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13月の解放区  作者: まつかく
4章 ある証明
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4-5 脱衣ショー


お目当てのロープも見つからず、途方に暮れたまま憂理たちが医務室へ戻ると、そこにはエイミと菜瑠が居た。

ケンタと遼はまだ戻ってきていないらしい。2人がロープを見つけてくれることに期待するしかない。


憂理はエイミと菜瑠に体育室に設けられたシャワー室の存在を告げ、反半村の者たちへ伝達するように頼んだ。

エイミはおろか菜瑠までがパッと表情を明るくし、「バスタオル、バスタオル」と異口同音に呟き、そそくさと医務室を出て行った。


「翔吾はどうするのか決めたのか? エレベータ以外の脱走方法、考えついた?」


「どうしようかな。あー地中ドリル車があればいいのに」


荒唐無稽な事をいうあたり、まったくアイデアはないらしい。しかし、ただ警察の到着を待つというのは行動的な少年の性に合わないらしく、苛立たしげにアヒル口を歪めていた。

なんとかならないモノだろうかと憂理は考える。

自分たちが昇降路をつたって先に地下へ行き、普段出入りしていたドアを開けてはどうか。

いや駄目だ。あのノブのないドアは向こう側からも開かないことは深川が証明している。

だが……。憂理に閃きの光が訪れた。

「あのドア……あのノブのないドアにノブをつければいいんじゃないか」


「どうやって?」


「適当な金属を加工してだな……」


「俺、ドアの構造なんてわからねぇよ?」


「それぐらい調べろよ」


「ドアの構造を? どうやって?」


それも調べろ、などと言うのは意味のない事。憂理はアゴを掻いて考えた。

「蔵書室……にあるかな」


「うげぇ。あんなカビ臭いトコに行くのかよ」


「蔵書室ならソレっぽい本があるんじゃないか」


「どうやって探し出すんだよ? 一冊ずつ確認してくのか? コレ違う、ヨシ! って」


そんな事をしていたのではそれこそ『宇宙の終わりまで』かかるだろう。宇宙の終わり……。そんな言葉でなじられた事がある。

「そういえば、四季が……蔵書検索ができるって言ってたな。それで探せばすぐに見つかるんじゃないか」


「四季? 蔵書検索?」


どうにも説明するのが億劫に思え、憂理は翔吾を連れて蔵書室へ出向く事にした。蔵書室のドアの前に立ち、まずは何をして良いか解らない。なんとなく、憂理はフロートドアをノックした。


「なかに誰かいんのか?」


不思議そうにしている翔吾に憂理は肩をすくめるばかり。いる、とは断言できないが、いないとも言えない。

「とりあえずだよ」


人差し指を曲げて再び軽くノックする。だが返事はない。


「ヌルいノックやってんじゃねーよ」


翔吾は左手の拳を槌のようにして、力強くノックした。ドア全体が激しく揺れ、壊れてしまうんじゃないかと心配してしまうほどだ。なるほど。これがノックか。たしかに内部に居る人間に呼びかけるに、よりわかりやすい方が適切にも思えた。

