第九話 【異変の正体、激戦の行方】
今回はついにヤマトが異変を引き起こした奴と戦います。
さてはてヤマトの命運や如何に!?
では、ごゆっくり
「さてと、今日で最終日…気張ってくか」
もはや慣れ始めたセーフテントの中で準備を済ませるヤマト。今日は外に出ての準備体操などはしていなかった。
それもその筈、ヤマトのセーフテントの設置場所はまだまだ暑い場所にあるのだ。
今日は少し奥地に行って最後の山を調査する。その位置の関係で、中腹より少し下ったところでセーフテントを張ることにしたのだ。
「やっぱり暑いよなここ。これでもっと奥地とか行ったら、一瞬でミイラとか?」
意を決して外に出るヤマト。やはり外は茹だるような厚さである。西の雪山から冷気を取り寄せられないかと考えるが、無理だよなと苦笑する。
セーフテントをしまいながら、愚痴を言うヤマト。一瞬、もっと奥地のことを考えて、冷や汗が背を流れる。
そこでヤマトは習慣にしていたギルドカードを見る、という行為を忘れていたことを思い出した。暑いので若干嫌な気分になったが、下まで行ったら見ようと思い直した。
「あちー、あちー、うがー」
流石に耐熱装備なしでこの暑さは滅入るなと考えるヤマト。
実は道具屋に行ったとき、耐寒のマントの他にも耐熱の装備があったのだが、我慢できるだろうと踏んで持ってこなかったのだ。幸い水だけは大量に持っているので、水筒を出してガブガブと飲む。
数日前の自分にたっぷりと呪詛を履きながら山を降りていくと、やっと暑さが和らいだように感じることができる位置まで下山できた。
そこで後回しにしていた、ギルドカード確認をしようと思い立つヤマト。
【討伐記録】
ホワイトウルフ:21匹(27300ex)
スノーエイプ:8匹(22400ex)
スノーフォックス:4匹(16000ex)
リザードマン:15匹(30000ex)
ファイヤーエイプ:7匹(19600ex)
ファイヤードック:4匹(16000ex)
ファイヤーエイプ:火山に住む猿。大きな体格をしており、3~4匹程度の群れを形成する。火属性に対する耐性を持ち、火山で鍛え上げられた表皮は高い硬度を誇る。革や骨をギルドで売ることが出来る。
ファイヤードック:火山に住む犬。体格はレベルによって大きく変動する。3~4匹の群れを形成する。火炎系の魔法を使うことができ、高いレベルになると噴火を誘発することもできる。火炎系神級モンスターの眷属が生み出したモンスターで、火山全域の中腹以降に少数が生息する。ちなみに肉が大変美味とされており、パンにはさんで食べると美味しい。
ユーザー名:[ヤマト]
種族:ヒューマン
職業:スカウト
LV:19
STR:38
VIT:12
AGI:38
DEX:13
INT:1
MND:1
LUK:1
称号:速撃の疾走者 複撃一刀
装備スキル:剣LV.13(+1)・直剣LV.13(+1)・闘気法LV.19(+2)・心眼LV.19(+2)・隠密LV.9・加速LV.19(+3)・速撃LV.14(+1)・抜刀術LV9(+2)・無ノ一撃LV.7(+1)
昨日はレベルアップしなかったなぁ…と少し落ち込むヤマト。友人から、自分よりあまりに弱い敵だと経験値が入らない、と教えられていたので、もしやそれかと考えている。
昨日、2つもレベルアップしたじゃないかと思う彼だが、この疑問が解消されるのはもう少し後になる。
「今日も元気に調査しましょうかね」
頬に一発。言葉とともに気合いを入れ直す。
装備を改めて見て不備がないことを確認すると、走る速度を速めた。
ちなみに、最近独り言が多くなったなぁ、とヤマトが独り身の寂しさを嘆いたのは完全な余談である。
「うおっ!と、もう少し行かないとダメか!」
最後の調査指令地、雷山に足を踏み入れるヤマト。
この山は遠目から見ると常に雷雲を発生させている山という風に見える。つまり文字通り、雷が頻繁に降る山なのである。
そしてヤマトは運悪く、足を踏み入れた途端に洗礼を食らう羽目となる。
いち早く心眼で見抜けたから良かったものの、悠長にしていたらアババババと漫画のように感電するところだった。
まあ感電したところで衝撃を受けたあとでHPが減って動きに鈍りが出るだけである。流石に雷を完全再現すると心停止とかの危険性があるのだ。
