 


「約束ならもちろん忘れてない。俺は約束は守る男だ。毎日、いろんな意味でいい思いをさせて貰ってるしな」

「そ、それは!?」

 

 ついさっきまでされていた事を思い出したのか、レアは頭から湯気が出そうな程、瞬時に顔を赤らめた。こういう初心な反応が実にイジメがいがある。棗とナツメが含み笑うと、レアは少し頬を膨らませて、抗議の視線を向けてくる。しかし、そうやっていても埒があかないと思ったのか、何事もなかったかのように続きを話し出した。


「私の所属している警備隊の隊長さんが、お二人に事件の概要や詳しい説明をするために、是非お会いしたいそうです。明日、何かご予定はありますか?」

「いいや。特にはないな」


 図書館があれば行ってみたいが、明日でなければならない事情はない。レアの胸には、対価としての労働をする価値がしっかりとあったし、断る理由はなかった。


「あ、良かったです!」


 レアは胸の前で嬉しそうに手を叩いた。


「なら明日、警備隊の事務所まで私がご案内しますね!」

「おう、分かった」

「なにか警察や探偵になったみたいでワクワクするー!」


 そうして、一週間目最後の夜は過ぎていった。











――――翌日。


「貴様ら、一体何者だ?」


 警備隊事務所へ向かった棗達を待っていたのは、歓迎ではなく、尋問であった。


「何者だ……と言われてもな。朝生棗だ! としか答えようがないぞ?」

「だから、そういう意味じゃねぇ!」


 ダンと、目の前の男――――王都バルバリの安全を一手に取り仕切るダグラス・ストッカーは机を力強く叩く。その衝撃に、埃がフワリと舞い、棗は眉根を寄せた。

 事務所というから、どんな場所かと楽しみに来てみれば、そこは快適とは程遠い錆と埃に塗れた子汚い一室。簡素な部屋の中にはパイプ椅子が乱雑に並べられており、現在棗達のいる別室はさらに空虚だ。金属の鍵つきのドアを除いて、完全なる密室。出会い頭にこの部屋に放り込まれた棗とナツメは、手酷い対応に抗議するレアを置き去りにして、ダグラスと対面するに至ったのである。


「もう一度聞く。何者だ?」

「…………」


 棗は、冷めた視線をダグラスに返す。ナツメなどはこの状況に早々に飽きたのか、さっきからずっとボーとして役には立たなかった。


「お前、誰にこんな真似をしているのか分かっているのか?」

「……っ!」


 棗は、強硬なダグラス態度にも、決して強気の姿勢を崩さない。レアとの触れ合いで分かったのは、この世界では『魔法師』の位が相当に高いという事だ。棗に様付けは当たり前だし、ナツメに対しても、ナツメが一言言うまでは同じく様付けをしていた。無論、レアの性格による面もあるだろう。しかし、それを加味しても、完全に上位者を見るようなレアの尊敬の眼差しは印象に残っている。


「こっちこそ、もう一度言わせてもらう。誰に向かって物を言っている?」

「……そ、それはっ……」


 棗の強気は、完全にハッタリだ。しかし、その対応が間違いでないと証明するように、ダグラスの表情には迷いが生まれ始めている。こんな真似をする以上、ダグラスにも棗達の素性を疑うネタを手に入れているのだろうが……。


「…………」

「…………」


 膠着状態。刻々と、時が流れる。

 その時――――。


「隊長! 報告です!」


 ギィィと、重い音を響かせつつ、尋問室のドアが開いた。入ってきた、まだ年若い青年は、棗達に敵意を向けつつ、ダグラスの耳元で何事かを耳打ちをした。


「何、本当か!?」

「ええ、間違いありません」

「そうか……。了解した、ありがとう」

「ええ、それでは」


 青年は、伝えるべき事を伝えると、足早に部屋から出て行く。その際にも、やはり青年は厳しい視線を崩さなかった。


「ふぅ……」


 ダグラスは、新たな情報を頭の中で整理するように、深い溜息をつく。その表情からは、先程までの迷いは完全に払拭されていた。


「興味深い事が分かった」


 ダグラスは、余裕すら見せて口を開く。


「通常『魔法師』は、ほとんどの場合国家に貴族と同等の待遇で受け入れられている。それは、彼らの才能が特別で総数が少なく、また非常に危険でもあるからだ。なにせ、彼らは個人で戦の戦況を変えられる存在だからな。今手にしている国力に関わらず、どんな国でも喉から手が出るほどその力は欲しいだろう」


