第三話 【初めてのクエスト】
どうも皆さん、数列です。
書き溜め分は続くよどこまでも…
「これで紹介されたのは全部だから、戻るか」
道具屋で大活躍だったアルフと別れたヤマト。その足で来た道を戻って行く。道具屋でも後払いでいいと様々なものを無料で購入した。購入と言っていいかは微妙なところだ。
もちろんこの後はギルドに戻り、依頼を受ける。実入りのいいものがあれば、多少危険でも受けるつもりだった。
もちろん自身の力量を信じているからでもあるが、先ほどダグトンから貰った剣、そして道具屋で購入したものを考えてのことである。
それに、先程からステータス画面に浮かぶ[後払い金:15万ex]という字が彼の眼を、そして心を直撃していた。
「結構いいもん貰ったからな…ま、まあすぐ稼げるさ…たぶん」
ゲーム開始初日にして、利息無しとは言え借金である。ヤマトには確かな重圧が掛かっていた。
重い気持ちもあったのは確かだが、今やっているのは半年も楽しみにしていたゲーム、楽観的に楽しんでいこうと心を切り替えた。
ギルドホームに舞い戻り、押し扉を開ける。それなりにギルドホームの中は賑わっていた。
かなりの時間を鍛冶屋と道具屋で過ごしたため、プレイヤー達は他のギルドに登録申請に向っているか、もうすでにクエストを受けて街の外に出ていた。
そんな中、何故か[休止中]と書かれた仮想ウィンドウが表示してある窓口。その窓口が仮想ウィンドウを消失させ、その奥からエリーが手招きをしていた。
「お帰りなさい。どうだった?」
カウンターに肘をつき、手の上に顎を乗せて小首をかしげながら、エリーはヤマトの眼を覗き込んだ。
借金をしたことがまだ心に引っかかっていたヤマトは、うっ…と少し言葉を詰まらせるが、エリーの眼を見返して答えた。
「ええ、とても良くしてもらいました。みなさんいい人でしたよ」
頷きながら言うヤマトに、笑顔で頷いたエリーは姿勢を正して、パン!と手を叩いた。
そしてカウンターの下から3枚の紙を取り出すと、ヤマトに見えるようにカウンターに置いた。
「じゃあコレがギルド加入申請書ね、そしてこれが独占契約、それでこれがギルドマスター直轄契約書ね」
微笑みながら言うエリーに、背筋に流れる汗を感じながらヤマトは理解しようと努めた。
最初の加入申請書は良い、元からそのつもりだ。ただ残り二つは身に覚えがない。その時、ふと思い出した。
「えっと、このギルド以外に入るなって事と、ギルドマスターから強制依頼を受けることがあるってことですか?」
「ふふ、正解よ。よく出来ました」
困惑しながら解釈した事を話すヤマト、それに対してエリーは先生のように丸付けをした。口調だけでなく、微笑みながら指を丸く回すというジェスチャー付きだ。
この措置は「優秀な人材には特別な対応をする」と言っていたことに関係している。端的に言えば囲い込みだ。
露骨といえば露骨だが、他のギルドに人材を取られないようにする措置か…と納得するより他は無かった。そもそもどこかのギルドに入りたい、という願望がなかったのも大きい要因になり、それらの書類にヤマトはサインをした。
プレイヤーでのギルドに関しては制限が無いこと、ギルドマスターからの依頼でも報奨金は発生すること。などなどが書かれているその書類をヤマトはエリーに返した。
「はい、じゃあこれであなたの登録は完了。身分証明にもなるギルドカードを渡しとくわね。早速依頼受けて行く?」
「ええ、もちろん」
エリーは書類を受け取り、カウンターの下に手を伸ばす。
そして次に彼女の手がカウンターの影から現れると、その手には紙の束が握られていた。
その紙の束をヤマトに手渡すと、さらにギルドカードと思われる物を差し出した。ヤマトはギルドカードを手に取ると、アイテムボックスの大事なものボックスに収納する。
そして脇に抱えていた紙の束を手に持ち直し、目を通し始める。
全てに目を通し終わり、いくつかの依頼を受けることにした。
[ホーンラビットの討伐:一匹につき300ex]
[ワイルドウルフの討伐:一匹につき1000ex]
[ワイルドホースの討伐:一匹につき2500ex]
[ワイルドバイソンの討伐:一匹につき3000ex]
[ゴブリンの討伐:一匹につき1200ex]
[ボブゴブリンの討伐:一匹につき2300ex]
華麗に討伐系ばかりである。半分思考停止で討伐系を上から選んだのは誰の目から見ても確かだった。
これらの依頼は常時出されており、一度受ければ3日間の猶予を貰ってその間に狩る。そしてカウントして、お金が出る。
