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13月の解放区  作者: まつかく
1章 拷問部屋を探して
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1-8 罰則者たちの夜


学長が直々に騒動の当事者たちの名を挙げることは、憂理たちにとって幸運だったと言える。夕食の途中で、翔吾が地下の鍵を返していないことに気がついたのだ。


アヒル口の少年はいささかに慌てて、パニックを引き起こしかけた。

しかし、前半グループが食事をとっている食堂に、学長は見あたらなかったことから、おそらく後半グループへの罰の発表とともに、そのまま後半グループとともに夕食をとるに違いない――。

そんな遼の言葉により、なんとか場は収まった。


そうしてちょうど、後半グループの夕食が始まるころ、憂理たちは洗濯室に集まっていた。翔吾は鍵を返却するために執務室へ行き、遼は配膳当番で席を外している。


「エイミ、この図面助かるよ」


どういたしまして、と眉をあげるエイミはどこか誇らしげだ。

「書いてる途中で菜瑠に見つかって、危なかったけどね」


「ナル子にしても、ガクにしても、ちょっと周囲が騒がしいな。エイミは俺らとつるんでて大丈夫なのか?」


「どうだろーねー。でも、面白いし、罰を受けない限りは大丈夫だよ」


罰則。憂理とケンタは、明日より3日間は目立った行動はできない。自由時間に従事させられる掃除も、ガクなり誰なりがサボらないよう監視につくことは必至だ。


束縛の日々を思うと気分は沈んでしまうが、心の片隅には興奮がくすぶっている。退屈な日常が劇的に変化する『何か』があると考えるだけで、昂揚こうようがわき上がるのだ。


「罰掃除はグループに分けてやるんだよな?」


憂理の問いかけにケンタは丸い肩をすくめた。


「たぶんね。前もそうだったし」


前例にならえば、5人1組のチームに分けられ、各担当エリアの清掃に従事することになる。


「上手く……俺たちが同じチームになれるよう根回しできないかな?」


「生活委員が決めることだからなぁ。たぶん今回もクジ引きだろうケド、ガクに頼めば……」


『ガク』という時点でそれは無理な話であろう。5人全員が気の知れた仲間ならば、時間的な融通も利こうが、残念なことに翔吾や遼、エイミは罰則者ではない。少なくとも3人は部外者になると覚悟しておいた方がよい。


「……しょうがないな。3日間はおとなしく掃除でもしてるか」


「その間にアタシたちが謎を暴いてみせるって」


にんまり笑うエイミは自信に満ちあふれている。憂理はショートケーキのイチゴを奪われたような気分だ。手柄を奪われると言えば聞こえは悪いが、重要な部分を手放すのはやるせない。


「でも、しかたないか」


自分でまいた種であるし、受け入れるしかない。憂理が何度目かのため息を吐いた瞬間、洗濯室のドアが勢いよく開いた。翔吾だ。

猫科の少年の登場にエイミが即座に反応した。


「おかえり」


「ああ」


「なぁ翔吾。明日から俺とケンタは動けないから……」


「わかってるってばよ。俺と遼とエーミで調べなきゃ、だろ?」


翔吾の口から名前が挙がったことが嬉しいのか、エイミは小さなガッツポーズを見せた。


「行けない俺が言うのもアレだけど……。『痩せ女』の所に行って欲しい」


あの女が何者で、なぜ地下に監禁されているのか。それが憂理にとって最大の関心事である。全員の瞳を順に見回し、憂理は続けた。

皆は、親に預けられてここにいる。なのにあの痩せ女だけが何故監禁されてるのか。何故これほどまでに待遇が違うのか。

翔吾が洗濯機にちょこんと腰掛ける。


「まぁ……俺たちも外にでられない以上、監禁されてるみたいなモンだけどな」


エイミが肘を抱いて言う。


「その女の人、脱走しようとしたんじゃない?」


「かもな」


翔吾の相づちに憂理も頷き、論理を組み立てる。だとすると、サイジョーも監禁されているかもしれない。

もっと言えば、脱走しようとした者にそのような処遇がなされるのであれば、学長の横暴と言うほかない。

しょせんは生徒を預かっているだけ……一時的な保護者に過ぎないのに、それを監禁するなど虐待に近しいではないか。


「とにかく風呂に行こうよ」


まぶたを半開きにしたケンタが疲れを隠さずに言った。「眠いよ」


「朝から散々だったからな……」


「今日はさっさと寝るべき……だな」


アクビとため息が各々の口から漏れて、その気だるい響きが洗濯室を満たした。

大浴場にて湯を浴び、頭を洗っているときも、全ての事柄を地下に結びつけてしまう。この湯は、地下のボイラー室から送られてきたものだ。


このタオルだって、地下の倉庫に積まれていたモノかも知れない。そんなことを考えていると、自然と口数は減り、ケンタとの喧嘩で切った口内がヒリヒリと痛んだ。


そうして日付が変わる頃まで、ほとんど一言も発せず、憂理は床についた。布団を頭までかぶって胎児のように丸まる。

誰かの歯ぎしりやイビキ、あるいはうつろな寝言が部屋の闇に飛び交っている。


それらの、あまりにも無粋な子守歌が、思考に疲れた憂理を、とろりと深い眠りへと誘った。




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