翔吾にならい、憂理も拳を握りしめた瞬間、フロートドアがそっと開いた。

中から現れたのは、例のロボ少女だ。

「開いてるわ」


例の無機質な少女が、例の半開きの瞳で憂理と翔吾を見比べる。


「ちょっと、調べ物がしたいんだけど」


四季はゆっくり頷いて、ドアを大きく開いた。そしてプイと背を向けてPCの方へと帰って行く。


「知り合いか?」


「ああ、まぁ。蔵書室のヌシだよ」


「ほー物好きの元締めか。でもありゃアンドロイドかもしれないぜ。気をつけろよ」


機械にたどり着くとはやはり発想が似ている。憂理は返事をせずに中へ入り、PCデスクに向かう四季に歩み寄った。

翔吾はまるで敵地に来たかのように周囲を警戒し、ぎっしり詰まった本棚を睨んでは「うげぇ」


四季は相変わらずPCに向かってキーボードを叩いており、その画面を見ただけでは何をやっているのか憂理には把握できない。ただ、指の早さは尋常ではない。


「なぁ、四季」


機械少女は指を止め、椅子に座ったまま憂理を見上げた。『何?』という言葉すら発するのが面倒なようだ。


「聞きたい事が……あるんだけど」


とたんに四季は画面に向き直り、読解不能の文字列を指さした。


「これが、エレベーターのシステム。いろいろやってみたけど、やっぱり外部からの操作は無理ね。完全に主電源が落とされてる」


「はぁ」


そういえば、と憂理は思い出した。

以前にエレベーターの電源がどうとかの話を四季とした事がある。いまだにそれに取りかかっているところを見ると、見た目以上に実は義理堅いのかも知れない。


「あのさ。エレベーターもいいんだけど……。蔵書検索って使える?」


四季の視線が憂理に突き刺さる。せっかく時間をかけて調べてくれた事には感謝するが、いまは別の解決策を手探りしているのだ。

しかし、四季は非難も落胆もせず無言でキーボードを叩き、違うプログラムを呼び出した。表題には蔵書検索、とそのものズバリだ。


「ドアノブの構造を知りたいんだ」


「俺でも解るやつな!」


四季は翔吾を見て、憂理を見て、再び翔吾を見た。

「アナタでも解るやつ……。それじゃ探しようがないわ。アナタの知能程度を私は知らないもの」


冷徹な対応。翔吾は「うっ」と一瞬ひるみかけたが、なんとか言い返した。


「わかんねーかな、バカでも解るやつってことだよ! 俺、すげぇバカだからよ! やばいぐらいな!」


ある意味で潔い態度であり、憂理などは男らしいとすら感じた。

しかし四季はその勢いに気圧されることもなく、小さく頷いただけだ。こういう態度が地味に傷つく。


そうして検索窓にカーソルを移し、『ドア ノブ 構造』と打ち込んだ。


「ちょいまち。『わかりやすい』が抜けてるぞ」

翔吾が言うと、四季はほとんど間を置かず、そのまま『図解』と付け足した。「よし。いいぞ。図解って、絵があるやつだよな? よし」


そうして検索ボタンが押される。結果は一件だ。『建設用語の基礎知識』とある。

「これだけね。キーワードに触れたのは」


便利な時代になったモノだと憂理は思う。タカユキが『便利なモノ批判』をしていたことが思い出されるが、やはり便利は正義だと思う。


「書棚、D-15 ケ36L94」


一瞬、機械語かと耳を疑うが、どうも本の在処を示す番号らしい。

「書棚、D-15 ケ36L94?」


「書棚、D-15 ケ36L94」


「よっしゃあ! 俺に任せろ!」翔吾が俄然テンションを上げて書棚の列へ走り去っていった。


「ドアノブを勉強してどうするの?」

四季の素朴な疑問だ。憂理は簡単な経緯を説明した。

四季は無表情に説明を聞いていたが、シャワー室のくだりになると、ようやく反応を見せた。半開きだった瞼を少しばかり大きくしたのだ。

「あったの? シャワー室」


「ああ。お前の言った通り、あの小部屋はシャワー室だったよ。充分に使える。今はエイミと菜瑠が入ってるんじゃないかな」


すると、四季はすっと席を立ち、光のある目で言った。


「バスタオル、バスタオル」


女はみな同じ反応をするらしい。やはり、四季は人間かも知れない。


「おい! 書棚D-15ってどこにあんだよ! 本なんて、どれも同じじゃないかよ! なんだよ、コクリズムってなんだよ! なんだよちくしょう!」


そんな翔吾の悲鳴にも似た叫びを四季は完全に無視してそそくさと去っていった。

やはり彼女は機械かも知れない。


 * * *



「で、なにがどうなってんだ?」


二人してPCデスクに『建設用語の基礎知識』を広げ、ドアノブの項をのぞき込むが、わかるようなわからないような。たしかに詳細な図解であるが、種類別に描かれているだけで『どうすれば開くか』という事には触れられていない。

