1-9 罰作業と菜瑠
翌朝、気だるい日常の第一幕は深川の授業であった。
縁のない眼鏡の向こうに三白眼がすえられ、40名ほどの生徒を睥睨してくる。
オールバック気味に撫でつけられた髪は耳の後ろで一つに丸められており、いかにも神経質といった風情を漂わせていた。
このマダムがあまり人気がないのも、そういった近寄りがたい雰囲気のためだろう。
40名の集まった学習室には、様々な個性が集まっているが、それらは一様に同じ着衣に押し込められている。制服、とは言い難い作業着のような服装だ。
灰色のヘンリーネックシャツに、紺色のワークパンツ。男子であろうが女子であろうが、太っていようが痩せていようが、全員が同じような服を着ている。
オシャレに気を遣う女子や一部の男子は上着だけ着替えたり制服を着崩して着てはいる。
ズボンの裾を膝まで上げて、アンクレットを着けたり、無理に大きなサイズのシャツを着用し、ルーズに着こなしている者もいる。
中にはワザとダメージを与えて古着っぽさを演出している者もいた。
しかし、それのどれも虚しい抵抗でしかなかった。配給された『制服』を授業であれ、日常生活であれ毎日着る。
裾がほつれたり、破れたりして新しい服をもらったところで、それはやはり『制服』であるからだ。
40人のそれぞれに視線を配り、深川が点呼を始める。名前を呼ばれた児童は手を上げて返事をしなければならない。変に反抗したり、抵抗したり、反逆を決め込むと、容赦ない罰が下る。
初めのうちは数人の反逆児たちが居たが、それらもすっかり大人しくなってしまった。ちょうど憂理や翔吾のように。
「杜倉憂理」
「……はい」
反射的に返事をするが、心のどこかで釈然としない感情が泡立つ。毎朝のように繰り返されることではあるが、いつまで経っても慣れることがない。翔吾やケンタ、ノボルの名も挙がりそれぞれの返事が静かな学習室に響く。
きっと、もう一つの学習室でも同じような場景が繰り広げられていることだろう。
かくして名簿は閉じられ、代わりに、分厚い教科書が開かれる。
深川の『専門』であると聞く国語の授業だ。彼女が専門であるがゆえか、その授業は息が詰まるほど綿密で、熱気がある。あの縁のない眼鏡の奥、二つの三白眼。あのくすんだ瞳には地下のどれほどが映されたのだろう。
地下の全てを知った上で、あれほど平然としているのか。深川という水面にはさざ波すら立っていないのだ。水ならば、凍結は表面から始まるが……。
泡立った心のせいか、退屈を上手く消化できず、憂理はじっと深川を見つめ続けた。彼女は淡々と授業を進めている。
地上、外の世界にいた頃は、教室の窓から外の景色を見て退屈をしのいだものだが、窓もないこの学習室にあって、そのささやかな楽しみすら奪われている。
あの、同じ学校に通っていた同い年の仲間たち。彼らは今どうしているだろう。
自分を少しは心配しているだろうか。
あの教室と違って、この学習室にいる生徒たちは、出身地も年齢もバラバラだ。ゆえに低学年の児童に合わせた授業は酷く退屈で、無意味にすら思えてくる。
なかば、まどろんだ意識の中で憂理は時が過ぎるのを待った。
そうしているうちに午前は過ぎ、昼食も過ぎ、午後の授業も終わった。時計を見れば、午後3時をさしている。
ここから就寝までは夕食と入浴を挟んでの自由時間とされている。いつもなら、体育室や娯楽室へ移動して好き勝手に時間を潰せるが、今日からはそうもいかない。
机に座ったままの憂理に、翔吾とケンタが歩み寄ってきた。罰則者への同情の念を微塵にも見せず、翔吾が確認する。
「じゃあ、ここから別行動な」