 ダグラスは、言いつつ、棗達をチラリと見た。


「たまに、どこの組織にも属さずに、個人として国から国を渡り歩く『魔術師』も確かに存在する。しかし、彼らの力はあまりに強大だ。悪いが、もう一度聞く。貴様の名前は何だったかな?」

「……朝生棗だ」

「そう。そうだったな。アソウ・ナツメだ。珍しく、一度聞けば忘れにくい名だ。だがな、ないんだよ?」

「……なにがだ?」


 聞き返すと、ダグラスは露骨に呆れかえったかのように、天を仰ぐ。その仕草は演技じみていて、嫌でも棗の神経を逆なでした。


「決まりだな」

「だから、何がだよ?」

「本当に『魔法師』なら知らないはずがないがな? すべての『魔法師』は、専門の協会によってその名を登録されている。個人で活動する者らも、もちろん例外ではないし、その者らは移動する度に現在地を協会に報告する義務すらある。ここまで言えば、貴様にも分かっただろう? 協会の名簿に、貴様達の名前はなかった!」


 完全に意気を取り戻したように、ダグラスは癖なのか、机を強く叩いた。再び埃が舞い散り、棗は顔を横に向けた。埃が目に入ったのか「きゃん!」という可愛らしい悲鳴を上げて、猫耳をパタパタと振るながらナツメが目を擦る。


「その立場ゆえ『魔法師』を騙る事は重罪だ。……何か、言いたいことはあるか?」


 ダグラスは、勝利を確信したように笑みを零す。

 認めるのは癪だが、ダグラスはさすがに街の安全を守ってきた警備隊の隊長だけある。レアのように盲信せずに、きっちりと棗達の素性を探ってきている。

 街で棗も何度が噂だけは聞いたが、女の連続首切り事件は相当なインパクトと恐怖を伴って街に根付いている。警備隊としては、一刻も早く解決したいだろう。そんな所に降ってわいた棗とナツメという戦力をきっちり精査するダグラスは有能であろう。

 だが――――。


「一つ聞きたいんだが?」

「何だ?」


 棗はそう易々と負けを認めるような男ではない。むしろ、どんなに無様でも、足掻いて足掻き尽くすのが彼だ。何よりも、まだ負けを認めるような状況でもないのだから、なおさらだ。


「そこまで言うんだ。俺達がどこの誰かくらい、分かっているんだろう?」

「…………」


 次に沈黙したのは、ダグラス。

 そう。分かるはずがない。彼らにどんな情報網があったとしても、初めからそこにいなかった存在を知ることは不可能だ。ここまで自信満々に言うのだ。調べに調べ尽くしたに違いない。そして、先の部下の報告があるまでは、確信にまでは至っていなかった。そこに、一つ綻びがあれば、容易に網は破れる。


「……そう、そこだ」


 重い沈黙を破って、ダグラスは言った。


「だから最初から聞いている。貴様らは一体何者だ……と」


 それは、まるで堂々巡り。


「レアからも、部下からも話は聞いている。森に赴いた大半の隊員の意識をあっという間に刈り取り、かつキングベアードを何の苦もなく倒した。信じられない話だが、レアは嘘を言うような女ではない。だから、本心ではオレも信じたいのだ。それ程、街の情勢は切迫している。このままでは、被害者も遺族も浮かばれん! だが貴様らは『魔法師』ではないという情報が出てきてしまった……」


 ダグラスの顔が、苦渋に歪んだ。


「国の騎士隊や傭兵に比べれば、オレ達は戦闘力に劣る。それをカバーするために、死に物狂いで手に入れた情報網にはどこよりも誰よりも自信があった。そのオレ達をしても、貴様らに関しては何も分からずじまいだ。こんな事は正直初めてなんだよ」


 苛々したように、頭を掻きむしる。


「だから教えてくれ。俺たちに答えをくれ。貴様らが信じるに足る存在である証拠をくれ。いくらオレ達が現状に苦慮しているからといって、簡単に貴様らを信じる訳にはいかない。なにせ、オレなんかは件の事件の犯人が貴様らなのではないかと疑っているくらいだからな」


