7-3a 灰色の世界へ
微かに、菜瑠は風を感じた。
どこまでも続くように見えるトンネルの闇。その深淵から柔らかい空気がやってきて、蛇腹をすり抜けては菜瑠の頬を撫でる。
地下トンネルと闇の結婚が生んだカビくさく、生ぬるい空気。これは脱走者たちを歓迎するものか、あるいは拒絶するものか。
「急げ! 開けろ!」
翔吾が誰に言うでもなく声を張り、言われるまでもなく、二つの影が入り口に駆け寄った。
両開きの蛇腹。その右にケンタ、左にエイミが張り付き、なかば強引に檻を開く。
開かれた瞬間、闇の中にネコ科の少年が躍りだし、それに次々と仲間たちが続く。
最後まで残っていた菜瑠がカゴから出た瞬間、エレベーターから漏れるおぼろげな光の中で翔吾は荷物を全て下ろし、片手に小刀を握る。
かつてハマノだかコスガだかの武器であったそれは、今や翔吾の手にすっかり馴染んでしまっている。
翔吾は大きな深呼吸をしてから、その小刀を自らの包帯にあてがった。
一度、二度、三度、器用な手付きで刃物を動かすと、やがて包帯は当て木と共に地面に落ちた。
呆然と見守る仲間たちをよそに、ネコ科の少年は例の機敏な動きでカゴの中へ駆け戻ってゆく。
「翔吾! どこ行くのよ!」
菜瑠の質問は愚問でしかない。
「アホ! 戻るに決まってんだろが!」
「僕も行く!」ケンタもするりと荷物を下ろし、カゴへと駆け戻る。
「くんな!」
翔吾は怒鳴り、隙間からカゴへ入り込もうとするケンタを乱暴に蹴り戻した。
「戻る資格は体重50㎏以下! デブ禁止!」
「じゃあ僕が!」
倒れたケンタを飛び越えて、遼がカゴへ駆け寄った。が、それも鋭い蹴りで蹴散らされた。
「アホ、その2ッ!」
倒された遼は素早く起き上がる。
「なんで! 僕は50㎏以下だよ!」
翔吾はぎこちなく蛇腹を閉めながら、怒鳴った。
「ええと! あれ! メガネ禁止!」
「無茶苦茶だ! 横暴だ!」
「とにかく先に行けよ! 俺、こういう場面に憧れてたんだからよ! ようやく来たチャンスを無駄にさせんな! 行け、さっさとッ! 行っちまえッ!」
男はなんと子供なのだろうか。菜瑠は苛立ちとも言える落胆を覚えた。そして鋭い言葉で制止する。
「翔吾! だめ!」
「うるせー!」
「だめ! 絶対! 許さない!」
「ロクを見捨てて行けっかよ! 女は黙ってろ!」
女だから言うのではない。杜倉憂理の代理として言うのだ。正しい判断かは解らないけれど。
悔しさが涙となって溢れ、それをぬぐわないまま菜瑠はますます大きく声を張り上げた。
「なんでそうなの!? なんでいつも! ゼッタイ許さない! 今もどったら! 戻ったら、あなたをッ100回殺す! ぜったい、ダメ! 男っていうなら、ならジンロク君の気持ちを察してあげて! 恥をかかせるなって言ったじゃない! なのに! 私たちだけじゃ、ユキちゃんを守れないの! 私たち、弱いの!」
場は静まりかえって、ただ薄暗いトンネルに、菜瑠の涙声の怒号が幾重にも反響していった。菜瑠だって、納得できない。戻れるなら戻りたい。