彼の自由にやりたいという願望と上手く合致する依頼というわけだ。
「これらかな」
「…思ったよりも馬鹿?」
「ぐっ…」
完全にぐぅの音も出ない。
だがもう決めたからなぁ、とヤマトは頬をかきながらギルドカードを渡して受理を促す。
エリーは少しだけ笑ってそれを受け取り、受理するための手続きを開始した。
「じゃあ受理するわね。討伐数はギルドカードに記録されるわ、3日後に確認するからちゃんと来てね。売れるものならギルドで換金してもいいけど、ゴブリンの腰布とかはもちろん無理よ」
「そんなものは持ってこないですよ。じゃあ三日後に」
「ええ、行ってらっしゃい」
エリーは手を動かしながら、ヤマトに説明をする。最後に冗談を入れながら、ウインク付きでギルドカードを手渡した。ヤマトは先ほどの事もあって少し素っ気なく返し、素早く出口に向かう。
それをエリーは微笑みながら手を振って送り出した。
「さて、鬼になるか竜になるか…楽しみね」
ヤマトが両開きの押し扉を通り外に出ると、エリーは手を振るのを止めて笑いを深めた。
そしてその瞳が鈍く輝いた瞬間、彼女の前に仮想ウィンドウが表示される。そこには休止中の文字だけが浮かぶ。
その後、3日の間にエリノア・マドネルという女性を目撃したプレイヤーは一人もいなかった。
「さて、やるか」
街でかなりの時間を使ったヤマト、それを取り返すかのように少し急いで、街を囲む城壁に設置された4つの門の内一つに来ていた。
ここは西門と呼ばれる場所で、街から西方面に出る街道に繋がっている。
街から少し歩いた程度ではどの方角に向かっても大差はない草原である。ただ、さらに先に進むと変化が現れるのだ。
北は山岳地帯。大雪の降る冬山から溶岩を絶えず放出する火山まで、厳しく険しい山々が連なっているエリア。
南は大海。穏やかな場所もあれば激しい嵐に見舞われる場所もある。そしてその海に浮かぶ島々を渡り歩くエリア。
東は樹海。奥に進むにつれて深く危険になっていく森の海。そんな森に住む様々なモンスターや森そのものと戦うエリア。
そして今から目指す西、この方角の先に存在するのは砂漠である。直射日光の当たる灼熱の世界、そして月光の照らす極寒の世界。その両方を内包する地帯だ。
まあ長々と説明したが、そんなところに行くつもりは一切ない。当たり前であろう、まだログインして1日も経っていないのだから。
「やっぱり目的はバイソンだな、次点でホースか」
ヤマトの目的はあくまでお金稼ぎであるため、実入りのいい敵を狙うのは当たり前だ。その実入りのいいモンスターであるワイルドバイソンとワイルドホースは、西側の草原によく出現するらしいのだ。
彼は浅く頷くと、門の前で屈伸を行う。そして軽い準備体操をし、それが終わると重心を落とした。
そしてまっすぐ西に駆け出したのである。
「フッ!」
道沿いに街から離れ、メニューから地図を呼び出し、だいたいこの辺かと目当てをつけていたところに向けて移動した。
道からも程よく外れ、そう言っても奥地というわけでもない。狩場には絶好の場所だった。
その場所に先ほど道具屋で後払い購入した、魔道具というカテゴリーに属する[セーフテント]というアイテムを使用した。
このセーフテントは、いわゆる安全地帯を作り出すアイテムである。この中なら、基本的にモンスターには襲われない。
ただし、戦闘状態で入ることはできず、あまりに強力なモンスターには効果がないようだ。
そうして拠点を完成させたヤマトは、早速狩りを開始していた。
現在4匹目のホーンラビットを切り捨てたところである。
「さーて、どんどん来い」
ヤマトは少し移動すると、新たな獲物を見つけた。4匹のワイルドウルフの群れである。
ワイルドウルフは群れで行動し、その群れでの連携攻撃によって獲物を仕留める。故にどうにかして彼らの連携を止められれば、ある程度は楽に狩れる。もちろん狼なので、気を抜くことはできないのだが。
「シッ」
短い吐息が戦闘開始の合図となる。
一気に後ろから距離を詰めて、先ずは奇襲で一匹の後ろ足を切り裂く。そして他の3匹が戦闘状態に入る前に、もう一匹に逆袈裟斬りを放つ。逆袈裟斬りを受けたワイルドウルフは腹から血を流して怯みながらも、ヤマトから距離を取る。
その瞬間に群れ全体が戦闘状態に移行し、ヤマトに対して攻撃を加えようと駆け出す。だが無事な2匹と剣を当てた2匹には動きに差がある。その速度差をヤマトは突いた。