 ダグラスは、棗を縋るように見た。連続首切り事件には、やはり相当参っているようだ。

 だが、どうしたものか。下手な事は言えないし、そもそも棗はダグラスの信用を得たいなどとは欠片も思っていない。もうダグラスを病院送りにして、警備隊を乗っ取るのが一番早いんじゃないかと、半ば本気で思っていた。

 そこへ――――


「ジャッパーン!」


 ふいにナツメが声を張り上げた。棗は異常者を見るような目をナツメに向けるが、当のナツメは任せて! とばかりにウインクを返してくる。


「な、なんだ……いきなり」


 ふいをつかれたのは棗だけではないようで、ダグラスも目を丸くしている。


「ジャ、ジャッパン? 一体なんだ、それは?」

「あれ……違ったかな?」


 ナツメは首を傾げつつ、


「ニッポン!」

「……は?」

「うーん、これも違うのかな? じゃあ次! 和の国!!」

「…………??」


 続けざまにナツメの口から出る単語に、ダグラスは頭の上に大量のハテナマークを浮かべていた。ダグラスの浮かべる間の抜けた表情は滑稽で、棗は口元を隠して笑いを堪えた。


「なら、これでどうだ! ジパング!」

「……ジパングだと?」


 一見無謀に見えたナツメの言動が実を結んだのは『ジパング』という名称を口にした時であった。それまでの、まるで騒ぐチンパンジーを目の当たりにしたような奇異の視線ではなく、明確なダグラスの反応。


「東の果てにあると言われるジパングが、一体なんだというんだ?」

「……ふふっ」


 ようやく正解を引いたかと言わんばかりに、ナツメはニヤッと笑う。


「そう! その東の果てにあると言われている伝説の孤島ジパングよ!」


 ここぞとばかりにナツメは大仰に頷く。


「まだ分からないかな? 君は私達が何者か、何度も問うていたじゃない?」

「ま、まさか!?」


 ダグラスの相貌に、驚愕が浮かび上がった。


「その通り。ジパングこそが私達のやってきた土地よ」

「ば、馬鹿な! あそこは未開の地のはず! 現に何度も彼の地を調査するために船を出しても、悉く天災によって阻まれているはずだ!」

「それは君達が知らなかっただけでしょう? 実際、ジパングはここに負けず劣らず栄えた国よ。君たちがジパングに訪れようとしていたように、私達も別の大陸へ辿り着いた。ただ、それだけの事じゃないかな?」

「…………」


 ダグラスは絶句する。

 夢でも見ているように視線を彷徨わせ、最後に彼が求めるのは一つだ。


「しょ、証拠は……あるのか?」

「もちろん」

 

 ナツメは不敵に笑う。

 そして、自身と棗の顔を指さした。


「私達みたいな顔立ちの人間、ここら辺にいるかな?」

「……あっ」


 ダグラスは、思い出したように二人の顔を凝視すると、硬直した。

 ナツメの言う通り、バルバリには前世界で言う所の西洋人風の顔立ちが大半を占めている。残った少数も、基本的に彫りが深く、いわゆるアジア系の顔立ちは一人たりとも見かけることがなかった。

 おまけに――――。


「なにかな? 耳、気になる?」


 ダグラスの視線はナツメの猫耳へと集中していた。それは、異世界であるここでも、当然ながら奇異に映った事だろう。


「そ、それは……本物なのか?」

「もちろん」


 言いながら、ナツメは猫耳をピンと張ったり、ペタンと寝かしたりと動かしてみせる。


「……っ」


 ダグラスの生唾を呑み込む音が、生々しく聞こえた。


「だ、だが! そっちの男にはないではないか!」


 まだ納得できないのか、ダグラスは矛先を棗に向ける。だが、ここまで来れば、それは簡単に躱せる問いでしかなかった。


「ジパングにおいて、猫耳は女だけが持って生まれる特徴だ。だから男の俺にはなくて、女のナツメにはある。それだけの事さ」

「…………」


 事も無げに棗がフォローを入れると、ついにダグラスは完全に沈黙した。


「協会とやらの名簿に私達の名前が乗っていないのも当然だよ。何故なら、私達はこれまでこの大陸と接点のない場所からやってきた『魔法師』なんだから!」

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