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仮想現実を駆ける!!  作者: 一二三四五六
揺り篭の中、育まれる星
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第五話 【己の領域、現る強敵、見出す力】

おっす!おら数列!

という訳で投稿です。

どうぞ、どうぞどうぞ。(古いか)





「ふぅ、東は情報通り、森だな。森以外に言葉が見つからん」

 狩場を考察していた時、西に行くことは比較的早く決定していた。だがその後にどこに移動するか、実はかなり迷っていたのである。

 元は北の山岳地方に行こうともしていたのだが、狩りをしていた二日の間に掲示板などを見る限り、東の森林が良いのではないかという結論に達した。


 ヤマトは急いでいたために街の中は通らず、一気に外縁を半周して東に歩を進めた。

 そして移動中に目星をつけていた所まで移動すると、二度目になるセーフテントの設営をし、狩りの準備を始めた。先ずは装備を一度見直して異常がないことを確認すると、西の狩りでは全く使わなかった回復系アイテムを確認する。

 回復系アイテムでも最下位の回復量ではあるものの、HP回復の初級回復ポーションとMP回復の初級マナポーション、その両方を腰のホルダーに装備。それにより取り出しやすく、緊急時に使いやすくしておく。


「さて、会敵するまでは暇かな」

 狩りを行う時に注意を払うべき時は、戦闘もそうだが索敵時も神経を研ぎ澄ませるべきであると考える。有利な状態で敵に見つかるより早く察知し、敵が自分に気付くより早く奇襲を仕掛ける。ソロで狩りを行う彼にとって、多数の敵と戦う場合に必要不可欠なことである。

 だが常に気を張り詰めれば、必ず疲れてしまうだろう。注意を払いながらも、何かあるまでは気を楽にする、それにより気疲れするのを防ぐのである。


「ふう、さて見逃さないようにしないとな…」

 彼が2日このゲームをやって気がついたことを1つ挙げるとすれば、圧倒的なリアリティ以外にないだろう。前世紀以前のスーパーコンピューターごときでは演算できないであろう所まで到達し、もはや本当に世界を創造したといっても過言ではない次元にある。それを作り上げたゲーム作成会社にもそうだが、これを可能にする国内数箇所の量子コンピューターにも驚嘆するばかりだ。


 何が言いたいのかといえば、このゲームではモンスターが自然に出現すること以外は現実と同じなのである。フンはしないが狩りをして獲物を食べたり、足跡を残したり、縄張りを主張したり、群れを作ったり、野生の勘すら持っている。おかしな点といえば群れが壊滅しても逃げ出さない事ぐらいだ。

 つまり敵を見つけるのに効果的な方法として、足跡や食事の残骸などに気を払うことが挙げられる。しかもこれはかなりの速度で少しずつ消えていくため、それらを発見したときは敵が周りにいると見ていい。


「…心眼があってよかったな。索敵とかってスキルもあるらしいが」

 獲物がなかなか現れず、ついつい二日の間に読んだ掲示板の情報で暇つぶしを試みる。

 色々と情報があり、結構楽しんで読めた。やはりリアリティにはプレイヤー全員が驚いており、ギルドホームの受付の女性に言い寄って黒服のマッチョ男に注意を受けたプレイヤーもいるそうだ。確かにみなさん綺麗だったけども、黒服のマッチョ男って…気を付けよう。


「ん、そろそろか」

 ヤマトは周囲で葉が擦れる音を察知した、風にしては大きすぎる音だ。

 敵がいると考えたヤマトは、その音がした方へ急いで向かう。隠密が発動しているためか、音もなく木々の間を縫うように進む。

 そして枝の上に音もなく降り立つと、音の正体に目を向けた。

 それは緑の体色を持ち、耳が歪に伸びている。ゴブリンと呼ばれるモンスターだった。


「…少し多いか?それに武器を持っているな」

 数は7匹、そのうち6匹が木の棍棒、一番前に陣取る残りの1匹はロングソードを携えている。一列に並んで隊列を組み、あたりを警戒している。

 ゴブリンの討伐報奨金がワイルドウルフより高い理由に、群れでの連携力の高さと道具を巧みに使用することというものがある。つまり目の前の7匹の群れは、それらが揃っている群れであるということだ。


 だがヤマトは少し笑った。連携力が高いということは、崩された時の対応力に欠けること。道具を巧みに利用するということは、それを持つ肉体自体がある程度は脆弱であること。それらを考えれば、この数的不利もそれほど絶望するまでではない。

