10-8 追放者の城
大八車だの、リヤカーなどで、自分が運搬される。そんな経験も、人生でそうそうあるモノではない。菜瑠がそうであるように、四季やエイミもきっと初めての体験だろう。
捕捉されたときよりもガムテープの『巻き量』は増え、この身動きできない態勢は、まるで、自分が出荷されてゆく冷凍マグロにでもなった気分になる。
こうなっては『食用』でないことを祈るばかりだ。
エイミが身もだえてムームー何かを訴えるが、これは『なによこれ! どこへ連れてこうっていうのよ!』だ。付き合いが長いと、この程度までは解る。
一方の四季は、冷凍マグロと言うよりは、エジプトのミイラのようになっていた。特に身もだえもせず、リヤカーの荷台で半開きの瞳に暗い空を映している。
菜瑠たちを拉致しつつある中年男がブツブツと何かを呟きながらリヤカーを押しているのが荷台に居てもわかる。時折、休憩を挟むところまで四季のプロファイリングは当たっていた。
拉致して、どうする気か。菜瑠はムームー騒ぐエイミの横で頭を必死で働かせていた。
この男、先ほどの発言からどうやら『名束の者たち』と何らかの関連があるらしい。そして、それは決して『友好的関係』ではない。
加えて、どうやらこの男はキスミもそうであったように、『名束の人間』を全て把握していない。そして、名束にはそれなりの数の人間がいる。
菜瑠たちを名束の人間と勘違いしたことから、それらの事が推定できる。
さらに、この男が『名束』を恐れている事も。
ムームー言うエイミはともかく、王家のミイラ然とした四季は、すでにこれらの仮説に辿り着いているはずだ。
とはいえ、首を横にして四季を見れば、相変わらず空を見ているばかりで、心なしか少し眠そうにも見える。
――どうやって逃げるか。
菜瑠はとりあえず、現状を直視する事にした。
おそらく、本拠地ホテルにいる遼やケンタが菜瑠たちの危機を察知するのはまだ先の話。完全に夜になるか、あるいは明日の朝まで気が付かない可能性がある。
つまり、頼りにしてはいけない。
なんとか自力で逃げ出す、ないし中年男を倒すしかない。
だが、何重にもガムテープを巻かれた現状では寝返りひとつ打つにも一苦労で、出来る事といえば、ムームー唸るぐらいのこと。そしてそのアクションには既にエイミが着手しており、まったくの無為であることを証明してくれている。
頼みの綱の長棒も失った。残された武器は、『歯』ぐらいのもの。それが『牙』と呼べるほど頼もしいものであれば良かったが――。
やがて、リヤカーが止まった。
そうして後部へと中年男がやってくる。男は顔中を汗に濡らし、呼吸を荒げ、菜瑠たちを見下ろした。三人の敵意ある視線を一身に受け、男は唇をニンマリ歪める。そして、念入りに周囲を見回してから唐突にムームー唸るエイミの足を掴んだ。
エイミはこれまで以上に身をよじって抵抗するが、それも虚しく、男の引くままに荷台から降ろされる。中年男は「よっ!」という掛け声とともにエイミを肩まで担ぎ上げると、そのままリヤカーから離れて行った。
拘束されたままでは、そこまでを見守るのが限界だった。エイミのムームー声が遠ざかって行く。
菜瑠は体をよじり、なんとかガムテープの拘束を緩めようとするが、なんの効果もない。これではマナ板の鯉でしかない。
それでも、できる範囲でもがいていると、また中年男が戻ってきた。汗は先ほどより酷く、呼吸も先ほどより荒い。この作業はかなりキツいらしい。
菜瑠が先ほどのエイミが如くムームー唸り、ジタバタ暴れると、小太りの中年男は、そんな菜瑠を見て表情を暗くした。
「暴れないでくれよ。すごく疲れるんだから」
そんな事を言われたところで、協力的になるワケがない。男の作業を妨害せんとして、菜瑠はますます暴れた。