「ここまでくれば…うわっ、と」
心眼により見抜いた雷の範囲より脱出を成功させるヤマト。と同時に背後で落雷が発生し、ヤマトの背を衝撃が撫でた。思わずステータス画面を開いてHPを確認するヤマト。幸いと言っていいのか、HPは満タンから数ミリと減っていない。
当たったらまずいな…そう考えるヤマト。しかしそう簡単に落雷は発生しないらしく、彼の心眼に反応はない。
ほっと一息付くヤマト、しかしこれから山の中腹まで上がるのだ、安心はしていられない。おそらく上に向かうにつれて雷の頻度は上がるはずだ。
遠目に見ていた時から、もっと言えば雷山という通称を聞いてから、嫌な予感はしていたのだ。的中して欲しくないというのが本心であったが。
「うへぇ…しかも異変がイベントなら、ここに居るんだよな」
正直こんなところで戦闘したくないと言うのが正直なところである。が、それとは別に強敵との戦いには心惹かれるものだ。
早く出てこーい、と心の中で叫びながら搜索を開始した。
とはいえ、そう簡単には出てこない。出てこないとは言っても、その痕跡はしっかりとヤマトの目の前にあった。否、目の前にいた。
「なるほど君らは、俺のターゲットにやられたわけだね?」
返事は帰ってこない。いや、威嚇の唸り声なら耳に届いている。
ヤマトの眼前には手負いのモンスターたち。プレイヤーやNPCには死ぬまで向かってくるのに、同種相手だと逃げるらしい。
初見のモンスターである、名称はサンダーエイプ。今までも見たことのあるエイプ系であるが、帯電しているようだ。
だがもっと目を引くのは全身の傷。裂き傷やいろいろな傷があるものの、そのどれもが火傷で傷口がふさがりかけている。自分で傷口を火傷させたのかとも思ったが、どうやらそうではないようである。
つまりターゲットは少なくとも雷か火に親しいようだと推理する。
「…っと、その前にお前らを始末しないとな」
一度頭を軽く振ってまぶたを落とし、思考を切り替える。
再び目を開ければ鈍く光る瞳。
雷の降る地での戦闘が始まった。
「…ッオォ!」
瞬間的に加速する。徐々に体を沈み込ませながら加速することによって、瞬間的に最初の敵に接近する。
そして剣を解き放つ。速度が乗った状態なので、叫びはしなかったが抜刀術其の弐である。その一撃は元あった傷口を抉り取るように放たれる。
瞬時に抉られた傷口を庇うサンダーエイプ。しかしそれが命取りであり、次は顔を斬られる。帯電しているので、電気によってダメージがあるかと思ったが、それはないようだ。
「もう一発食らっとけ!」
最期に心臓に向かって一突き。最初の一匹を絶命させることに成功する。
それと同時にヤマトの中で沸々とある感情が湧き上がる。
それは失望とともに沸き起こる疑問、至極単純なことだった。
「弱い…なんだこれは」
もちろん傷を負っていることはわかる、それに自分の攻撃にも自信を持っている。だが、3発しか攻撃を出していない。これで沈むとは余りに弱すぎる、今まで通ってきた山々に比べて余りにも貧弱すぎる。これでも中腹にさしかかろうかというところなのだ。
それほどまでに件のモンスターにやられていたのか?ヤマトは思わず眉をひそめる。
「何にせよ、駆逐する」
ヤマトが動き出す。
その瞳には依然として疑問が浮かんでいたが、それでも獲物を全て仕留めるのにそれほど時間はかからなかった。
「これは大変な方の異変だな…のんびり行こうと思っていたが、作戦変更だ」
先ほどのサンダーエイプの弱さは異様だった。おそらく異変を引き起こすモンスターは、他のモンスターを弱くできるようだ。
これらのことから考えると、おそらく縄張り争いであろう。火炎系神級モンスターが雷電系神級モンスターの縄張りにちょっかいをかけたということ。そうヤマトは推理する。
つまり急いで片付けなければ、雷電系神級モンスターかそれの眷属がその件のモンスターを掃除に来るだろう。そうすればヤマトは100%殺される、それは願い下げだった。
「急ぐぞ…!!」
ヤマトは一気に速度を上げる。
こうなれば一刻の猶予さえ惜しくなってきたのだ。
それに、長引けば面倒なことが増える。
―――そしてその時は突然に訪れる―――
「ッ!?」
ヤマトが中腹を疾走中、心眼で強烈な反応を感じた。
雷かとも思ったが、どうやら違うようだ。