「ああ。痩せ女を見てきてくれ」
三人で人目を忍ぶように机を囲い込み、図面を広げた。
もっとも、人目を避けずとも、授業が終わった学習室に残ろうとする殊勝な者はほとんどおらず、多くは競って通路へと逃れていたが――。
痩せ女のいた場所に指をさして確認していると、遅れて遼もやってきた。そうすると、今後を想定しての議論が始まる。
痩せ女をどうするか。救出するのか、話をしてみるだけか。あるいは救出したとして、どこに匿うのか。
これには憂理も頭を悩ませた。どうしよう、どうすれば。しかし、どうにも結論はつけがたい
学長や深川の『悪意』があるならば、痩せ女を助けるべきであるが、なにもわからない現状にあって無為無策に救出を支持するのもどうか。リスクばかり高める、愚かな行為ではないか。
明確ではないにしろ、憂理はそんな事を考えた。
「とにかく……現地へ行く翔吾たちに任せるよ」
投げっぱなしとも言える発言だが、今の憂理に言えることはこれだけだった。翔吾と遼が顔を合わせて頷き合う。しばらくはアドリブ行動にて合意するしかない。
「なにしてるのよ」
突如として囲いの外から投げかけられた声に、一同が声の方向へ向く。視線の集中砲火だ。砲火の先には、高い位置で腕を組んだ女子――菜瑠だ。
「別になにも」
「しゃべってるだけ」
口々にごまかしの言葉を吐き、それぞれが素早く図面を隠す。菜瑠を正面にとらえながら、翔吾が後ろ手に図面をたたみ、尻ポケットに押し込んだ。
そして平然と言う。
「ナル子こそ何だよ? 女はあっち行けよ」
疑念の瞳で一同を見回し、菜瑠はため息を吐いた。
「私だって、アンタたちに構ってる隙はないわ」
「構ってるじゃん」
「私はね、監視役よ。ユーリとケンタが罰掃除をサボらないよう、見張りに任命されたの」
男たちは互いに視線を交差させ、困惑を確認しあった。これは面倒なことになったぞ、と。一番の被害者になるであろうユーリは、素早く問いかける。
「それは、学長が決めたのか?」
「いいえ。ちゃんと罰を受けさせるのが生活委員としてのつとめよ」
「勝手にしゃしゃり出るんじゃねーよ。ガクかよ、お前は」
翔吾は冷たい。だがボブの少女も負けてはいない。
「そのガクに任命されたのよ。生活委員長じきじきなんだから、つまりは学長の命令だと言ってもいいわ」
菜瑠は説明を続け、不正やサボりをみとめた場合、学長に報告し、さらなる罰の追加を要求するなどと言う。
「ひでー女! ブス」
ブスは言い過ぎだと憂理などは思う。菜瑠は整った顔立ちであったし、どちらかと言えば美少女と評される部類であろう。
しかしケンタの心情を察すれば、頷きたくもなる。
ほとんど唇を動かさなかったケンタの囁きに、菜瑠の前髪の下で眉がピクリと動いた。
「言いたい事があるならハッキリ言いなさいよね。男らしくない」
「嫌な女、ブスって言った」
憂理がケンタの言を借りて、率直に言うと、菜瑠は男たちから一瞬、視線を逸らした。これは――面食らった様子だ。
「そんな……悪口でしか言い返せないの? 最低」
険悪な空気が漂いはじめた頃、ようやく和平の使者がやってきた。エイミだ。
栗色の髪を指先に遊び、一触即発の場に気付くと、唇を小さく歪める。――これはマズいところに来ちゃったわ、とでも言いたげだ。
「なに? えーっと、モメてるの?」
何でもない、と翔吾が肩をすくめ、ユーリとケンタに言う。
「ほら、罰則者は行けよ。『遊び』は俺たちがお前らの分までやっとくからさ」
菜瑠はぷいと男たちに背を向け、学習室の出入り口へ向かった。ここは争っていても仕方がない。潔く罰を受けるとしよう。
