38drink「正体」
異形之者の剥がれ落ちた部分には、人間と同じ顔があった。
「……に、人間?」
……え? え?
人の顔がなんでついてんだ?
異形なのに?
今まではなかったのに?
なんで?
思考が追いつかない。
「パパッ! パパぁーー!」
ぱ……ぱぱ?
ってこの声、ヒゲ子の声か!?
『黒デカ』の崩れた身体の中で破片を取り除いていたヒゲ子が、中にいる何かを抱きしめている。
ぱぱって……なんだ?
「……ウ、……ン」
そのヒゲ子の声がきっかけとなったのか、こっちに倒れている異形から見えている『顔』の部分が呻きをあげる。
……!!
い、生きてるのか!?
異形はゆっくりと上半身だけ身体を起こし始める。
その容姿は……絶世。
後ろでまとめられているだけなのに、同じ女性なら嫉妬してしまいそうな程、艶やかで美しく光輝く燃えるような赤い髪を持ち、くすみひとつ無い健康的な白い肌。
化粧を施した先輩キャバ嬢たちにも引けを取らない程大きく吸い込まれそうな瞳に少しの歪みも見られない筋のの通った高い鼻。そして申し訳程度に付け加えられた小さな口にシュッとしたフェイスライン。
そんな完璧とも言える顔を、ここに居る全ての異形がさらけ出している。
……おいおい、ちょっとこれ美人すぎないか?
「……おい。なんだこの状況は……」
「う……美しい……!」
「うわぁーホント! 何あの顔!! マジヤバじゃん!?」
「あ、ハガネ! ギャルるんも! ……それにフクロウさんも!」
俺が異形に見惚れて気づかなかったのか、いつの間にか横にいたハガネとギャルるんにフクロウさんも客の顔を見て驚いている。
てかハガネとギャルるんは戦闘中、全然見かけなかったんだけど……。
「今までどこにいたの? 戦闘中、2人とも見かけなかったけど?」
「あぁ、ギャルるんの提案でな。我ら2人では店外の客引きは荷が重いと判断して店長に頼んで、店内のフォローにまわさせて貰っていたのだ」
「そうそう。きば美っちがいないとウチらのチームは戦力大幅ダウンだからねぇ」
「それはそうと、あれはお客様……なのか?」
「あ、はい。たぶん……そうだと思います」
フクロウさんは驚きを隠せずにいる。
俺も驚いているが、フクロウさんは長年にわたり異形之者と死闘を繰り返してきたのだ。
その正体が俺たちと同じ顔を持っていたと知ったら、俺とは比べものにならないくらい驚いているに違いない。
「……まさか、女性だったとは……それも美しい! 美しすぎるぞ!」
なんかハガネの異形を見る目がヤバいな。
顔も気持ち赤みを帯びてるみたいだし。
「あ!」
ハガネを見ていたら、ギャルるんが異形を見て声をあげた。
見ると、異形が立ち上がろうとしている。
それに合わせ、臨戦態勢を取る先輩たち。
だが、良く見ると臨戦態勢と言うより、喧嘩腰というか、敵意むき出しというか、めっちゃガン飛ばしてるよ……。
中には「テメー粋がんなよ?」とか言ってるし。
嫉妬? 嫉妬ですか!?
そして、その中の1人が耐えきれなくなったのか、異形に向けて攻撃をしかけようとした時。
「や、止め……」
「待ッテクレ!!!!!!」
店長の制止よりも早く、聞きなれない声が響きわたる。
先輩たちもその声に反応し動きが止まると、扉の方からヒゲ子とそのヒゲ子におぶさるように中年と思しき男が現れる。
ヒゲ子?
それにあの男は……誰だ?
今まで見た事のない、渋めの男。
髪の毛は、ヒゲ子と同じ赤色で……って、え?
……異形も同じく赤い髪。
それにさっき、確か『ぱぱ』って叫んでなかったっけ……?
「ワ、私タチハモウ闘エ無イ! 私タチノ負ケダ!!」
負け?
私たちって……誰の?
「……どーゆー事だ? と言うか、お前は何だ!?」
「ぱ……ぱぱ」
ヒゲ子が気まづそうに声をだす。
「私の……お父さん」
…………へ?
お・と・う・さ・ん?