 今考えるべきは、ファーストエンカウントでどれだけ数を減らし、敵の戦闘力を削げるか。


「やってみせるさ、必要ならな」

 ヤマトは静かに攻勢の機を伺った。周囲に溶け込んで気配を消し、ただし全集中力を持ってゴブリン達を観察しながら。

 そしてその時は訪れる。


 ゴブリン達がその瞬間、僅かに隊列を乱した。理由は些細なこと、中間あたりにいたゴブリンの棍棒が木の蔦に引っかかって少し足を止めたことによって、そこから後ろの計3匹のゴブリン達が数歩分遅れただけ。

 だがヤマトにとってはそれで十分であった。たった数歩でもその乱れは絶好の好機、剣を抜くのに一瞬の躊躇いもない。


「ォオ!」

 木の上から足を止めたゴブリンの後ろに居た個体、これに一気に斬りかかった。

 変則的な抜刀術であったがしっかりとスキルは発動して、斬りかかったゴブリンのHPを大きく削る。さらに右肩口からの袈裟斬りであったため、そのゴブリンは武器を落として地面に倒れた。


 さらに瞬時に木の上でアイテムボックスから取り出しておいたロングソードを、木のつたに引っかかり隙を生み出した個体の右肩に突き刺す。その個体は悲鳴を上げながらよろける。そしてようやく前の4体はヤマトの存在を感知した。

 次に右肩にロングソード突き刺した個体を蹴り飛ばし、前の4体の体勢を崩す。


「シッ!」

 そして孤立した最後尾の個体に2連突きを放ち、草むらの向こうに吹き飛ばす。次の瞬間には追撃のために駆け出す。

 そして草むらの向こうで仰向けに倒れていたゴブリンに対し、倒れ込みながら捻るように体を回転させて斬る。そして馬乗りになり、何度も何度も剣を突き立てる。


 すこし経ってから肩に傷を負ったゴブリンをその場に置いて、草むらに駆けつけた4匹が見たのは無残な死体になったゴブリンだった。

 そして狡猾な狩人がそばにいることを感じ取ったゴブリン達は戦闘態勢をとり、十字に密集する。そして唸りを上げながら武器を外側に向けて警戒を深める。響くような唸り声で威嚇しながら、ゴブリン達の眼球がせわしなく動く。


「…シッ!」

 一方ヤマトは、草むらでゴブリンをメッタ刺しにした後で、木に登って移動した。そして4匹のゴブリンが仲間の死体を見て戦闘態勢になり、唸り声を上げた瞬間に行動を開始する。

 標的は怪我を負って隠れていたゴブリン。周囲を気にしていたゴブリンも、高速で木の上から襲来したヤマトには無力だった。

 助けを呼ぼうと口を開いた瞬間、地面に転がっていたロングソードを手にとったヤマトは、それをゴブリンの口に突き刺す。そしてそのゴブリン自身の武器であった混紡を拾い上げるとそれをロングソードの頭を打ち付けて、ゴブリンの頭を木に縫い付けた。


 そして少しの距離を取ると一気に加速し、抜刀術で斬りかかる。これで哀れなゴブリンは、木に縫い付けられたまま死体となる。

 それを見届けたヤマトはロングソードを死体と木から抜き、右手に剣を左手にロングソードを持ち直す。そこでふと、鍛冶屋のおじさんに貰った剣の名前もロングソードであることに気がつき、すこし変な感覚に陥るヤマト。結局、剣でいいかと結論を出す。


「…クク、来い、来いよ」

 倒したゴブリンの近くの木の枝で4匹のゴブリンが戻ってくるのを待つヤマト。気分が乗ってきて、悪役のようなセリフを吐いている。

 しばらくすると思惑通りにゴブリン4匹がやってきた。すると悪役になりきっているヤマトが口をニンマリと変化させる。何故か、かなり似合っている。


「オラッ!」

 またもや奇襲により、密集しているゴブリンの頭部にロングソードを刺し、さらに他の個体に斬りかかる。そしてゴブリン達の攻撃が来る前に木の上に登り、敵をかく乱して次の奇襲に備える。

 普通なら逃げ出すのだが、ゴブリン達は頑なにヤマトを追いかける。



「さて、そろそろ終わりかな」

 そして何度目かの奇襲を終えた時、ゴブリンの数は2匹にまで減っていた。

 1匹は未だ傷の少ない、ロングソードを装備したリーダーと思われる個体。もう1匹は息も絶え絶えで傷が多く目立つ、棍棒を装備したゴブリン。それに比べ、ヤマトには一切の傷がなく、息が上がっている様子もない。ゴブリン達とヤマトの圧倒的な技量差によるものである事は、誰の目から見ても明らかだった。