何にせよ一瞬で速度を数段上げると、一気に範囲の外に飛び出した。
「お出ましってわけだ」
ヤマトが振り返ると、そこには紅蓮の体躯を惜しげもなく晒す狼がいた。
周囲に攻撃の余波である焔を残しながら、こちらを睥睨する。その大きさは、ヤマトの身長に匹敵している。
強敵である、瞬時に感じ取って識別を発動させる。
バーンウルフ LV.20 特殊称号所持
モンスター 攻撃態勢 撃破対象 火炎系眷属
ヤマトの読みは外れていなかった。それどころか、眷属であるようだ。
だが、勝てないと思うような圧倒的な圧力はない。ただ、激戦の予感と緊張が体を満たしていくだけ。
それはバーンウルフにとっても同じようだ、こちらに対して突進の構えを見せる。
そして刹那に攻防は交わされる。
「…オォ!!」
敵同士である彼らが動くのは同時だった。
バーンウルフが突進を仕掛け、ヤマトは抜刀術を使う。
普通ならヤマトが勝つだろう、バーンウルフの力も合わさった一撃がその命を刈り取るはずだ。実際にそういう場面は多くみられる。
だが、弱い方であろうとは言え仮にも神級モンスターの眷属、普通の尺度では測れないようだ。
「グッ…オォ」
突進の最中に自身の周囲に炎を発生させるバーンウルフ。その炎はバーンウルフの全面まで覆い尽くし、その炎がヤマトの刃を受け止めた。
ジリジリと敵の肌を撫でる炎。だがそれを攻撃に用いることはしていない。否、できなかったのだ。相対するヤマトの刃を抑えるためには全火力を集中する必要があった。
その為に両者の力は拮抗する。その為、反動で離れることで距離を取って、にらみ合う。
「…ッシ!」
まず動いたのはヤマト。
相手には炎という攻撃手段があるが、生憎とヤマトには魔法という便利なものは使えない。つまり動かなければ、攻撃手段の持つ向こうに時間を与えるようなものだ。
切り込んで行く、短い助走からの袈裟斬り。
「チッ…」
バーンウルフは炎をまとわせた腕で迎撃に出る。
攻撃の速度や力はヤマトの方が上だが、魔法という要素でバーンウルフはヤマトより優位に立っていた。
器用に後ろ足でバランスをとりながら、少し上からヤマトに前足を振り下ろす。
ヤマトはそれを払いながら、ガラ空きであるように見える胴体に攻撃を放っていく。
「魔法ってのは、こんな事まで、できるのか」
攻撃を胴体に放つと同時に炎が湧き上がり、ヤマトの剣から体を守る。
防御を崩すほど強い一撃を当てようとしても、炎を纏う前足がその邪魔をする。 いくら速度で優っているとは言っても、有効打を与えられないのであれば意味はない。
しかも纏っている炎でHPが徐々に減って行っている。悠長にやってはいられない。
「きっついなぁ」
ヤマトが思わずといったように愚痴をこぼす。
確かに状況を見ただけでは、ヤマトが劣勢であることは明らかだ。
だが、バーンウルフにも悠長にしていられない理由はあった。
実際、今は追い込んでいる。しかしそれは自分の全力を持って相対しているが故である。魔法も体躯を使った攻撃も、全て全力の攻撃だ。
だが、そんなことをすれば問題が出てくるのは必定、今のバーンウルフの場合はMPの消費である。親和性のある火山での戦闘ならまだしも、ここは敵地の雷山である。回復もできないので、バーンウルフのMPは容赦なく確実に減っていく。
MPが無くなり炎の魔法が使えなくなったとき、その瞬間に力と速度で上回るヤマトにその息の根を止められてしまう。
両者は違う理由ではあれ、双方ともに短期決戦を望んでいた。
ただ、実力が同じ程度なら接戦になってしまうのは当り前の事だ、戦闘に膠着が生まれる。同時に、両者の心に焦りが蓄積されていく。
「よっと、さてどうするか」
ヤマトは一旦距離を取って、腰のホルスターから初級HP回復ポーションを抜き取る。右手に握った剣でバーンウルフを牽制すると、左手でそのポーションの入った瓶を握りつぶす。そしてHPが回復したのを確認すると、再度斬りかかった。
膠着したとき、どうしてもヤマトのHPがバーンウルフの炎によって減っていくが故の行動である。しかし、これも無限にできるというわけではない。ホルスターに入っているポーションは後3つ、ギリギリであった。しかもアイテムボックスなど開こうものなら、バーンウルフの必殺技が飛んでくる。
