第一話 【仮想現実での自分作り】
どうも皆さん、初めまして数列と申します。
波に乗り遅れる感じでのVRMMOモノですが、楽しい感じで続けていけたらなと思ってます。
それではどうぞ。
「よし、これで良いはずだ」
フローリングの敷かれた床にただの白い壁、そこには21歳の青年の部屋だと思わせるようなポスター等は一切なかった。あるのは木で出来ていると木目を主張する勉強机と様々な本が整然と置かれている本棚、そして黒に白のラインが入った掛け布団に隠されたベッド。
殺風景といえば殺風景なその空間の主は、その部屋の中央で壁に掛かっているアナログ時計を睨みつけていた。短針が11時を指し、長針は50分よし少し前を指す、つまり現在の時刻は11時50分前である。
青年は自身の黒髪をうっとうしそうに横に払うと、右手に収まっている冊子に目を落とした。その冊子は表紙を騎士や魔法使い、今にも弓を放とうとする狩人や剣を振り上げる戦士が描かれている。
「ふう、柄にもないな」
青年の口角は少し上がり、右足はせわしなく動き続けている。冷静沈着であることを心がけてきた青年にしては些か落ち着きに欠けている。
それもその筈、彼はこれから訪れる瞬間を半年待っていたのだ。
「あいつらには感謝すべきだな、ここまでハマるなんて」
苦笑いとも取れる乾いた笑いが彼の口からこぼれる。
そして青年は勉強机の上に置いてあるバイクのヘルメットの様な物を手に取り、ベッドに歩き出した。よく見ればその物体にはコードが伸びており、彼のデスクトップパソコンに接続されていた。
彼の持つ物体、これの名前を【VRヘッドマウントギア】という。
いわゆるVR技術を利用した疑似体験を行うためのツールの一つである。
彼が今からやろうとしているものは、近年開発された量子コンピューターを並列連結使用することによって作り出した、緻密にして広大な仮想現実空間を利用するゲームである。
いわゆるVRMMO[大規模多人数同時参加型仮想体験]ゲームと世間では呼ばれている。
一昔前には、時にはログアウト不能になり仮想現実に閉じ込められ、時にはその仮想現実と似た世界に転生したりなど、小説や漫画の題材に選ばれることも多かった。そんなVRMMOゲームであるが、現実化し 一般に普及する頃には様々な問題がクリアされていた。
そんなVRMMOゲームは勿論大ヒットし、様々な会社が開発に多額の費用と人員、時間を投入していくことになる。そしてリアリティや操作性が格段に上がっていった。
さて、かの青年が心待ちにしていたVRMMOゲームの話に戻ろう。
このゲームはある有名ゲーム制作会社が総力をかけて開発したゲームである。その会社はいち早くVR技術を取り入れたゲーム開発を開始した、いわゆるパイオニアであった。そして国の内外を問わず賞賛される技術力を養い、その全てをかけたのがこの作品である。
ゲーム名は【エクストラ・ライフ・オンライン】略称はELO。
豊富な経験とデータにより、確かなリアリティと初心者から上級者まで楽しめる操作性を追求したこのELOは、開発段階から国内外のゲーマーに期待を持たれていた。
βテストプレイヤーを募集した際、告知無しにも関わらず1万を超える応募があったのはその期待が結果として現れたわけである。
「ちょうど半年前か、βテストが終わったのは」
この青年はゲームを普段はしない。友達から誘われることもないし、やろうとも思わないためだ。
しかしちょうど7か月前に親友2人からの電話をとった事で、彼はこのゲームに関わることになる。
最初は当選枠を増やしてやるつもりで応募したのだが、3人とも当選してしまった。せっかくだからということで、彼もベータテストに参加した。
彼は、何度かやったVRとは比べ物にならないクオリティにすっかりハマリ込み、βテストを親友二人よりも満喫することになる。
「ふー、あと30秒」
一ヶ月のβテストが終わり、半年後の正式稼動に向けて最終調整を行っていたELOも、あと少しで正式稼動である。