すると、中年男は溜息を吐いて、比較的おとなしい四季の足を掴んだ。
そうして、暴れる菜瑠を尻目にほとんど無抵抗の四季はズルズル荷台から引きずり降ろされ、先ほどのエイミ同様、掛け声と共に肩に担ぎ上げられた。
菜瑠を見つめる半開きの瞳がリヤカーから遠ざかってゆく。
――どこかに、連れ込む気か。
少なくとも現在の菜瑠たちは『食料』や『貴金属』など強盗の目当てになりそうなモノは持ち合わせていない。
なにが目当てか。その心当たりに気がつくと、菜瑠は、むしろ『強盗』が目的であってくれた方が良かったと考えを改めた。これは『強姦』が目当てでないのか。
やがて戻ってきたその男。その目を見て、菜瑠は嫌悪感を覚える。そして、思い出す。施設での出来事を。
襲ってくる直前の半村。その目だ。いま目の前にいる中年男は、あの時の半村と同じ目をしている。『値踏み』するような目だ。
「さあ、君の番だよ」
男はニタニタしながら、菜瑠の足を掴んだ。
必死の抵抗も虚しく、マナ板の鯉はズルリと荷台から降ろされ担ぎ上げられる。
それでも暴れて抵抗するが、暴れるたびに男の肩が内臓を圧迫してくる。
中年男はヒイヒイと無様な息を立てながら、その合間に言葉を発する。
「予想外だよ」「こんなチャンス」「三人も」「どの子も可愛い」
やがて、男は階段に差し掛かり、半ば悲鳴のような独り言を漏らしながら、一段ずつ上って行く。
そうして二階にたどり着くと、幾つかの角を曲がって奥へ、奥へと進んで行く。担がれた菜瑠に見えるのは、廊下に敷かれた赤い――汚れの目立つカーペットだけ。
男は体力が限界に近いのか、独り言すら聞こえて来なくなった。ひたすらにヒューヒューと喘息気味の息が漏れている。
ドアが開かれ、連れ込まれた部屋に、仲間たちがいた。
エイミも四季も相変わらずの姿だ。
菜瑠が彼女たちと同じように床に転がされて――拉致は完了した。
中年男はメガネを外すと、部屋にあったタオルで顔の汗をぬぐい、ついでに脂で汚れたメガネも拭く。
そして自らの胸元からペンダントのようなモノを引っ張り出し、ドアに歩み寄ると、そのペンダントを当てがった。かちゃ、と鍵が下りたところを見ると、あのペンダントに見えたモノは鍵であるらしい。
男は部屋の隅にあった椅子に手を伸ばし、それをガラガラ引きずって部屋の中央まで来ると、それに腰をかけた。
「はぁ、疲れた」
止まらぬ汗を拭いながら、独り言を復活させる。
「暴れるもんだから、余計に疲れたなぁ。あ、そうそう」
男は座ったばかりの椅子から腰を上げ、慌ただしく入り口へと向かい、そのまま外へ出て行った。直後、閉ざされたドアから、重い音がした。デッドボルトの動作した音だ。鍵を掛けられたらしい。
監禁された。が、現状で3人とも無事であることは喜ぶべきことだろう。
とはいえ励まし合うにも、相談し合うにも、ガムテープで唇は塞がれており、視線を交わし合うしかない。
――なんとかしないと。
不思議と、恐怖感は少ない。
中年男は半村のように筋肉質でなく、だらしなく太っている。動作もそれほど早くはあるまい。先ほどは不意打ちで組み伏せられたが、武器を持って正対すれば勝てる気がする。
なんとかこの拘束さえ解いてしまえば、脱出は可能だ。
――使えそうな道具は……。
菜瑠はつぶさに部屋内を観察した。
コンクリート四方、なんとも閑散とした部屋だ。ドアは一つ。そして――窓がない。
なのに……光がある。
菜瑠が見上げると、天井では照明が灯っていた。剥き出しのソケットに、裸電球。施設で見る以来の、文明の光だ。
黒雲に遮られた外の陽光より、力強い光。遠くない昔に、街のイルミネーションを彩っていた人工の灯火。
――ここ、電気が通ってる?