やがて呆気にとられていたエイミも、思い出したかのように賛同する。
「そうよ! 翔吾がいなきゃ、ユキちゃんを誰が守んのよ! 『任せた』って言われたでしょ! ムセキニン!」
四季も無言でコクリとやる。
女子勢からの批判を受けた翔吾は、恨めしそうにエイミを見て、菜瑠を見て、やがて野暮ったく頭を掻いた。
「くそ。女は口ばっか達者でよ!」
「……翔吾1人が戻って、何とかなるものじゃないの。わかって」
これは紛れもない菜瑠の本音だった。
半村奴隷の数。そして半村。
単騎の翔吾でなんとかできるなら、事態はここまでこじれていない。
渦を巻く闇を駆逐するに、一つの光源では到底たりない。
それにジンロクならば、あの場を上手く切り抜けてくれる――。そんな根拠のない信頼もあった。
ジンロクも憂理も無事だ――。菜瑠は信じている。
彼らはいつも肩をすくめて軽口を言って、危機的状況を乗り越えてきたではないか。『いままで』がそうなら、『これから』もきっと……。
薄弱な根拠であろうと、いまはどんな理屈よりも信頼できる気がした。
「急いで。はやく外へ!」
翔吾が素早くカゴから飛び出して、下ろした荷物を抱え直す。遼も、ケンタも、無言で荷物を拾い上げた。
エイミが気を利かせて、荷物のなかから懐中電灯を取り出し、ケンタに投げ渡し、ハツラツと言う。
「行こう! あとは行くだけッ!」
そう。あとは行くだけ。
行けるところまで、力の及ぶところまで。
ただ前進あるのみ。
進み行く先に、流れた涙や、血。それらに相応しい価値があるのか。菜瑠にはわからない。
ただ、進まなければならない。
ケンタが懐中電灯をもって先頭に立ち、小走りにトンネルの闇を切り裂いてゆく。エイミが続き、四季が続き、遼とユキが続く。
「なぁ、ナル子」
最後尾で翔吾が言った。
「俺、魂が101あったらよかったわ」
珍しく、上手くない軽口だと思った。
翔吾の悔しさ、口惜しさが充分に詰まった軽口に思えた。
菜瑠は上手い返しが思いつかないまま、涙をぬぐってただトンネルを駆けた。
無数の足音が無機質な闇に反響して、大きく、あるいは小さく鼓膜を刺激する。
奇妙なトンネルだと思う。
地面はコンクリートによって舗装されているが、横目に壁を見てみれば、側面と天井の境もわからない。とりあえず、掘った――そんな印象があった。
トラックがコンテナを搬入する――まさにそのためだけに作られたように思える。
これを掘った連中は何をやりたかったのか。
メサイアズ・フォーラムは何をやりたかったのか。児童たちを地下に集め、違法な薬物を生成し、何十年も生き延びられる施設にした。
最初に掲げた教義は正しかったのかも知れない。最初に目指した理想は崇高だったかも知れない。
だが、どこかで間違ったのだ。
菜瑠はそんなふうに思う。同時に疑問符を抱える。
正しさ、ってなんだろう?
人間らしいって、なんだろう?