今日ログインできる、いわゆる第一陣と言われるプレイヤーの数は5千人。1週間後にはさらに1万人が追加され、その後も増えていく事は最近のネットの盛況ぶりを見ればわかる。
「…10」
研ぎ澄まされた感覚は、緊張感と高揚感を心地よく彼の体に染み渡らせた。
βテストでやっていたようにヘッドギアを装着し、ベッドに寝転んだ。目に映るのはいつも見る白い天井、だが今日の天井はすこし明るい気さえする。
この六ヶ月間は、説明書を読み、公式サイトを読み、まとめサイトを読み、親友と話して過ごした。そしてゲームへの期待感を募らせていた、その期待感が彼の胸を満たしていく。
「3…2…1…来い…」
部屋に静寂が訪れた。
[エクストラ・ライフ・オンラインへ、ようこそお越しくださいました。私が案内人を務めさせて頂きます]
青年が一瞬の浮遊感に目を開けたとき、目に映ったのは自室の天井ではなく、風の吹き抜ける草原であった。足元の草は揺れ動き、心地いい風と匂いを感じることができた。
現実と錯覚してしまうほどのリアリティ、彼がこのゲームにはまった理由の一つである。
「ああ、頼む」
先ほど聞こえてきた音に声を返す。
これから行われるのがチュートリアル、操作試験とゲームの説明であることは容易に想像がついた。聞こえてきた声は合成音声と言われるもので、昨今のゲームで非常に良く用いられる技術である。
[ではまず、アバターの設定をどうぞ]
アバターとは、仮想現実にて自分の体として操作することになる体の事を言う。VRでは過剰なアバターの体格及び容姿の変更は、現実生活に多大な影響を及ぼすとされる。
少しして目の前に半透明の板が出現した。3Dスキャンした自分の体と顔、そして変更可能な部分を示すカーソルが表示されている。
青年は自分の髪の毛を少しだけ伸ばし、完了と書かれた部分をタッチした。単純に何も弄らないというのも味気ない気がしただけである。
[では、キャラクターの設定をどうぞ]
次はそのアバターにゲームで必要なものを与えていく。名前・能力・種族・職業、これらである。
まず青年は名前の部分に[ヤマト]と入力した。この瞬間から、彼はヤマトとなる。
次にヤマトはステータスに目を落とした。このゲームにおいてステータスとはSTR(力)VIT(頑強)AGI(素早さ)DEX(器用さ)INT(知力)MND(精神力)LUK(運)の7つのことを指す。それぞれを複合し、様々な数値が決定される。
初期値に対し、16ポイントを振り分けることができる。ヤマトは事前に決めていた数値に入力する。
種族・職業も一切の淀みなく入力していく。そして彼のキャラクターが完成した。
ユーザー名:[ヤマト]
種族:ヒューマン
職業:スカウト
LV:1
STR:11(+8)
VIT:3
AGI:11(+8)
DEX:3
INT:1
MND:1
LUK:1
称号:
装備スキル:
[設定の完了を確認しました。次に操作試験を行います]
実際に体を動かすようにしてキャラクターを動かすこのゲームにおいて、操作説明は必要がない。そのためこの場で確認することは、しっかりとキャラクターが動くかどうか、そしてシステムアシストのレベルであった。
「やっぱり邪魔だよな、外すか」
現実世界で剣を持ったこともない人間が仮想現実でモンスターなどを倒すことが出来るか。答えはもちろんNOである。そのためこの手のゲームにはシステムのアシストで、プレイヤーの動きを誘導する機能があるのだ。
ただ、ヤマトのように現実である程度の経験がある場合やゲーム慣れしている場合は、邪魔になることがある。そのためこの時間でそのアシストのレベルを落とすことが出来る。
ただしヤマトのようにALLOFFにする人間は稀有と言える。
[では、今からモンスターを召喚します。武器と防具を選択してください]
職業や種族によって初期に所持している装備に違いがある。彼の選択した種族と職業で得られる装備の中で彼が選択したのは、革の鎧とロングソード。
何度かロングソードを振り、体を少し動かす。確実に装備に感覚をなじませていく。
