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仮想現実を駆ける!!  作者: 一二三四五六
揺り篭の中、育まれる星
2/17

第二話 【初めての街】

どうも!数列です。

書き溜め分です。

「ふう、やっぱりβテストとは全然違うな」

 プレイヤーは選択した種族によって、最初の街を変えることができる。まあ、彼の種族であるヒューマンには選択肢がないのだが。

 目の前の壁は城壁であろうか、大きく開いた門が目に入る。

 やはり周りから感じられる生命力は仮想の物であるとは思えないリアリティがある。

 だからこのゲームにハマったのだ、当然といえば当然か。

 深呼吸をしていた彼の横を猛ダッシュで町に入っていくプレイヤーを呆れ顔で見送った後、ゆっくりと街の中に入った。


「さてと、こっちか」

 まずこの街に入ったプレイヤーは冒険者ギルドという組合の拠点である、ギルドホームに向かうことが示される。

 そこから各々のプレイスタイルによって、魔法ギルド・狩人ギルド・鍛冶ギルドなどに所属して依頼をクリアしながら冒険をする。そしてこのゲームを楽しむのだ。

 ちなみに彼にこのゲームでの目的は無い。強いて言えば成長すれば現実では不可能なことができるようになるこの世界で、自由に生きてみたいということだけだ。


「あたりで一番大きな建物か…ここだな」

 案内役の町人に聞いたギルドホームの特徴に合致する建物を発見した。

 まずは何をやろうかな…と、この先の行動に思いを巡らしながら、彼は押し扉を開けた。


 まず目に入ったのは左側のテーブル。

 NPC(プレイヤーではない)と思われる人たちが食事をとりながら喧騒を生み出していた。まだ昼であるはずなのにかなり酔っていた。

 そして次に右側の壁や大きな看板のようなものに貼ってある紙に目が行った。おそらくこのギルドに舞い込んだ依頼(クエスト)であろう。

 そしてまっすぐ進んだところにある大きなカウンター、いわゆる窓口だ。

 まずは窓口に向かうのは常識、ヤマトは歩を進めた。

 近づくにつれ、窓口で受付をしている人の顔が認識できるようになる。綺麗な人、可愛い人、活発そうな人、冷静そうな人、暗そうな人、様々いたが全員が女性だ。

 先ほど猛ダッシュでヤマトの横をすり抜けていったプレイヤーは、すでに窓口のうちの一つに並んでいた。ほかにも2人ほど、説明を受けているプレイヤーがカウンターにもたれかかっている。


「ふむ、と」

 まだ自分を含めて4人しかいないのだ、空いているカウンターの方が多い。さてはて自分はどのカウンターに行こうか、とヤマトは思案していた。

 瞬間、鋭い殺気を感知した彼は咄嗟にその方向を正確に捉え、視線を向けた。一瞬だけであったが、確かで鋭いその殺気を彼が間違うはずもなかった。

 視線の先には徳利(とっくり)を傾けながらカウンターに座る老人が居た。

 少し小柄でシワの目立つ老人であったが、肉体はしっかりしていた。


「お呼びですか?」

 ヤマトは若干の興味を覚えて老人の近くまで行き、声をかけた。

 老人は僅かに眉を上げ、目を微かに見開いた。

 そしてヤマトに向けて、徳利の栓を投げた。老人の左手で弄ばれていた物であり、なんの前動作もなしに高速で弾かれた。

 その栓はヤマトの右眼球に直撃する機動を取った。当たってもゲームの使用上そこまで痛くはないだろうが、あまりに突然の攻撃だった。


「よっと。…これお返ししますね」

 しかしヤマトはその栓を右手で受け止めた。

 彼の目には老人の左手の筋肉が僅かに駆動するのが見えていたのだ。それを感知した瞬間に栓を受け止める準備を開始したため、なんの問題もなく栓を受け止めることに成功した。

