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千の英雄   作者: 中川柊木
第1章 孤高の覇者
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6話 託された想い(2)

 朝起きて、気不味い雰囲気はすっかり無くなり、俺達は身支度を済ませ、昼のタナタートの街に『ある目的』の為に繰り出していた。


「あったわ! ここよ」


「お、やっとか」


「ここはタナタートで一番って言われてる魔導具店なのよ」


 アリスが見上げた先に看板がある。文字は読めないので店名は分からないが、そこは魔道具を扱う武具屋だ。

 目的は勿論、俺の魔力神経の有無の確認と適正の魔法及び、魔法属性を見る為だ。 


「久しぶりじゃな、アリシア」


 そう言って、店の奥から顔を出す老翁。こんなじいさんともアリスは知り合いなのか。

 もしかしたら俺が思う以上にアリスには人望があるのかもしれない。


「こんにちは! 今日は連れの魔力神経と適正を見たくて来ました! あと装備も買おうかなぁって」


「アリス……敬語使えたのか!?」


「そのくらい使えるわよ!」


 これはまた驚きが増えたな。あのアリスがまともな敬語を使えるとは。

 そして、老翁は長く蓄えた顎髭を撫でながら俺を見ている。老翁の視線の先はどうやら俺の髪らしい、黒髪は目立つからな、タナタートに入ってから何度も髪色のことを尋ねられたし。


「おぉ、それにしてもお連れさん珍しい髪色じゃなぁ」


「はい、俺エルレイヴって国出身なんです。ここでは珍しいみたいですね」


 アリスとタナタートの街に入る前、そういう設定にした方が楽だと言われたのでこんな嘘をついている。

 これだったらある程度非常識なのも誤魔化しが効くし、信じない人も少ないだろうとの事だ。

 だが、


「お主……嘘は良くないぞ」


 見破った? どういうことだ。


「嘘? 嘘なんかついてませんよ! だってエルレイヴにしか黒髪は居ないですし」


「無駄じゃよ。儂はある時、特別な加護を授かってな。嘘は見破れるんじゃ。じゃが、嘘をついてまで出自を隠すとは、おまえさんもしや……」  


「いや、そ、そんなのって」


 嘘を見抜く加護だと……。何でそんな加護をじいさんは持ってるんだ?  

 どうやら俺は厄介な人に出会ってしまったらしい。

 そうやって、俺が尻込みしていると。


「すみませんあたしが悪いの! だから誰にもツクルのことは言わないで!」


 アリスは必死の形相で老翁に懇願する。自分の為なんかじゃなく俺の為に。

 思いもよらぬ危機の到来に両者必死だが、老翁は俺の正体を勘付いているんだろうか? 

 そんな事を思案していると、老翁は優しそうな笑みを浮かべて口にした。 


「ホッホッホッ、健気なことじゃ。安心せい、誰にも言わんぞよ。儂にはその男の子が悪人か善人かの判断くらいつくからのぉ」


 俺は、ホッと胸を撫で下ろすと、じいさんが言った加護のことが気になった。神様が言った、称号のような物と同じなんだろうか?

 俺が素朴な疑問を浮かべていると、老翁が俺の耳元まで近づき、


「その道を愛した者が、その道から選ばれるのじゃ」


「へ?」


「何でもない、老人の戯言じゃ。それより武具を見に来たんじゃろう? よく見て決めるのじゃよ」


「は、はい。ありがとうございます」


 俺はそう言うとアリスと一緒に魔道具を見回った。大小様々な武器防具の数々に俺は時代を感じた。

 やはり、この世界でもまだまだ争いが絶えないんだろう。なぜなら、武器が身近にあるという事は、相対的に、争いも身近にある、ということなのだから……。

 いつだってそうだった。俺の世界でも無益な争いが続き、皆傷つき、摩耗していたんだ……。


「なーに、暗い顔してるの?」


「い、いや」


「それより、早く適正を見るわよ!」


 そう言って持ち出されたアリスの手には手袋があった。

 手袋? 手袋なんかが魔道具なのか? 

