48drink「帰る方法」
「だがその願いも叶わず、『らぶりん』様は天へ召されて行かれたのだ……」
少しばかり悲しい顔をして目を瞑るフクロウさん。
……そう言う事か。
前々から、この世界のキャバクラが俺の世界の店とよく似ていたり、同じ言葉が使われていると思っていたが、理由がようやく分かった。
この世界のキャバクラを作り上げた『らぶりん』さん自身が、俺と同じ世界から来た人だったのだ。
しかし惜しかったな。
俺がもっと早くここに来れていれば、彼女を連れ帰る事が出来たのかも知れかった。
キャバクラで働いてたってことは間違いなく日本人だろうし……会ってみたかったな。
「彼女は召される前に、私にこう告げたのだ。——もし今後、私と同じくこの世界に呼ばれる者が現れるとしたら、その者は十中八九お酒の作り方を熟知した、夜の世界で働く地球人だろう——と。予想は的中だったと言うワケだな。さすがは『らぶりん』様だ!」
「……は、はぁ」
酒作りは見よう見まね。
キャバクラに行った日はちょっとだけ夜更かしするけど、それ以外は夜に寝て朝に起きるフツーの会社員。
的中どころか何ひとつ合ってねぇよ!!
「……けど、今の話でフクロウさんが俺の正体を把握していた事は分かりました」
「ああ」
「だったら……、何故あの時に教えてくれなかったんですか……?」
この世界へ初めて来た日。体入の試験が通った時、彼女はもう俺を異世界から来た人間だと気付いていた。
その時に教えてくれていれば、帰れないと言うこの事態を未然に防げていたはずなんだ。
「……では、逆に聞こう」
「?」
「お前はなぜ、私に正体を明かさなかったのだ?」
……あ。
「お前があの時に正直に答えていれば、私も教えていただろうな」
「……!」
「異世界から来た者が、必ず良い人とは私は思っていない。むしろそれだけの力がある状態で、驕らない方が難しいだろう。そんな者が私の店に入ろうと言うのだ。警戒しないワケが無いだろう?」
「……確かに。そうですね」
痛いところを突かれたな。
確かに、俺があの時に体入のフリをせずに偶然この世界に来てしまった事を正直に告げていれば、フクロウさんも警戒を解き、話してくれたかも知れないって事だ。
それでもフクロウさんは……。
「……それでも合格にしてくれました」
「……あぁ。アレはだな。実はお前を監視するつもりで入店させたんだよ」
……へ? 監視?
「あの街を一晩で壊滅させた異形をひと蹴りで倒した『らぶりん』様。
その『らぶりん』様より強力な酒気を宿した者が現れたのだぞ? 店どころか、この国の脅威だ」
言われてみれば……確かにそうだ。
「だからまず私の監視下に置き、様子を見る事にしたんだよ。まぁ最初はビビって思わず失格にしてしまったんだがな」
「……そう言う理由だったんですね。でも俺は自分がこの国の脅威とか、思いつきもしませんでしたよ。だって俺は……」
「そう。そこが私の思い違いだったんだ。私はてっきり『らぶりん』様と同じで街中の扉から来たのかと思ってしまったんだ」
フクロウさんは、組んでいた腕を解き、頭の横をポリポリとかきながら、目をそらす。
「よく考えれば、『らぶりん』様自身がこの店の扉を異世界とつながると想定していた事を聞いていたのだがな。あの時は何故かすっかり忘れていたんだ」
まぁ、フクロウさんの気持ちも分からなくはない。
誰だって憧れいた強さを持つ者を軽く超えた者がいきなり現れたら、驚きもするだろう。
「それでお前は、今まで隠してきた素性をなぜ急に私たちに打ち明けようとしたのだ?」
「……あ、そうでしたね」
『らぶりん』さんの話でだいぶ逸れてしまったが、俺は皆んなの知恵を借りる為に、自分の正体を明かすと決めた。
「実は……」
あの日、コスキャバ『ピョンピョン』の扉を開いた事でこの世界と繋がった事。
向こうの世界とこの世界を何度も行き来しながら、戦闘をしていた事。
お酒や技の知識は向こうの世界で得た物である事。
そして本当は男である事と、今は元の世界に帰れなくなってしまった事。
俺は皆んなに、全てを話した。
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「……と、言うワケなんです」
話し終えた俺は、周りを見渡す。
「……ふむ」
「そうだったんだぁ〜」
「……ん」
「な、なんという事だ……」
「グゴォ……スピ〜スピ〜……」
感想を口にしながら、皆は眉間にしわを寄せ険しい顔をしている。
特にハガネは険しいと言うより、目と口を大きく開け、唖然とした表情だ。
「帰れない……か」
『らぶりん』さんを見てきたフクロウさんなら、何か知っているかも知れない。
直接帰る方法では無かったとしても、ヒントになればいい。
「……申し訳無いが、全く思い浮かばんな」
「……そうですか」
「そもそもそんな方法を知っていれば、『らぶりん』様は帰る事が出来たハズだ。だが、彼女でさえソレを成し得なかったと言う事は、そんな方法は無いと言う事なのだろ?」
「……そうですよね」
そりゃそうだよな。
帰る方法について長年研究していた『らぶりん』さんでさえ、方法は見出せなかったんだ。元々こっちにしかいないフクロウさんがそんな方法を知っているワケがないか……。
「ん……だが、今すぐにと言うので無ければ、ひとつだけ帰れる方法に心当たりがあるぞ?」
「……え?」
「えっとだな……。『らぶりん』様の言っていた事を思い出したに過ぎないので、確証はないんだが……」
思わぬ言葉に一瞬固まる俺。
そんな俺を見てか、フクロウさんは過去の記憶を思い出しながら正確に答えようとする。
「『らぶりん』様は亡くなる直前に、『私の酒気がもう少しあれば、帰る事が出来たのかも知れない』と言っていた」
「しゅ、酒気が……ですか?」
「ああ。彼女は周りの環境を、自分が行き来できた時と同じように変えても帰れない事に気づき、それならばと自らの状態もその頃に合わせようとしたんだ。その結果、明らかにあの頃より減っているものを見つけた。それが『酒気』だったと言っていた」