翔吾が唸り、憂理も唸り、図面と睨めっこするのが精一杯だ。


「このハメ込む方を作れば良いんだろ?」


「どれがはめ込む方なんだ?」


「これ」


「これ鍵じゃないのか?」


2人で首をひねっていてもラチがあきそうにない。憂理が本を閉じ、大きくため息を吐くと、翔吾が包帯を直しながら言った。


「無くなったドアノブを探す方が性にあってる。俺はそっち方面でがんばるわ」


ドアノブを持ち去った犯人はおそらく半村であろう。翔吾も同じように考えたらしく、寝所に忍び込むべきかどうかを話し合いながら蔵書室のドアをくぐった。

小脇にはさんだ『建設用語の基礎知識』は持って行くことにする。何かの役には立つかも知れない。


そうして考え事をしながら通路を進んでゆくと、中央エレベーター前に人だかりができていた。見覚えのある顔が多数確認できる。

ユキエやカネダ、ジンロクも居るし、半村だって。


どうもまた良くない事が起こりそうな予感だ。憂理は息をのんで人だかりに近づいた。


「報告ってそういうモンだろが!」背筋も凍るような半村の怒声だ。「ああ? そうだろうが!」


奴隷たちが直立させられ、叱責されている。どの顔にも緊張があり、必死に床を見つめている。


「異常がないか調べろ、って俺は言ったよな? 言ったよな!」


うなだれた奴隷たちの頭がゆっくりと、ばらばらに頷いた。


「お前らは、異常なしって報告したよな! ああ?」


また、まばらに頭が下がる。


「じゃあ、コレはなんだ? コレはなんだッ! ああ?」


半村が手にした金属バットでエレベーターの扉を叩いた。わかりやすく、何度も。ココにある、コレは何だと。たまりかねたようにユキエが呟いた。


「手形……です。黒い手形」


騒ぎの渦中から離れたところから憂理が目をこらすと、確かにそこには手形があった。ステンレスだかスチールだかの表面に、機械油に触れたとおぼしき黒い手形がついている。

――ありゃあ、ケンタの手形か。


「そうだよなぁ! 手形だよなぁ! どう見てもよ!」


「はい……。手形です」

さすがのユキエも恐る恐るといった様子で答える。


「じゃあ、コレはなんだろうなぁ! この開閉部分の手形はよ!」


「誰かが……エレベーターの扉を開けて……出てきたんだと……思います」


「異常ナシか!? コレは異常ナシかッ!?」


「それは……」


刹那、半村の握り拳がユキエの顔面を直撃した。華奢な体がぐにゃりと曲がり、その壮絶な一撃の威力を物語るかのように人混みまで彼女は飛んだ。

群がる者たちの間から悲鳴が上がり、一部の者は素早くこの場から散ってゆく。

ユキエは必死な形相で立ち上がり、素早く元の位置へと駆け戻ると、殴られる以前の直立不動を作った。


「異常ナシか!?」

半村はカネダに問うた。


「お、おれ、見に来てないんで……」


その言葉は半村の怒りを余分に刺激してしまった。そんな事は憂理にもわかる。

半村の拳がカネダの顔面をとらえる。それはほとんど『衝突』と言って良い。

カネダは壁まで飛び、ぐったりと倒れた。


「土下座も異常ナシか!?」


面と向かった半村に、ジンロクは困ったような悲しいような表情を作り、ぽつりと言った。

「見に来た後でついたかも知れんでしょう」


「ああ!? じゃあそれはいつだ!?」


「そんなことは……わかりませんよ」


半村は手にした金属バットを大きく振りかぶった。

一秒にも満たない時間のなかで危機を察知したジンロクが身をよじって一撃を回避しようとする。しかし遅い。

振り下ろされたバットは、ジンロクの肩を一撃した。

鈍い音が床面を伝って憂理の元へと届く。

ジンロクは獣のように叫んで、肩に手を当てて床に転げた。


「おい、なんだよコレ!」

翔吾が開きっぱなしのアヒル口をカタカタふるわせている。


「お前らは! 飯を食っただろうが! 飯を食って、風呂に入ったろうが!」

半村はバットを奴隷たちに向けて、怒鳴りつけた。


「義務があるんだよ! 俺の……俺が満足するようにつとめる義務がよ! 違うか!?」

バットを向けられた少年が、怯えながらそれを認めた。発音が不明瞭で、「はい」だか「あい」だかわからない。


「じゃあ、義務を果たせ! 義務をよ!」


「は、はい、果たします、義務」


「じゃあ、今からずっとココを見張れ」


「ここを、ですか」


「地下にゃあ色々大事なモンがあるんだよ。好き勝手に立ち入られちゃ迷惑ってモンだ! 深川のババアだっているからな」


「わかりました。見張ります」


少年がエレベーターのそばに立つと、半村は不機嫌そうに舌打ちをして、バットを肩に戻した。

そうして、不機嫌ながらも落ち着きは取り戻したらしく、威厳のある態度で奴隷の数人を指名した。


「お前と、お前。それにお前。交代で見張れ」

指名された奴隷たちは一様に表情をこわばらせたが、暴君の命令に背くほどの勇気はない。


「常に2人体制だ。最初はお前とお前だ」

指名されたのは最初の少年と、一番近くにいた少女だ。


「はい、ちゃんと見張ります」


そういって、最初の少年と同じようにエレベーターの横に立った。殴られたくない一身で従順になっている。

しかし、半村は常軌を逸した暴君であり、従順であるだけで満足するわけもない。

過剰な加虐嗜好はここでも十分に発揮された。

「おい。脱げ」


半村の言葉に理解が追いつかず見張り少年と少女はポカンと口を開けたままだ。

憂理だって意味がわからない。


「脱げ」


「早く脱げ。全部」

もう一度、半村が言った。

間違いなく、見張りの2人に向かって発せられた言葉だった。


「ぬ……ぬぐって……服を、ですか?」

半村は面倒くさそうに「ああ」とおざなりな返事を返し、「早く」と催促した。


「でも……」


「義務だろッ!」通路全体を揺るがすような怒鳴り声だった。「説明しただろがッ!」

瞬間的な恐怖が少年の表情にとりつき、彼は素早く上着に手をかけそれを脱ぎ去って細身の上半身を衆目に晒した。そして、伺うような、卑屈な目で暴君を見やる。『これで、いいんですよね』彼はそう言いたかったに違いない。しかし、暴君の満足には至らない。