 そしてそれを手のひらに乗せ、老人の目の前に持っていった。


「…お主、名は?」

「俺の名前はヤマト、あなたは?」

 見定めるようにこちらを見る老人の口が開き、名を訪ねた。

 ヤマトはまた攻撃が来るかと身構えながら老人に名前を明かし、逆に老人の名前を問うた。

 老人は微かに広角を上げると、カウンターから降りて手を差し出した。


「儂の名はルーカス。じいさんとかギルドマスター(・・・・・・・)と呼ばれておるのう」

「…ギルドマスターというのは、新人に徳利の栓を投げるのが仕事なのですか?」

 広角を上げたルーカスの口から放たれた言葉は、ヤマトを驚かせるのに十分な衝撃があった。どうだと言わんばかりの表情のルーカスに、苦言を返すのが精一杯になるほどには。

 その言葉にルーカスは気を悪くした様子もなく、ヤマトの手の上にあった栓を奪うと徳利を傾けて酒を飲み、笑いだした。


「なに、儂の殺気に気がついた有望な新人を見極めたまでだ。予想以上だったがの」

 避けると思っていた、と豪快に笑うルーカスに身構えることがバカらしくなったヤマトは、力を抜いた。

 それを見たルーカスは満足げに頷くと、横に居た窓口の女性に声をかけた。


「エリーちゃんや、こいつに話をしてやれ。その後でアレを渡すように」

「了解しました」

「じゃあのヤマト。お主の成長を楽しみにしとるぞ」

 そう言うとルーカスは笑いながらカウンターを軽々と飛び越え、受付の後ろにある扉を開けて入っていった。

 ヤマトは呆れた顔でそれを見送った後、ルーカスからエリーと呼ばれた窓口の女性に目を向けた。彼女の上半身しか見ることはできなかったが、細身にしてはしっかりとした体格だった。しかし何よりヤマトを驚かせたのは彼女の耳だ。


「ふふっ、これが珍しいですか?そこいらにいますよ?」

 ヤマトの視線に気がついたのだろう、彼女は自分の耳を触りながらヤマトをからかう。

 彼女の耳は細長く横につき出しており、いわゆるエルフ耳であった。注視すれば確かに街中にもいたのだが、そこまで観察してなかったヤマトは驚いていた。


「いや、何でもない。それより説明をしてくれ」

 ヤマトは若干の気恥ずかしさもあり、そっけなく返す。

 それを彼女は面白そうに目を細めてヤマトを見て、微笑んだ。


「じゃあ、説明するわね。あ、私はエリノア・マドネルっていうのよ、エリーって呼んでね?ヤマトくん」

 ヤマトが自分の前に移動するのを持ってから、エリーは話を始めた。

 その眼は常にヤマトに向けられており一切書類等を読まなかったため、ヤマトは驚いた。そして自分を見る鋭い眼光に、あまり逆らわないようにしようと心に決めた。


「まずこの建物は冒険者ギルドのギルドハウス、まあギルド連中の元締めって感じかしら。まず新人はうちで登録して、希望のギルドに紹介状を書いてもらうってわけ。うちでは基本的に討伐系や街中の雑用の依頼を紹介しているわ、たまに国や貴族の依頼も来るけどね。で、依頼についてなんだけど、これはランク制度を採用しているわ。F・E・D・C・B・A・S・SSの順に難しくなっていくってわけ。昇格に必要な数の依頼を達成して、試験を受ければ次のランクに行けるってルール。ランクの違う人がパーティーを組んだ場合はちょうどパーティー平均のランクまで受けられるわ。依頼を受けるにはまず手付金を前払いね、これは達成した時の報奨金が多いほど多くなるわ。ただし、常時出されている依頼や指名された依頼には不要よ。それと、一定以上のランクになると失敗時に違約金が必要になるわ」

