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魔術師の始祖  作者: ハル
1/3

棗とナツメ

 おっぱい好きな人は読んでください。

『緊急警報発令! 緊急警報発令!』

「ちっ! 早ぇな……」


 朝生棗のいる薄暗い部屋のみならず、恐らくこの騒騒しい警報は、施設全体で鳴り響いているのだろう。


『第一級進入禁止区域にて、魔術師と思われる存在を探知致しました。一級進入禁止区域の管理者及び、その部下の皆様は、一刻も早く原因の究明に努めてください! 繰り返します――――』


 その証拠に、まだ距離はあるものの、バタバタと忙しない足音と気配が近づいてきているのを棗は感じていた。


「おっと、こんな暢気に考えてる暇はないな。急ぐか」


 火急の事態にも心を落ち着かせるためか、棗は独り言を呟きながら手を動かす。その手元にあるのは、幾重にも複雑な紋章が刻まれた陣。いわゆる、魔方陣というものだ。今時、どんな若者だって一度は空想や想像の世界で見かけたことのあるだろうそれ。その意味する所は、想像や空想とそれ程かけ離れてはいない。


「これはまた……厄介だな。骨が折れるぜ」


 封印術式と呼ばれる陣であった。何が封印されているのかは、棗すら知らない。ただ、施設にて最重要機密とされている事だけは間違いがなかった。

 陣の反転、介入、強引な破壊と、様々な手段を棗は講じてみるものの、効果は未だなし。

 管理者達が部屋に辿り着くまで、もう幾ばくもないだろう。

 棗の表情に、僅かながら焦りが混じり始める。


「……どうすっかな」


 保険として、逃走手段は用意してあった。成功すれば、かなりの時間が稼げるはずだ。ゆえに、早々に諦めてしまうのも、一つの手であった。


「でもま、それも俺らしくはないわな?」


 朝生棗という男は、自信の塊のような存在だ。自分自身を世界最高と位置づけ、それを当然の事象として今まで生きてきた。他者を圧倒し、ひれ伏せさせる。それに勝る幸福などないとばかりに、傲慢極まりなく。元より、現代社会で魔術師を自称する人間だ。正気であるはずがない。

 かといって、思いつく限りの方法を試し終えたのも、また事実……。


「……やらないよりは、ましか?」


 積み上げてきたすべてを捨てる覚悟で、スリルと個人的事情によって棗は第一級進入禁止区域に足を踏み入れた。ならば、できる事はやっておこう。棗はズボンのポケットから小型のナイフを取り出した。


「ここまできて、『魔術師』の俺がまさかアニメやラノベの知識に頼ることになるとはな……」


 ある意味で、屈辱的であった。

 だが、『魔術師』を名乗るような変人は、一種のオタクのような存在に似ている面もある。だから、棗の頭に思い浮かんだ発想が、まったく的を外しているとも思わなかった。

 棗はナイフで指先に傷をつける。チクッとした、軽い痛み。少しして、傷口からポタポタと血が流れ始める。流れた出した血液を棗は魔方陣に垂らす。


「血の盟約……なんてな」


 これで封印が解除できた暁には、陣の作成者は重度の中二病患者としか言いようがない。これほどの強力な術式を操れる人間だ。魔術師として、かなりの手練れだろう。棗と比べても、一つ……いや、二回りは格が違っている。そんな施設における上位者が、重度の中二病だと想像すると、棗は酷くげんなりとした。

 最も、棗自信「お前も中二病だ!」と言われれば否定できない身の上であるのは重々承知しているのだが……。それはそれ、これはこれという事で。


「お!」


 そんなくだらない事を考えている内に、部屋の床に刻まれた陣には棗の血液が染み渡っていた。モノクロだった陣に血が通い、何やら言葉にできない禍々しさを感じる。


「…………」


 しかし、それ以外に特に何も変化は見られない。


「……ダメ、か」


 棗は呟くと、同時に今回の侵入について見切りをつけた。判断は迅速に、迷わず。それが棗のモットーである。陣に対して背を向けると、その脇に用意しておいた紙片を床に置く。そこには、封印術式とはまた趣の違う陣が描かれていた。

 棗はその上にに手を触れようとして――――


「っ!?」


 刹那! 突如襲った目映い光が棗を襲う。 

 封印術式が前触れもなく輝き始めたのだ。目を覆わんばかりの光に、思わず棗は目を手で覆った。


「な、なにが?」


 数秒後、ようやく収まった光と共に、棗が目を開くと……。


「は、はははっ……これはまた、お約束というか、なんというか」


 そこには、絶世の美少女が横たわっていた。

 全裸の彼女を守るように、全身に毛布のようにかかっている長く艶やかな黒髪。睫が長い事が、目を閉じていても分かり、鼻は高く、唇はプルンとしたピンク色。黒髪の隙間から覗くのは、折れそうな程に華奢な背中と腰つき。胸と尻控えめながら、それでも女性らしい丸みを十分に帯びている。

 そして、何よりも棗の目を引きつけたのは――――


「……猫……耳……だと!?」


 そう、頭からチョコンと控えめに生えた猫耳だった。黒髪と対照的な、白く毛並みの良い猫耳は、ただでさえ完璧と言える少女の容姿を、さらに完璧なものとしている。

 棗の心臓が、ドクンと跳ねた。

 それは、恋心……とは違うかも知れないが、棗の秘められし神秘への知的好奇心をいたく刺激したようだ。


「とりあえず、この猫耳女が組織の秘術の一つなのは間違いないな」


 棗は少女をお姫様抱っこをする。抱き上げた少女の身体は信じられないほど軽く、棗は少し驚いたように目を丸くした。おまけに、軽いだけでなく、手に触れるあらゆる部分が柔らかい。まるでマシュマロのようだと棗は思った。


「走れ!」

「急げ--!!」


 その時、部屋のすぐ外から大声が聞こえる。管理者と、その部下のものだろう。どうやらじっくりと少女の感触を楽しんでいる時間はないようだ。棗は両足に力を込めて一息に立ち上がると、再び紙片に描かれた魔方陣に手を触れる。紙片の魔術陣からは、魔力の循環をハッキリと感じ取ることができた。それは、ここに魔力を込めてやれば正常に魔術が発動することの現れであった。

 棗は指向性を込めた魔力を陣に注ぎながら、唱える。


「――――王道の四十九【転移】」


 視界が、白に染まっていく。

 それこそが、転移術式の特徴であった。足下がガラガラと崩れ落ち、まったく別の時空間と入り交じって再構成されていく。


「……ん?」


 ふいに、胸元が引っ張られる。視線を向けると、いつの間にか目を覚ましていたらしい件の少女が、警戒心を見せることもなく、ニヘラ~と相好を崩していた。少女の口元が、ゆっくりと開かれる。告げたのは、自らの名前だ。


「私は……ナツメ」


 奇遇なことに、棗とまったく同じ読みであった。

 その内おっぱい出てきます。

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