「全部だ。下も」


少年の目に絶望があった。

どうして、こんなことを。なんの意味があって。少年だけでなく、この場にいた全員がそう考えたに違いない。ただ1人、暴君をのぞいて……。

半村に言葉短く催促され、少年はズボンに手をかけた。


「これはな」半村は言った。「懲罰ってやつだ。この見張りには罰の意味合いもあるんだよ」


お前ら奴隷は、俺の所有物になったハズだ。だったら、俺の望むようにしなきゃならない。羞恥心なんて捨てろ。俺はお前らが恥ずかしがる事を許さん。認めん。

お前ら奴隷は『全体』だ。個別の感情なんて必要ない。『全体』で俺を満足させる事に全力をつくせ。お前らの存在価値はソレだけだ。


「ほら! 恥ずかしい、なんて許さん。さっさと脱げ! さっさと! 俺を苛立たせるな!」


少年のズボンが下ろされ始め、憂理はようやく目が覚めた思いだ。ボーッと見ていてなんになる。

だが、体はおろか、舌さえも動かない。ただ脳だけが活発に働いていた。


止めるべきか。

無論、止められるとは思わない。半村に逆らったところで痛い目にあうだけだ。そんなことは何度も繰り返し学習させられている。

――それに。


憂理の胸中にどす黒い感情が生まれつつあった。

助ける価値があるのか? 

助けるべきか、否かという葛藤は、確実に形を変えていた。奴隷たちは自らの保身のため、憂理たちを苦しめた。『臭い』と馬鹿にし、壁を朝まで見つめさせられた。

彼ら、彼女らは1人の少女を自死にも追いやったではないか。

全員が悪ではない。だが、悪の仲間じゃないか。


黒い葛藤のさなか、少年の服は全て脱ぎ捨てられた。

一部の女子が見るに見かねてこの場を駆け去って行ったが、それでも奴隷、それ以外の20人はくだらない者が動けないまま立ち尽くしていた。

無数の目が、彼の裸体を凝視している。


「前を隠すな。直立不動だ」


少年は今にも泣き出しそうな表情で、床を見つめ、やがて股間の覆いを取り去った。

――見てらんねーよ。


憂理は忌々しい気分。だがこの場を離れる事ができない。隣の翔吾もポカンと口を開けたまま、事の成り行きを見守っている。


「ははッ、情けねぇモンぶらさげてよ? そりゃあ恥ずかしいか。ははッ。お前の名前はこれから小指クンだ」


気の利いたジョークとは言い難い。少なくとも場に居合わせた全員が笑わなかった。そんな事を気にもかけず、暴君は軽薄に笑い、次の被害者に顔を向けた。

人だかりにどよめきが生まれた。


「おい、お前も脱げ」


指名された少女は、顔を引きつらせて、自分に指先を向ける。これは『えっ、私』というジェスチャーだ。半村はやりとりさえも面倒臭そうに舌打ちし、冷徹に言い放った。


「早くしろ」


少女の公開脱衣ショー。ショーの主役は憂理を『臭い』と笑った少女である。


「でも……」

少女の口が開いたが、二の句は続かない。


「でも、なんだ? ああ?」

自分の痴態を見つめる瞳がどれほどあるか確認するかのように少女は周囲を見回し、その数に絶望すると弱々しく首を振った。

「で、できません」


「おい」半村の声は落ち着いている。「良くわからんぞ。『できません』ってなんだ?」


「わたし……脱げません」


彼女は恐怖の圧力を跳ね返し、人として当然の尊厳を主張した。だが、その眼に力はない。

当然の主張であるが、容認されるべき主張でないことは、きっと彼女が一番よく知っている。

今、この場、この施設内において、彼女の自尊心や人権などというものは真空パックに入ったハンバーグ以下なのだ。そして、その自らの尊厳を売り渡したのは他でもない彼女自身であった。