 わかったかしら?と微笑むエリー。

 ヤマトはこれらの説明を自分なりに解釈し、頷いた。

 つまり、依頼を受けて達成しろ、必要なら手付金払え、難しい依頼で失敗するとお金もらうよ、がんばって上のランク目指してね。

 それでいいだろ、違ったらまた聞こう。


「まあ、いつでも聞いてくれていいわよ。ただし、今後一切の依頼の受注と事務仕事は私のところに来てね」

 え?と目を見開くヤマト。会って30分そこらの人間にそんなことを言われるとは考えていなかったのだ。

 しかしそれを見たエリーは可笑しそうに目を細めて微笑んだ。


「ああ、そんなに驚かなくてもいいわよ。将来有望な子にはこういう措置を行うの」

 聞く所によると、能力の高い人間や才能の有りそうな人間は、それを伸ばすために特別な措置を取るのだとか。これはその一環だそうだ。

 へ、へえ…と若干落ち着いたヤマトは気を取り直して姿勢を正した。


「色々ありがとうございました、頑張ってみます」

 少し頭を下げて感謝を表す。

 それを見て嬉しそうに笑ったエリーは、ヤマトに紙を手渡す。


「これは、ギルドと提携している道具屋さんと鍛冶屋さんへの紹介状。まず行ってみなさい」

 2通の封筒と地図であった。

 特に今の状況を不満には思っていなかったが、先ほど逆らわないことを決めたばかりである。何より、目の前の女性が自分にとって無駄なことをやらせる訳がないという思いもあった。


「では、また来ます」

「ええ、待っているわね」

 2つの店に行ったら、ギルドに戻って依頼を受けるかな。

 このあとの予定を大まかに立てたヤマトは、ギルドハウスを後にした。


「おじゃまします」

 地図の通りに道を進み、鍛冶屋を訪れていた。

 鍛冶屋は、重厚なレンガ造りの平屋で、巨大な煙突が外からでも見える。

 この場所は、かなり街の端だ。この鍛冶屋の他にも道具屋や防具屋、魔道具屋や薬屋などが軒を連ねる。

 かなり立派なので、儲かっているだろうなぁ…と考えていたヤマトである。


「はいはい、ただいままいります!」

 店の奥から声がする。ドタドタと音がしているので、急いで来てくれているのだろう。

 その間に周りを見渡す。様々な武器が壁や棚に陳列され、鼻には金属と埃の匂いが飛び込んでくる。まさに鍛冶屋に来たという感覚だ。


「はいはい、お客さん。悪いね、さっき店番達が昼飯を食いに出ちまってね。どんなのをお探しだい?」

 出てきたのは、笑顔を浮かべる、少し身長の低いおばさんだった。

 おそらくプレイヤーも選択可能な種族の一つ、ドワーフだろう。

 鍛冶仕事の特殊な技能を持つと説明にあったが、その通りであるようだ。


「ギルドから紹介を受けてきました」

 ヤマトは特殊スキルの一つであるアイテムボックスから封筒を取り出した。アイテムボックスはレベルに応じて収納できる広さが変わる、持ち運べる倉庫のようなものだ。

 それを受け取ったおばさんは、少し思案顔になるとすぐにこちらに笑顔を向けた。

 

「ちょっと待っとってくれ」

 おばさんはすぐに踵を返すと、いそいで来た道をいそいで帰っていった。

 少しするとおばさんと一緒に、これまた小さいおじさんが歩いてきた。豊かなヒゲを口元に蓄えた姿は、まさしくドワーフの鏡。


「おう、オメェさんがルーカスのお眼鏡にかなったガキか」

「ちょっと!失礼な事を言うんじゃないよ!」

「いでっ!」

 こちらに凄みをかけたおじさんが、次の瞬間おばさんに殴られた。

 この世界でも女性は逞しいのか…と痛感するヤマトである。

 少しすると、殴られた頭をさすりながらおじさんがこちらに近寄ってきた。


「痛てて…小僧、これを振ってみろ」

 おじさんは少し長い直剣を投げ渡してきた。ヤマトの腰にはチュートリアルから装備しっぱなしのロングソードがあるにも関わらず。

 ヤマトは軽く困惑しながらもその剣を二度軽く振り、正眼(中段)に構えた。

 これ振らせて俺の力量を測る気か…なら、と意気込む。そして数瞬の集中の後。


「…ッ!」

 振り下ろしからの逆袈裟斬り、半歩下がってからの袈裟斬り、そしてひと呼吸のうちに二度突きを放つ。

 そしておじさんが放り投げた短い角材を振り下ろしで両断する。

 しかしヤマトは僅かに眉を寄せる、全力を出せていないからだ。VRにたいしてまだ馴染みきれていないということ、そして渡された剣の重心が何故か右上に寄っていることが原因だ。