エイミや四季もその事実に気がついたようで、三体のイモムシはジッとその光を見つめた。
もしかしたら、自分たちはちょうど停電している地域だけを見てきたのか。
様々な仮定や推測が脳裏をよぎり、とりとめもなく消えてゆく。やがて、その混沌とした思考は『重い音』によって遮られた。
解鍵と共にドアが開き、中年男が再度部屋へと入ってくる。
電球に集中していた視線は、一斉に中年男に向けられ、そこで違和感に凍りついた。
「やぁ、どうだい、似合うかな?」
『衣替え』を終えた中年男は、立ち襟のネクタイをクイと正してニンマリ笑う。
グレイと黒のスーツ。
モーニングとタキシードの違いを菜瑠は知らない。だが、シルクハットまで頭に乗せた彼の正装が、この侘しい裸電球一つの部屋に似合うとは思えなかった。
これは『衣替え』と言うよりも『お色直し』と評したほうがしっくりとくる。見れば、無精髭もキレイに剃られている。結婚式の新郎でも、ここまで落差のある変わり身は見せまい。
小太りの新郎はステッキを床に鳴らしながら部屋の中央へと向かってくる。モーニングの腹から、今にもボタンが弾けそうだ。
男は満足げな笑みを消さないまま椅子の横にくると、シルクハットを上げる礼を見せてから椅子に腰を下ろした。
「待たせたね。レディに失礼をした」
待ってはいないし、レディーファーストを気取るなら、まず拘束を解くべきだ。中年男が余りにも滑稽に思えて、菜瑠にはそれが余計に気味が悪い。
「おっと、このままでは会話も楽しめないね」
男はポンと膝を打って立ち上がると、モーニングのポケットをゴソゴソ探りながら、最寄りにいたエイミに歩み寄ってゆく。
そうして右手に手錠、左手にハサミを持ち、ニンマリ笑った。
エイミは危機を察してムームー騒ぐが、それは、これまでもそうであったように何の意味も為さない。
中年男はシルクハットの下の笑顔を消さないままイモムシ状態を強いられているエイミの横にしゃがみ込んだ。
そして、息のかかるような至近距離で囁いた。
「君は、エイミーと言うんだろう? 白人みたいなかわいい名前だねぇ。この格好も実にいい……地下アイドルみたいだよエイミー」
中年男は、後手に回っていたエイミの手首に手錠を掛け、念入りに深く締めた。
そうして、ハサミをショキショキ鳴らしながら言う。
「じゃあ、口のガムテープを外してあげる。でも、騒がないでくれよ? 誰も来ないけど、うるさいのは好きじゃないんだ。雄弁は銀、沈黙は金というだろう?」
中年男はエイミの顎をグイと掴むと、頬の辺りからガムテープの拘束にハサミを差し入れ、幾重にも巻かれたそれを切り裂いていった。
「おいおい、動くなよ。ケガするよ? 顔はアイドルの命だろう?」
顎を掴まれながら、エイミは恐れの色のある目で、眼前のハサミを凝視している。
やがて、ハサミはガムテープの端まで到達した。
だが、粘着質のせいで、まだ頬に、唇に、張り付いたままだ。
中年男が、ゴクリと喉を鳴らして、エイミの唇に張り付くガムテープをゆっくりと剥がし始める。
「痛い? どう? 痛いの? エイミー?」
皮膚ごと剥がれてしまうのではないかと思うほど、ガムテープに肌が貼り付いている。そして、それを眺める男の目には恍惚の色があった。
やがて、口角のあたりまでガムテープが剥がれた瞬間、エイミが強引に首を振り、自らの力でガムテープを剥がし去った。
「いッたいに決まってんでしょがッ!! ぶっ殺すぞッ!! オッサン!! この白豚ッ!」
開口一番、見事なまでに下品な言葉だった。
そんな言葉を浴びせられた中年男は、一瞬気圧されて首を引くが、すぐに唇をへの字に曲げて、メガネの奥に怒りを宿した。