半村の唇がイビツにゆがみ、不興の色を強くした。


「もう一度だけ言うぞ。さっさと脱げ」


場には緊張があった。何十もの眼が2人のやりとりを追いかける。

静かだった。

まるでこの場に立ち尽くす者すべてが蝋人形であるかのように、ただ目で見て、耳で聞くだけ。


「脱げよ……」

半村のものでも、少女のものでもない声。心情を吐露するかのようなつぶやきだった。「脱げよ!」今度はほとんど怒鳴り声だ。


見れば、先んじて全裸になっていた少年が、目をむいて少女を睨んでいた。

「命令だろッ! 脱げよッ! はやくッ!」


蝋人形の展覧会に似つかわしくない、音圧のある声が人形たちの間を通り抜けていった。

それは、黒い音。黒い心の発した、黒い感情の発露だった。

自分だけが被害者である事に我慢ならない――怨念とも言うべき感情だ。


「ははッ。そうだよな!? 小指クンも脱いだもんなぁ?」


「コイツも! コイツも脱がせてくださいよ!」


その眼はまるで野獣のようだった。被害者が感情にまかせて、加害者に転じようとしている事を憂理は感じ取った。


全裸の少年だけでなく、半村に殴られた少年も命令への服従を強要する。


「そうだよ。命令だろ。従う義務があるだろ。脱げよ羽田」

頬を腫らしたカネダが冷たく言い放つと、通路の世論は彼女への批判へ傾いてゆく。

何十もの眼の下にあった閉ざされた唇が、口々に批難を始める。

そうだよ。義務を果たせよ。脱げよ。と。


そのほとんどは少年奴隷たちによるものだったが、少女奴隷たちも止めようとはしない。流れは完全に変わった。

公開脱衣を強要されていた被害者――ハネダ少女は、一転して義務を怠る問題児ハネダとなってしまっている。

そうして、人混みのなかの誰かが、音頭を取り始めた。


「ハ・ネ・ダ! ハ・ネ・ダ!」


手拍子の乾いた音と、批難とからかいの色がある音頭。


「ハーネーダァ! ハーネーダァ!」

「ハーネーダァ! ハーネーダァ!」


音頭は人から人へ伝播し、この場に居合わせた半村奴隷のほとんどが手拍子とともに彼女を囃し立てる。

「ハーネーダァ! ハーネーダァ!」


「やめてよ! わたしッ、私、脱がない!」


ハネダ少女の主張が空しく響く。悲痛の叫びとはこういうことを言うのかも知れない。

彼女を中心として取り囲む円が生まれ、彼女の逃げ場を奪い、手拍子が円の中で目に見えない渦を巻く。

悪趣味と、好奇と、愉悦のにじむ目が――まばたきをしない目が、期待という興奮剤によって色を変えている。


「ハーネーダァ! ハーネーダァ!」


「やめて! 私はッ!」


羽田は両手で両耳をふさぎ、激しく頭を振った。

その姿はまるで、受け入れ難い現実から頭蓋内部の意識を追い出そうとしているようにも見えた。

ほとんどカヤの外に置かれたことで憂理と翔吾は、かろうじて冷静を保っていた。


「ユーリ。男の道、行く?」

言わずもがな、だ。このような所業を見過ごしては、お天道様に顔向けできない。憂理は緊張に強張った肺に目一杯の空気を吸い込んで、一歩踏み出した。


「おい、やめてやれよ」

少女を囲む少年たちは制止の言葉を無視して、手拍子を繰り返している。翔吾が輪を形作る1人の肩に手をかけ、ぐいと引っ張った。


「やめろって言ってんだけど。なぁ」


「うるさい!」

怒鳴った少年が肩に置かれた手を乱暴に振りほどいた。ブン、と空を切った肘が翔吾の肩に直撃し、怪我の治りきらない猫科の少年は情けなくも悲鳴をあげてその場にうずくまり、包帯巻きの腕を胸に抱いた。


「やめろ!」

反射的な怒りが憂理を支配し、それは怒鳴り声となって口から発せられた。

だが、それも虚しく響いただけだ。

相変わらずハネダコールが、通路に熱狂の渦を産んでいる。

餌に食らいつく肉食獣のごとく男子奴隷たちが強固な円陣を作り、憂理の言葉も体も弾き飛ばしている。


「ハーネーダァ! ハーネーダァ!」


半村はことさら上機嫌に笑い、二重円陣の一部と化している。

これは、荒っぽい方法を取るしかない。

本来なら助ける義理も責任もないが、なんだか後には引けなくなっている。

円陣を組む1人の背中に狙いをさだめ、憂理が蹴りを見舞おうとした刹那、翔吾が先を越した。


「いてぇだろがよ! ボケがッ!」

鋭く、突き刺すような蹴りが、奴隷少年の背中を捉えた。軸の中心を蹴られた少年は鳩胸のように体を弓ぞりに曲げ、円陣を崩す。

憂理も同じく蹴りを放ち、円陣の切り崩しにかかった。

「やめろ、オラ!」


蹴られた少年がドミノ倒しのように内径の奴隷にぶつかると、通路の狂乱に火がついた。

「やんのか!」


蹴られた2人、ぶつかった数人が羽田から憂理たちへ向き直った。これは揮発性の油が染み込んだ布のようなもの。

ちょっとした火種さえあれば、容易に引火し燃え上がる。

秒の間すらおかず放たれた奴隷の拳をかわし、憂理はカウンター気味に肘で顔面を打ちつけた。


――クリティカル!

相手の頭部を抜けてゆく衝撃に憂理は脳内で叫んだ。

しかし、1人目の体を憂理が引き受けている隙に、続く第二波が避けようもなく押し寄せる。

脳内分泌物が時間の流れを遅め、全てがゆっくりと再生される。視界の端からやってきた拳が、少しずつ憂理の顔面に近づき、大きい。


――ヤバ!