「ただいまです~!あ、お客さんが来ていたのですか?…って僕の剣!?」

 ん?と振り返ると金髪で童顔の少年が驚いた顔で固まっている。

 それにしても僕の剣とはどういうことであろうか、疑問を持った顔でおじさんを見る。するとニカッと笑って剣を指さし、刺した指を少し折り曲げた。

 ああ、これ曲がってるのか…いやそうじゃなくてだな。とツッコミを入れながらも、渡された直剣をじっくり見ようとして片手に持ち替えた瞬間。


「うわぁああああ!!オヤジさん!何やってくれているのですか!」

 見事と言えるタックルで、少年が剣をヤマトの手から奪取した。

 話を聞くと、その剣は少年のものであり、曲がっているのを直すためにおじさんの所に来たのはいいが、お金が足りなかったために働いているそうだ。


「まあそう怒るな、その男を見極めるのに使ったんだ」

「で、どうでした?」

 ガルルルと唸りを上げる少年をおばさんとおじさんがなだめる。

 話が脱線していると感じたヤマトは、自分の評価について問いかけた。


「ふむ、まあ大体わかった。お前、いつもはもっと軽いもん振ってんだろ。それで細くて強度もしっかりあるもんか…それがお前の要求だってことだ。難しいこと言うなぁ」

 先ほどの剣技だけで的確に見抜かれたと、ヤマトは少なくない衝撃を受けた。おじさんがいう軽くて細くて強度がしっかりしているもの、つまりヤマトが今欲している物は日本刀だった。

 ただかなり難しいことはわかっている。

 なぜならβ時代では生産職がかなり頑張っていたのにも関わらず、再現は結局できなかったからだ。


「ま、似たもんなら昔作ったことがある。新しく作るのができるまで、今持ってくるもので我慢してくれ」

 そう言うとおじさんは奥に帰っていってしまった。

 困惑しながらおばさんに視線を向けると、心配しないでと言われた。


「よっと、これだ。わしの名はダグトン・サーフェス。この名とドワーフの誇りにかけて、お前の求めるもんを作ってやる」

「全く、ギルドから弟子育ててくれって言われてんだろがい…あ、私の名前はアルバ。婆さんでいいよ」

「えっと…アルフです?」

 ダグトンが細く、断面を見ると菱形になっているであろう剣を投げ渡した。鞘に入ったそれを上手くつかみ、元持っていたロングソードをアイテムボックスに収納する。

 その後、自己紹介した3人に対して、ヤマトも名乗った。


「俺の名前はヤマトです。剣を作ってくれるのは嬉しいのですが、俺には金が…」

「気にするな、後払いだ。ルーカスが気に入る奴は全員、後に活躍して大金持ちになるからな」

 笑ってそう言うダグトンに、頭を下げるヤマト。これは早めに金を貯めないとな、と決意するのであった。

 そして挨拶をして出ていこうとすると。


「ちょっとまちな。どうせアミント道具店に行くんだろ?この子を連れてきな」

「ええええ!?」

 アルバがそう言いながらアルフの背を押し、ヤマトの下へ押しやる。

 状況が良く飲み込めていない哀れな少年は悲痛な声を上げるが、アルバさんの無言の圧に抵抗は無駄だと悟り、素直に外へでる。

 またねーと手を振るアルバさんに、言い知れぬ恐怖を感じるヤマトであった。


 その後、道具屋ではアルフのおかげでスムーズに買い物を終わらせた。

 道具屋の人も親切だったが、アルフは果敢に値切りまで行ってくれた。やるなアルフ、さっきまでオロオロしてたとは思えないぞ。




感想や要望があれば、感想までどうぞ(訳:感想ください)

五話ぐらいまで書き溜めです。

最近、工事現場の近くを通ったら、水が吹き出していたのです。そして聞こえる声「ヤベェ!温泉でた!」……違うだろ

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