唯一の救いは、どうやら自分とケンタは、菜瑠が統括する同じチームらしいということだ。
「じゃあ……あとは頼む」
ユーリは椅子から立ち上がり、ケンタを連れ立って菜瑠の後を追った。
どこへ向かうかも知れぬまま、ただ菜瑠のあとを付いていく。
ケンタがユーリの真横にピタリとつくと、大きな頭をよせて耳打ちしてきた。
「ナル子、さっきユーリがブスとか言ったから怒ってるんじゃない?」
「言ったのはお前じゃんか」
「言ったケド、ユーリはハッキリ言ったろう?」
「男らしく、な」
彼女が怒ってると言われれば、そんな気もする。刻む秒針のようにツカツカと歩き、こちらを見やろうともしない。
「ね、ユーリ、謝って」
「なんで俺が」
「ハッキリ言ったから」
確かに、ハッキリ言った。それに胸の奥に黒煙が立ちこめたようにモヤモヤする。
しかし、ケンカをふっかけて来たのは、他でもないナル子のほうではないか。
今日だけではない、昨日だって、一昨日だって。
素直に謝罪する気分になどなれず、かといって、このまま黙っていられるのもやりづらい。
「なぁ、ナル子」
菜瑠はハタと足をとめた。
「俺たち何処へ向かってるんだ?」
しばしの沈黙のあと、振り向きもしない菜瑠が「体育室」とだけ素っ気なく返した。
「体育室を掃除するのか」
「そう」
まるで会話を拒絶するかのような端的な返答をして、菜瑠は移動を再開する。
やっぱり怒ってる、そんなケンタの囁きにユーリは肩をすくめて足早に菜瑠の背中を追う。
「なぁ、ナル子。怒ってるのか?」
返事はない。
なんだかユーリまでムッとしてしまい、挑発する。
「なんだよ、お高くとまりやがって。貴族には一般人とは話せない規則でもあるのかよ」
一定のリズムで運ばれていた足が、ピタリと止まった。
「そんな事ない!」
叫ぶように否定し、菜瑠が憂理へ向き直った。
「そんな事ない! 私は『お高く』なんてしてない! アンタたちが勝手に仕向けてるだけじゃない!」
大きな瞳が細められ、非難の眼差しが憂理に突き刺さる。その視線は物理的な力を有しているかのように憂理の首を後方へと押しやった。
情けなくも、ああ、だの、えっとだのしか言葉が出ない。
どぎまぎする憂理に対し、最後にキッと強い視線を駄目押しすると、菜瑠は再び歩き始めた。
「ユーリ」固まったままの憂理に、ケンタがまた耳打ちした。「バカだな、余計怒らせた」
ケンタに非難されるいわれはないが、菜瑠の不興を買ったのは事実らしい。しかし、謝ろうにも、あの眼力の前では身動きが取れない。
そんなふうに弁明すると、ケンタもそれは認めた。
「ナル子、メデューサみたいだね。顔が整ってるから余計怖いや」
先ほどはブスだと悪口を吐いた小太りの少年は、悪気なく邪気なく、そんな事を言う。メデューサは怪物だぞ、余計に怒らせるつもりか、などと諭す気にもなれない。
しかし、菜瑠の視線にパワーが感じられるのも確かだ。
ギリシャ神話よろしく、肉体はともかく、魂ぐらいは石にしてしまうかも知れない。
盾になるようなものが体育室にあったかな――などと考えながら憂理は神話少女の後に続いた。
体育室に着くと、憂理はそれこそ魂が抜け出すほどのため息を吐いた。
もっとも、魂はすっかり石になってしまっていたようで、胸の底からピクリとも動かなかったが――。
客観的に見れば、広い。広すぎる。
思えば50メートル走ができる体育室であるからして、最低でも50メートル以上の奥行きはあるのだ。これはウンザリというやつだ。
艶やかなフローリングが延々と続く体育室の床には、3つの人影がみてとれる。菜瑠に気づいた人影のひとつが、声をあげた。
「遅ぇよ」