全てがスローであると、自らの動きもスローだ。わかってる、危険を察知しているにも関わらず、体が動かず回避行動がとれない。


できた事は、目をつむることだけだ。

これは防御と呼ぶには余りにも貧弱だった。


直撃――後頭部まで抜けてゆく衝撃に2、3歩後退を余儀なくされ、憂理は膝に意識を集中した。ダウンしてしまえば、袋叩きは明白だ。

しかし、たかが一撃を耐えた所でそれほど意味はない。

第三波にとって、立ったままの杜倉憂理は狙いのつけやすいターゲットでしかなかった。ガラあきの腹に、狙いすました蹴りがたたき込まれた。


内臓がガラスでできていたなら、即死だったろう。だが有機体の内臓は弾けることなく、全ての衝撃を痛みに変換して受け止めた。

収縮した胃から胃液が逆流し、舌の奥に酸味。


たまりかねて憂理が倒れたところを、数人の奴隷が蹴る、蹴る、蹴る。

「弱ぇぇ」


誰かが言って、憂理の頭を踏んだ。1対1ならいざ知らず、多対1ではどうしようもないではないか。

豪雨のような蹴りが散発的になると、憂理はようやく薄目を開けた。


翔吾もすぐ近くで腕を抱いてうずくまっており、憂理と同じように頭を踏まれていた。

あるいは、翔吾が腕を怪我していなければ2人でも善戦はできたかも知れない。

だが、善戦したところで多勢に無勢。負けは必然だったに違いない。


「ユーリ! ショーゴ!」


聞き覚えのある声。憂理は痛みに歪んでいた唇を小さく動かした。


「おせえよ」


ケンタが顔中にシワを作って突進してくるのがわかる。そして、憂理の頭を踏んでいた少年に、肉弾が衝突した。

ふわりと頭上が軽くなり、喧嘩の第二部が幕をあけた。


「大丈夫!?」


横たわる憂理の肩を遼が揺らす。あまりに激しく揺らすものだから、引きかけていた腹の鈍痛がぶり返してくる。


「ブタが!」


第二幕の上演時間は、第一幕より遥かに短かった。一瞬で床にケンタが転がる。


「暴力はやめなよ!」

唯一の台詞を発した眼鏡の少年役者も顔面に蹴りを入れられ、そのトレードマークを離れた床に飛ばした。

これは喧嘩とも呼べない結果であった。


憂理は胎児のように体を丸めて横に倒れ、翔吾は腕を抱いてうつ伏せに。ケンタは間抜けに大の字で、遼は四つん這いで眼鏡を探している。

そんな敗残者たちに慈悲もなく、まるで一幕も二幕も無かったかのように羽田コールは続いている。


「ハーネーダァ! ハーネーダァ!」


憂理たちを痛めつけるため、円陣から数人が抜けているが、その抜けた隙間はしっかり埋められている。

「ハーネーダァ! ハーネーダァ!」


「ハーネーダァ! ハーネーダァ!」


一瞬、一定のリズムで続いていた羽田コールが、止まった。


そして、「おおー」だか「ヒュー」だかの感嘆の声が上がった。

冷たい床に倒れたまま憂理が円陣の中心へと視線を向けると、人だかりの隙間から羽田が見えた。

シャツを、脱いでいた。


か細い体が照明に照らされ、いよいよ白い。

これは『青ざめた』と表現するのが正しかろう。


円陣の感嘆は奇妙な熱にますます大きく聞こえる。羽田は怯えたように目をカッと見開き、何を見るでもなくただ床を凝視していた。

その唇は血の気を失い、小刻みに震えているのが見てとれる。


「ぜんぶ脱げよ!」


誰かが言った。

少女の反応を待たず、円陣からは囃し声があがる。

「ぜーんーぶッ! ぜーんーぶッ!」


羽田は心神喪失状態なのか、床を見つめたまましきりに何かを呟いているが、熱狂の渦中にあって、その声は誰にも届かない。

一方で、唇を軽薄にゆがめた暴君が熱狂する少年たちを楽しげに眺めてから言葉少なく言った。


「脱げ」


半村が、ことさら軽薄に言葉を吐いた。

「おい。ちゃんと応援してやらんと、いくらこの女が露出狂だって言っても、脱ぐに脱げないだろ? 物事には決まりってのがあるんだよ。ほら、ハーネーダぁ!」


半村の手拍子を引き金として、ふたたび囃し音頭が沸き上がった。

圧倒的な熱量を持った合唱。それらが円の中心へ向かって浴びせかけられる。


「ハーネーダァ! ハーネーダァ!」


理性もなく、ただ全身全霊の解放された獣性が声となって視線となって羽田少女に突き刺さっていた。囃し音頭の合間に、乱暴な言葉も挟まれる。


「脱げ!」「早く!」


やがて、少女は錯乱した表情のまま、両腕を背中に回した。

見開かれていた双眸はシワが寄るほどきつく閉められ、前歯が唇を噛み裂かんがばかりだ。


「ハーネーダァッ! ハーネーダァッ!」


熱狂は最高潮に達していた。欲望と本能と興奮。

背中に回され、モゾモゾと動いていた彼女の両腕が、やがて仕事を終えた。

奇跡も、起死回生もなく、ホックは外された。


「ハーネーダァッ! ハーネーダァッ!」


彼女の胸を覆っていた小さな布きれは、ふわりと彼女の白肌からはがれ落ちていった。一瞬の沈黙。数人の男子が舌先で唇を濡らすのが見えた。

羽田コールも忘れ、少年奴隷たちはただ獣性を帯びた瞳で彼女の裸体に見入っていた。


逃れられぬ視線に身をよじる事もなく、少女は両腕を交差させて体を隠している。

――これは、なんだ。


憂理にはわからない。なぜ誰もこの状況に違和感を覚えないのか。

なぜ狂乱のままに少女を吊るし上げ、見せ物とするのか。


こんな事態は想像もしえなかった。悪者は半村で、それ以外はみんな被害者だったんじゃないのか。沈黙に、静寂に、スリ入るようにして感嘆の声がわき始める。

初舞台のストリッパーと、慣れない客。

その両者が生み出していたぎこちない静寂は、少しずつぎこちない騒々しさに彩られていった。

中には、親族ではない女性の体を初めて見た者もいるだろう。


興奮が罪悪感をかき消して、かれらの群集心理にさらなる『苛烈』を加える。


「下も……脱げよ!」


「そうだ! 義務だろ!」


まだ足りないのか。解放された獣性が、言葉という翼を得てその欲望を満たそうとしている。彼女を丸裸にしない事には納得しないのか……あるいはそれだけしても満足するとは限らない。