 そう、不思議に思っていると、


「えい!」


「っておい!」


 アリスは勢い良く俺の手に手袋を被せる。すると、俺に問いを投げる。


「ねぇ? なにか感じる?」


「特に、何にも」


「じゃあ火の適正はないわね……はいじゃあ次!」


 そして、また別の手袋を被せるが、


「何にも感じないぞ」


「あっれぇー? 水も駄目か」


 それから地と風の属性にも俺は何も感じることなく、アリスは落胆する。

 因みに、この世界には基本的に四つの属性が存在している。今アリスが言った火水地風がそれだ。

 アリス曰く、『まだ他にも属性はあるけど殆ど使える人は居ないからどうでもいいわ!』とのこと。

 多分、基本の四属性が使えない俺は残りも使えないだろうし、どうでもいいか。


「英雄が魔力神経を持たないってどういうことなの!」


 老翁にも聞こえる声で言うアリス。あのじいさんは俺の正体を勘付いているが、誰が聞いているかも分からないので辞めてほしい。


「あんまし、大声だすなよ」


「で、でもぉ……」


「無いものはないんだ。仕方ねーよ」


 「むぐぅ」と残念そうに俯くアリス。俺も残念ではあるが、ある程度予想は出来ていた。

 元々俺は英雄なんかじゃないし、それを自覚したこともない。況してや魔法なんて使える訳がない。


「アリスはなんで俺の手に手袋を?」


「手袋? あぁグローブのことね。言っておくけど、これは立派な魔道具なのよ」


「こんなペラッペラなのが?」


 そう言ってアリスの持っている手袋を見る。手の平の部分に魔法陣と文字が書かれているだけの薄っぺらい手袋だ。

 こんな物が魔道具なのか。なんか予想していたのと違うんだが……。

 俺がその主旨の質問をアリスにすると、アリスは直ぐ様答えてくれた。


「まぁ、グローブは初級者向けの攻撃魔道具で、属性に適正さえあれば誰だって使えるの。それに使われている魔素材も安い物を使われていて、その素材に特殊な魔法陣とスペルが描かれているだけの魔道具なのよ」


「へぇー、こんな薄っぺらくても魔法使えるのか」


「グローブはロッドと違って魔力放出量も少ないし安全。持ち運びにも便利だから上級魔術師でも予備の魔道具として重宝されてるわ」


 なるほどなるほど、適材適所ということか。詳しく聞くと、グローブと呼ばれる魔道具は、誰でも魔法を使えるように、との願いが込められて開発された魔道具らしい。

 魔法初心者でも安心して失敗できるような、リスクや敷居が低い簡易な魔道具だという。

 しかし、俺はアリスの『予備』という言葉に引っ掛かった。 


「予備ってどういう意味だ? 手袋なんだから、そのロッドと一緒に装備すれば良くないか? その方が色々な魔法が使えたり、合体技的なのも使えそうで便利だろ?」


「それは無理よ」


「……無理? なんで?」


「『魔力は一度に一つの魔道具にしか使ってはいけない』これは、魔術を扱う上で鉄則よ」


 アリスは、コホンと咳払いをして、俺に説明を始めた。いつに無く真剣な顔をアリスはしているので、俺も背筋を伸ばしながら話を聞いた。


「先ず、魔術は専用の魔道具を介さないと発動しない。これは前に言ったわね?」


「あぁ勿論、覚えてるぞ」


「うん。じゃあ何で魔道具を介さないと、魔術は発動しないのかしら?」


「それは……魔力神経がうんたらかんたら」


「そう。その魔力神経……つまり、魔力は魔力を通せる物がないと外には出られないの。ということは、魔道具が絶対に必要ってわけ」


「なるほど」


 そこまでは魔法に疎い俺でも理解は出来る。だが、それは俺の疑問を晴らす回答とは少し違う。

 そして、アリスは分かりやすいように問題形式で説明の続きを始めた。


「じゃあここで問題よ。昔、【魔術の神童】と呼ばれた十騎士の一人が居ました。ある日、その人は考えました……『魔力を一度に複数の魔道具に注ぎ込めば』凄い魔術が発動出来るんじゃないかって。では問題、一度に複数の魔道具に魔力を注ぎ込んだ結果、この人はどうなったでしょう?」