みんな、悪人になりたくて悪人になるハズがない。みんな、なるべく、善人でありたかったハズだ。
なのに、人間らしく生きようとすれば、自分らしくあろうとしても、人間は間もなく無様で滑稽で酷薄な本質を再発見する。
菜瑠自身、半村尚志を踏みにじって、ジンロクを置き去りにして『正義』を標榜しているつもりでいる。もちろん、杜倉憂理も。
正義とは、本当は臆病者の言いワケでしかないのではないか。感情とは、本当は着飾った身勝手なエゴイズムでしかないのではないか。
菜瑠の晴れない思いを、トンネルの闇がより一層、黒く煽った。
「ココ! ついた!」
ケンタがサーチライトのように懐中電灯をグリグリ動かし、立ち塞がる『シャッター』を照らした。
「でけぇ!」
その翔吾の漏らした感想は、ほぼ全員が共有した感想でもあった。
「ほら、ここに小窓」
ケンタの光が、シャッターの一部分を照らし、まるで街頭に群がる羽虫のごとく翔吾とエイミが駆け寄る。
そうして、小さな小窓に仲良く頭を並べて、外部の様子をうかがっていた。
「……どう?」
菜瑠が問うと、お団子ヘアーが動く。
「すんごい、暗い。めっちゃ暗いわー。いやぁ暗いっす」
「夜?」
これには翔吾が微動だにせず応じる。
「いや、曇りじゃね? なんか夕立が来る直前的な……」
「ね?」ケンタは得意げだ。「言ったろ?」
興味をもったらしい遼が、小窓に寄ると、エイミが『みてみ?』といった表情で場所を譲る。
「どう思うよ。遼」
「本当だね。暗い。でも夜って感じじゃない……」
菜瑠は不穏な雰囲気を感じながらも、あえて強く言う。
「開けよう。外にでなきゃ。ちょっとでも早く。ねぇ四季……どうにかならない?」
シャッターから離れた場所いた四季に、ケンタのサーチライトが向く。突然の光に半開きの瞼を一旦閉じ、数秒の後に四季は平常運転にもどる。
「私に解決を求められても、困るわ。走って疲れたの。シャワーを浴びたい」
自信がない、と言うよりは非協力的と表現したほうが適切な表現だった。コレにはエイミが軽薄な対応をとる。
「大丈夫だって! 四季ならなんとかできるって」
翔吾などは更に軽薄なことを言う。
「シャワーとか、なにノンキなコト言ってんだよ! ケンタ、ションベンかけてやれ!」
「ミサイル打ってよ、ミサイル。四季ランチャーぶっぱ! ランチャー」
菜瑠はそんな会話を聞き流しながら、シャッターにそっと手をあてる。骨まで染みるような冷ややかさが、火照った手のひらに心地良い。
この鉄のカーテンの向こうは、『外』だ。
目指していたゴールだ。
感慨や感傷に浸るには早いかも知れない。だが、ついついこれまでの事を思い起こしてしまう。
めくるめく早さで脳裏を巡る記憶。その中に笑顔の柔らかい初老の男性がいた。
――学長先生。
「ハンドル……!」
菜瑠はつぶやいた。
「学長先生、シャッターを開けるハンドルがあるって言ってたよね」
「それだ!」
懐中電灯の光線が鋭く向きを変え、シャッター周辺を舐めるように照らす。
やがてその光が、昇降部の脇に据えられた小さな箱をとらえた。
「あれじゃない?」
「よし、ケンタ。やれ。幕内力士の力をみせてやれ」
「ういっす。ごっつあんす」
ケンタは懐中電灯をエイミに手渡すと、その光線を背中に浴びながら小箱へと歩み寄った。
「うぇぇ……ごっつあんッスけども、これ、蓋が、凄くキタナイっす。油っす」
「気にすんな。お前のが汚い」
「ういっす。ごっつあんっす」
こちらへ向けた顔をシワシワにしかめたが、ケンタはすぐに小箱へと向き直った。そして、人差し指と親指だけで、取手をつまむ。
「ケンタ」菜瑠は言う。「気をつけて。中に虫とか住み着いてるかも」
「オエー」幼稚ではあるが、わかりやすい反応だ。「やめてよナル子」
「いいから早く開けろよ」