 ヤマトは小さく呟くと、先程までの奇襲で使っていた木の枝という隠れ家から降りた。なぜならゴブリン達が頭上を警戒し始め、先ほどの奇襲では迎撃を受けかけたからだ。

 着地する音を消しながら剣を左腰の鞘に収めて左手にロングソードを握り、ゴブリン達の死角から攻撃のタイミングを見極める。


「…今ッ!」

 小さく、しかし鋭く声を発したヤマトは駆け出した。

 左手に持っていたロングソードを全力でリーダーと思われるゴブリンに投げると、瞬時に鞘に収められた剣の柄に手を伸ばし、もう一匹のゴブリンに向かって疾走する。

 標的であるゴブリンのHPは半分を割り込んでおり、抜刀術の一撃で撃破は可能だった。しかしもう一体のリーダー個体は明らかに技量が違う、抜刀術という隙の大きい技を行うにはリスクが高い。そのためにロングソードを投擲して、無理矢理に隙を生み出した。


「ォオ!」

 抜刀術により高速で引き抜かれる剣にゴブリンが引き裂かれる。HPは消失し、ゴブリンの全身から力が抜ける。

 だがヤマトにそれに気を抜く時間はない。瞬時に飛び退き、リーダー個体から距離を取る。


「グォォオオオオオオ!!」

 飛び退いた先でヤマトがリーダー個体に目を向けると、その視線の先でリーダー個体の表皮が一気に黒く変色していく。さらに筋肉が盛り上がり、目に光が消えた。

 ヤマトは敵の変異に戸惑い、特殊スキル識別を使用する。


 ボブゴブリン[狂化発動中] LV10

 モンスター 攻撃態勢 撃破対象 特異変種


 狂化スキル、理性を失う代わりに大幅にステータスが上昇する効果。発動には一定条件が必要。取得条件はランダム。


 ゴブリンかと思っていた個体は、特殊スキル持ちのボブゴブリンだったのである。なるほど…とヤマトが納得した瞬間、スキル狂化によってステータスが上昇したボブゴブリンが突貫を開始した。


「これは、マズイか…」

 ヤマトは瞬時にボブゴブリンの攻撃力が自分を殺害しうるものだと判断、まずは逃げに徹した。

 ただし無様に逃げるのではなく、観察しながらの逃走。攻撃範囲や最高速度、どれぐらいの精度でカーブできるのか。


「さーて、問題はどうやって攻撃するか…だな」

 観察を終え、攻勢に転じる隙を伺うヤマト。一旦ボブゴブリンを振り切り、身を隠す。

 ボブゴブリンの方は察知能力が上がっているらしく、少しの物音にも反応して暴れている。これでは隠密で近づくのはリスクしかない。別の方法で近づくか、それとも正攻法で真正面から突貫するか。


 ジリジリと緊張が張り詰める。

 1手誤れば死ぬ。まるで達人同士の囲碁のように、相手にミスが出るのを待つヤマト。相手は暴れまわっているだけであるが。

 何か、動きがあれば…


「…ッ!!」

 この勝負で天は、ヤマトに味方した。

 草むらから1匹のホーンラビットが飛び出してきたのだ。

 次の瞬間ボブゴブリンがそのホーンラビットに体を向けるのを確認し、全速で駆け出す。


「間に合え…!!」

 ボブゴブリンがホーンラビットをロングソードの一撃で屠る事など容易い。ヤマトはボブゴブリンが振り向くまでに敵に一太刀を加える、それだけに全神経を集中していた。

 一歩…また一歩とボブゴブリンとの距離が消滅していく。

 そしてボブゴブリンがホーンラビットにロングソードを直撃させ、ホーンラビットは息絶える。しかし背後には疾風となったヤマトが既にもう数歩のところまで接近していた。


 勝利を確信するヤマト。しかし目の前のボブゴブリンのスキル狂化によるステータス上昇は、ヤマトの予想をはるかに超えていた。

 次の瞬間に彼が見たのは、ホーンラビットを屠った勢いで、ロングソードをヤマトのいる後方まで振り回そうとするボブゴブリンの姿。それを回避することは、速度の乗ったヤマトには不可能。