「うーん……その人は木っ端微塵に爆発しました、とか?」


「ぶっぶー! その人は魔術を二度と使うことが出来なくなったのです!」


 アリスは俺の顔の前で大きくバツ印を作る。無論、俺は当てようと思って言った訳では無かったが、アリスは勝ち誇った顔をしている。

 そんな顔をされると、少し悔しくなるものだ。だが、それにも増して、アリスが言った言葉の重みが、俺に重くのしかかっていた。


「二度と……使うことが出来なくなる……」


「そうよ。魔力を出すのは魔力神経。それはとても繊細で、か弱いの。だから一度に複数の魔力を注ぎ込む、なんてことをしたら壊れちゃう。無邪気な子供が毛糸を絡ませるみたいに、神経自体の魔力の流れが狂ってしまうのよ」


「じゃあその十騎士は力を、失ったのか……」


「いいえ、さっきは二度とって言ったけど、それは私達の場合。その十騎士が魔術の神童と呼ばれる所以、それは馬鹿みたいに流れが狂った神経一つ一つ(・・・・)さえも操ってしまったのよ」


「は? そんなの無理だろ? 神経一本一本を操るなんて人間じゃねーぞ」


「事実、彼にはそれが出来てしまった。本人は『あの失敗が無かったら、ここまでの高みには至れなかった』って言ってるわ」


「ははっ、何だそりゃ、化物かよ」


 流石、十騎士と言った所か。千の英雄の序列一桁台と、唯一、肩を並べ得る英雄達。

 最早、人外の領域など遥か昔に到達している者達だ。年は千の英雄より20は食っていて尚も、この世界を掌握し続けている。

 いつか、この俺にも出会える日が来るのだろうか?   

 

「神経一つ一つを操るなんてどんな魔法が使えるんだろうな。きっと滅茶苦茶強いんだろうなぁその人」


「えぇ、事実名前が分からない彼は世界を救ったわよ。自身の命と引き換えにね」


「命と…………引き換えに?」


 そして、俺の隣から、


「その話は儂の方が詳しいかもしれんのぉー」


 声が聞こえた方を振り向くと、いつの間にか、じいさんが俺の横に立っている。全然気づかなかった。

 それに気配を全く感じられなかったのは何故だ? まぁ、多分、それだけ俺が話に集中してたってことだろう。


「じいさんはその人のこと知ってるんですか?」


「ホッホッホッ、それはそれは………とても知っているぞよ」


 長く蓄えた白い顎髭を撫でながら、懐かしそうに言う老翁。その動作には、何かを慈しむ感情が感じられるのは気のせいだろうか?

 そして、老翁は自身の顎髭を触りながら、昔話を始めた。


「昔。二十年程前の話じゃ。その時は今よりも強力な魔獣が至るところにおった。十騎士の働きによって今でこそ数は減ったがのう」


「はい。俺もそこまでは知ってます」


「うむ。その中で強力な魔獣の、そのまた上の、さらに上にとてもとても言葉に表すのも難しいほど強い魔獣がおった。その魔獣は東の大陸に現れるや否や大暴れをしおった。それを止めたのがそやつじゃ。東の大陸には後何人か十騎士はおるが、その魔獣はそやつにしか倒せなかったのじゃ」


 その人にしか倒せなかった? どういうことだろう。


「なんでその十騎士にしか倒せなかったんですか?」


「その魔獣、否、それは魔獣ではなく亜人なのじゃが、そいつは特別でのぉ。剣が通らぬのじゃ。故に魔術でしか倒せんかった。今思い返すと他にもやりようは幾らでもあったんじゃがな。その時は時間がなかったのじゃ」