翔吾に急かされて、ケンタはしぶしぶ取手に向き合う。
そして、ガタガタ、と建付の悪さを何度か聴かせて、やがて強引に開いた。
だがその内部はケンタの巨体に遮られ、光が届かない。エイミがユキと手を繋ぎながら、恐る恐るに問う。
「どう? 横綱?」
「虫いる?」
「なんか言えよ」
やがてケンタの肩がヒョイと上がった。
「トンファーみたいのがあるよ」
「マジかよ、くそ。トンファーとか、いらねーけど、かっこいい。けど要らねーよ」
トンファー。菜瑠にはピンと来ない。
「トンファーって?」
「なんだよナル子。お前、トンファーも知らないのかよ。トンファーってのはな、『トン・ファー』って言って、豚の毛皮のことだよ。歴史の授業で学長も言ってたぞ」
「豚の……毛皮」
――そんなものが、なぜここに……。
と菜瑠が深く考え出す前に、ケンタが嘘を暴露した。
「ちがうよ。ほら、ナル子コレがトンファー」
そう言って歩み寄って来たケンタが何かを差し出した。何やらL字の棒らしい。すぐに菜瑠は閃く。
「コレがハンドル!」
そして、皆の反応を待たずに小箱へと駆け寄ると、箱の内部を細かく調べた。
ハンドルを固定する金具。これは2本分あった。今自分が手にしているのは予備か。中央には歯車。歯車に巻かれたワイヤー。
答えは簡単だった。
菜瑠は歯車の中心に四角い穴を見つけると、そこにトンファーをあてがった。
そうして、どちらへ回すともわからず回してみると、カリカリと歯車が回り、ワイヤーを巻き取るのがわかる。
だが、固い。
「これ! 回して!」
「ういっす! ごっつあん」
すぐさまケンタが戻って来て、肉体労働を肩代わりした。
「うわ、重いっす」
「やったれ、幕内!」
「頑張れ!」
「ごっつあん!」
懐中電灯を浴びたケンタの顔がみるみる赤くなってゆく。
「ちゃーんーこ、ちゃーんーこ!」翔吾がウケ狙いに囃し立てると、ケンタはゲラゲラ笑い、ハンドルを離す。
「ちょっと! 翔吾! 邪魔はやめなさい!」
「うるせー。だいたいケンタ1人にキツイ仕事押し付けんなよな! ケンタ、言ってやれ、力士の引退表明を」
ケンタは素早く顔をしかめ、声を枯らしていかにも相撲取りらしく言った。
「体力のぉ限界!」
ソレだソレ、などとケンタと翔吾は顔を見合わせてゲラゲラ笑い合う。
危機感だの、緊張感だの、そう言ったモノが致命的に欠落している。男と言うのはどうしてこう、幼稚なのか。
菜瑠がナル子らしく腕を組もうとした瞬間、闇から眼鏡が歩み出た。
「僕がやるよ」
遼が腕まくりをして小箱へと向かう。
「翔吾! 遼の次はあんたよ!」
「おれ、怪我人なんだよね。だいたいソレ、3K仕事だろ?」
「3K?」
「おうケンタ、ナル子に教えてやれ」
「ういっす。『ケンタの、ケツに、キスしな』っす」
また2人してゲラゲラ笑い合う。
これは駄目だ。ダメ人間だ。カオスをよしとする杜倉グループの悪い部分が全面に出ている。
すると顔を真っ赤にしながらハンドルを回す遼が、踏ん張りながら前向きな提案をする。
「順番にやろう、順番に。たしかに、キツイ、これ!」
遼が必死で回しているが、シャッターはピクリとも動いていない。
「上がってないわ……」
「いや、でも手応えは! あるよ! でもギブ!」
力尽きた遼が背後に尻餅をつくと、お団子ヘアーの少女がスポットライトに躍り出た。
「アタシに任せなさい。こう見えてもスポーツ万能なのよ。陸上部の白い悪魔とはアタシのこと……」
ヒュー、ヒュー、と翔吾ケンタの無責任な煽り。
「エイミさん、マジ、カッコいいっす!」
「エイミさーん、ステキング!」
だが、細身の身体が生み出す力などタカが知れている。ハンドルはほとんど動かず、白い悪魔の唸り声ばかりが響いた。
「だめ……マヂもう無理」
