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引きこもり太郎と海神の少女  作者: おけらむ
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一、引きこもり太郎のつまらない日常

何か重いものを水中に投げ込むような音が不意に耳に届いた。

僕はいつものように自室の布団で横になっていた。

眠り足りないのか瞼がやけに重い。というより開かない。・・・まぁいいか。別に予定なんて何もない。

覚醒しきらない意識をよそにやけに周囲の音が気になって仕方がなかった。

不審に思い、音の正体を確かめようと身体を動かそうと力を込めるも腕が動かない。

腕だけじゃない、足、首、頭、身体中が凍りついたように動かない。

周囲を確認しようにも瞼が張り付いたように開かない。

先ほどは気のせいかと思ったが明らかな異常事態にパニックになっていた。

なんとか瞼をこじ開けるとそこは、鈍い光。

揺れる透明な膜のようなものに覆われた鈍い光が見えた。

まるで水の中から水面を眺めているような・・・。

水の中?

いや待て。こんなところに来た覚えがまるでなかった。

息は出来るのか、と無理やり空気を吸い込んでみると何とか呼吸はできる。

だが身体の皮膚が動かずあまり多くの息を吸い込む事は出来なくなっていた。

眼球だけ動かして周囲を窺うとどうやら人一人分のスペースが確保されたカプセルに入っているようだった。

どうやらプラスチックのような透明な素材でできたカプセルらしく、周囲の様子からして水の中だとわかった。

状況の判断が出来ない頭を働かせるととりあえずカプセルのようなものに入れられ水の中にいる、という事が理解できた。

カプセルというよりは棺おけのようだ、と思案していた時、ふと目の前が暗くなった。

そこには日の光を遮り優雅に僕の上を泳ぐ魚の群が見えた。

魚?魚がいるとしたら川か海だろう。

しかし絵本や水族館でみるような目の前に広がっている光景・・・。

川に魚群はいない。たぶん・・・。

そう思いたくはなかったが、ここは海だ。

僕はカプセルに入れられ海に投げ込まれたんだ!

ようやく自分の置かれた状況を把握した僕は必死に身体を動かそうとした。

しかし身体は指先一つ動かすことは出来なかった。

僕は必死にもがく。

たとえ運よく身体が動いてカプセルを壊せても泳げない僕はどのみち助からないかもしれない。

しかしこんな訳もわからずに死ぬのは絶対に嫌だ!!

気持ちだけが焦っていくばかりで僕の身体はピクリとも動かなかった。

そうこうしているうちにカプセルはどんどん太陽の光から遠ざかり底なしの暗闇へ沈んでいく。

僕は底知れぬ恐怖から叫ぶも喉から出たのは叫び声にもならない乾いた空気だけだった。

寒い、身体が動かない、怖い・・・。僕は死ぬのか・・・。

視界が涙で滲む。僕はこの暗く冷たい現実から逃れるように瞼を閉じた。



一、引きこもり太郎のつまらない日常



僕は夢を見ていた。

何の夢かは覚えていないがきっと夢をみていたんだと思う。

つけっぱなしのままにしたテレビからニュースキャスターらしき女性の声が聞こえる。

低い機械のモーター音が響く薄暗い部屋。

明かりと呼べるものは目の前のパソコンのモニターとなんとなく点けているだけのテレビの二つのみ。

僕は起き上がりパソコンのモニターをぼんやりと眺めながらテレビから聞こえてくるニュース速報に耳を傾けていた。


「速報です。昨今社会問題になっている人口増加に歯止めを掛けるべく、

not in education, employment or training、通称NEETと呼ばれる人々に対して国は彼らにコールドスリープ処置を施す法案を賛成多数で可決されました。なお、この法案は・・・」


僕は耳を疑った。

そんな馬鹿な。この日本でそんな人権を無視した事がまかり通るはずがない。

どうせマスコミの湾曲報道だろうと本気にしていなかった。

僕は上体を起こし視線をパソコンのモニターに移すとネット掲示板の巡回を始めた。

ネット上でも例の法案に関する情報が飛び交っている。

なんでも1ヶ月以内に働く意思を見せないと強制執行されるとか。

赤札が貼られる。家宅捜査が入る。

・・・馬鹿馬鹿しい。そんな事ある訳ないだろ。

大体僕は働く意思がないのではなく働く必要がないから働かないだけなのだ。

親が残した遺産。僕がひっそりと生きていくには十分な遺産だった。

身寄りのない僕は親の遺産で高校をなんとか卒業した。

進学も就職も選ばずにあれから17年の月日をこのマンションで過ごしている。

もうどのくらい太陽の光を浴びてないのか忘れた。

もしかしたらこの薄暗い生活に慣れきった目は太陽の下では使い物にならないかもしれない。

髪も伸びっぱなし。髭はなんとなく気持ち悪いので剃ってはいる。

よくよく考えたらこの生活とコールドスリープならコールドスリープで眠ってしまう方がいいのかもしれない、などと一人嘲笑を浮かべた。

ネットの掲示板には


『まじかよ、今すぐ履歴書買ってくる』

『今すぐ職安行って来る』

『どうせデマだろ』

『こんな情報に踊らされてバカじゃねーの』

『でもコールドスリープなら後で起こしてくれるんじゃね』

『働かなくて良いならそれでもいいかも』


などなど相変わらず暢気なやりとりをしている。

彼らには家族がいるのだろうか。

いるとしたらどんな気持ちなのだろう。

こんな奴らでもいなくなると寂しい?お荷物が消えて清々した?

どのみち家族のいない僕には考えたところでわかるはずがなかった。

家族と呼べる人達がいなくなってから20年。

もう家族がどんなものかさえ忘れてしまった。

あれから外への興味もすっかりなくなってしまった。

そう。僕には外の出来事なんて関係ない。

誰が何をしようが、世界が滅ぼうが。

僕の知るところではない。




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