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前奏
「こんなもんかな」
打ち込んだ文字列を読み返し、簡潔にまとめた。
「速いもんだな」
「これでも遅い方だよ」
「そうですね」
いつの間にか、隣に来て居たマスターに肯定される。
「自覚してるから良いけど、アンタ失礼極まりないな」
「この程度で、居座られては堪りませんので」
空いた食器とパソコンを片付けながら、毒を吐くのも忘れない。
「大した玉だよ」
「御褒めに与り」
優美な仕草で、此方の嫌味を受け流し、カウンターへと戻って行った。
「アイツに口で勝てるヤツなんか居ないな」
黙って珈琲を啜っていた男が口を開く。
「勝ちたくもないよ、育ちを疑われる」
「そりゃ良い」
豪快に笑われた。