[では、戦闘開始です]
いわゆるオープンワールドであるこのゲームでは、モンスターという存在はフィールド上に点在もしくは群れている。さらにポップと呼ばれるモンスターの自然発生現象でも、プレイヤーの周囲では原則起きないというシステムがある。そのため奇襲など以外では、いきなり出現するということはあまりない。
しかしヤマトの前には少し大きいウサギが赤い目でこちらを見ていた。勿論ただのウサギな訳がなく、その小さな額には角が生えていた。
「…シッ!」
ヤマトを敵と認識したウサギが突進を仕掛けた瞬間、彼のロングソードが付近の草を切り裂きながら横薙ぎに振るわれた。
鎧袖一触、ウサギは倒れた。
[おめでとうございます。撃破報酬として、以下のスキルを取得します]
[スラッシュ・ガード・ステップのアクティブスキルを取得しました。アクティブスキルはスキルスロットに装備することができます。スキルスロットに装備されたアクティブスキルを使用すると、アーツによる攻撃を発動できます]
[剣・直剣・短剣・小盾の武器スキルを取得しました。技術スキルはスキルスロットに装備することができます。スキルスロットに武器スキルがある場合、対応する装備を用いた時の攻撃力や防御力などにプラスの補正が発生し、システムアシストの精度が上がります]
[鑑定・識別・解体・アイテムボックスの特殊スキルを獲得しました。特殊スキルはスキルスロットに装備する必要はありません。仕様に対して消費するものもありません]
[特定条件達成!闘気法・心眼のパッシブスキルを獲得しました。パッシブスキルはスキルスロットに装備することができます。スキルスロットにパッシブスキルが装備されている場合、そのパッシブスキルの効果が常時発生します]
[スキルは戦闘により経験値を取得し、レベルが上がると効果も上昇します]
チュートリアルらしい説明ラッシュが終わると、透明な板が出現しスキルスロットが開いた。ヤマトはスキルを装備していく。
ユーザー名:[ヤマト]
種族:ヒューマン
職業:スカウト
LV:1
STR:11
VIT:3
AGI:11
DEX:3
INT:1
MND:1
LUK:1
称号:
装備スキル:剣LV.1・直剣LV.1・闘気法LV.1・心眼LV.1
「これでよしっと」
ヤマトが透明の板、仮想ウィンドウと呼ばれる物を操作し終わると、体が軽くなったような感覚を覚えた。闘気法によるステータス上昇の恩恵である。
もう一度、確認するように体を動かす。肩を回し、ロングソードを下の草に向かい三度振る。そして満足げに頷いた。
[それでは再度モンスターを召喚します。特殊スキル識別を使用した後、撃破してください]
先程と同じウサギが現れた、ただし3匹になっていたが。
ヤマトは赤い目をこちらに向けるウサギたちに識別を使用する。
ホーンラビット×3 LV.1
モンスター 警戒中 撃破対象
識別を使用して開示された情報に目を通した瞬間、ホーンラビットの情報に変化が発生した。
ホーンラビット×3 LV.1
モンスター 攻撃体制 撃破対象
3匹のホーンラビットは一斉にヤマトに突撃を開始した。
「…シッ!」
今度はまず1匹を袈裟斬りにした後、一歩だけ後ろに下がると瞬時に横薙ぎを放つ。
残った2匹を同時に切るつもりで放った横薙ぎ、だが1匹には当たらなかった。VRに対応しきれなかった結果、間合いを見誤ったのだ。
「…フッ!」
最後の1匹はそのまま突撃を続けていた。そのため彼の真正面に姿を晒すこととなり、自慢の角での突進攻撃のために跳躍した瞬間、ヤマトが片手で放った突きに貫かれた。
[おめでとうございます。これで案内を終わりになりますが、ご不明な点などがあった場合はヘルプをご活用ください]
次の瞬間、ヤマトは二度目となる浮遊感を味わった。
[エクストラ・ライフ・オンラインの世界をお楽しみください]
はい、どうでしたでしょうか。
次回から本格的にゲームやっていきます。
感想とか希望とかございましたら、どうぞ感想まで(感想乞食)