 そこで、アリスが動いた。


「ちょっと待ってください! ビル爺さん、その魔獣が魔獣じゃなくて亜人だなんて初耳ですよ! それにその魔獣に剣が通らなかったなんて話……知らないわ……」


「ホッホッホッ、これは秘密にしてくれると儂にとっては助かるのぉ」


 本当にこの爺さんは何者なんだ。嘘を見抜く力に、この博識。もしかしたら俺は恐ろしい人に会ってしまったのかもしれない。


「じいさん、秘密にするから話してくれ!」


「ホッホッホッ、やはり似とるのぉ……人生とは……嫌早……」


「ん? どうしました?」


「ホッホッホッ、すまぬすまぬ……続きを話そうかのぉ」


 そう言って、老翁は話の続きを始めた。


「亜人とそやつの魔術戦は、とてもとても言葉にするにも難しいほどに凄まじいものじゃった」


 このじいさんはやはり……絶対に……知っている。


「ものだったって! じいさん、アンタもしかして……その十騎士の事を!」


 アリスも固唾を飲んで、答えを見守る。その答えは、


「ホッホッホッ、子弟よ……やっと……終わるのじゃ。……おっとすまぬすまぬ、話が逸れたのぉ。まぁ、何度も、それはそれは儂がそやつに情が湧くほど会ったぞよ」


 アリスはその答えを聞いて驚愕の顔をする。そして、直ぐ様老翁に問を投げる。


「嘘……知ってるなんて。十騎士は王となっている五人以外は自分が十騎士である事を隠していたのに、ビル爺どういうことなの!」


「ホッホッホッ、これも何かの縁というやつなのかもしれんな……『レイベルト』よ」


「じいさん! 話の続きを!」


「あぁ、そうじゃった。そして、その魔術戦。僅かにレイ………いや十騎士の奴が下手じゃった。それじゃから、そこで奴はやってしまったのじゃ。禁忌を……魔術のな……」


「もしかして、一度に複数の魔道具に……魔力を?」


「そうじゃ。奴は、もう一度それをやれば確実に死ぬと分かっておった。じゃが、その手しか奴にはなかったのじゃ。奴はこれまで数多の魔道具を世に送り出した。その結果がこれじゃ。今では魔道具は量産され、今で尚、奴の功績が世界に周っておる、何一つ変わらずにじゃ」


 じいさんは「そして」と言うと、


「奴は、一度に何十……いや何百の魔道具。身につけていた大量の全ての魔道具に魔力を注いだのじゃ」


「そしてどうなったんだ? いや、ですか?」


「死体も残らんかったよ……そこには、ただただ悲しみしか……残らなかったのじゃ」


 そう言葉にした時、じいさんは涙を溜めた。じいさんはその場に居たんだろう。じいさんとその十騎士には深い繋がりが合ったんだろうな。


「もう隠すことは無いじゃろう。奴はいつも言っていたのじゃ『こんな世界は間違っている』と。奴はいつも言っていた『魔術で世界を変えてみせる』と。奴はいつも言っていた『もう全て殺したくない』と。奴は優しすぎたのじゃ。実際、奴は他の十騎士からも力は劣るが強く慕われておった。そして―――」


 長く白い顎髭を強く撫でながら、じいさんは言った。


「奴は、最後にこう言った『変えられなかったよ』と。それが最後ここを出て行く時に言った言葉じゃ。これで話はお終いじゃ。でもまぁ……ふぅ……本当にこの話をする時が来るとはなんとも、じゃな」


「そんなことがあったんだな……いや、ですね」


 老翁は、「ホッホッホッ」と言いながら奥に戻る。マジで何者なんだよあの人。


「物凄いことを聞いちゃったわね」


 俺は首を上下に動かし肯定する。こんな裏話中々に聞けるもんじゃない。

 じいさんはこの話誰にもしてないみたいだが、なんで俺達に教えたんだろうか? 


「まぁ、気を取り直して、武具選び再開するわよ〜。質問は後で!」


「そうだな」


 俺はアリスに言われるがまま武具選びを再開した。


 そして―――――





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