「代わるわ、エイミ」
菜瑠は力尽きたエイミに代わり、ハンドルを握る。全員の体温が移ったハンドルが温かい。
そして、力の限りで回すが、やはり少ししか回らない。
重すぎる。
「ナル子姉ちゃん、動いたよ」
ユキがシャッターの下部を指差して言う。「いま、動いた」
「ホント?」
「うん」
「よっしゃー! ナル子! やったれ! 生活委員の意地をみせたれ!」
そうしたい所であるが、両手が痺れて力が入らない。
「力が……」
つぎに皆の視線が四季に向けられるが、四季は静かに、小さく、首を横に振る。これは『いやよ』だ。
「しゃあねぇなぁ。俺に任せろ。真打ち登場。ちゃっちゃと済ませて、戻らなきゃ、なんだよ。」
翔吾は首を右に左に倒し、骨を鳴らしてからハンドルを手に取った。
「でりゃああああぁ!」
その掛け声と同時に、グイっとシャッターが動いた。
ハンドルの回転に呼応して、少しずつだが開きつつある。
「開いてる! 開いてる! もっと、もっと!」
「んでりゃあぁぁぁ!」
演技がかった掛け声ではあるが、確実にハンドルは回転を見せた。
「5センチ!」
エイミが叫ぶと同時に、翔吾も力尽きた。
「いてぇ、腕、まじ、折れる。ケンタ、ゴー」
「ういっす」
使い魔のように呼ばれたケンタはハンドル前に立ち、大きく深呼吸をきかせた。
「よっしゃあ!」
その掛け声とともにハンドルは回り、シャッターが見る見るうちに開かれてゆく。
さすがの翔吾もここで邪魔はしない。
「もっと!」
「あと、少し!」
凄まじい勢いで鉄扉は巻きあげられ、ようやく40センチほどに到達したところでケンタのバッテリーが切れた。
「もうだめ……」
これは、重すぎる。もしかしたらもっと効率的なやりかたがあるのではないか。
だが見れば、開かれた隙間からは、音を立てて風が吹き込んでくる。外部からやってきた空気が、圧縮の音を聞かせて内部へと殺到してくる。
自然風など、どのくらい浴びていなかっただろう。
「充分! 隙間から出られる!」
「私が見てくる! 安全だったら、みんなすぐに来て!」
菜瑠は素早く腹ばいになると、シャッターとコンクリートの隙間に侵入した。
そうして、転がるようにしてようやく外へと這い出た。
菜瑠の目は灰色の空を見た。
菜瑠の耳は吹きすさぶ強風を聞いた。
菜瑠の鼻は泥の匂いを嗅いだ。
そして菜瑠の脳はタカユキの言葉を思い出していた。
――世界は、終わった。
百聞は一見にしかず。
どれほどの論理だてた説得より、今、菜瑠の眼前に広がる景色がタカユキの仮説を裏付けているように思えた。
小高い場所から眺める樹海。
それらは健全な緑でなく、暗く、淀んだ色彩だった。
灰色の空。分厚い雲が濃厚なグレイで、遠くの空などは夜のごとく黒い。
その遠い空の暗闇に、時折、右から左へと音もなく雷が横にきらめく。
ただ、静かで、荘厳な雰囲気さえあった。
遅れてやってきた雷鳴が、菜瑠の細胞すべてに不快な振動を伝える。
夜明け前のような、日没直後のような、不穏で、ただ静かな世界がそこにあった。
樹々の彩りを奪っているのは、灰か。あの分厚い雲が、灰を降らせているのか。
それほどの降灰量ではないが――。
もしかしたら、自分たちは異世界へやってきたのではないか。トンネルのどこかで道をたがえ、来てはならぬ世界へと迷い込んでしまったのではないか。
そんな無意味な仮定をしてしまう。
言葉を失ったまま、菜瑠が立ち尽くしていると、すぐ隣で声がした。
「マジかよ……」
見れば、仲間たちが気づかないうちに外へと出て来ていた。
翔吾やケンタは言うに及ばず、四季までもが目を見開いて荘厳な景色を眺めていた。
「まじで……?」
「あれ、雪……じゃないよね? いま、何月?」
「……13月」
誰かが言った。
誰も訂正しなかった。
* * *