まず向かってくる2匹の内の1匹の前足による攻撃を受け流し、もう1匹の噛み付き攻撃に左の裏拳を当てて弾き飛ばす。そして遅れてくる腹に傷のあるワイルドウルフに二度突きを放つ。ワイルドウルフ自身の速度も合わさった二度突きはワイルドウルフのHPを大きく削り、ひるませる。
それを見たヤマトは瞬時にワイルドウルフを蹴り飛ばし、後ろ足を引きずるワイルドウルフにぶつけて弾き飛ばす。
そして一歩下がりつつ体を反転させる。するとちょうど攻撃を受け流したワイルドウルフの前足による追撃が迫っていた。ヤマトは焦ることなく半身になって少しだけ体をずらすことで回避する。
そしてすぐに過ぎ去ったワイルドウルフに追撃をかけようとするが、視界の端で動いた影に咄嗟にもう一歩分だけ後ろに飛び退く。飛び退いた瞬間に裏拳を当てた敵が今までヤマトが居た場所に飛びかかっていた。しかし咄嗟に避けられたため着地で体勢を崩してしまった。その隙をヤマトが見逃す訳もなく、上段の構えからの振り下ろしで致命傷を与える。
そして戦闘を続け、二度突きにより大きくHPを削ったワイルドウルフと、致命傷を与えたワイルドウルフを倒した。そして残りの2匹を着実に追い込んだ。
ワイルドウルフの攻撃を避けたヤマトは足を踏み出し、前足の攻撃を仕掛けたワイルドウルフに対して追撃を加えた。
そして一度距離を取る。残った手負いの2匹は集結し、ヤマトに鋭い眼光を向けた。
ゲームだとは思えないほどのリアリティ、確かな殺気を持った攻撃、そして命をかけた攻防。だが一つ残念なところを挙げるとすれば、ヤマトの力量に対してワイルドウルフでは役者不足なことだった。
「ォオ!」
乾坤一擲。
ワイルドウルフたちが一列に並んだとき、ヤマトは動いた。瞬間的に距離を詰めた彼は己の剣を横に振る。込められた力とは裏腹に微かに風を斬る音のみを残して、2匹の哀れな挑戦者はその命を断たれた。そしてヤマトは剣を鞘に収め、戦いの終わりを確信した。文字にすれば短いが、実に1時間にも及ぶ勝負であった。
[おめでとうございます、2レベルアップしました]
[スキルがレベルアップしました]
[ステータス値に4ポイント振られました]
[ステータスに4ポイント振って下さい]
特に迷う様子もなく、ステータスに数値を振っていく。
ユーザー名:[ヤマト]
種族:ヒューマン
職業:スカウト
LV:3
STR:13(+2)
VIT:7(+4)
AGI:13(+2)
DEX:3
INT:1
MND:1
LUK:1
称号:
装備スキル:剣LV.1・直剣LV.1・闘気法LV.2・心眼LV.2
このゲームではステータスにランダムに数値が振られる、というシステムがある。ほかのゲームにはあまりないことなので戸惑いの声も生まれたが、数値のランダム化アルゴリズムに戦闘や現在のステータスを参照する性質があるということが分かり、プレイヤーも次第に慣れていく事になる。
そんな中でヤマトが目指しているステータスはSTR&AGI特化。自己で決定できる数値のほぼ全てをSTRとAGI、つまり筋力と素早さに振るというものであった。
βテストでは親友と共にプレイして、その二人に何かと教わったわけなのだが、彼らが言うには「特化系は技量か頑強か魔法系、これ以外はやめといた方がいいぞ」との事だった。そんなわけで無難なステータスにしたのだが、このキャラクターは全くヤマトの期待には答えてくれなかった。そもそも攻撃は避ければ良いと思うし魔法に関して興味はない、器用さを上げてもそれが関係するような武器は使わない。そんな事実が発覚し、正式版からは自分のやりたいようにやろうと決めていた。
そしてさらに彼にとって嬉しい誤算も生まれていた。なんと[攻撃力]という数値には[速度]が重要だということが判明したのだ。つまり彼のステータス強化方針は[攻撃力特化型]と呼べるものになった。
その結果、レベル1にも関わらず、単独によるワイルドウルフ4匹同時撃破という事が起こったのである。レベル1なら数人がかりで撃破できるかどうかというところなのにも関わらずだ。これにはリアルすぎると言っても良いゲームの仕様と、先ほどもらった剣も関係している。
「よし、稼ぐか」
にやりと笑った彼は、大きく円を書くように草原を何度も駆け抜け、多くのモンスターを狩っていく。永遠とモンスターは出現し続けるためにヤマトがやりすぎたと気づく2日後まで、このマラソンは続くのであった。
感想や要望、などなどなにかございましたら、感想までどうぞ(意訳:感想をくださーい!)
最近、風邪気味で…季節の変わり目には要注意ってことか(ちょっと遅いか)