菜瑠は返事もせずに、スタスタと3人へ歩み寄り、言った。
サカモト・ジンロク。
カガミ・ケイスケ。
フルヤ・タカユキ。
それにトクラ・ユーリとイナガミ・ケンタ。
ガン首を並べた男子をぐるりと見やり、菜瑠は上品に腕を組んだ。
「今日から3日間、アナタたちにはこの体育室を掃除してもらいます。モップと雑巾は準備室に用意してあるから自由に使って。3日もあればワックス掛けまでできるハズよ」
サボったり、手抜きをしようものならば、罰の加増もやむなし。ことさらそれを強調し、菜瑠の説明は終わった。
――3日で終わるのだろうか。
いざ掃除をするとなると、とんでもなく、途方もなく、気が滅入る。
フロアだけでも掃除に数日を要するのは確実で、トイレや準備室も掃除させられれば、これは一生の仕事になってしまうのではないか。憂理は不安に面々を見回した。
しかし、残念なことに同僚たちに『働き者』と思われる個性はない。強いて言うならば、ジンロクぐらいのモノか。
イベリコや堕落の聖人には、とてもじゃないが期待できそうにない。
「あの、ドアの部屋も掃除するのか?」
憂理は『開かずのアルミドア』を指さして、菜瑠に尋ねた。その灰色のドアはずっと施錠がなされており、何に使う部屋なのかは憂理の知るところではない。
「あそこはいいわ。鍵がかかってるから」
憂理は微かな安堵を覚えた。中を覗いてみたいという好奇心よりも、苦役を少しでも減らしたいという気持ちが勝ったのだ。
そうして囚人たちにぷいと背を向けると、菜瑠は最奥に位置するステージへ向かった。
段取りのよいことに、壇上の中央にはパイプ椅子がちょこんと置かれている。
なるほど、しっかり見張るつもりらしい。
「やるか」
最初に口を開いたのはジンロクだった。
外でスポーツをしているワケでもないのに肌は浅黒く、体格はがっちりしている。
短く刈った髪のせいもあり快活に見えるが、不器用な言葉遣いのせいもあり、あまり人付き合いが上手い方ではない印象がある。
「仕方ないか」
憂理とジンロクが準備室へ向かうと、あとの3人もその後に続く。普段つるまないメンバーのせいか、どうにも空気が重苦しく感じる。
タカユキがいるから余計にそう思えるのか。重い空気の払拭を、憂理は会話に求めた。
「ロクも……喧嘩のせいで罰を?」
騒動の初っぱなに逃げ出したせいで、憂理にはその後騒動がどういう経過をたどったのか良くわからない。ただ、ジンロクが喧嘩などというのは想像もつかなかった。
「弟が」
「弟? ロクの弟って言ったって、小学イチネンぐらいだろ?」
「ああー。なんだ、タカユキに煽られて殴り合いしてた奴がだな、吹っ飛んできてだな、弟にぶつかりやがってだな」
「うん」
「つい、カッとしちまった」
「なるほど」
ジンロクらしいと言えば、ジンロクらしい理由に思える。
「じゃあカガミは? なんで罰を?」
カガミは、不愉快を隠そうともしない。女性的な、整った顔立ちを歪め、舌打ちをひとつしてタカユキを睨んだ。
――カガミ。プライドが高く、いけ好かない奴……などと翔吾が評していたが……。
そのプライドの高さゆえか、たびたび問題を起こし、『罰則常習者』としての貫禄を感じさせる。
「タカユキのせいだ。タカユキに煽られた馬鹿が急に殴りかかってきたから、俺は殴り返しただけだ。お前ら馬鹿と違ってよ、被害者だぜ、俺は」
「なるほど。じゃあ……」
聞くまでもないが、と憂理がタカユキを見やると、堕落の聖人はニヤリと笑って言った。
「僕は、タカユキだ」
三者三様ではあるが、なんとなく事情は把握できた。
不満げに固形のプライドが言う。