 死神の鎌のように振るわれるボブゴブリンのロングソードがヤマトの体を捉え…


「…ッ!」

 極限の集中力により引き伸ばされた時間の中で、ヤマトの思考は高速で打開策を出そうとしていた。

 避ける…速度が乗りすぎて無理。攻撃が直撃する前に斬る…こっちの剣が当たる前に相手のロングソードが当たる。どうにかする…それを考えている。諦めてみる…論外。


 そして最善の策を練り出す。


「ォオ!」

 予定よりも早く打ち出されたヤマトの剣は、ボブゴブリンのロングソードが自分に直撃するより早く、その必殺の力を込めたロングソードを弾き飛ばした。

 だがそのままではこちらが再度切る体制に入る前に、敵の刃がヤマトを切り裂いてしまう。速度が乗っているために、止まるのに数瞬使ってしまうからだ。

 なら、敵が体勢を崩すより早く、切ってしまえばいい。


「ッ!!」

 伸びきった腕を戻すのではなく、そのまま切り技に持っていく。

 いわゆる[燕返し]である。

 しかし伸びきった腕からではどうしても剣に威力が乗らない、これでは敵に有効打を与えることはできない。つまり反撃を受けてしまう可能性が高く、どちらにせよ死あるのみ。


 しかしヤマトは燕返しを放つ瞬間、アクティブスキルである無ノ一撃を使用する。

 アーツ無ノ一撃により、燕返しの返しの刃が爆発的に加速する。その速度と鋭さは、十分に必殺の威力に到達していた。


「オラァ!」

 燕返しの返しの刃を受けたボブゴブリンはその身を大きく一度震わせると、武器のロングソードを地面に突き刺して膝をついた。突き刺したロングソードを杖のようにして立とうとするも、動くことが全くできない。

 ヤマトは無ノ一撃によるステータス低下で重い体を引きずるように距離を取る。

そして剣を鞘に戻し、構える。


「ォオ!」

 ステータス低下が解除されると同時に加速する。そして抜刀術により剣を振るい、避けることができないボブゴブリンの体を両断した。


「終わったぁああああああ!」

 死の危険と隣り合わせの戦闘が終わった。

 もちろんゲームだから死ぬわけではないのだが、圧倒的リアリティがヤマトに明確な[死]を錯覚させたのである。伊達にリアリティでネットを騒然とさせてはいないのだ。定住希望というタイトルの掲示板が盛況過ぎて、ヤマトが引いただけはある。


 脱力感と達成感を味わいながら、倒してきた他のゴブリン達に解体を発動させていく。

 ケモノ系なら皮や牙や角がメインであったが、ゴブリンは魔石と呼ばれる特殊なアイテムがはぎ取れた。これら素材を使うのは生産職だということなので、ギルドに売ることを検討中だ。


 そして、最後のお楽しみにとっておいた、ボブゴブリンの変異種に解体を使用する。


 魔石[狂化] ランクC-

 備考:狂化の力を込められた魔石


 禍々しい紫色で、かなり異様な石である。一言で言えば、気持ち悪い。

 こんな物を本当にギルドは買い取ってくれるのか…?不安なので、一応売らないでとっておこう。もし売って、ギルドの職員さんがさっきのボブゴブリンみたいになったら、私には責任が取れない。

 断じてマッチョな黒服男が怖いわけではない、断じてだ。


ユーザー名:[ヤマト]

種族:ヒューマン()

職業:スカウト(斥候)

LV:13(+2)

STR:28(+3)

VIT:10

AGI:28(+3)

DEX:11(+2)

INT:1

MND:1

LUK:1

称号:速撃の疾走者 複撃一刀

装備スキル:剣LV.10(+1)・直剣LV.10(+1)・闘気法LV.12(+1)・心眼LV.13(+1)・隠密LV.8(+2)・加速LV.12(+2)速撃LV.11(+1)・抜刀術LV3(+2)・無ノ一撃LV.2(+1)


 称号[複撃一刀]一撃にのみ作用する効果を、一連の攻撃全てに作用するように変更する。


 全体的なレベルアップを果たしたヤマト。さらに称号を獲得したことで満足気な顔だ。

 称号の効果はつまり、無ノ一撃や抜刀術が効果を及ぼす攻撃が一撃だけではなくなるということだ。

 よしわかった燕返しを練習しよう、と心に決めるヤマトである。


その後、丸一日ずっと森にいたのは、もはや言うまでもないだろう。



感想、要望、質問、などありましたら感想までどうぞ。

最近、笑えなくなった。と思ったら、1時間前に爆笑してたのを思い出した。

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