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オッサンだってキャバ嬢戦士だもん!  作者: オレイカルコス松村
始まりの章 異世界のキャバクラ
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5drink「試験結果」

 

 VIPルーム。キャバクラでは小規模店でも設けてある、特別な部屋。

 通常ならVery Important Personと言う事で重要人物だけが入れる部屋なのだが、キャバクラだと少し使い方が異なる。


 その使い方は2つ。

 ・お金さえ払えば入る事ができる半プライベートラブラブ部屋。

 ・あまりにも騒いだりうるさかったりした客を、他の客に迷惑をかけないよう切り離して監視させる為のノンプライベートラブナシ部屋。


 では、このキャバクラのVIPルームはというと……。


 10畳の部屋を2つ繋げたような奥に長く広い個室。壁は外と同じ石積みだが、オレンジ色に近いベージュになっている。天井と床は黒に統一されているので、お洒落なカラオケルームのような印象を受ける。部屋の両側面には壁に背を合わせるように長椅子だけが幾つも並べられている。テーブルは無い。つまり部屋の入り口から奥まで、3人の大人が並んで歩ける空間があるという事になる。

 そして奥には4人分くらいのテーブルがひとつ。


 ……なんかどっちも当てはまっていない気がするが、奥の方はプライベートっぽいスペースなので前者のラブラブ部屋なのかも知れない。

 あと、この部屋は少し気温が高いような、空気が重いような圧迫感がある。

 この部屋にいるだけで高揚(コウヨウ)してしまいそうな、不思議な感覚だ。何故だろう。


 ま、それは置いておいて、その奥のテーブルにキャバクラ道具が一式用意してあった。ここで酒を作れって事だな。



「では、さっそくやって貰おうか」



 そういいながらドカッと座り足を組む黒服さん。



「えっと、お客様にお渡しするつもりで作って良いんですよね?」


「そうだ」


「……わかりました」



 じゃあ作るとしますか。

 まずはゲストグラスを手に取り、アイスペールに入っている氷をトングで取り出す。氷はグラスの口からちょこっと出る程度まで入れておく。5個くらいかな。



「あ、お酒はどれにしますか?」



 失敗した。入れるお酒の種類を先に聞いておくべきだったな。こういう所は、やっぱり本職と差が出てしまう。



「そうだな……。リーブラで頼む」


「リーブラ? えっとこれですか?」



 やべぇまた失敗した。これも試験前にどっちが焼酎でウィスキーなのか聞いておけば良かった。

 そう反省しながら緑色のボトルを持ちながら、黒服さんの顔を伺う。



「いや、もうひとつの方だ」



 黒服さんは怒った様子もなく、茶色のボトルに目を向ける。

 なるほど、このウィスキーみたい味のヤツがリーブラっていうのか。これはアルコール度数が高い酒だから、少なめに入れた方が良いだろう。


 冷静になりながら、失敗を取り戻すべく手早く茶色のボトルを手に取り、人差し指2本半くらいを目安にリーブラをグラスに注いでいく。



「……」



 なんか凄く凝視してる。そんなに見つめられたら、失敗したのかと思ってビビるじゃないか。

 次に水の入った容器を持ち、ゲストグラスに注いでいく。この水もグラスの口から1センチ程下までにする。

 グラスの口まで一杯に注いでしまうと、客が持った時にこぼれたり、飲みづらくなるので余裕を残す事が大事だ。


 最後にアイスペールからマドラーを取り出し、グラスの中の1番上にある氷をグラスの底に向けて押し込む。

 この方法は、お酒と水を混ぜる上で1番効果的だと俺は思っている。なぜなら、氷が下にいけば沈殿しているお酒が上に押される為、結果的に上下に混ぜる事ができるからだ。これを3度繰り返す。

 その後、マドラーを時計回りに3回。

 これで、縦と横満遍なく混ざった事になる。


 混ぜ終わったら、マドラーを抜く前に、ゲストグラスの端に添わせる。

 そしてマドラーを添わせながら、ゆっくり引き抜く。こうすると何故かマドラーから水滴が一切こぼれずに取り出せる。これがキャバクラ通い20年の知恵と経験。


 そして……完成だ。



「出来ました。どうぞ」


「……」



 黒服さんは完成したグラスをジッと見たまま時が止まったかのように静止している。

 お酒の結果としては上手くいったはずなんだが、こうも黙られると心配になる。

 道具の生まれ持つ能力って、こういう使い方をしろって事じゃないのか?


 30秒程たっただろうか。

 少し溶け出した氷がカランと音をたてる。



「……ふう」



 彼女はまるで長い呪縛(ジュバク)から解き放たれたかのように、息をを吐く。



「いや……すまぬ。では頂こうか」



 俺の作った酒に口をつける黒服さん。

 なぜか、得も言われぬ心地よさが俺を包み込む。健気な女の子が大好きな彼氏に手作りの料理を振舞う気持ちが分かる気がしてくる。まぁ黒服さんはぶっちゃけタイプでは無いが。



「ど、どうでしょうか?」



 合格とは分かっていても緊張する。

 俺はあまり頭の良い学校には行かなかったので経験なかったが、この年にして受験生の気持ちが分かるとは。



「……し」



 し? 『し』って『し』から始まる合格の言葉ってなんだ!?

 し……仕方がないので合格?

 いや、これじゃあまるで補欠合格みたいじゃないか! 我ながら上手くできたとは思ってるけど、流石に補欠は無いわ。

 他にはなにかないか?

 し……至上の喜び! これこそ私が求めていた最高の酒だ!

 これならありそうだな。

 でも、なんかそんな雰囲気じゃない気がする。ま、まさかまさか……。



「し……失格だ!」



 な……なんだってえぇぇ!?

 んなバカな!!??

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