「タカユキのせいなんだから、タカユキが1人で掃除しろよ。お前が全部悪い」
しかし批判に慣れているのか、タカユキは涼しく微笑んだまま返す。
「そうかも知れない。そうするべきかも知れない。けれど、あの女看守はそんな事を認めはしないよ」
壇上におわす高貴なるボブ・メデューサは、腕を組んでこちらの動向をつぶさにうかがっている。様々な運動用具が収納されている準備室から、人数分のモップを取って戻っても、やはり監視の目は厳しい。
そうして、ジンロクがバケツに水を汲みに行った後も、カガミの愚痴は延々と続いた。さっさと終わらせろ、だの。俺は暇じゃない、だの。
自分は喧嘩になれてるから、あの場にいた全員を相手に喧嘩できる、だの。
大人げないのでやめた、だの。自分が本気を出したら、殺してしまうかも知れない――。その台詞だけは聞きたくなかったが……。
プライドが高く、いけ好かない奴。そんな翔吾の評。後半の部分には賛成だ。
前半の部分、これはプライドが高いと言うよりは、救いがたい……幼稚な自己愛の持ち主である。
カガミに殴りかかったという奴は、もともとカガミに悪意なり恨みなりが有ったのではないか。
タカユキの煽動に乗じて、『前から殴りたかった奴を殴った』に過ぎないのではないか。
憂理は相手にするのをやめて、モップを濡らすと幾分か距離を取った。今は大人しく掃除でもして時間が過ぎるのを待とう。
他の罰則者4人に背を向けて、汚れてもいない床を、ふんだんに水分を含んだモップを行き来させる。
今頃、翔吾たちは『痩せ女』の部屋に向かっているだろうか、あるいはもう到着しているだろうか。
一番に彼女の話を訊きたかった……。
無数の『なぜ』や『どうして』。さらには『誰に』。
浮かんでは消える疑問符に憂理の脳裡は満たされていった。
「ユーリ。トクラ・ユーリ」
ハッとして、憂理が床から視線をあげると、目の前にタカユキがいた。
濡れたモップを床に押しつけ、垂直に立ったその柄の先端にアゴを乗せている。曲げた背中に、まっすぐな視線。
思わず後ずさりそうになった憂理に、薄い唇が問いかけてきた。
「何を、考えてた?」
――何を考えてるか分からないのは、お前だろ。
まったくもって気味の悪い奴だと思う。憂理は、なるべく素っ気なく聞こえるよう端的に応えた。
「別に、何も。ここは……広いなって、さ」
タカユキの薄い唇が、スッと上限の三日月を描いた。
「そうでもないだろう? 地下に比べれば」
悪寒が波となって、憂理の背中を駆け上がった。近未来の魔法にかけられたように時間の停止を感じ、吐く息も止まる。
――コイツ、知ってるのか!
硬直した筋肉を無理矢理に動かし、憂理は微笑の聖人に向かって、ようやく一言だけ発した。
「……地下?」
「ああ、地下は広いな。ユーリ」
「知らないよ」
「知ってるさ」
「知らないね」
ポリグラフにかけられれば、その針は憂理の嘘に反応し、右へ左へ大きく触れたに違いない。
もっとも、微笑みを絶やさないタカユキの目には嘘発見器など必要ないだろうが。
「そこ!」良く響く菜瑠の声が緊張を破った。
「トクラ・ユーリとフルヤ・タカユキ! 手が止まってるわよ!」
壇上からの声を合図に、憂理はタカユキから視線をそらした。それでも視界の端には、視線を感じる。
――地下を知っている。
どちらかと言うと、問題児にカテゴライズされるタカユキのことだ。学長に密告したりする心配はないだろう。
奇妙なことだが、そういう意味での安心感はあった。
だが、6人だけの秘密がなぜ漏洩したのか……。
苦役に従事する気怠さなど、いまや何処かへ消えてしまっていた。
* * *