吠えかかったままの姿勢のエイミに対し、モーニングの裾が伸びて、重い平手が見舞われた。
頬に一撃されたエイミは首が痛々しく曲がり、また床でイモムシになった。反射的に、菜瑠の体はエイミに駆け寄るための筋肉に電気刺激を送る。
だが、もちろん体は動かない。
「騒ぐなといったろ! うるさいのは嫌いだ、って僕はちゃんと言ったろ!」
中年男は倒れたエイミの頬に残るガムテープを掴むと、それを垂直に引き上げた。ガムテープの粘着により、倒れた姿勢のエイミの頭だけが持ち上がる。
頭の重みでジワジワと剥がれてゆくが、ガムテープは頭を一周しており、やがてうなじの辺りで髪を巻き込んで止まる。
「い、いたい! 髪が!」
「痛い?」
「痛い! やめて!」
男はまた唇を三日月の形にして、首を振る。
「やめない。ホントはね、ガムテープに貼り付いたトコの髪だけ、痛くないよう、丁寧にハサミで切ってあげるつもりだったんだよ? でも、君がその好意をダメにした。お仕置きが必要になっちゃったから」
男はガムテープを高く引っ張り上げ、それに伴ってエイミの髪が頭皮とガムテープの間で綱引きとなる。
エイミが悲鳴とも喚きともつかない叫び声を上げると、中年男は顔の中心にシワを寄せ、また怒気を発した。
「うるさいと言っただろう! 二度も言わせるな雌犬が! うるさい! うるさい!」
男はガムテープを高く掲げたまま、エイミの頭を思いっきりはたいた。
その一撃の衝撃により、頭部にまとわりついていたガムテープが一気に剥がれ、エイミは床に倒れる。
中年男はエイミの髪が大量に付着したガムテープを満足そうに眺め、その『収穫』とエイミの頭を見比べる。
「思ったより、抜けなかったなぁ。良かったね、ハゲなくて。ハゲのアイドルとか、ファンつかないからなぁ」
男はそう言って、鼻の奥でククと笑う。
2度の暴力と頭皮へのダメージで弱り切ったエイミを尻目に、中年男は次へと進んだ。四季だ。
中年男は転がっている四季の横に歩み寄ると、また似合わないシルクハットを少し上げて、礼を見せた。
「見ていたでしょう? 僕だってあんなことをしたくないから、ちゃんと忠告したのに、エイミーちゃんは礼儀知らずで。オツムが弱いのかな」
四季が半開きの目のまま、ほとんど無反応でいると、中年男はエイミの時と同じようにポケットから手錠を取り出し、それを四季に装着させた。
「ええっと、君はシキちゃんだね? これから、ガムテープをとるけど、騒がないでくれる?」
四季は男を見上げ、予想外にも小さく頷いた。
「いいね。素直だね。エイミーの猿とは大違いだよ。君はムームー唸ったりしないし」
男はまた頬の辺りからハサミを入れる。
「シキちゃんは、すごい美人さんだねぇ。クールビューティーとかそういうタイプかな? 静かな子は嫌いじゃないよ、ん?」
きっと、口がきけたなら、四季は『別に、貴方のような白豚に好かれたくないわ』と、エイミとは違うベクトルで冷たく罵倒するだろう。だが、幸運なことにガムテープはまだ四季の薄い唇を覆っている。
ハサミが下まで通り、中年男がその切り口から剥がしにかかった。やはり、ゆっくりと。
「痛い? シキちゃん」
四季は不快そうに眉間にシワを寄せながら、小さく頷く。
「ごめんね、痛かったね、ごめんね。すぐだからね。すぐ済むからね」
口元のテープが剥がされると、中年男は割れ物にでも触れるように丁寧に四季の髪に指を通し、張り付いたテープを摘んだ。
そうして丁寧に粘着質に捕らわれた部分の髪を切り始めた。
ゆっくりと、丁寧に、まるでその髪自体が希少な宝であるかのように。一方の切られる側である四季は、露骨に不快そうな表情ではあるが、文句は言わない。