「ハーネーダァッ! ハーネーダァッ!」


再び沸き上がった羽田コールが、渦中の彼女を包み込む。彼女は顔をくしゃくしゃにして、異常なまでに頭を振った。

激しい否定の現れか、あるいは現実を脳裡から追い出そうとしているのか。

そのどちらであったとしても、彼女の望みは叶わない。


「ハーネーダァッ! ハーネーダァッ!」


憂理の記憶から、苦い感覚が掘り起こされた。

ハラダ・ユカ。食堂で失禁を見られたために自ら死を選んだ少女。今の羽田が彼女と同じ道を行くように思えてならない。


「やめろ……」


憂理の言葉は届かない。圧倒的な熱気にかき消され、ただ切れた口内の痛みだけが残る。


「ハーネーダァッ! ハーネーダァッ!」


少女は明らかに涙を流していた。

顔をぐしゃぐしゃにして、やがて前屈みになった。片腕で胸を隠したまま、もう一つの細腕が彼女のパンツに指をかけた。

戸惑いが震えとなって彼女の指先にあらわれる。

だが、円陣を形作るケモノたちは、彼女が苦しめば苦しむほど興奮の度合いを高めてゆくようであった。


魔女狩りというモノを憂理は見た事がない。だがきっとこんな風に行われたに違いない。

圧倒的多数対、個人。

言葉は無意味だ。弁明も釈明も哀願も懇願もなにも届かない。ただ一方的な罵声と怒声と命令が彼女に突き刺さってゆく。

彼女の指が震えながらゆっくりと下着を下ろしてゆく。


せめて、自分だけは彼女から視線をそらそうと憂理が通路の方を見やると、そこに見覚えのある2人が居た。

菜瑠とエイミだ。


エイミは何が起こっているのか解らないらしく、ぽっかり口を開けて唖然としている。一方の菜瑠はエイミより幾分か早くショック状態から立ち直り、その瞳に正義を宿した。

しかし、動けない。


半村を目の前にして、菜瑠は身をこわばらせていた。

シャワーを浴びて乾ききらない髪。前髪の下の瞳には、恐怖が表れている。

だが次の瞬間、ギリギリのところで恐怖を乗り越えたらしく、菜瑠は唇をキュッと結び、視線を厳しくした。

――ああ、ナル子、勘弁してくれ。


この状況でしゃしゃり出れば、羽田の二の舞になる恐れがある。

羽田少女を中心に円陣を組む少年奴隷たちは、もはや理性だの抑制だのとは一番遠い存在と化しているのだ。


憂理は痛みをおして素早く跳ね起き、ショーへ向かって歩き始めた菜瑠の腕を取った。

「駄目だ!」


菜瑠はきょとんとして憂理の顔を見た。

次の瞬間、憂理は菜瑠の手を引き、駆けだした。公開ショーから少しでも遠く。


「エーミ! 翔吾を頼む!」


ポカンとしていたエイミに指示を出し、憂理はただ菜瑠の手を引いて走った。そうして、角を右に曲がり左に曲がり、騒ぎ立てる声が聞こえない場所まで逃げ切った。


「やめてよ! 止めないと!」


速度を落とした瞬間、菜瑠が憂理の手を振り払った。そして、彼女はもう一度通路を逆戻りしようとする。

憂理は素早くその腕をつかむと、語気を強めて言った。

「無駄だ! お前までやられるぞ!」


「でも! ほっとけないでしょ! やめさせないと!」


「俺も止めようとした! でも無駄だ! 半村だけならともかく、あそこにいる奴ら全員がプチ半村みたくなってる! お前1人がどうこう言っても止められねーよ!」


言葉とともに腕を握る手に力が入る。

そんな憂理の勢いに気圧されたのか、菜瑠は何も言わずにじっと憂理を見つめた。

非難するでもなく、反論するでもなく、ただ突き刺さってくる視線。憂理はたまりかねて言葉に逃げた。


「気持ちはわかるけど。あの女、自業自得ってのもあると思う」


あの羽田という女は、憂理や菜瑠を『臭い』と指さして笑った人物だ。自ら望んで半村に降り、食事や入浴の権利を得た。