一方、バーンウルフにとってもそのタイミングはチャンスであった。
相手が回復している隙に、自身の炎を取り込むことによって、若干のMP回復をすることができる。しかも攻撃の溜めを行うこともでき、まさに一石二鳥である。
だが、回復量ではどうしてもヤマトには勝てない。溜めを行って強力な一撃を放つ必要性があった。しかしそんな攻撃は避けられてしまう。
両者は膠着状態でも強烈な攻撃を放ち続け、その戦いは苛烈を極める。
両者共に全力、そういう戦いが続いた。
「なるほど、相手の勢力を削ると同時に、その支配地域を削れるのか」
膠着している間にヤマトはある程度の観察を終えた。そして最後のポーションを握りつぶしながら呟く。
このモンスターはそこに居るだけでこの地帯を削っている。つまり縄張りを消失させ、環境を変えていくのである。
先ほどのサンダーエイプが弱かったのは、こいつに雷山の縄張りを削られていたせいで、雷の親和性を持つ彼らの力が下がっていたのだ。
なら尚更早くしないとな…と思い直すヤマト。奴の力が読み通りなら、ここもいずれ火炎系の縄張りになってしまう。そうなれば奴のMPは親和性によって回復し、その魔法も威力を増す。
「決めるぜ…なぁ」
一度距離を置いて助走距離を確保するヤマト。そして剣を腰の鞘に戻し、全身の力を一旦抜きながら、集中力をただ一点にのみ集中させる。
それを見たバーンウルフは迸る炎の勢いをどんどんと上げていく。それは小さな火山そのものだった。更にヤマトから距離を取って、全身に力を込める。
両者の眼光はそれぞれ以外を見ていない。
「やっぱり、こういう戦いは楽しいと思わないか?」
ヤマトが力を抜いた自然体でバーンウルフに声をかける。
バーンウルフは更に炎を大きくすることでヤマトに応えた。
ヤマトは小さく笑い、一つ頷くと腰を落とした。緩やかな動きで刀の柄に手を這わせ、しっかりと握る。
「血湧き肉踊ってこそ、闘争と呼ぶにふさわしい」
ヤマトは一つ呟いてから全身の力を完全に抜ききり、必要最低限だけ残す。
バーンウルフは吹き上がっていた炎を収束させ、自分を覆うように変形させていく。
両者の攻撃準備はほぼ完了した。後はそれを解き放つタイミング。
相手より早くても、遅くても、それは不利になる。完全に一致してこそ最大の力を発揮できるのだ。
そしてその時は訪れる。
「我が剣に負けは無く、我が剣を阻むことは成らず…」
ヤマトは小さく呟きながら最後の力を抜いた。
瞬間、ヤマトは前に飛び出す。全身の筋肉をコントロールし、高速で駆ける。
それと全く同じ瞬間にバーンウルフも筋肉を駆動させる。炎の力も使って加速する。
両者の間にあった距離は、一瞬ごとに削り取られていく。
そして激突の瞬間が訪れる。
「オオォォォ!!」
ヤマトが鞘から抜き放ち、最高速を持って剣を降る。
バーンウルフは一つ咆哮を放つと、炎をヤマトの剣にぶつける。
だが速度の乗った剣を止めることはできず炎と咆哮は切り裂かれる。
ただしバーンウルフにその攻撃は当たらない。それを見越してバーンウルフは咆哮と炎を使ったのだから。
さらにバーンウルフにはまだ纏っている炎がある。この時点では剣の攻撃を使ってしまったヤマトに成す術はないように見える。
だが、彼の剣は力を取り戻す。足を地面に突き刺して強引に二撃目を放つ。
しかし体制の悪いヤマトは纏っていた炎を散らすのが精一杯で体制も崩れる。
そしてすべての魔力を使い切って尚、まだバーンウルフの速度は十分にある。
対して、速度がゼロになり、体制も崩したヤマト。
バーンウルフが牙と爪をヤマトに向ける。速度の乗った必殺の一撃。
そして―――
次を待て!ということですね。こういう終わり方を書いてみたかっただけだったり。
感想や誤字など何かございましたら、感想欄までどうぞ。
最近、若者の言葉の乱れがひどいとか言うニュースを見ました。それを友人との話のタネにしたところ…
友人A「平安の時代からしたら、五十歩百歩じゃね?」
数列(私)「ふむ、そうだねぇ」
友人B「いっその事、元々は猿なわけですし?ウキー!的なのが最も正確な言葉なのでは!」
友人A「お前天才」
数列(私)「少なくとも鳴き声は言語じゃねえよ…」
という結果になりましたが、みなさんはいかがお考えでしょうか?