やがてガムテープが切り離されると、中年男は何度も四季に謝り、やがて菜瑠の方へ顔を向けた。
「見たね? おとなしくする事が、お互いにプラスなんだよ」
髪を無駄に失いたくなかったら、抵抗せずに作業に協力しろ、という事だ。
中年男は菜瑠の側に来ると、そこでもう一度「いいね?」と確認して、菜瑠のテープを剥がし始めた。
頬から、唇、その全てがガムテープと共に剥がれ落ちてしまうのではないか――それほどに吸着は凄まじく、エイミが暴れたのも頷ける。
菜瑠はなるべく抵抗せず、強く目を閉じて痛みに耐えた。
唇が解放されると共に、ようやく口から大量の空気を取り込む事ができ、肺が喜ぶのがわかる。
「いい子だ。君の名前がわからないんだけど、聞かせてくれるかな」
中年男の顔が近い。
せっかくの新鮮な空気が中年男の息に汚れるのがわかる。
シミと毛穴の目立つ、汚い肌だ。淀んだ目の端には固まった目ヤニが貼り付いている。
「どうしたの? ん? 僕は名前を聞かせてくれ、と言ったよ? 聞こえてるよね」
「み」
「み?」
「路乃後……菜瑠」
「へぇ、素敵な名前だね、ナルちゃん。華族の末裔かな?」
「違う」
「まぁ、あとでゆっくり聞かせてもらうよ。次は、髪だ」
言うが早いか、男はガムテープに張り付いた菜瑠の髪をザクザクと切り始める。
酷く、侮辱された気がした。
たかが髪だ。放っておけばまた伸びる。だが、どうしてこんなに泣きたくなるのだろう。
家にいた頃は、母が切ってくれた。施設でエイミや他の女子に切ってもらった。
だが、その時には感じなかった『悔しさ』が喉の奥を締め付けた。
泣いてよいなら、泣いてしまいたかった。
なにか、自分を『形作る物質的ではないなにか』が失われてゆく気がする。だが、路乃後菜瑠は泣かない。強くありたい。
「いいね、そうだナルちゃん。おとなしく」
やがて、張り付いた部位が全て切り離されると、中年男は満足そうに菜瑠の髪を撫で、立ち上がった。エイミは床に倒れたままで、四季は少しボリュームの減った後ろ髪を気にする様子で、菜瑠は唇を強く結んで、それぞれ中年男を睨む。
中年男は椅子まで戻ると、満足そうに三人を順に見やり、やがて言った。
「自己紹介が遅れたね」
男はシルクハットをうやうやしく上げると、それを膝の上に置いて、黄色い歯の――汚い笑顔を見せた。
「僕ね、安田アキノリといいます。よろしくね。エイミーちゃん、シキちゃん、そしてナルちゃん」
菜瑠は安田が次の言葉を吐く前に、強い口調で問い詰めた。
「私たちを、どうする気?」
「どうするって?」
「こんな所に連れ込んで、拘束して……」
安田は眼鏡の奥で眉を上げ、わざとらしく肩をすくめた。
「わからないかい? この格好を見ても?」
そう言って、椅子から立ち上がり、モーニングの胸元を正す。
そして、菜瑠に『どうだい』と言わんがばかりの得意げな視線を向けてくる。
「その格好からわかる事。一つだけある」
「ほうほう、聞かせてごらん」
「あなたが、頭のおかしい、変質者ということ」
菜瑠が断言すると、エイミも口汚く安田を罵り、それらを肯定するように四季が頷く。
「きみらね、口に気をつけなきゃ。自分たちの立場をわきまえてる?」
安田は不愉快そうに三人を睨みつけ、再び椅子に腰を落とした。
「君らはバカだから、わからないのかも知れんけど。この格好から導き出されるのは、一つ」
安田は言った。
「結婚式だよ」
一瞬、言葉の意味がわかりかねて菜瑠が呆然としていると、安田はニイッと微笑んだ。
「エイミー。シキ。ナル。君たち三人が新婦だ。僕たちは結婚するんだよ」
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