たしかに現状は被害者かも知れないが、過去には暴虐する側だったのだ。

そんな憂理の説明に菜瑠は黙って聞き入っていた。


「ざまぁみろ、とは言わないけどさ。アイツが自分で選んだ道だろ?」


「だからと言って、ほっといていいと思う?」


努力はした。でも無理だった。

あの人数を相手に戦うに、正義感という武器だけでは到底太刀打ちできない。憂理がそう釈明を行うと、意外な事に菜瑠も理解を示した。


「みんな……おかしくなってるんだね……」


この台詞をここ数日間で何度聞いたことか。憂理は「ああ」とだけ答えた。

やがて、通路にパタパタと足音を反響させ、エイミたちが合流してきた。


エイミ、遼、ケンタ、翔吾。その4人の表情から憂理は自分が去った後の出来事を察する。

重い気分に言葉がでない。


お互いが表情をうかがい、視線をやりとりし、無言での状況確認が終わった。

エイミは指先で自らのこめかみを激しくノックして言った。

「アイツら! 頭おかしいんじゃない!? 羽田、全部脱がされたよ!? 信じらんない!」


合流した面々が、口々に今しがた目撃してきた猟奇的なパーティーについて所感をのべ合う。

交わされる会話を横耳に、憂理は群集心理について考えていた。

――なんで、どの時点で『タガ』が外れたのだろう。


純然たる『悪』は、半村だけのハズだった。構図はいたってシンプルで、半村対70名だった。

70名の側に立てば半村の行いは悪行でしかなく、意識的であれ無意識的であれ、半村の行いに嫌悪感を覚えていたはずなのだ。

――多数決。


学長の授業が憂理の頭をよぎった。初老の男性の言葉が脳内で再生される。

――ひとつの行いに対して、大多数の人間が嫌悪ないし否定的な立場をとればそれこそが『悪』だ。

人を殺してはいけません。モノを盗んではいけません。

そんな望まれざる行為を犯罪とし、人は法律を発明した。


これが原始的な社会の基準あるいは規範となる。当然、過去には間違った法が定められ、誤った正義が存在した。

だが人類はその都度時代に合わせて法を再整備したし、その時代時代にそくした正義を作ってきた。重ねて、積み上げて、整えて。

そして、定められた法に従い、それを遵守した生活をおくる事で『秩序』がうまれる。

君たちに覚えておいてもらいたい事がある。

それは、『人類は時代とともに賢くなってゆくわけではない』ということ……。

『ただ知識が増えてゆくだけ』ということだ。


その知識こそ、科学であり倫理であり文化であり、法律だ。多数決のルールだ。


「おい! ユーリ!」

翔吾の険しい表情が、ボンヤリとした思索の世界から憂理を引きずり出した。


「なにボサっとしてんだよ」


「いや、考え事」


「行くぞ」


「どこへ?」


「かー。なんも聞いてねぇな、こいつ。蔵書室だよ。聞かれちゃマズい話をすんだからよ」


そう言って、翔吾はそそくさと通路を進んでいった。見れば他の者たちともずいぶん距離が離れてしまっている。

憂理はその後を追うため、ゆっくりと移動を開始した。足は歩行に、脳は思索に働きづめだ。


そうして、脳内に居座る学長の幻に、一つの疑問をなげかけた。

――学長。大多数が『悪行』をアリだって言ったら?


法の良心などというものは、実のところどこにもない。あるのは法を作った人間の独善だけ。

皆が半村を是とすれば? 皆があの暴虐を支持すれば、あれも正義となりえるのか。

――正義って、なんだ?


憂理にはまだわからない。




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